バーティカルスライスとは?
プリプロダクションの最終段階で、最初のステージのみで良いので「グラフィックもゲームシステムも完成に近い状態で遊べる」もの。元々は海外で実施されていたものがPS4がリリースされた辺りから日本国内にも導入され始めた感じだろうか。
アーティスト的には「ゲームエンジンを活用したルックデブ」が重要なのは誰しも理解ができると思う。目指すゴールが明確になりチーム全体で共有できるからだ。そしてバーティカルスライスはそのゲーム全体版と言ったところか。
メリット
大まかに以下のようなメリットが考えられる。
- 開発の早い段階で完成イメージ(ゴール)を掴める
- チーム全体に共有できる
- 量産のための非常に明確な指標になる
- 経営層に共有できる
- 経営層を安心させる
- 追加予算獲得の交渉材料になる
- ファーストトレーラーを早めに出せる
アーティスト的にはメモリ配分や処理量などパフォーマンス面を考慮した「現実的なクオリティライン」が明確になることに加え、以下のようなメリットがある。
- 量産に備えたレギュレーションを策定しやすくなる
- メモリやGPUのバジェットも含む
- 難度の高い仕様要件の洗い出しができる
- ワークフローが固まり省力化すべき要素が見えてくる
- 量産での工数の見積もり精度が上がる
- アウトソースの準備ができる
特にチームが初めて経験するプラットフォームの大型タイトル開発時には、以上の理由からバーティカルスライスが必須のようにも思えるほどだ。
デメリット
バーティカルスライスを短期間で制作すること自体、非常に難度が高い印象がある。
むしろ短期間では制作できず、ゲームシステム面でもグラフィック面でも手探り状態が続けばバーティカルスライス自体のスケジュールの延期が繰り返される可能性もある。
例えば「東京ゲームショウへのプレイアブル出展・体験版リリースを開発序盤で実現する必要がある」と想像すると、いかに厳しい要求かは想像しやすいように思う。
例え序盤の1時間程度のプレイボリュームであっても、短期間で製品クオリティのものを作るには、以下の3点が前提になるのでは。
- ターゲットとするパラットフォームでの開発経験が十分にある
- 実現性が不透明なチャレンジが無い(または行わない)
- すでに完成しているゲームエンジンが最初からある
少なくともゲームエンジンをゼロから内製しつつバーティカルスライスを作成する事は不可能に思うため、バーティカルスライス時点ではUnreal Engineが使われるといった方法も考えられる。ただ‥プロトタイプの作成ではなく製品レベルのゲームを作る前提なため、内製環境への移行時には非常に大きなコストが発生しそうだ。
バーティカルスライスに向いたタイトル
海外のコンソールタイトルでは、FPS/TPS・RPGを自社の定番ジャンルとして作り続けている(つまりゲームシステム面での基盤が完成されている)上で、フォトリアルで映画的な絵作り(現実世界に正解があるため絵作りでブレにくい)を実現しており、開発フローが十分に成熟しているように感じる。その上で新しいタイトルやIPを立ち上げる際には、バーティカルスライスと相性が良さそうに思う。
逆に国内であっても、例えば無双シリーズという「成熟しているゲームシステム + 手慣れたアセット量産体制」にドラクエやゼルダのIPを反映させて、タイトル独自の新システムは適度に追加するといった形であれば、バーティカルスライスと相性が良い例になるように思う。