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一陸技を受験した感想

2024/07/17に公開

一陸技とは

正式名称は「第一級陸上無線技術」で、次の操作を行うことができます。

  1. 無線設備の技術操作(アマチュア無線局の操作を除く。)
  2. 第四級アマチュア無線技士の操作に属する

一陸技では空中線電力を問わず、すべての無線設備の技術操作が行えるため、基幹放送局で必要となることが多い資格(だそう)です。(主任無線技術者の制度ができたことによって官公庁以外での需要は結構減ったらしいけど)

また、技適未取得のアンテナを技適未取得機器を用いた実験等の特例制度で利用する時に電波に関する外国の認証が求められますが、一陸技(二陸技、一陸特も可)を保有していれば外国の認証がなくても工事設計書を提出することで届出できるようになります。

私の場合、自作のPCBアンテナを評価できるようにしたかったのでこの資格の取得を目指しました。(一陸特でも良いんだけどせっかくなら上位資格取ってみたいよねということで一陸技を受験)

軽く自己紹介

  • 早稲田大学 情報通信学科の学部4年(修士課程進学予定)
  • 研究内容はコンピュータアーキテクチャ(Soc設計など)が中心。無線とは関係なし
  • 信号処理、通信理論、回路理論、電子回路などある程度の科目は大学で履修済み。アンテナ理論とかはさっぱりわからん
  • 電子工作が趣味
  • アマチュア無線の経験はなく、他の無線従事者免許は持っていない

試験科目・試験時間

科目 試験時間 配点 合格点
無線工学の基礎 150分 125点 75点
法規 120分 100点 60点
無線工学A 150分 125点 75点
無線工学B 150分 125点 75点

試験時間が長いので丸々2日間かけて実施されます。なお、無線工学は試験開始から60分経過した後、法規は45分で中途退出が可能になります。

各科目の対策

無線工学の基礎や無線工学Aは大学である程度理解していますが、それ以外の科目は知識が皆無だったので内容を理解するところから始められるものを使いました。使った参考書は「第一級陸上無線技術士試験 やさしく学ぶ」シリーズです。

初見で読んでも各項目の解説がきっちり述べられていて分かりやすく、頻出問題も記載されていたので効率よく対策できました(もちろん最低限の数学・電気知識は必要です)。ただその一方で、工学Aに関しては最近の出題傾向に追いつけていない部分もあったので、別途過去問を使った対策が必要だと感じました。

10月に本を買って時間のある時にちまちま読み進め、7月に受験しました。無線通信に関する研究を行っている学生に聞いてみたところ、無線・信号を研究している人にとっては過去問を使った短期対策でどうにかなるそうです。

無線工学の基礎

  1. 電気物理の詳細(電磁気学)
  2. 電気回路の詳細(回路理論)
  3. 半導体及び電子管の詳細
  4. 電子回路の詳細
  5. 電気磁気測定の詳細

科目名に基礎と付きますが、まあまあ広い範囲から出題されます。とはいえ回路理論や電子回路、測定についてはオームの法則やインピーダンス、トランジスタの特性を覚えるだけで解ける問題も多く、他の科目と比べて暗記事項が少なかったのでそれほど難易度は高く感じなかったです。ただ電気物理(電磁気学)については日常で使う機会がほぼないので結局完璧には理解できず、過去問丸暗記でゴリ押していました。

なお、デシベルの計算やRLC回路のインピーダンスなどは無線工学3科目すべてで当たり前のように使うので、そこら辺の知識が怪しい人はここから対策を始めると良いと思います。

法規

  1. 電波法及びこれに基づく命令の概要

当たり前(?)ですが、法規は暗記しかありません。また、他の無線従事者試験と比べると一陸技の法規はやや範囲が狭くなっています。暗記が得意な人は楽勝だと思いますが、個人的には暗記が苦手だったので苦戦しました。参考書を読み終わった後は過去問を10年分くらい回して傾向を把握することにしました。

無線工学A

  1. 無線設備の理論、構造及び機能の詳細
  2. 無線設備のための測定機器の理論、構造及び機能の詳細
  3. 無線設備及び無線設備のための測定機器の保守及び運用の詳細

大学で言う信号処理や通信理論、無線通信技術といった科目がここに含まれます。通信工学の教育を受けてきた人であれば理解しやすい部分も多いですが、恐ろしいくらいに試験範囲が広いです。

さらに、ここ数年この科目での傾向が変化しており、まったく新しい範囲からも問題が出題されるようになっています。さらに、過去問を難問化させた問題も多く出題されており、根本的な理解が必須です。参考書だけでは内容をカバーできていなかったので、直近の過去問3年分も参考にしつつ対策していきました。

ここ数年の問題を分析すると、電気工学的な知識だけではなく、数学的な知識も要求されることが増えています(特に三角関数)。これから参考書を使って対策される方は以下の範囲についても理解を深めておくと良いと思います。

  • 無線工学的な知識
    • スミス・チャート、イミタンス・チャート
    • シャノンの通信路符号化定理
    • FIRフィルタ、IIRフィルタの特性
  • 数学的な知識
    • 加法定理
    • 半角の公式
    • 積和・和積の公式
    • オイラーの公式 → 三角関数
    • 離散フーリエ変換(DFT、FFT)

特にオイラーの公式から導出される三角関数や、離散フーリエ変換については、変復調の原理などで要求されることが多いです。この点、電気通信を専攻している人は大学でよく扱うので対策しやすいですね。

無線工学B

  1. 空中線系及び電波伝搬の理論、構造及び機能の詳細
  2. 空中線系等のための測定機器の理論、構造及び機能の詳細
  3. 空中線系及び空中線系等のための測定機器の保守及び運用の詳細

主にアンテナの理論や計算を問われます。大学では全く扱ってこなかった内容だったので、最初は訳が分かりませんでしたが、意外と試験範囲がそこまで広くない上、試験問題のほぼすべてが過去問の数値を変えた程度だったため、対策は比較的容易でした(内容についてはほとんど理解できませんでしたが)。工学の基礎と同様、計算が多く暗記が少なかったので、計算問題を確実に解けるようにすれば安定して合格点を超えることができます。

3回ほど過去問を回しましたが、安定して100点以上取れたので早めに対策を終了しました。← フラグ

試験中の感想

まず試験会場に行くと、試験問題の解答公表日と結果通知日が掲示されているのでそれをメモします。各科目の試験開始15分前から説明があるのでなるべく早めに試験室に入室しましょう。

いずれの科目についても、中途退出が可能になった時点で退出する人が多かったです。私は能天気にちまちま解いていたので法規は45分、工学の基礎と工学Bは90分くらい、工学Aは120分かけて解いて見直しを行ってから退出しました。

以下に試験中に感じた各科目の感想を書きます

無線工学の基礎

ほぼすべての問題が過去問の数値替えで、拍子抜けするくらいにすぐ解き終わりました。サイリスタの新問題と共振回路に関する変わった問題がありましたが、いずれも難易度はそこまで高くなかったです。

法規

ただの暗記科目だったので10分程度で解き終わりました。すぐに解き終わるので、周りの人も暇そうにしていたのが印象に残っています。45分が経過して中途退出が認められると、すぐに答案を提出するところに行列ができていましたw

無線工学A

この科目についてはかなり時間をかけて対策したので、思っていたよりも解けた問題が多かったです。また、新問についても2問は数学の知識だけで解くことができたので、最近にしては易しい問題だと感じました。

新問の一つにこのような問題がありました。


※ 引用元:日本無線協会

「なんかよくわからないことかいてあるしむずかしそうだなー」と思っていましたが、実際に解いてみると、単に三角関数の積を求めるだけの非常に単純な問題でした。特に最近の傾向として、単に知識を問うのではなく、基礎的な知識から導出するような問題が増えているな、という印象です。

無線工学B

試験対策で手を抜いた結果、思ったよりも新傾向の問題が多く出題されて解けない問題が多く出題され、結構焦りながら解いていました。本来であれば解くのに1時間もかからない予定でしたが、計算ミスを繰り返しすぎて結局90分もかけてしまいました(おい)。

感じた難易度

対策中に感じた難易度としては、

工学A >>>> 法規 > 基礎 >> 工学B

といった感じでしたが、実際の試験で感じた難易度としては、

工学B > 工学A >>>> 法規 >> 基礎

という感想でした。工学Aの対策に力を入れ、工学Bの対策を怠った結果、対策中と試験中での難易度の感じ方が逆転していますね。

試験後に試験の解答を集計しているサイトを拝見し、他の受験者の解答がどのような感じかを見てみたところ、全体的に前回(令和6年1月期)の試験と比べて簡単だったという声が大きかったです。試験の傾向が変わってきてから数年経過しているので、対策法も確立しつつあるのでしょう。

自己採点結果

試験終了からおよそ1週間後、日本無線協会のホームページに試験問題と解答が掲載されます。その解答に従って自己採点したところ、得点は以下の通りでした。

科目 得点
無線工学の基礎 125 / 125
法規 99 / 100
無線工学A 109 / 125
無線工学B 103 / 125

平均で9割くらい得点で来ていたので結構上出来ですね(自画自賛)。
答案提出時の感覚通り、無線工学の基礎と法規は問題なく解けていました。無線工学Aも思ったより高い点数が取れました。一方、無線工学Bは解けるべき問題でポコポコミスしていましたね。内容理解の重要性を痛感しました。

結果通知

試験終了からおよそ3週間後、メールで試験結果が通知されます。試験前の説明では正午ごろにメールを送信すると伝達されていましたが、午前8時半には通知が来ました。

※ 受験番号・氏名は白で塗りつぶしている

免許証申請

無事合格していましたが、これで終わりではありません。無線従事者免許の申請書を総務省に提出する必要があります。申請にあたって必要な書類は以下の5点です。(詳細はここを確認してください)

  • 免許申請書
  • 証明写真
  • 収入印紙 1750円
  • 住民票の写し(住民票コード、他の無線従事者免許証の番号の記入で省略可)
  • 返信用封筒(定型サイズ)+切手

試験に合格すると必要事項が記入された申請書をExcelファイルとしてもらえるのでA4用紙に印刷し、そこに収入印紙を貼り付けます。収入印紙は郵便局などから購入します。コンビニでは200円の収入印紙しか販売していないので注意。そして、住民票の写しですが、総務省の担当者に確認したところどんなに古くても現住所が変わっていなければ問題ないそうです。ということで私は2年前に発行したボロボロの住民票の写しを提出しました(え?)。

郵送でも申請可能ですが、今回は(郵送代をケチりたかったので)総合通信局に申請書を直接持ち込みました。免許証の発行には1か月くらいかかるのでここから免許証が届くまで結構待ちます。

私の場合は1か月後の9月5日に免許証が到着しました。

※ 免許証の番号・氏名・写真は白で塗りつぶしている

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