自作キーボードケースを革細工で作った件
言葉の定義
下のように「キーボードケース」には2つの定義がありまして、本記事では前者のことをケースと呼び、後者をカバーと呼ぶことにします。
- キーボードの筐体の一部。基板を隠すもの
→ 本記事では「ケース」と呼びます - 主に収納のため、キーボード全体を包み込むもの
→ 本記事では区別のため、ちょっと変ですが「カバー」と呼ぶことにします
キーボードケースといえば以下の3つが一般的
- アルミCNC加工
- アクリル板
- 3Dプリンタ印刷
はい、どれも超魅力的ですよ。様々なサイトや書籍でやり方を詳しく紹介されています。
なのになぜ革のキーボードケースなのか
自作キーボードと革、あまり関わりのなさそうな2つなのですが、たまーにコラボされている場合を見かけます。
しかし、革とキーボードはマイナーな組み合わせであることには違いありません。
では、なぜ革なのか?ですが、ズバリ革製品が好きだから、に尽きますね。
ちょっと前までは革製品は買うもの、だったのですが、YouTubeのHowto動画や書籍が充実しており、意外とすんなり革細工の世界に入り込めました。
小さな小物からスタートして自分好みの鞄等を作っていました。五角形のボストンバッグとかね。
「次はキーボードケースの制作だね」
自作キーボードの方は、というと、QMK firmware の恩恵に預かって分割キーボードで入門した後、MIDIキーボードを自作するようになりました(キーボードキットはこちら)。
作りは至ってシンプル。回路基板の下に同じサイズの無地の基板を配置し、スペーサーでサンドイッチ構造に。その基板は剥き出しでした。
自作キーボード界隈の方々から「3arahtさん、次はキーボードケースの制作だね」と言われていました。
。。。で私の答えが革細工でしたw。
元々は梱包目的だった
天キー(天下一キーボードわいわい会)やキー部といったキーボードイベントに赴く際にキーボードを梱包します。革で何かしてやろう、というのはどちらかというとその梱包の簡便化、が主目的でした。
それまではその都度その辺にあったプチプチで包んで鞄に押し込んで持ち込んでいました。
毎回プチプチで包む手間、またプチプチ自体も嵩張ることから、なんとかしたいと思っていました。
キーボードがすっぽり収まるカバーを作り、その状態で鞄に詰め込むことに。
そこに裸のキーボードを直接革のカバーに入れるのはちょっと寂しい気がして、キーボード自体にも革を纏わせよう( = ケースも革で作ろう)、ということに至りました。
革製キーボードケースの検討
「ケース」というのだから、まず最初は裸で剥き出しだった基板をすっぽり覆うものを検討しました。トッププレートの上に革が来て、キースイッチの無い部分は全て革で覆われるような。。。
しかし、この案は没としました。
理由は、キースイッチ同士の間は狭く、そこに革を配置した場合、革の強度が出ないこと(そもそもそんな細かい細工のできるイメージが持てませんでした)。キースイッチの無いところだけに配置したとしても、トッププレートの上にほとんど革の部分が残らないことになり、やはり強度がなさそうでした。
トッププレートの上に革を配置することはスパッと諦めました。基板自体も機能美を感じていて、全て隠してしまうのは気が引けた、というのもあります(「ちょっと何言ってるか分からない」だと思いますが、基板の配線パターンは曲線ではなく、従来の45°配線がランボルギーニっぽくて好きなんですよね…)。
閑話休題、底面は問題なくすっぽり覆うことができます。
残りは側面をどうするか、ですが、ここは鞄づくりで実践していた、鞄の胴パーツとマチを繋ぎ合わせる時の基本手法の「外縫い構造」で行くことにしました。底面を胴パーツ、側面をマチと見立てた感じですが、ぶっちゃけただ縫うだけ。
縫う位置は革の縁から4mmのところ。コンパスで目印をつけて菱目打ちで縫う穴を開けていきます。
側面のケーブル類を避ける部分はパンチやカッターで穴を開けました。穴あけの位置は何度も間違えました。キーボードと革の収まりがその都度変わったためでしょうか。どの穴も必要以上に大きな穴になってしまいました。
革製キーボードカバーの検討
過去何度か参加していたキーボードイベントの経験から、撤収時もさっと荷造りができることを目指しました。そのために、キーボードをスライド・インできる構造にしました。
特に蓋に留め具などはつけず、流しこむだけのシンプルな構造に(留め具が必要なら後からつければいいや、と思ってましたが、結局つけずに済んでいます)。
また、元々カバー制作が主だったので、輸送時の耐衝撃性を考慮しました。
角の部分には、カバーを立体化するときにダブる部分をある程度残すことで角への衝撃対策としています。この構造にするには革がダブる方が都合が良かったため、革を型にはめて立体構造を作る手法には挑みませんでした(大変そうだったのと、量産するわけでも無いのに1つ作るだけのために型を準備するのが億劫でした)。
形状はキーボードごとに様々ですが、私が作ったMIDIキーボード4種と普段タイピング用に使っている分割キーボードの分について、同じ方針でキーボードケース&カバーを作成しました。
用いた革について
ヌメ革(生成り)を使いました。厚さは多分1.2 mmくらいだったと思います(後日測定したら2 mm の間違いでした)。日光浴させるといい感じに日焼けしてエージングも楽しめます。
革の手入れ
数ヶ月に1回、革の達人 を銀面に塗っています。手入れは、頑張ると疲弊しちゃうので、あまり気張らずに。
使った工具などについて
革細工を始めるときに揃えた以下のものを使いました。参考までに。
- カッター(OLFA製 スピードハイパーL型)
黒い刃のやつがめちゃよく切れる。これがあれば革包丁や「別たち」は不要です(個人見解)。 - L字金定規(革をカットするときに使います)
- 打ち台(協進エル製 ビニプライ 1/8判)
主にカッターボードとして使っています。 - コンパス(シンワ測定製 鋼製コンパススプリング付き 73059)
縫い目の位置(縁から4mm)に線を引くのに使います。 - へり落とし(協進エル製 手縫い工具 へり落とし No.1 0.8mm 1153200-01 53200-01)
- 手縫い針(クラフト社製 革工具 手縫い針 丸針 太 5本入り 8603)
- 蝋引き糸(RER製 レザークラフト 蝋引き 糸 紐 ワックスコード 4色セット 糸幅 1mm 長さ 260m)
色などはお好みで。 - ゴム板(クラフト社製 革工具 ゴム板 小 25x12x2cm 8579)
縫い目を菱目打ちで開けるときに使います。 - 菱目打ち(協進エル製 プロ菱目打 2本目 5mm巾ピッチ E50163-02, 4本目 5mm巾ピッチ E50163-04, 6本目 5mm巾ピッチ E50163-06)
ヨーロッパ目打ちはすぐポキンと折れました。それ以来こちらを使ってます。 - ハンマー(どこ製か忘れましたが、ナイロンハンマー(モール)を使っています。)
- ハンマーの代わりに使えるこちらも作りました(菱目打ち機)
- トコノール
床面を綺麗にしたり、コバ(縁)を整えるのに使います。私が買おうとした時は入手性が悪かったので代替品(TOCO FLASH)を使ってます。 - ガラス板(クラフト社製 革工具 ガラス板12x9cm 8681)
床面を綺麗にするのにこのガラス板の側面の曲面を使います。 - ゴム接着剤(コニシ製 G17 容量はお好みで。私は 170ml のものを使っています)
この歳になるまでゴム接着剤というものの正しい使い方を知りませんでした。感動しました。接着剤なのに作業中紙を挟んで置いておくことで接着しない状態を作れるとは。。。なんと作業しやすいことか。 - 大量のWクリップ(仮止め用)
- 水(革に折り目をつけるときに革を濡らします)
革の入手先
ネットで買ったりレザークラフト屋さんで買ったり。
- レザークラフトぱれっと
- レザークラフト⭐︎ドット⭐︎ジェーピー
- 協進エル
- And Leather
- カワムラレザー
などにお世話になっています。
参考文献
- がなは ようこ, ヌメ革で作るトートバッグ・リュック・鞄 徹底図解 全18作品, グラフィック社
- SEIWA, レザークラフト 型紙集27 ーバリエーションが広がるー, スタジオタッククリエイティブ
この他、近くの図書館のレザークラフト関連の本は一通り漁りました。
- YouTube (レザークラフトで検索するとものすごい量の動画が出てきます。めちゃありがたい。)
最後に
かなりレアなネタを記事にしてみました。この記事が参考になってちょっとレザークラフトやってみようかな?という気分になった方がいらしたら嬉しいです。
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