はじめに
指定位置の標高を得るクエリとインデックスの前半では、ピクセル値の取得を行いました。今度は、ピクセル値を近隣ピクセルから独立して演算を行い、その結果から新しいラスタを生成します。
結構遅い点にご注意
今回の処理はSQL一文で済みますが、その割に処理時間がかかります。現時点では、まだちょっと実用的な速度に達していないと言えます。
DEMテーブルがあるとします
ここでは、dem
という名前のテーブルがあり、ラスタが一つ格納されている状態であると仮定しています。格納については、PostGISラスタにGeoTIFFデータを格納するを参照して下さい。
標高10m以上かそうでないかのラスタを作る
浸水域の計算は標高データを用います。実際にはシミュレーション計算を行うので、ここでご紹介する方法で浸水危険区域を決定することはありませんが、浸水危険区域を見積もり際に、指定した標高以上である土地の分布を調べることは重要です。せっかく標高 (DEM)データがあるので、これを使って演算をやってみましょう。今回の条件は標高10m以上かそうでないかを示すラスタを生成します。
テーブルの作成
z10
という名前のテーブルを作成します。ここでは、実行してはその都度消すことにしています。
CREATE TABLE z10 (
rid SERIAL PRIMARY KEY,
rast RASTER
);
CREATE INDEX ix_z10_rast ON z10 USING GiST (ST_ConvexHull(rast));
まずはピクセルタイプは気にしないで演算
ピクセルタイプとは、ピクセルの数値型を指します。数値型には、1ビット符号なし整数、8ビット符号付き整数、32ビット浮動小数点数といったもので、ビット数および、整数(符号の有無を含む)ならびに浮動小数点数の別からなります。
ピクセルタイプはバンドごとに決まっていますが、ラスタ内でもバンドが異なるとピクセルタイプが違ってもかまいません。
詳細はPostGISラスタの仕様をご覧下さい。
dem
テーブルのピクセルタイプは、32ビット浮動小数点数です。
ともかく、次のクエリを実行してみましょう。
DELETE FROM z10;
INSERT INTO z10 (rid, rast)
SELECT rid, ST_MapAlgebraExpr(
rast,
NULL,
'CASE WHEN [rast]::NUMERIC >= 10 THEN 1 ELSE 0 END'
)
FROM dem;
dem
のラスタから、第三引数で指定した数式にあった値に変換したラスタを生成しています。
ここで注意して頂きたいのは、新しいラスタを生成している点です。引数で与えられたラスタは変更されません。
ST_MapAlgebraExpr()
さきほどのクエリでST_MapAlgebraExpr()
というものが出ていました。この関数について見てみましょう。詳細については、たとえば http://aginfo.cgk.affrc.go.jp/docs/pgisman/3.0.0/RT_ST_MapAlgebraExpr.html を参照して下さい。
band
を指定する形式とband
を指定しない形式があり、それぞれ次のような宣言になっています。
raster ST_MapAlgebraExpr(raster rast, integer band, text pixeltype, text expression, double precision nodataval=NULL);
raster ST_MapAlgebraExpr(raster rast, text pixeltype, text expression, double precision nodataval=NULL);
引数の意味は次の通りです。
-
rast
はラスタデータそのもの -
band
はバンド番号(指定しない場合は1と仮定) -
pixeltype
は出力のピクセルタイプ -
expression
は数式(文字列) -
nodataval
はNODATA値
先ほどのクエリの一部を見てみます。
ST_MapAlgebraExpr(
rast,
NULL,
'CASE WHEN [rast]::NUMERIC >= 10 THEN 1 ELSE 0 END'
)
- DEMは通常は1バンドですので、
band
を指定しません -
pixeltype
がNULL
に指定した場合には、出力ピクセルタイプは入力ピクセルタイプと同じにして返します -
expression
の数式は、ご覧の通り、PostgreSQLの数式です。
返り値は、ラスタデータそのものです。この点にも気を付けてください。新たなデータが生成されるのですから、返り値は、どこかのテーブルに格納します。
QGISで見てみる
QGISで様子を見てみましょう。次のようになります。
ちょっと分かりにくいですね。
QGISで色を変えてみる
色を変えてみましょう。対象レイヤを右クリックしてコンテキストメニューを出し、「レイヤのプロパティ」を選択します。
「レイヤプロパティ」ダイアログで「シンボロジ」タブを選びます。次いで「グラデーション」で「単バンド疑似カラー」を選択します。
「分類」ボタンをクリックすると、値に基づく色の塗分け設定が作成されます。
今回は、0と1しかないので2色が必要です。対してそのままだと5色に分かれますが、無視して下さい。
「OK」を押して閉じると、次の図のように、赤と青で塗分けられます。この図では、赤が0、青が1をそれぞれ示します。
1ビットでいいんじゃね?
0と1しか値を取りえないなら、ピクセルタイプは1ビットでいいのではないか、と考えられないでしょうか。
ためしに、ピクセルタイプを1ビットにしてみます。
DELETE FROM z10;
INSERT INTO z10 (rid, rast)
SELECT
rid,
ST_MapAlgebraExpr(
rast,
'1BB',
'CASE WHEN [rast]::NUMERIC >= 10 THEN 1 ELSE 0 END'
)
FROM dem;
ST_MapAlgebraExpr()
の第2引数がNULL
から'1BB'
に変わっています。これで、ピクセルタイプを指定しています。
この結果をQGISで見てみましょう。
黒と白しか出てきません。そして、0になるべき箇所も1になるべき箇所も、1になっているようです。
色の塗分け設定のためにダイアログを開いてみます。
「分類」ボタンがクリックできません。これは、分類できるだけの値の幅が無いためです。最大値が1かつ最小値が1になっていますし。
さらに、gdalinfo
で、どういうデータになっているかを確認してみましょう。
Driver: PostGISRaster/PostGIS Raster driver
Files: none associated
Size is 2250, 1500
Origin = (133.250000000000000,34.500000000000000)
Pixel Size = (0.000111111111111,-0.000111111111333)
Corner Coordinates:
Upper Left ( 133.2500000, 34.5000000)
Lower Left ( 133.2500000, 34.3333333)
Upper Right ( 133.5000000, 34.5000000)
Lower Right ( 133.5000000, 34.3333333)
Center ( 133.3750000, 34.4166667)
Band 1 Block=2048x1500 Type=Byte, ColorInterp=Gray
NoData Value=0
Image Structure Metadata:
NBITS=1
NODATA値が0にされています。元のバンドでは-9999.0
になっていたのですが、1ビットでは取り得る値が0と1だけなので、最小値側の0になったようです。
NODATA値に一つの値(0)が割り当てられたため、残るは一つ(1)だけとなります。10m未満に一つ、10m以上に一つをそれぞれ割り当てることができません。
言い換えると、10m以上と10m未満とを識別するたけでなく、NODATAであるかどうかを識別できる必要があるので、1ビットでは、値が0か1の2種類しか取りえないので、サポートできません。
やはり2ビットにしよう
ということで2ビットにしてみました。NODATAを0、10m未満を1、10m以上を2にそれぞれ設定することとしましょう。
DELETE FROM z10;
INSERT INTO z10 (rid, rast)
SELECT
rid,
ST_MapAlgebraExpr(
rast,
'2BUI',
'CASE WHEN [rast]::NUMERIC >= 10 THEN 2 ELSE 1 END'
)
FROM dem;
CASE
節では、上述していますが、10m未満を0でなく1とし、10m以上を1でなく2とした点に注意して下さい。
うまくいきそうです。色の塗分け設定を変更すると次のようになります。
うまくいきました。
さっとgdalinfo
を見てみましょう。
Driver: PostGISRaster/PostGIS Raster driver
Files: none associated
Size is 2250, 1500
Origin = (133.250000000000000,34.500000000000000)
Pixel Size = (0.000111111111111,-0.000111111111333)
Corner Coordinates:
Upper Left ( 133.2500000, 34.5000000)
Lower Left ( 133.2500000, 34.3333333)
Upper Right ( 133.5000000, 34.5000000)
Lower Right ( 133.5000000, 34.3333333)
Center ( 133.3750000, 34.4166667)
Band 1 Block=2048x1500 Type=Byte, ColorInterp=Gray
NoData Value=0
Image Structure Metadata:
NBITS=2
2ビットで、NODATAは0、となっています。
おわりに
ピクセル値を近隣ピクセルから独立して演算して、その結果から新しいラスタを生成しました。また、ピクセルタイプに関してもデータサイズを絞りすぎても良くないことをご紹介しました。
これにより、たとえばDEMデータを元に浸水域を算出するのに使えるかも知れません(今回の例は、そのままでは浸水域算出には使えません)。
ただ、使用した関数の実行速度は、ちょっと実用的な速度に達していないように感じられます。大量のラスタデータを処理する場合にはご注意ください。