個人開発アプリ「ククモア」の振り返り! 〜企画編〜 【ククモア通信 vol.2】
0.はじめに
個人開発で、かけ算 "即答" アプリ「ククモア」をリリースしました!
この記事は、その PR を目的とした取り組み「ククモア通信」の 2 回目の記事です。前回の「ククモア通信 vol.1」はユーザー向けでしたので note.com に公開しました。この記事は、主にソフトウェアエンジニア向け、とりわけ個人開発者向けですので、 zenn.dev で公開しています。
この記事の目標は、「個人開発アプリ "ククモア" の振り返り」です。ささやかなワタシ的個人開発体験記が、だれかの気づきにつながりますように。そんなことを思いながら、いまこの記事をつづっています。
1. 動機 〜 Why 個人開発? 〜
- 誰かの課題を解決したい!
- 自分のポートフォリオを増やしたい!
- もうすこし Dart/Flutter に触れたい!
- 収益化したい!
- そもそも個人開発自体が楽しい!
今回の個人開発は、おおよそこうした動機ではじまりました。誰かのためになることをしたいし、技術やプロダクトについて学びたいし、収益化できればうれしい。こんなことを考えながら、ぼんやりとはじまった物語でした。
振り返ってみると、動機を事前に考えておいてよかったと思います。というのも、個人開発はモチベーションとの戦いでもあるからです。貴重な余暇をつかって取り組む個人開発。なにかひとつでも実りがあってほしいと思います。
まずは、ぼんやりとでも 「Why 個人開発?」 と自問自答してみるのもいいかもしれません。
2. 企画 〜 アイデアを、一歩前へ 〜
2-(a) アイデアとの出会い
プロダクト開発は、いつもアイデアからはじまります。
前作「inkline.jp」は旅行アプリでした。興味と技術を探求するために、今回もモバイルアプリを個人開発したいと考えていました。モバイルアプリが好きなんです、たぶん。
とはいえ、アイデアはなかなか思い浮かびません。メディア系アプリはコンテンツの質と量が難しいし、ゲームはあまりやらないのでわからないし、ツール系はすでに市場にあるし、という状況でした。
「限られた範囲だとしても、熱狂してもらえるアプリをつくりたい!」と考えていました。が、その思いとは裏腹に、一週間考えてもいいアイデアは思い浮かびませんでした。
そんな折、ふと 10 代 20 代の頃を思い出しました。とある休日の午後、音楽とコーヒーを味わいながら、ちょっとした昔話を思い出したのでした。
◇
10 代後半から 20 代前半にかけて、私は日商簿記や中小企業診断士などの検定・資格を勉強していました[1]。これらの学習では高度な計算はないものの、ちょっとした 2 けたのかけ算がよく登場していました。
解けるけれど、時間がかかる。パッと解けないから、リズムに乗れない。できればご遠慮したい 2 けたのかけ算。このような計算を目にする度に、気持ちを落としていました。
結局、「面倒だよな〜」なんて思いながら、欄外に小さく筆算を書いて計算するのでした。
◇
この経験を思い出したとき、この個人開発は予告なしにはじまりました。
輪郭がはっきり浮かび上がり、ぼんやりしていたピントが合った。解くべき課題がみつかった。大げさに聞こえますが、そんな思いでした。私的なちょっとした悩みが、多くの人が切望する Tier 1 の課題のように思えたのです。
もし、1 回に 10 秒を要するかけ算の計算を短縮できたなら、試験でより本質的な・探究的な思考に時間を当てられるはずです。さらに、日々の勉強もテンポアップできるはず。これは、過去の自分がほしかったアプリだ。
試験でも日常でも役に立つ。「2 けたのかけ算」を明確に意識したとき、大きなポテンシャルを感じ取りました。イシュー度が高いにもかかわらず、過小評価されている。なんだかそう思えてきました。
2-(b) アイデアを、一歩前へ
2 けたのかけ算を即答できたところで、なにになるのだろう?
アプリのアイデアを思いつくと同時に、このような疑問も浮かんできました。かけ算は、いま操作しているそのデバイスですぐに計算できてしまいます。人工知能やスパコンを持ち出すまでもありません。
果たして、いまさらかけ算アプリをつくってどうなるのか。自問自答するなかで、私は最終的に「かけ算に意味や価値がある」と結論づけました。具体的には、かけ算の即答による "体験" に価値があると考えました。
かけ算の "答え" ではなく "体験" に意味がある。なぜなら、かけ算の即答によって、計算を省力化でき、より本質的な思考に没頭できるからです。考えるべきことに、より多くの時間や集中力を注げるからです。
かけ算は毎日使う基礎的なもので、一日に何度も登場します。登場回数が多いため、毎度毎度電卓や計算機で計算していられません。
昔なにかの記事で、「知の基礎体力」というフレーズを見ました。まさに、2 けたのかけ算は、「知の基礎体力」に思えました。スポーツにおける筋力のように、成果を下支えする重要な役割を果たすもの。おろそかにできない知の瞬発力。
どれだけ情報化が発達しようと、思考するという営みはなくなりません。むしろ、より高度な知的活動のために、知の探求はこれからも必要になるでしょう。いや、さらに必要になるかもしれません。
重要なことは、「かけ算の答え」というアウトプットではなく、かけ算の即答体験によるアウトカムだ。そう考えたとき、アイデアに磨きがかかり、スッと納得できました。
2-(c) (コラム) アイデアさがしのコツ
かくして、かけ算アプリをつくることを思い立ったのです。正直なところ、かけ算アプリは思いもかけない着地点でした。
- 「アイデアさがしは、大海を漂うがごとし」
- 「発想が一番難しい」
- 「課題発見は、ひらめきや偶然に左右される」
センセーショナルなことは言いたくありませんが、個人開発は偶然、ひらめき、個人のコンテキストにまみれています。
思い返せば、過去作「inkline.jp」も自身の旅行体験からでした。私的で偏った体験から、偶然にたどり着く。次回予告やイントロダクションなしにはじまる物語。このデタラメさやダイナミックさが、個人開発の醍醐味かもしれませんね。
スマートなはじまりでは全くありませんでしたが、結果的に解くべき課題に出会えたことは幸運でした。
◇
正直なところ、アイデアさがしの定石はよくわかりません[2]。どうすれば、すぐれたアイデアや発想にたどりつくのでしょう。
ただ、ヒントらしいことは思いつきます。思うに、「いいものにたくさんに触れる」ことが大事です。とにかく、 "高品質" なもの・知識・作品に "多く" 触れる。
ブログ、ニュース、つぶやき、エンジニアリング、エンタメ、問題解決、プレゼン資料、デザイン、ニュースレター、特集、LP、文学、動画、写真、文学、学問、映画、美術、短歌、資格試験、コンサート、ラーメン、お笑い、スポーツ、音楽、数学、哲学、歴史、マラソン。
なんでもいいです。とにかく情報や作品に触れて、いいものはストックしましょう。できれば、毎日です。その情報が自分の領域の向こう側にあるなら、さらにいいです。ぜひ境界線を飛び越えて、多様な知識に触れてみましょう。外国や知らない場所を旅するのもいいかもしれません。
こうして拾い集めたものは、自分の引き出しとなります。インスピレーションになったり、問題意識となったり、個人開発アプリの対象となったりします。
多くのものに触れて、「すごいな〜」「これはいつか役立つ知識だな〜」と思ったり、「これはすごすぎる。。。」と打ちひしがれたり、道に迷ったりしましょう。
経験がアイデアにつながる、と私は信じています。今回の個人開発は、そうした体験と紆余曲折でできあがっているのですから。
2-(d) 市場調査
「かけ算アプリ」というアイデアにたどり着いたところで、類似アプリを調べました。 Google Play Store(Android) と AppStore(iOS) を中心に調べていきました。 iPhone ユーザーが多いため、どちらかといえば、 AppStore を優先的に調査しました。
「かけ算 アプリ」「2 けた かけ算」といったキーワードで調べると、どうやら九九アプリは多くあるようでした。数千のレビュー数を超える高評価なアプリもあり、すでに完成された世界が広がっていました。
また、歴史が長いアプリも多く、長い期間にわたってユーザーに受け入れられている。後発者が太刀打ちするのは難しいように思えました。
他方、2 けたのアプリに対応したアプリは、あまり見られませんでした。もっと言うと、「2 けたのかけ算専用アプリ」は、ほとんど見られませんでした。おそらく 3 つ以下です。
- かけ算(九九)アプリは多いが、2 けたのかけ算のアプリはすくない。
- 「2 けたのかけ算専用アプリ」に特化して開発・提案すれば、受け入れられるかもしれない。分野を限定したユニークさで、存在感を出せるかもしれない。
- ただ単に需要がないだけかも。具体的な価値提案や PR をどう行うか。
「先行者がいる」という厳しい状況と、「2 けたのかけ算専用アプリ」という希望。正反対のものを両手に携えて、アプリの企画構想を終えることにしました。
2-(e) まとめ
「2 けたのかけ算アプリ」を選んだ決め手をまとめると、つぎのようになります。
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(ⅰ) @daisuke__200 の観点
- 自身の経験に裏打ちされた課題で、納得感やモチベーションが高い
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(ⅱ) 競合他社(他者)の観点
- 「かけ算アプリ」の多さ
- 「2 けたのかけ算アプリ」のユニークさ
- 「2 けたのかけ算」の過小評価性
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(ⅲ) 需要や付加価値の観点
- 日常と試験で生きるというイシュー度の高さ。一部のユーザーを熱狂させられるかも?
- 時代を超えて需要されるロングテールさ
おわりに
個人開発アプリ「ククモア」の企画構想の裏側をお届けしました。コメントや X/Twitter などで、リアクションいただけるとうれしいです。なにかひとつでも、参考や気づきにつながりますように。
「ククモア通信」は、しばらく技術寄りの記事が続く見込みです。すくなくとも、「アプリ設計編」「開発編」は確実に書くと思います。「デプロイ編」「個人開発のコツ編」もいいかもしれませんね!
それでは、次回「ククモア通信 vol.3 アプリ設計編」でお会いしましょう。フィードバックいただけると、筆者はとても喜びます。ありがとうございました!
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ソフトウェア開発に携わる前のお話です。 ↩︎
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任天堂の宮本茂さんによれば、「アイデアというのは複数の問題を一気に解決するものである」そうです。至言だと思います。引用元: https://www.1101.com/iwata/2007-08-31.html ↩︎
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