TypeScriptで型駆動開発
はじめに
型駆動開発とはどんなもので実践すると何が嬉しいのかを自分なりに理解するためにこの記事を書きます。
2021年8月時点では「型駆動開発」でググっても意図した内容がヒットせず、「Type-Driven Development」と検索して英語の記事が何件かヒットする程度です。
自分の「型駆動開発」に対しての理解・認識が世間一般のそれと相違がある場合もありますので、何か思うところがあればご指摘いただければ大変嬉しく思います。
また、この記事ではTypeScriptとVue.jsでフロントエンドのコードを書いていきます。TypeScriptは必須の前提ですがReactでも同じような考え方を活かせるのではないかなと思っています。
型駆動開発とは
型駆動開発とはなにか。書籍「プログラミングTypeScript――スケールするJavaScriptアプリケーション開発」から引用させてもらいます。
まず型シグネチャで概略を記述し、その後で値を埋め込むプログラミングのスタイル
日本語で表現するならプログラミングの手法でしょうか。では、これによって何が嬉しいのか?個人的に考えるのは以下の点です。
- 型を先行して記述することによって実装中にタイプチェッカーがエラーをキャッチしてくれる
- 型がプログラムの仕様になるので型を見るだけでその関数について理解できる
- 型を定義することによって脳内で実装を整理できるので脱printデバッグへの近道(大声)
- チームで開発する際には(状況にもよると思うが)型シグネチャすなわちインターフェースを共有することで同時作業がやりやすい
- テスト駆動開発とも親和性が高い
他にもたくさんあると思うので、「追加しろや」って意見があればコメントください。
※この記事ではTypeScriptで定義された型のことをインターフェースと表現します。
型駆動開発を試してみる
こちらに完成例を置いておきます。commit履歴を追っていただければ見やすいかもしれません。
下のgif画像の様な絵文字をクリックすると絵文字の一覧モーダルが表示され、任意の絵文字に変更することができるシンプルなBaseIcon
コンポーネントを型駆動開発(&テスト駆動開発)で実装してみようと思います。
ディレクトリの構成は以下の様になっています。
.
└── BaseIcon
├── compositions
│ ├── index.test.ts
│ └── index.ts # インターフェースとそれに対応する実装
├── icons.ts # 絵文字一覧の変数を格納したファイル
└── index.vue
01. 機能を箇条書き
機能を実装する為には何が必要なのかを箇条書きするところから始めます。後ほど削除するのでこの段階では雑に以下の様なコメントを書いておけば良いかと思います。
// [必要な状態]
// - 現在選択されていてる絵文字
// - アイコン選択モーダルの表示状態
// [必要な関数]
// - 絵文字がクリックされたらアイコン選択モーダルを表示する関数
// - 既存の絵文字が変更されたらアイコン選択モーダルを非表示にする関数
// - アイコン選択モーダルの中の絵文字がクリックされたら既存の絵文字を変更する関数
// - Vue.jsから利用する為のuseXXX関数
アイコン選択モーダルの表示・非表示の切り替えは1つの関数でも良いかも。と思えば少し調整します。
- // - 絵文字がクリックされたらアイコン選択モーダルを表示する関数
- // - 既存の絵文字が変更されたらアイコン選択モーダルを非表示にする関数
+ // - アイコン選択モーダルが表示されていれば非表示に、非表示であれば表示する関数
これで一旦メモとしては完成です。メモに沿って5つのtype
を定義していきます。
// [必要な状態]
// - 現在選択されていてる絵文字
// - アイコン選択モーダルの表示状態
// [必要な関数]
// - アイコン選択モーダルが表示されていれば非表示に、非表示であれば表示する関数
// - アイコン選択モーダルの中の絵文字がクリックされたら既存の絵文字を変更する関数
// - Vue.jsから利用する為のuseXXX関数
02. TypeScriptでインターフェースを定義
上記のコメントを元に必要なインターフェースを記述していきます。コードの仕様を作成するステップなのでこの工程が最も時間が掛かると思っています。インターフェースさえ固まってしまえば残りはこれに沿ってテストを書いて関数を実装するだけなのでしっかりと時間をかけて考えます。
今の段階で全くインターフェースが思いつかないのなら、それはTypeScriptの知識ではなく実装する機能を理解できていない可能性が高いです。
import { Ref } from 'vue'
// [必要な状態]
// - 現在選択されていてる絵文字
type Icon = Ref<string>
// - アイコン選択モーダルの表示状態
type IsShownIconSelectionModal = Ref<boolean>
// [必要な関数]
// - アイコン選択モーダルが表示されていれば非表示に、非表示であれば表示する関数
type ToggleDisplayOfIconSelectionModal = (
isShownIconSelectionModal: IsShownIconSelectionModal
) => () => void
// - アイコン選択モーダルの中の絵文字がクリックされたら既存の絵文字を変更する関数
type ChangeIcon = (
icon: Icon,
toggleDisplayOfIconSelectionModal: ReturnType<ToggleDisplayOfIconSelectionModal>
) => (newIcon: string) => void
// - Vue.jsから利用する為のuseXXX関数
type UseIcon = (
isShownIconSelectionModal: IsShownIconSelectionModal,
icon: Icon
) => {
toggleDisplayOfIconSelectionModal: ReturnType<ToggleDisplayOfIconSelectionModal>
changeIcon: ReturnType<ChangeIcon>
}
テスト容易性を考慮して状態や依存関数はカリー化関数に注入するようなインターフェースにしています。例えば、ChangeIcon
はリアクティブな値であるicon
とtoggleDisplayOfIconSelectionModal
関数に依存するので、実行前に引数を事前に注入するといった要領です。TypeScriptならこの様なインターフェースも軽く表現できてしまう。
UseIcon
はReactで言うところのHookだと思っていただければ良いかと思います。ここで依存性の注入をしてVueファイル側からは特に意識することなく関数を利用することができます。
03. 空の関数を記述
テストをする為にインターフェースに沿って空の関数を記述します。
type ToggleDisplayOfIconSelectionModal = (
isShownIconSelectionModal: IsShownIconSelectionModal
) => () => void
+ export const toggleDisplayOfIconSelectionModal: ToggleDisplayOfIconSelectionModal =
+ (isShownIconSelectionModal) => () => {}
type ChangeIcon = (
icon: Icon,
toggleDisplayOfIconSelectionModal: ReturnType<ToggleDisplayOfIconSelectionModal>
) => (newIcon: string) => void
+ export const changeIcon: ChangeIcon =
+ (icon, toggleDisplayOfIconSelectionModal) => (newIcon) => {}
type UseIcon = (
isShownIconSelectionModal: IsShownIconSelectionModal,
icon: Icon
) => {
toggleDisplayOfIconSelectionModal: ReturnType<ToggleDisplayOfIconSelectionModal>
changeIcon: ReturnType<ChangeIcon>
}
+ export const useIcon: UseIcon = (isShownIconSelectionModal, icon) => {}
04. テストのtodoを記述
テストのtodoを記述します。ここでインターフェースからさらに詳細な仕様を作成していると思えば後の作業が楽になる気がします。
また、この工程でインターフェースの不備を発見することができると思うので、todoを書いてさらに脳内を整理すると良いのかなと思っています。
ちなみに、useIcon
は依存を注入して公開しているだけなのでテストを実施しません。
import { toggleDisplayOfIconSelectionModal, changeIcon } from '.'
describe('toggleDisplayOfIconSelectionModal', () => {
test.todo('アイコン選択画面が「表示されている」場合は関数の実行によって非表示になること')
test.todo('アイコン選択画面が「表示されていない」場合は関数の実行によって表示されること')
})
describe('changeIcon', () => {
test.todo('iconが既存のアイコンから新しいアイコンに変更されること')
test.todo('toggleDisplayOfIconSelectionModalがコールされていること')
})
05. toggleDisplayOfIconSelectionModalのテストを記述
テストを記述します。(この辺りは型駆動開発というよりはテスト駆動開発)
+ import { ref } from 'vue'
import { toggleDisplayOfIconSelectionModal, changeIcon } from '.'
describe('toggleDisplayOfIconSelectionModal', () => {
+ test('アイコン選択画面が「表示されている」場合は関数の実行によって非表示になること', () => {
+ const isShownIconSelectionModal = ref(true)
+ const testTarget = toggleDisplayOfIconSelectionModal(isShownIconSelectionModal)
+ testTarget()
+ expect(isShownIconSelectionModal.value).toBe(false)
+ })
+ test('アイコン選択画面が「表示されていない」場合は関数の実行によって表示されること', () => {
+ const isShownIconSelectionModal = ref(false)
+ const testTarget = toggleDisplayOfIconSelectionModal(isShownIconSelectionModal)
+ testTarget()
+ expect(isShownIconSelectionModal.value).toBe(true)
+ })
})
テストを実行して意図した通りに失敗していることを確認します。
06. toggleDisplayOfIconSelectionModalを実装
テストに合格する関数を記述します。インターフェースもあるし、テストもあるしでかなり実装しやすいのではないかなと思います。(この例は簡単過ぎますが)
export const toggleDisplayOfIconSelectionModal: ToggleDisplayOfIconSelectionModal =
- (isShownIconSelectionModal) => () => {}
+ (isShownIconSelectionModal) => () =>
+ (isShownIconSelectionModal.value = !isShownIconSelectionModal.value)
テストに合格したので実装完了です。
07. changeIconのテストを記述
toggleDisplayOfIconSelectionModal
と同じ様にテストを記述します。
describe('changeIcon', () => {
- test.todo('iconが既存のアイコンから新しいアイコンに変更されること')
- test.todo('toggleDisplayOfIconSelectionModalがコールされていること')
+ const icon = ref('🐶')
+ const newIcon = '🐱'
+ const toggleDisplayOfIconSelectionModalMock = jest.fn()
+ beforeEach(() => {
+ toggleDisplayOfIconSelectionModalMock.mockClear()
+ const testTarget = changeIcon(icon, toggleDisplayOfIconSelectionModalMock)
+ testTarget(newIcon)
+ })
+ test('iconが既存のアイコンから新しいアイコンに変更されること', () => {
+ expect(icon.value).toMatch(newIcon)
+ })
+ test('toggleDisplayOfIconSelectionModalがコールされていること', () => {
+ expect(toggleDisplayOfIconSelectionModalMock).toHaveBeenCalledTimes(1)
+ })
})
実行して意図した通りに失敗していることを確認します。
08. changeIconを実装
changeIcon
もインターフェースとテストを参考に関数を記述します。
- export const changeIcon: ChangeIcon = (icon) => (newIcon) => {}
+ export const changeIcon: ChangeIcon = (
+ icon,
+ toggleDisplayOfIconSelectionModal
+ ) => (newIcon) => {
+ icon.value = newIcon
+ toggleDisplayOfIconSelectionModal()
+ }
これでロジック部分の実装が完了しました。
09. useIconを実装
最後に願いを込めてVue側から利用する為のuse関数を書きます。型エラーも出ていないし、テストも通っているので問題なく動くはずです。
- export const useIcon: UseIcon = (isShownIconSelectionModal, icon) => {}
+ export const useIcon: UseIcon = (isShownIconSelectionModal, icon) => ({
+ toggleDisplayOfIconSelectionModal: toggleDisplayOfIconSelectionModal(
+ isShownIconSelectionModal
+ ),
+ changeIcon: changeIcon(
+ icon,
+ toggleDisplayOfIconSelectionModal(isShownIconSelectionModal)
+ ),
+ })
10. Vueファイルを記述
あとはマークアップしてuseIcon
に依存を注入してやればtoggleDisplayOfIconSelectionModal
とchangeIcon
が良い感じに使える様になります。
<template>
<div class="base-icon">
<div @click="toggleDisplayOfIconSelectionModal" class="icon current">
{{ icon }}
</div>
<div v-if="isShownIconSelectionModal" class="icon-selection-modal">
<ul class="list">
<li
v-for="(icon, index) in icons"
:key="index"
@click="changeIcon(icon)"
class="icon item"
>
{{ icon }}
</li>
</ul>
</div>
</div>
</template>
<script lang="ts">
import { defineComponent, ref } from 'vue'
import { useIcon } from './compositions'
import { icons } from './icons'
export default defineComponent({
name: 'BaseIcon',
setup() {
const icon = ref('🦅')
const isShownIconSelectionModal = ref(false)
return {
...useIcon(isShownIconSelectionModal, icon),
icons,
icon,
isShownIconSelectionModal,
}
},
})
</script>
絵文字は何となく別ファイルにおきました。
export const icons = [
'🐶',
'🐺',
'🐱',
'🐭',
'🐹',
'🐰',
'🐸',
// ~~~
]
BaseIcon
コンポーネントをimportして無事にアイコン変更機能が実装できていることが確認できました。
さいごに
最後まで読んでいただきありがとうございました。まだまだ勉強中でおかしな記述や認識をしている可能性が大いにありますので、思うところがあれば(優しめに)コメントいただけると嬉しいです。
今後はメソッド・インターフェース単位での設計やテスト技法への理解を深めていきたい。
Discussion
わかりやすくてすごく助かりました😆