Ubuntu 26.04 LTS を1ヶ月使って感じたメリット6選
「これがやりたい」とはっきりわかっているのに、OSが「そこから先は触らせません」と壁を作る——。長年WindowsとmacOSを使ってきて、私がいちばん堪えたのはこの感覚でした。
申し遅れました。モデムが「ピーガー」と鳴っていた時代からPCを触ってきた、いわゆる古老PC勢です。Windowsおじ → Mac初老 → そしてついにLinux古老へと、ポケモンのように進化(老化?)を続けています。一般ユーザーとしてのOS知識はとっくに飽和していて、だからこそ「触れない領域があること」そのものがストレスでした。
そんな私が、Ubuntu 26.04 LTS を1ヶ月、日常のメイン機として使ってみました。結論から言うと、あの壁が文字どおり消えました。本記事では、移行して実際に良かった点を率直にお伝えし、最後に微妙だった点も隠さず書きます。
1. 文字通り「なんでもできる」
魅力を一言で言えば、これに尽きます。OSの深いところまで、すべてが自分の手の届く範囲にある。
WindowsやmacOSは、よくできた家電に似ています。もちろん、macOSにはターミナルがありますし、Windowsもレジストリくらいは触れますから、まったく開かないわけではありません。ただ表側がきれいに整っているぶん、一歩奥へ行こうとすると「ここから先はサポート外・自己責任です」という灰色地帯にすぐ突き当たり、気が重い。対してLinuxは、最初から裏蓋が開いています。設定ファイルもプロセスもファイルシステムも、原則として自分でいじれて、しかもそれが正規の使い方です。
「OSの制約でこれ以上はムリ」という壁が取っ払われた——これがいちばん近い表現だと思います。やりたいことがあれば、たいてい道はある。この安心感は思っていた以上に大きいものでした。
2. 基本的なフリーソフトは揃い、なければ自作できる
Windowsでいう Everything のような高速ファイル検索は、Linuxでは fsearch がよくできた代替になります。OS標準のアプリ群も、ひとつ前のバージョンと比べてかなり洗練された印象です。
そして本領を発揮するのが、「標準ツールがGUIを持たない」ケースです。たとえば tailscale は、Linux版だと操作が基本CUIになり、状態を確認するたびにコマンドを叩くのは正直なところ煩雑でした。既製のトレイ常駐ツールもありますが、Linuxなら自分好みの簡易GUIをさっと自作して、ツールバーに常駐させてしまうこともできます。
WindowsやmacOSでネイティブアプリを一から作ろうとすると相応の労力がかかりますが、LinuxはOSそのものがオープンなので、こうした「ちょっとした道具」をつくる敷居が圧倒的に低い。足りなければ自分で足せる、というこの感覚は、想像以上に精神的な余裕につながりました。
3. マウス・キーボードのカスタマイズが「全部入り」
地味ですが、毎日じわじわ効いてくるのがここです。なかでもいちばん感動したのが、手持ちのトラックボールのチルト(ホイールを左右に倒す動作)にワークスペース切り替えを割り当てられたことでした。
| OS | ワークスペース切替の主な方法 |
|---|---|
| Windows | マウスメーカー製アプリの導入、または Win + Ctrl + ←/→
|
| macOS |
Ctrl + ←/→、または Mission Control 経由(チルト直結は不可) |
| Ubuntu | 入力リマッパ経由で、チルトなど任意の操作に自由に割り当て |
実際には evsieve のような入力リマッパを一枚かませて、チルトの信号をワークスペース切替に化けさせています。OSが入力レイヤごと開放されているからこそ、こういう芸当ができるわけです。しかも切り替えのアニメーションの速さも、dconf や拡張機能でミリ秒単位まで詰められます。「速すぎて目が追えない」と「遅くてもたつく」のあいだの、自分にとっての最適点を探れる。こういう細部まで自分の手で触れるのは、本当に心地よいものです。
日本語入力については、Mozc や fcitx5 の初期設定がそれなりに骨の折れる作業でした。ただ、一度組んでしまえば、慣れ親しんだWin風の感覚にキーマップを寄せて使えます。キーマップもマウスの割り当ても、思いどおりに組み立てられました。
4. 再起動しなくても重くならない
古老PC勢として体に染みついた「再起動が必要になるサイクル」は、これまでこうでした。
| OS | 体感的な再起動の頻度 |
|---|---|
| Windows | 3日に1回(できれば毎日) |
| macOS | 月に1回はやっておきたい |
| Ubuntu | そもそも必要を感じない |
もちろん使い方次第で、いまどきのWindowsやmacOSも何週間も問題なく動きます。あくまで私の使い方での体感値、という前提でご覧ください。
それでもUbuntuは別格でした。不要な常駐プロセスを自由に止められますし、必要なら特定のプロセスだけを狙って整理することもできる。けれどそれ以上に大きいのは、そもそも動かし続けても目立った劣化が起きないことです。その結果、「そろそろ再起動しないとな」という、あの後ろ向きな感覚が完全にゼロになりました。
もともとサーバー用途でも使われるOSですから当然と言えば当然なのですが、それにしても気持ちのいいものです。
5. KVM でローカル開発がはかどる
macOS時代は Parallels で多くのことができていました。それでも、いくつか地味なストレスがありました。ARMアーキテクチャ由来の制約、ライセンス費用、自分ではコントロールできない更新頻度、そして複数VMを動かすとパフォーマンスが落ちること。
KVMに移って、これらがまとめて解消しました。x64なので動かないものがほぼなく、CPU処理のオーバーヘッドはごくわずか。実際、体感でもシンプルに速い。そして無料です。KVMそのものもオープンなので、ここでもやはり「なんでもできる」が効いてきます。
唯一の難所は、WindowsやmacOSでしか動かないソフトに依存する業務(3DCADなど)でしょう。これはLinux移行のハードルが高い領域です。ただ、それすらも逃げ道があります。
6. 環境を丸ごとコードで再現できる
これは1ヶ月使って、後からじわりと効いてきたメリットです。点1が「すべてを触れる」だとすれば、こちらは「すべてを再現できる」と言えます。
WindowsやmacOSで環境を作り直すとき、結局はGUIをクリックしてアプリを入れ直し、設定を一つずつ手で戻すことになります。一方Linuxでは、パッケージのインストール、各種設定、キーバインド、IMEの構成まで、ほぼすべてをスクリプトやdotfilesに落とし込めます。新しいマシンに移っても、ほぼ1本のセットアップスクリプトで「いつもの環境」がそのまま立ち上がる。
たとえば私の環境では、バッテリの充電上限を90%に抑える設定も、前述のトラックボールの挙動も、いずれもsysfsへの書き込みやsystemdユニットとして永続化しています。GUIのチェックボックスではなく、数行のテキストとして残る。こうした定期メンテナンスのたぐいも、systemdタイマーやcronで淡々と自動化できます。
インフラをコードで管理する発想を、そっくりそのままデスクトップに持ち込める。手作業の積み重ねから解放される感覚は、なかなかのものでした。
微妙だった点
良いことばかり書いても誠実ではありませんので、引っかかった点も率直に挙げておきます。
IMEの精度
WindowsやmacOSと比べると、体感で8割程度といったところです。「〜に」という助詞が「二」に化けたり、文脈をとらえた漢字変換が弱かったりします。同梱の Mozc はやや枯れた版なので、最新版を自前でビルドすれば変換精度はもう少し伸びる余地がありそうです——というのも、点2で書いた「足りなければ自分で足せる」が、ここでも効いてくるわけです。まだ私自身の研究不足の領域でもありますが、現状ではストレスになるレベルではありません。
Waylandの成熟度
26.04のWaylandは予想以上に成熟していて、普段使いの実用度は十分にあります。ただ、本格的にOSの挙動を調整しようとすると、いまだWaylandの制約にぶつかることがゼロではありません。
電源管理(特にAMD)
電源まわりは24.04の頃より明確に向上しています。それでも私のAMDノートでは、スリープやハイバネーションの対応がまだ弱く、挙動が不安定です(機種やファームウェアにも左右される部分なので、AMD全般の話というより手元の一例として受け取ってください)。基本的には電源オンオフ運用が前提になると考えておいたほうがよいでしょう(Intelでの挙動は未確認です)。なお、GUIの電源OFFを押しても無視されるバグが改善されたのは、地味に大きい進歩でした。
まとめ:足し算ではなく、引き算
古老PC勢ともなると、「足し算ではなく引き算」に美学を感じるようになってきます。
MacMiniは物理的にこれ以上ないほどミニマルなマシンでした。けれど、中身のOSはミニマルとは言えなかった。Linuxでは、それができます。不要なものを削ぎ落とし、必要なものだけを自分の手で組み上げられる。本当の意味での自由は、Linuxにある。そう実感した1ヶ月でした。
なぜ Ubuntu なのか
最後に、数あるディストリビューションのなかで、なぜUbuntuを選ぶのかにも触れておきます。
Ubuntuが優れているのは、その設計思想だと思います。計画的なリリースのロールアウト、毎回の着実な進化、そして「Ubuntu(他者への思いやり、人間性を表すバントゥー語)」という名前に込められた思想そのものが、信頼を担保しています。
加えて、IoT向けの ubuntu-core、キオスク向けの ubuntu-frame といった派生もそろっています。ubuntu server はかなりミニマルな構成で個人的にも気に入っていますが、そこからさらに、不変OSやキオスクという、ニッチでありながら確実に需要のある領域までカバーしている。この懐の深さも、高く評価したい点です。Snapまわりに賛否があるのは承知のうえですが、それでも私は総合点でUbuntuを推します。
Discussion
Ubuntu 26.04LTSのネガティブな情報も触れてほしいです。私はUbuntuの商業的な姿勢に抵抗があるのでDebian 13を使用しています。
(1) Ubuntuのリポジトリ
Debianではオープンソースのソフトウェアは、mainリポジトリにある。
Ubuntuではmainが少なく、大多数がuniverse にある。
universe - Community maintained packages. Software in this repository receives maintenance from volunteers in the Ubuntu community, or a 10 year security maintenance commitment from Canonical when an Ubuntu Pro subscription is attached.
(2) Proの広告
Pythonのpipは、ごく一般的なパッケージであるが、リリース1か月でproの対象になっている。
(3) snapの強要
Debianでmainリポジトリにあるパッケージがsnapのみで提供するケースがある。
例:firefox、freecad...
@HD_mount_Music さん
丁寧なコメントありがとうございます。ご指摘はいずれも妥当だと考えています。記事では Snap 周りを「賛否があるのは承知のうえで」と一言で済ませてしまったので、補足いただけて助かります。
ご指摘の3点について
apt実行時に Pro を勧めてくる挙動どれも事実で、Canonical の商業的な立て付けが透けて見える部分だと思います。特に (3) は「
apt installしたつもりが snap が入る」という、体験としてのわかりにくさがありますね。Snap の通信と「退路」について
Snap がストアのバックエンドや更新まわりで通信する点についても、海外の reddit などで「ユーザーデータの送信」として批判されているのは認識しています。
そのうえで個人的に評価しているのは、Ubuntu では今のところ
snapd自体を完全に削除・無効化する選択肢が残されている点です。強制ではあっても、退路までは塞がれていない、という理解です。それでも Ubuntu を使い続けている理由
主に二つあります。
とはいえ、Snap の問題が長年尾を引いているのはおっしゃるとおりで、私自身もそこは割り切って使っている面があります。(snap 自体を無効化しています)
もし Canonical の経営方針が変わるようなこと(創業者の引退など)があれば、すぐに Debian へ移ることも考えています。もともと Proxmox(Debian ベース)を触っていたこともあり、Debian の堅実さや魅力は理解しているつもりです。Debian 13 を選ばれているのは、思想としてとても筋が通っていると思います。
貴重な視点をありがとうございました。
Linuxについては良く記事を見ますが、
現在Windowsを使い、Autocadで図面を書いているのですが
私がLinuxを使った場合、何がメリットになるのでしょうか?
それが分かれば、すぐにLinux導入したいです。
むかしからUnixには興味があり、プログラマーだったこともあるので
開発にはUnixを使っていました。
仕事は設計が主ですが、私に何ができるが教えて下さい。
Linuxのメリットは、オープンソースのソフトウェアと相性がよいこと(旧バージョンのGIMP:Windowsでは遅いが、Linuxでは軽快に動く)。
計算時間が重要な CAE / HPC の分野では、Linuxが第一選択になっています。
WindowsのコマンドプロンプトやPowerShellと比べて、bash / zsh がシンプルで理解しやすい。
@megadeth さん
コメントありがとうございます。@HD_mount_Music さんが的確に補足してくださっているので、基本はそれに賛同です。そのうえで、設計が主というお話を踏まえて少しだけ。
まずは AutoCAD の互換性を狙い撃ちで
Linux 一般のメリットは本文に書いたとおりですが、AutoCAD が主軸という場合は、汎用的なメリットよりも「その 1 本の互換性を徹底的に調べる」ことをおすすめします。狙いを定めた特定アプリの可否で、移行できるかがほぼ決まるためです。
不安が残るなら Windows KVM + Looking Glass
調べてみて互換性に不安が残るようなら、本文で触れた Windows KVM + Looking Glass が、初期調整の手間はかかるものの、最終的にいちばん幸せになれる構成だと思います。
CAE / HPC とシェルについて
@HD_mount_Music さんの挙げてくださった2点に、具体的に賛同です。
ひとつ注意点
GPU パススルー + Looking Glass は ホスト側に Intel(iGPU)がある構成が前提になります。そのあたりの経緯はこの記事に書いているので、よければご参考に。
丁寧なご回答ありがとうございます。
先が見えてきました、今年は別件があるので無理ですが来年度からの挑戦にはいい案件です。
いままでUNIXの上辺を滑っていただけですが、これで深く潜れそうです。
Ubuntu( というかLinux全般)はとにかくWindowsみたいな意味不明なバックグラウンドプロセスがとにかく常に走ってて停めるのもわからんしとにかくなんかわからん!
みたいなことが無いんですよね。