Chapter 09

🎮 バーティカルスライス

ポコ太郎
ポコ太郎
2022.05.29に更新

バーティカルスライスとは?

プリプロダクションの最終段階で、最初のステージのみで良いので「グラフィックもゲームシステムも完成に近い状態で遊べる」もの。元々は海外で実施されていたものがPS4がリリースされた辺りから日本国内にも導入され始めた感じだろうか。

アーティスト的には「ゲームエンジンを活用したルックデブ」が重要なのは誰しも理解ができると思う。目指すゴールが明確になりチーム全体で共有できるからだ。そしてバーティカルスライスはそのゲーム全体版と言ったところか。

メリット

大まかに以下のようなメリットが考えられる。

  • 開発の早い段階で完成イメージ(ゴール)を掴める
  • チーム全体に共有できる
    • 量産のための非常に明確な指標になる
  • 経営層に共有できる
    • 経営層を安心させる
    • 追加予算獲得の交渉材料になる
  • ファーストトレーラーを早めに出せる

アーティスト的にはメモリ配分や処理量などパフォーマンス面を考慮した「現実的なクオリティライン」が明確になることに加え、以下のようなメリットがある。

  • 量産に備えたレギュレーションを策定しやすくなる
    • メモリやGPUのバジェットも含む
  • 難度の高い仕様要件の洗い出しができる
  • ワークフローが固まり省力化すべき要素が見えてくる
  • 量産での工数の見積もり精度が上がる
  • アウトソースの準備ができる

特にチームが初めて経験するプラットフォームの大型タイトル開発時には、以上の理由からバーティカルスライスが必須のようにも思えるほどだ。

デメリット

バーティカルスライスを短期間で制作すること自体、非常に難度が高い印象がある。
むしろ短期間では制作できず、ゲームシステム面でもグラフィック面でも手探り状態が続けばバーティカルスライス自体のスケジュールの延期が繰り返される可能性もある。

例えば「東京ゲームショウへのプレイアブル出展・体験版リリースを開発序盤で実現する必要がある」と想像すると、いかに厳しい要求かは想像しやすいように思う。

例え序盤の1時間程度のプレイボリュームであっても、短期間で製品クオリティのものを作るには、以下の3点が前提になるのでは。

  • ターゲットとするパラットフォームでの開発経験が十分にある
  • 実現性が不透明なチャレンジが無い(または行わない)
  • すでに完成しているゲームエンジンが最初からある

少なくともゲームエンジンをゼロから内製しつつバーティカルスライスを作成する事は不可能に思うため、バーティカルスライス時点ではUnreal Engineが使われるといった方法も考えられる。ただ‥プロトタイプの作成ではなく製品レベルのゲームを作る前提なため、内製環境への移行時には非常に大きなコストが発生しそうだ。

バーティカルスライスに向いたタイトル

海外のコンソールタイトルでは、FPS/TPS・RPGを自社の定番ジャンルとして作り続けている(つまりゲームシステム面での基盤が完成されている)上で、フォトリアルで映画的な絵作り(現実世界に正解があるため絵作りでブレにくい)を実現しており、開発フローが十分に成熟しているように感じる。その上で新しいタイトルやIPを立ち上げる際には、バーティカルスライスと相性が良さそうに思う。

逆に国内であっても、例えば無双シリーズという「成熟しているゲームシステム + 手慣れたアセット量産体制」にドラクエやゼルダのIPを反映させて、タイトル独自の新システムは適度に追加するといった形であれば、バーティカルスライスと相性が良い例になるように思う。