量子確率過程(Partharathy)
1 事象・オブザーバブル・状態
1.1 古典確率から量子確率
略
一般化という観点から理解するため,期待値
有限空間
離散確率変数
よって,
-
(1.1)の二つ目の式は,すべての実数値確率変数の空間が線形空間をなし,確率分布はその共役の非負の要素であるという考えを強調するものである.(リースの表現定理にもつながる)
-
三つ目,四つ目の式はそれを量子論風に記述してみたものである.(略)
1.2 記法
ヒルベルト空間
-
可分複素ヒルベルト空間 :
\mathcal{H} -
の内積 :\mathcal{H} あるいは\langle\cdot,\cdot\rangle \langle\cdot,\cdot\rangle_\mathcal{H} -
のノルム :\mathcal{H} あるいは\|\cdot\|=\langle\cdot,\cdot\rangle^{1/2} \|\cdot\|_\mathcal{H} -
,\{u_n\}\subset \mathcal{H} .u\in\mathcal{H} -
が\{u_n\} に 収束する :u \displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}\|u-u_n\|=0. -
が\{u_n\} に 弱収束する :u \displaystyle\forall v\in\mathcal{H},\lim_{n\rightarrow\infty}\langle v,u_n\rangle=\langle v,u\rangle.
-
-
S\subset\mathcal{H}. - 直交補空間 :
S^\perp = \{u\in\mathcal{H}\mid\forall v\in S,\langle v,u_n\rangle=0\}. -
はS^\perp の閉部分空間となる.\mathcal{H} -
はS^{\perp\perp} を含む最小の閉部分空間となる.S -
はS を生成する,S^{\perp\perp} はS の総計であるという.S^{\perp\perp}
- 直交補空間 :
-
の次元 :S .\dim S -
ヒルベルト空間の列
とする.\{\mathcal{H}_n\} -
の直和 :\mathcal{H}_n また,\bigoplus_n\mathcal{H}_n=\{\{u_n\}\mid u_n\in\mathcal{H}_n\} とみなす.u_n = \{0,0,\cdots,u_n,0,\cdots,0\}
-
-
から\mathcal{H} への有界作用素の全体がなすバナッハ空間 :\mathcal{H} とし,\mathcal{B(H)} とする.T\in\mathcal{B(H)} -
の値域 :T R(T)=\{Tu\mid u\in\mathcal{H}\}. -
のゼロ空間:T N(T)=\{u\mid Tu=0\}. -
は線形多様体.R(T) は閉部分空間.N(T) -
.N(T^*)=R(T)^\perp
-
-
上の自己共役作用素の全体 :\mathcal{H} \mathcal{O(H)} -
上の射影作用素の全体 :\mathcal{H} \mathcal{P(H)} -
\mathcal{P(H)\subset O(H)\subset B(H)} -
を射影の集合とする。\{E_\alpha\} -
を\lor_\alpha E_\alpha を含む最小の閉集合への射影。\bigcup_\alpha R(E_\alpha) -
を\land_\alpha E_\alpha を含む最小の閉集合への射影。\bigcap_\alpha R(E_\alpha) - 任意の射影
について,任意のE,F,\{E_\alpha\} について\alpha が成立するなら,任意のE\geq E_\alpha\geq F について次が成立する.\beta
E\geq\lor_\alpha E_\alpha\geq E_\beta.
E_\beta\geq\land_\alpha E_\alpha\geq F.
-
-
もし
E
実・複素空間
- n次元複素数空間 :
\mathbb{C}^n -
は次の内積を備えたヒルベルト空間とみなす :\mathbb{C}^n \langle u,v\rangle = \sum_i\bar{a}_ib_i. -
の正準基底 :\mathbb{C}^n \{(1,0,\cdots,0),(0,1,\cdots,0),\cdots, (0,0,\cdots,1)\} - n次元実空間 :
\mathbb{R}^n -
も\mathbb{R}^n と同様に定義されているとする.\mathbb{C}^n
l^2 空間
-
空間 :l^2 l^2=\{\{a_i\}\mid\sum_i |a_i|^2\lt \infty\}. -
空間の内積 :l^2 \langle \{a_i\},\{b_i\}\rangle=\sum_i\bar{a}_ib_i. -
空間の正規直交基底 :l^2 ここで\{e_i\} e_1=\{1,0,\cdots,\},e_2=\{0,1,\cdots\},\cdots.
L^2 空間
-
を(S,\mathcal{F},\mu) 有限可測空間とする.\sigma -
空間 :L^2(\mu) L^2(\mu) = \{f:S\rightarrow \mathbb{C}\mid \int_S \|f\|^2_\mathbb{C}d\mu\lt \infty\} -
空間の内積 :L^2(\mu) \langle f,g\rangle =\int_Sf^*gd\mu. -
が位相空間で,S をボレルσ代数とし,\mathcal{F}_S をヒルベルト空間とする.h -
空間 :L^2(\mu,h) L^2(\mu,h)=\{f:S\rightarrow h\mid \int\|f(s)\|^2_hd\mu\lt\infty\} -
空間の内積 :L^2(\mu,h) \langle f,g\rangle =\int_S\langle f,g\rangle_h d\mu.
必要に応じて追記する
3 確率積分と量子伊藤公式
3.1 適合過程
-
を複素可分ヒルベルト空間とする。\mathcal{H} -
を正の実数上のシグマ代数とする。\mathcal{F}_{\mathbb{R}_+} -
(\xi:\mathcal{F}_{\mathbb{R}_+}\rightarrow \mathcal{P(H)} は射影集合) を "jump point" がない\mathcal{P(H)} 値オブザーバブル、すなわち次を満たす写像であるとする。\mathbb{R}_+
\forall t\in\mathbb{R}_+,\xi(\{t\})=0. -
を次のように定める。\mathcal{H}_S
S\in\mathcal{F}_{\mathcal{R}_+},\mathcal{H}_S=\rm{ran}(\xi(S)).
たとえば、 ここで\mathcal{H}_{[0,t]}=\rm{ran}(\xi([0,t])), \mathcal{H}_{[t}=\rm{ran}(\xi([t,\infty])) は値域。\rm{ran} - 列
について\{t_1,t_2,\cdots,t_n\} とすると、次が成立する。0\lt t_1\lt t_2\lt t_3\lt t_4\cdots\lt t_n\lt\infty
\mathcal{H}=\mathcal{H}_{t_1]}\oplus\mathcal{H}_{[t_1,t_2]}\oplus\mathcal{H}_{[t_2,t_3]}\oplus\cdots\oplus\mathcal{H}_{[t_{n-1},t_n]}\oplus\mathcal{H}_{[t_n}. - 初期空間
を複素可分ヒルベルト空間とする。\mathcal{H}_0 - ヒルベルト空間
とする。\mathcal{H} を以下のように定める。\tilde{\mathcal{H}}
\tilde{\mathcal{H}}=h_0\otimes\Gamma_s(\mathcal{H}).
ここで は 熱槽 (外部の雑音系) を表すヒルベルト空間。\Gamma_s(\mathcal{H}) -
について次が成立する。\tilde{}
\tilde{\mathcal{H}}_{0]}=h_0.
\tilde{\mathcal{H}}_{t]}=h_0\otimes\Gamma_s(\mathcal{H}_{t]}).
\tilde{\mathcal{H}}_{[t}=\Gamma_s(\mathcal{H}_{[t}).
\tilde{\mathcal{H}}_{[s,t]}=\Gamma_s(\mathcal{H}_{[s,t]}). -
に対してu\in\mathcal{H}
u_{t]}=\xi([0,t])u.
u_{t]}=\xi([t,\infty])u.
u_{[s,t]}=\xi([s,t])u.
と定める。 -
,\Phi_{[s,t]} ,\Phi_{[t} を\Phi ,\tilde{\mathcal{H}}_{[s,t]} ,\tilde{\mathcal{H}}_{[t} の真空状態とする。\Gamma_s(\mathcal{H}) -
は\tilde{\mathcal{H}}_{t]} の部分空間である。というのも、次が成立する。\tilde{\mathcal{H}}
\forall\phi\in\tilde{\mathcal{H}}_{t]},\phi\otimes\Phi_{[t}\in\tilde{\mathcal{H}}. -
と\tilde{\mathcal{H}} について次が成立する。0\lt t_1\lt t_2\cdots\lt t_n\lt\infty
\tilde{\mathcal{H}} = \tilde{\mathcal{H}}_{t_1]}\otimes \tilde{\mathcal{H}}_{[t_1,t_2]}\otimes\cdots\otimes\tilde{\mathcal{H}}_{[t_{n-1},t_n]}\otimes\tilde{\mathcal{H}}_{[t_n}.
これは次を満たすようなユニタリー同型 を利用して示すことができる。U
Uf\otimes e(u)=[f\otimes e(u_{t_1]})]\otimes e(u_{[t_1,t_2]})\otimes \cdots\otimes e(u_{[t_n}). -
の元\tilde{\mathcal{H}} について\phi_1\otimes\phi_2\otimes\phi_3\cdots と書く。\phi_1\phi_2\cdots - 有界作用素の全体
について次のように定める。\mathcal{B(H)}
\mathcal{B}_{t]}=\{X\otimes 1_{[t}\mid X\in\mathcal{B(\tilde{H}_{t]})}\}.
ここで は非可換フォンノイマン代数の増大系。このオブザーバブル\{\mathcal{B}_{t]},t\geq 0\} から導出された\xi はフィルトレーションの量子版である。\{\mathcal{B}_{t]}\}
以上の条件で、適合過程を定義する。
定義 適合過程 Adapted process :
とし、 D_0\subset h_0 を次を満たすような線形多様体とする。 \mathcal{M\subset H}
\forall u\in\mathcal{M},\forall s,t\in\mathbb{R}_+,\xi([s,t])u\in\mathcal{M}.
を D_0\otimes\mathcal{E(M)} のベクトルから生成される線形多様体とする。 \{fe(u)\mid f \in D_0,u\in\mathcal{M}\} 次を満たすような
作用素の列 \tilde{\mathcal{H}}\rightarrow\tilde{\mathcal{H}} を X=\{X_t\mid t\geq 0\} 上の \tilde{\mathcal{H}} の 適合過程 という。(あるいは適合する過程という) (\xi,D_0,\mathcal{M})
D(X_t)\supset D_0\otimes\mathcal{E(M)}. について次が成立する。(これを 正規 (Regular) であるという) \forall t\gt 0,\forall u\in\mathcal{M},\forall f\in D_0
X_tfe(u_{t]})\in\tilde{\mathcal{H}}_{t]}. X_tfe(u)=\{X_tfe(u_{t]}\}\otimes e(u_{[t}). - 任意の
と f\in D_0 について 写像 u\in\mathcal{M} が連続。 t\rightarrow X_tfe(u)
ここで
D=\rm{dom} -
(多分)e \exp -
?\mathcal{E(H)=\{e(v)\mid v\in\mathcal{H}\}} -
: フォック空間?第二量子化(p148)?\Gamma_s
マルチンゲールを定義する。
定義
マルチンゲール : 写像 \xi が次を満たすとき m:\mathbb{R}_+\rightarrow \mathcal{H} マルチンゲールという。 \xi
\forall t,m(t)=m_t\in\mathcal{H}_{t]}.
\forall s\lt t\in\mathbb{R}_+,\xi([0,s])m_t=m_s.
次のような性質が成り立つ。
- 二つの
マルチンゲール\xi についてm,m' \forall a\in\mathbb{R}_+,\langle m_t,m'_t \rangle=\langle{m_a,}\xi([0,t])m'_a\rangle.
よって
-
とする。u\in\mathcal{H} がu_{t]}=\xi([0,t])u マルチンゲールになる。\xi -
による上記によるマルチンゲールu,v\in\mathcal{H} による測度をu_{t]},v_{t]} と書くことにする。\llbracket u,v\rrbracket
いかに紹介する集合は解析時に頻出するものである。
例24.1
定義 生成消滅過程 :
とする。 h_0=\mathbb{C} とする。 \~\mathcal{H}=\Gamma_s(\mathcal{H}) を m\in\mathcal{H} マルチンゲールとする。このとき生成消滅演算子 \xi として次を満たすような線形写像 a^*,a を考える。 A_m^*,A_m:\mathbb{R}_+\rightarrow\mathcal{B(H)}
D(A^*_m(t))=D(A_m(t))=\mathcal{E(H)}. \forall u\in\mathcal{H},A_m^*(t)e(u)=a^*(m_t)e(u)=\{\frac{d}{d\varepsilon} e(u_{t]}+\varepsilon m_t)\mid_{\varepsilon=0}\}e(u_{[t}). \forall u\in\mathcal{H},A_m(t)e(u)=a(m_t)e(u)=\{\llbracket m,u\rrbracket([0,t])e(u_{t]})\}e(u_{[t}) このとき、列
と A_m^*=\{A_m^*(t)\mid t\geq 0\} は A_m=\{A_m(t)\mid t\geq 0\} に適合している過程である。このような場合は、 (\xi,\mathbb{C},\mathcal{H}) を省略して \mathbb{C} に適合していると書く。 (\xi,\mathcal{H}) このような
および A_m を 生成過程 または 消滅過程 という。 A^*_m
また、この生成消滅過程について次のように書くことがある。
例24.2
D(\Lambda_H(t))=\mathcal{E(H)}. -
ここで\forall u\in\mathcal{H},\Lambda_H(t)e(u)=\lambda(H_t)e(u)=\{\lambda(H_t)e(u_{t]})\}e(u_{[t}). \lambda(H)=\lambda(\frac{1}{2}(H+H^*))+i\lambda(\frac{1}{2i}(H-H^*)).
ここで定理20.13 :
例24.3
定義 維持過程 (Conservation process) :
を m,m' マルチンゲールとする。 \xi 上の作用素 \Gamma_s(\mathcal{H}) が以下を満たすとする。 \Lambda_{\ket{m}\bra{m'}}(t)
D(\Lambda_{\ket{m}\bra{m'}}(t))=\mathcal{E(H)}. \Lambda_{\ket{m}\bra{m'}}(t)e(u)=\lambda(\ket{m}\bra{m'})e(u). このとき、次の
が \Lambda_{\ket{m}\bra{m'}} に対する正規適合過程である。 (\xi,\mathcal{H}) \Lambda_{\ket{m}\bra{m'}}=\{\Lambda_{\ket{m}\bra{m'}}(t)\mid t\geq 0\}. このような
を \Lambda_{\ket{m}\bra{m'}} に関する conservation 過程という。 (m,m')
例24.4
(強連続半群とは、(1)
(Weyl 作用素とは、次を満たす作用素である
このとき
)
このとき、演習20.21(下に記述する) により
D(Y_t)=h_0\otimes \mathcal{E(H)} Y_tfe(u)=L_tf\otimes X_te(u).
このとき
演習20.21
ヒルベルト空間
\forall U_j\in \mathcal{U}(\mathcal{H}_j),\forall t_j\in \mathcal{H}_j,W(u_1\oplus u_2,U_1\oplus U_2)=W(u_1,U_1)\otimes W(u_2,U_2). \forall u_j,v_j\in\mathcal{H}_j,p(u_1\oplus u_2)e(v_1\oplus v_2)=\{p(u_1)e(v_1)\}\oplus e(v_2)+e(v_1)\otimes\{p(u_2)e(v_2)\}. - 任意の
のオブザーバブルを\mathcal{H}_j とする。このときH_j
\forall v_j\in\mathcal{H}_j,\lambda(H_1\oplus H_2)e(v_1\oplus v_2)=\{\lambda(H_1)e(v_1)\}\otimes e(v_2)+e(v_1)\otimes\{\lambda(H_2)e(v_2)\}.
-
: ユニタリー作用素の全体?\mathcal{U(H)}
証明
1を示す。Weyl 作用素の定義から
であるので
最初に係数部分だけ考える。
よって分解できた。
2 を確認する。(20.10)より
ここで求めたい式は以下のようであるが、これを証明するために必要なのは
これを 1 と同様にすると
なので、
が示された。よって以下が成立する。
3 を確認する。 (20.11)より
これは2と同様にすればよいだろう。(略)■