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p型半導体,n型半導体におけるフェルミ準位の温度依存性

2025/02/07に公開

p型半導体,n型半導体におけるフェルミ準位の温度依存性

E_cを伝導体の下端のエネルギー準位, E_vを価電子帯の上端のエネルギー準位, E_dをドナー準位, E_aをアクセプタ準位とすると、p型半導体のフェルミエネルギー、n型半導体のフェルミ準位の温度依存性は図1のようになる。

図1 p型半導体,n型半導体におけるフェルミ準位の温度依存性
n型半導体の場合、十分低温の時 E_f \simeq \frac{E_c+E_d}{2}、十分高温の時 E_f \simeq \frac{E_c+E_v}{2}となる。
p型半導体の場合、十分低温の時 E_f \simeq \frac{E_v+E_a}{2}、十分高温の時 E_f \simeq \frac{E_c+E_v}{2}となる。

n型半導体の場合の導出

ドナーのみが添加されたn型半導体で考える。
N_c を伝導帯の有効状態密度 N_v は価電子帯の有効状態密度、 N_d をドナー密度とする。
電子密度 n

\begin{aligned} n = N_c\exp\left(-\frac{E_c-\mu}{k_BT}\right) \end{aligned}

正孔密度 p

\begin{aligned} p = N_v\exp\left(-\frac{\mu - E_v}{k_BT}\right) \end{aligned}

イオン化したドナーの密度 N^+

\begin{aligned} N^+ = N_d\frac{1}{1+2\exp\left(-\frac{E_d-\mu}{k_B T}\right)} \end{aligned}
ドナーのイオン化率の導出

ドナーにおける電子の分布をグランドカノニカル分布を用いて考える。
大分配関数を \Xi としてドナーにおける電子の分布は

\begin{aligned} P(E, N) = \frac{1}{\Xi}\exp\left(-\frac{E-\mu N}{k_BT}\right) \end{aligned}

である。
電子によるドナー準位の占有の仕方は上向きのスピンを持つ電子が占有する場合(E=E_d, N=1)、下向きのスピンを持つ電子が占有する場合(E=E_d, N=1)、電子が占有しない場合(E=0, N=0)の三つの場合が考えられるので大分配関数は

\Xi = 2\exp\left(-\frac{E_d-\mu}{k_BT}\right) + 1

であるのでドナーのイオン化率は

P(0, 0)=\frac{1}{1+2\exp\left(-\frac{E_d-\mu}{k_BT}\right)}

である。
この時、電気的中性条件は

\begin{aligned} n=N^++p \end{aligned}
  • 低温
    ドナーからの熱励起が十分少ない時を考える。十分低温であるので価電子帯から電子は励起できないと考えられるので電気的中性条件より n \simeq N^+ として

    \begin{aligned} N_c\exp\left(-\frac{E_c-\mu}{k_BT}\right) = N_d\frac{1}{1+2\exp\left(-\frac{E_d-\mu}{k_B T}\right)} \end{aligned}

    となる。

    のでほとんど全てのドナーは電子で占有されていてフェルミ準位がドナー準位より大きいので E_d < \mu である。よってこの式において T が十分小さい時、

    \begin{aligned} N_c\exp\left(-\frac{E_c-\mu}{k_BT}\right) = N_d\frac{1}{2\exp\left(-\frac{E_d-\mu}{k_B T}\right)} \end{aligned}

    これを解くと

    \begin{aligned} \mu &= \frac{E_d+E_c}{2} - \frac{k_BT}{2}\ln(\frac{2N_c}{N_d}) \\ &\to \frac{E_d+E_c}{2} \quad (T \to 0) \end{aligned}
  • 中温
    ドナーからの熱励起が十分起き、かつそれが価電子帯から励起した電子より十分大きい時を考えると、電気的中性条件より n \simeq N^+ として

    \begin{aligned} N_c\exp\left(-\frac{E_c-\mu}{k_BT}\right) = N_d \end{aligned}

    これを解くと

    \begin{aligned} \mu &= E_c - k_BT\ln(\frac{N_c}{N_d}) \\ \end{aligned}
  • 高温(ドナーによる電子よりも熱励起によって生成した電子の方が十分多い時)
    価電子帯から励起した電子がドナーからの熱励起による電子より十分大きくなった時を考えると、電気的中性条件より n \simeq p として

    \begin{aligned} N_c\exp\left(-\frac{E_c-\mu}{k_BT}\right) = N_v\exp\left(-\frac{\mu - E_v}{k_BT}\right) \end{aligned}

    これを解くと、

    \begin{aligned} \mu = \frac{E_c+E_v}{2} + \frac{k_BT}{2}\ln(\frac{N_v}{N_c}) \end{aligned}

    実際の半導体では N_v, N_c は大きく異なることはなく上式の第二項は無視できるので、

    \begin{aligned} \mu = \frac{E_c+E_v}{2} \end{aligned}

p型半導体の場合の導出

N_a をアクセプタ密度としてイオン化したアクセプタの密度 N^-

\begin{aligned} N^- = N_a\frac{1}{1+\frac{1}{4}\exp\left(-\frac{E_a-\mu}{k_BT}\right)} \end{aligned}
アクセプタのイオン化率の導出

アクセプタにおける電子の分布をグランドカノニカル分布を用いて考える。
大分配関数を \Xi としてアクセプタにおける電子の分布は

\begin{aligned} P(E, N) = \frac{1}{\Xi}\exp\left(-\frac{E-\mu N}{k_BT}\right) \end{aligned}

である。

図2 正孔によるアクセプタ準位の占有の仕方
図2のように重い正孔と軽い正孔が縮退していることを考慮して、正孔によるアクセプタ準位の占有の仕方は

  • 正孔が占有しない場合(E=E_a, N=4)
  • 重い正孔状態を下向きのスピンを持つ正孔が占有する、つまり上向きのスピンを持つ電子が一つ抜ける場合(E=E_a, N=3)
  • 重い正孔状態を上向きのスピンを持つ正孔が占有する、つまり下向きのスピンを持つ電子が一つ抜ける場合(E=E_a, N=3)
  • 軽い正孔状態を下向きのスピンを持つ正孔が占有する、つまり上向きのスピンを持つ電子が一つ抜ける場合(E=E_a, N=3)
  • 軽い正孔状態を上向きのスピンを持つ正孔が占有する、つまり下向きのスピンを持つ電子が一つ抜ける場合(E=E_a, N=3)

の五つの場合が考えられるので大分配関数はn型半導体の場合の導出のイオン化したドナーの密度の導出と同様にして
アクセプタのイオン化率は

4P(E_a, 3)=\frac{1}{1+\frac{1}{4}\exp\left(-\frac{E_a-\mu}{k_BT}\right)}

であること、
電気的中性条件が

\begin{aligned} n+N^-=p \end{aligned}

であることに注意して後はn型半導体と同様の計算である。

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