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大LLM時代に論文を読む/まとめるならカスタムGPTで

に公開

日々の業務で追われる中、最近では効率的かつ効果的に論文を読むためにLLMを活用しています。本記事では、これまでの経験で培ってきたノウハウとカスタムGPTをあわせた論文読みテクニックをご紹介します。

プロローグ

Advent Calendarの時期がやってきましたね。Advent Calendarといえば、私がまだ大学院生だったころのお話を思い出します。

https://www.slideshare.net/slideshow/solo-advent-calendar/86524879

そもそもAdvent Calendarっていうのがよくわかっていなかったので、とりあえずなんかみんなやってるし12月毎日1本論文読んじゃお!という思いつきでやったものです。クリスマス後までやってますし、間に合わなかったら翌日公開でもOKという謎レギュレーションです。面白いですね。

とにかく、私はこの経験を通して、自分なりの「論文の読み方」を確立することができました。そのノウハウは以下の資料で公開しており、新学部4年生に向けたチュートリアル資料としても活用していました。ありがたいことに、一時期いろいろなところで参照いただいていたとの噂を聞いております。今見返すと、かなり拙い資料ですね。作り直したいくらいです。

https://www.slideshare.net/slideshow/survey-stand-on-the-shoulders-of-giants/94536580

その後、CVPR等のトップカンファンレスで発表された論文をみんなで手分けして全部読むというクレイジーなチャレンジに参加させていただいたり、自身の修士論文では3桁を超える引用をしたりと、とにかく論文を読みまくって業界についていく、というスキルを身に着けました。そして、長文の英語を読むスキルも自然と向上し、何も英語を勉強していないのにTOEICのPart 7B(複数文書の読解)でほぼ満点を取るという奇妙な出来事も発生しています。

そして時が流れ社会人になると、主業務が研究100%から開発80%くらいにシフトしたことで、論文を読む機会がめっきり減ってしまいました。普通の人よりは読んでいると思いますが、それでも全盛期の自分と比べると足元にも及びません。なんとか読む時間を捻出できないのでしょうか……?

世はまさに大LLM時代

そんな中、ChatGPTの登場で高性能な学習済み大規模なモデルが誰でも扱えるようになり、AIという存在は一気に民主化しました。このムーブメントにはじめは戸惑いましたが、弊社でもChatGPT Enterpriseを全社員に導入するなど、AIを積極的に利活用するように後押しされて無事にブームに乗ることができました。

https://corp.zozo.com/news/20250922-007248/

上記プレスリリースでも言及されているように、ChatGPTの機能のひとつである「カスタムGPT」の利用を促す社内研修も開催されました。ここで私は、1つのアイデアを思いつきます。

「論文を要約するカスタムGPTを作ればもっと効率良く読めるのでは?」

論文を要約するカスタムGPT

既にLLMを用いた論文要約botを作っている方もいらっしゃるくらいです。なぜ今まで思いつかなかったのかと後悔しました。自分の好きなフォーマットで論文を要約してくれるカスタムGPTを作れば、論文のPDFやURL、はたまたタイトルを投げるだけですぐに欲しい情報を抽出してくれます。

そもそもカスタムGPTについてご存じない方にも説明しておくと、仕組み自体はとても簡単です。毎回「この論文を次のフォーマットで要約して。基本情報:…… アブストラクト:……」みたいなプロンプトを与えるのが面倒なので、共通化できるところはしてしまおう、そして論文のURLを投げるだけでOKな状態にしてしまおう、というものですね。しかも、これを対話形式で作れるわけですから、いわゆるノーコードで作成できます。

まずはフォーマットをどうするか?ですが、いろいろな経験を経て自分が一番読みやすく要約しやすいと思っている以下のフォーマットにしました。まずは対話型の設定画面に「以下のフォーマットで論文を要約するGPTを作りたい」と投げます。

# Info: 基本情報
- タイトル:
- 著者:
- 著者所属:
- 発表場所:
- 論文URL:
- プロジェクトWebサイト:
- ソースコード:

# Abstract: どんな論文か?
アブストラクトの内容を要約し、背景から結果まで含めて簡潔にまとめる。

# Background and Aim: 背景と目的
- 本研究分野の背景: 十分に既知であれば簡易的なもので良い
- 本研究の目的: 背景で語られた問題点を解決するもの

# Method and Novelty: 手法と新規性
- 前項の目的を達成するための手法を述べる
- 従来手法と比べて何が新しいかを述べる
- 最近の論文で多い貢献や新規性の箇条書きも参考に

# Experiment and Result: 実験と結果
- 実験方法や結果を述べる
- 図やグラフを引用する
- 定性的な結果があれば引用する

# その他
## なぜ論文が通ったか?
- この論文がどうして採択されたか、どこが強かったのかを分析(ピアレビュー未通過論文は不要)

## 関連研究
- 本論文と関係のある研究や、次に読むべき論文を提示
- 事前知識として必要な論文は「Background and Aim: 背景と目的」で扱う

すると、「カスタムGPTの名前を決めましょう」とか「アイコンを決めましょう」とか提案されますが、全部おまかせで大丈夫です。

そして次に……いや、待ってください。もう終わりです。早い!簡単!あとは、実際に論文を投げるだけでこの要約通りにまとめてくれます。

実際にやってみた

試しに、拙著「Iterative Coarse-to-Fine 6D-Pose Estimation Using Back-propagation」を要約していただきましょう。

プロンプト

Ryosuke Aによる「Iterative Coarse-to-Fine 6D-Pose Estimation Using Back-propagation」を要約してください

レスポンス

以下、ご依頼の論文 Iterative Coarse-To-Fine 6D-Pose Estimation Using Back-Propagation(著者 Ryosuke Araki ら)の要約を、あなたのフォーマットに従って示す。

# Info: 基本情報

* タイトル:Iterative Coarse-To-Fine 6D-Pose Estimation Using Back-Propagation
* 著者:Ryosuke Araki, Kohsuke Mano, Tadanori Hirano, Tsubasa Hirakawa, Takayoshi Yamashita, Hironobu Fujiyoshi ([mprg.jp][1])
* 著者所属:Machine Perception and Robotics Group, Chubu University(および協力企業として CKD Corporation) ([mprg.jp][2])
* 発表場所:IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems (IROS), 2021年 ([mprg.jp][1])
* 論文URL:[https://mprg.jp/data/MPRG/C_group/C20210929_araki.pdf](https://mprg.jp/data/MPRG/C_group/C20210929_araki.pdf) ([mprg.jp][2])
* プロジェクト Web サイト:–(特に明記なし)
* ソースコード:–(論文本文および公開情報では明記なし)

# Abstract: どんな論文か?

この論文では、単一の RGB 画像から「物体の 6D ポーズ(3D 回転と 3D 平行移動)」を推定する新しい手法を提案する。特徴は、**中間表現 (intermediate representation)** を経由し、**ポーズをランダム初期化 → 推定誤差をバックプロパゲーション → パラメータ更新 → 繰り返す** という **反復 (iterative)** な最適化過程を導入している点。そして、反復処理を **粗 (coarse) → 細 (fine)** の段階的画像解像度で行うことで、高精度かつ安定したポーズ推定を達成する。RGB 画像のみを使うため、点群 (depth / LiDAR) に頼らず、物体のテクスチャ・照明変化に対しても頑健という特徴を持つ。実験では従来手法を上回る精度と、ロボットによる把持 (depth 情報なし) の成功を示している。 ([mprg.jp][2])

# Background and Aim: 背景と目的

## 背景

* 物体の 6D ポーズ推定は、ロボット把持、AR/VR、シーン理解などで重要。従来手法は大きく以下の2種類に分かれる。 ([mprg.jp][2])

  1. **モデルベース (model-based)**:既知の 3D CAD モデルとセンサーから得た点群 (RGB-D や LiDAR) を合わせてポーズを最適化。代表的には ICP (Iterative Closest Point) など。点群にノイズがあったり、物体表面の凹凸が少なかったりすると不安定。 ([mprg.jp][2])
  2. **外観ベース (appearance-based)**:RGB 画像 (あるいは RGB-D) と深層学習 (CNN) を用いて、物体の姿勢を直接推定。近年 Deep Learning による手法が増えているが、テクスチャの変化や照明変動、レンダリングと現実画像のズレ (ドメイン差) によって頑健性が課題となる。さらに、多くは一度の推論 (feed-forward) で完結するため、反復的な精緻化 (refinement) が難しい。 ([mprg.jp][2])

## 本研究の目的

これらの問題点を克服すること —

* 点群センサーに依存せず、**単一 RGB 画像のみから高精度な 6D ポーズ** を推定する。
* 従来外観ベース手法のように一発推論ではなく、**反復 (iterative) な最適化** によってポーズを徐々に精緻化し、推定精度と安定性 (failure ケースの削減) を向上させる。
* テクスチャや照明、物体の見た目の変化に対して頑健で、かつ実ロボット応用 (把持) に耐えうる精度を実現する。

# Method and Novelty: 手法と新規性

* 本手法では、まず対象物の RGB 入力画像から「中間表現画像 (intermediate representation)」を生成。これにより、元の画像のテクスチャや照明の影響を軽減し、姿勢推定を行いやすくする。 ([mprg.jp][2])
* 次に、よく訓練された “ポーズ・デコーダネットワーク (pose decoder network)” を用いて、**ポーズパラメータ (回転 R と並進 t)** をランダム初期化 (シード) する。そこから、中間表現画像との誤差を定義し、その誤差をネットワークに対して **バックプロパゲーション** し、ポーズパラメータに対する勾配を得て、更新を行う。これを繰り返すことで最適なポーズを徐々に探す。 ([mprg.jp][2])
* さらに、反復処理は **粗解像度 (coarse) → 高解像度 (fine)** の段階で行う「粗→細 (coarse-to-fine)」スキームを採用。粗解像度では大まかなポーズを、精度がある程度出たら高解像度で最終的な微調整を行う。これにより計算コストを抑えながら高精度を実現。 ([mprg.jp][2])
* このように、**RGB-only + 中間表現 + 反復バックプロパゲーション + coarse-to-fine** を組み合わせた構成は、従来のモデルベース手法や従来の appearance-based 手法にはない新規性。特に「バックプロパゲーションによる姿勢パラメータ更新」は、この分野ではほとんど前例がない。論文中でも “完全に新しいアイデア (entirely novel idea)” として挙げられている。 ([mprg.jp][2])

# Experiment and Result: 実験と結果

* 著者らは自前に用意した dataset を使って評価。単一 RGB 画像からの 6D ポーズ推定で、従来手法よりも精度が向上し、失敗ケース (pose 推定失敗) が減少することを確認。 ([mprg.jp][1])
* また、粗→細の iterative processing によって、**反復数が少なくても (効率よく) 高精度** な推定が可能であることを示している。粗解像度だけでだいたいの推定を行い、高解像度で微調整することで全体の速度と精度のバランスをとっている。 ([mprg.jp][2])
* 更に、実機ロボット (例: UR5 ロボット) を使った物体把持実験も報告。Depth (深度) 情報なし、RGB のみで推定したポーズで、ロボットが正しく把持に成功するケースを示し、実用性を確認している。 ([mprg.jp][1])

# その他

## なぜ論文が通ったか?

* 単に一発推論ではなく反復最適化という新しい考え方を持ち込み、RGB 画像のみという制約下で 6D ポーズを高精度に推定できるという強み。
* 中間表現の導入によりテクスチャ/照明の変化への頑健性を確保。
* 粗→細の効率的な設計で、計算量と精度のバランスをとる実用性。
* 最終的にロボット把持という実世界タスクへの応用を示し、理論だけでなく実用面でも有効性を証明。

## 関連研究

* 伝統的なモデルベース 6D 推定 (例: ICP, 点群ベース) 手法。 ([mprg.jp][2])
* 従来の appearance-based 手法 (CNN 等) での一発推論、あるいはキー・ポイントによるもの。 ([mprg.jp][2])
* 最近の refinement 手法としては、例えば RePOSE: Fast 6D Object Pose Refinement via Deep Texture Rendering などがあるが、RePOSE はレンダリング + LM 最適化による refinement。 ([arXiv][3])
* また、より最近ではカテゴリーレベルの coarse-to-fine render-and-compare を使った手法も出てきている。 ([arXiv][4])

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もしよければ、この論文と最近の「カテゴリーレベル」「モデルに依らない (model-free)」「ニューラルレンダリング」系の 6D ポーズ推定手法 3〜5 本をセットで紹介できます。

[1]: https://mprg.jp/publications/c20210929_araki?utm_source=chatgpt.com "MPRG : 機械知覚&ロボティクスグループ/中部大学"
[2]: https://mprg.jp/data/MPRG/C_group/C20210929_araki.pdf?utm_source=chatgpt.com "Iterative Coarse-to-Fine 6D-Pose Estimation Using Back ..."
[3]: https://arxiv.org/abs/2104.00633?utm_source=chatgpt.com "RePOSE: Fast 6D Object Pose Refinement via Deep Texture Rendering"
[4]: https://arxiv.org/abs/2209.05624?utm_source=chatgpt.com "Robust Category-Level 6D Pose Estimation with Coarse-to ..."

いいですね!論文で伝えたいことを過不足なく拾ってくれて大満足です。強いて言うなら「なぜ論文が通ったか?」の項目で、RGB画像でICPっぽいことをする斬新さについても取り上げてほしかったところですが、とにかく、このままでも簡易なまとめ資料として十分です。

より深い理解のために質問をしたり、別の論文を紹介してもらったり、といったこともできますね。昔は参考文献をガン見して次に読む論文を考えていましたが、それすらも対話形式で調査できます。

そして何より、これを事前知識として精読すると非常に理解しやすいです!冒頭の資料で「イチから論文を読むのではなく全体の流れや主張したいことを掴んでから読み込むべし」ということを伝えていますが、この最初の取っ掛かりがまさしく「カスタムGPTによる要約を読むこと」です。もし、精読する価値がある論文だと判断した場合はそのまま読み始められますし、いまいちな論文に時間を浪費することもなくなります。

おわりに

ちょっと気になった論文をサクッと調査できるようになりました。学部の頃は1週間かかっていた論文読み、院生になって1日で読めるようになり、社会人になる頃には数時間、そして今ではほぼ数分です。日常業務で忙しい中でも効率的に論文を読める土台が整いました。

一方で、この便利なツールを携えて研究への道を歩み始めた今の学生さんがどうしているのか、ちょっと気になっています。冒頭でも述べたように、僕が学生の頃はひたすらがむしゃらに読んでいましたが……ここまで効率化されると、やはり読む量も増えているのでしょうか?一方で、自分の力で読む能力が育たずに、いざ執筆する側になったときに困ってしまう……なんていう心配もあるような気がしています。まあ、そんなこと言ったら我々世代だって「機械翻訳に依存しまくっていて英語力が低下している」なんて言われたりもしましたけどね。効率的に大量の情報をさばけるようになった分、自らの研究を磨き込んだり、筋の良い研究のシーズやニーズを探せるようになったり……というメリットもあるはずです。個人的には良い傾向だと思っています。

少し脱線しましたが、論文要約に限らずこれからもいろいろな業務を効率化していき、短い時間でどんどん進捗を生み出せるようになりたいです。

株式会社ZOZO

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