行動の裏にある気持ちを読む:共感フェーズを論理で解く
この記事が役立つ人
- 様々な思考法について学んで実践したい人
- 駆け出しのエンジニア
1.共感とは、なにか?
共感とは、単に「気持ちがわかるよ」とうなずくことではない。
もっと言えば「ユーザーが何を言ったか」だけでなく、
「なぜその言葉を選んだのか」「その背景には何があるのか」にまで迫ること。
たとえば、ある人が「面倒だな」と言ったとき、
その背後には「時間がない」「失敗したくない」「誰かに迷惑かけたくない」など、
複数の心理や状況が重なっていることが多い。
観察+思考で成り立つ「共感力」
- 相手の立場に“物理的”に立つ(行動を観察する)
- 相手の内面に“論理的”に入り込む(思考パターンをたどる)
- その両方が揃って、はじめて「共感した」と言える
2.なぜ「共感」が最初にくるのか?
いきなり課題を解決しようとしても、それがズレていれば意味がない。
課題設定そのものが間違っていたら、どんなに工夫しても的外れになる。
共感は、いわば地ならしの作業。
地盤の状態を知らずに建物を建てれば、すぐに傾いてしまう。
同じように、共感せずにアイデアを出しても、ユーザーの心には刺さらない。
3.共感を深めるためのアプローチ
ユーザーインタビュー:言葉の奥にある意味を探る
- 質問は具体的に。「どんな場面で困りましたか?」
- なぜ?くりかえすと、核心に近づく
- 感情の動いた瞬間に注目。「それってどんな気持ちでしたか?」
ポイント:受け答えよりも、沈黙と間を恐れない。
人は、沈黙の中で本音を探し始める。
行動観察:言語化されない“クセ”に目を向ける
- 使い方を見て「迷っている」「探している」瞬間を見逃さない
- 視線や操作ミスの頻度は、明確なサイン
- 本人が「大丈夫」と言っていても、行動が逆ならそこに本音がある
ポイント:観察対象は、あくまで“ナマモノ”。
その場の状況や気温、相手の気分によっても大きく変わる。
ペルソナ設定:共感の“再現性”を高める
- 1人の象徴的ユーザーを具体的に描く(名前、職業、1日の過ごし方まで)
- 想像ではなく、実データや実際の観察から構成する
- 会議で「この人にとってどうだろう?」と常に問い直せる軸になる
◆ 共感とは「推論の力」でもある
さらに、共感を実践的に活用するために、ペルソナ図や推論モデルを活用して、感情とニーズのつながりを視覚化します。
これにより、ユーザーが感じていることや必要としていることが明確になり、チーム全体で共有しやすくなります。
Mermaid図では、共感のプロセスを整理し、どのように進めていくべきかを視覚的に示しています。
ペルソナ図
名前:ミホさん
年齢:34歳
職業:在宅ワーカー(ライター)
家族構成:夫と小学生の子ども2人
平日の流れ:朝5時起床 → 家事 → 子ども送り出し → 午前ライティング作業 → 昼休憩 → 午後は調査&編集作業 → 子ども迎え → 夕食・就寝準備
価値観:「効率」と「気配り」の両立を重視
困っていること:時間に余裕がなく、アプリやツールの操作に迷うとすぐ不安になる
推論モデル
行動観察からニーズ抽出
疑似言語
if 行動 == "操作に迷っている" and 状況 == "急いでいる" then
潜在ニーズ = ["手順の短縮", "案内の明確化"]
prolog
% ユーザーの状態を定義
ユーザー(迷っている, 急いでいる, 不安).
% 潜在ニーズの推論
潜在ニーズ(手順の短縮) :- ユーザー(迷っている, 急いでいる, _).
潜在ニーズ(案内の明確化) :- ユーザー(_, _, 不安).
% 設計方針として使う
設計方針(明確な案内) :- 潜在ニーズ(案内の明確化).
- 行動→感情→ニーズという推論フローを視覚化することで
思考の道筋が明確になり、チームでの理解も揃いやすい。
4.より深い共感がもたらすもの
- ユーザー視点のブレない設計軸ができる
- 感情に訴える体験設計が可能になる
- 「言われてみれば、こういうの欲しかった」体験を生む
5.よくある“ズレ”とその回避
落とし穴 | 気をつけること |
---|---|
自分基準で判断 | 一度「自分の常識」を脇に置く練習を |
表面的な言葉に満足する | その言葉の裏にある動機や前提を掘る |
「共感=優しさ」と捉える | 実は、論理力+観察力が求められる行為 |
6.まとめ:共感とは“沈黙と観察”のデザイン
- ユーザーは、自分でも気づいていない“課題”を抱えている
- それを見つけるには、ただ話を聞くだけでは足りない
- 行動・感情・環境を「統合的」に見て、推論し、仮説を立てる
- 共感とは、想像力と論理力、そして少しの“寄り添い”から生まれる
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