英文法(90):英語の時制と「距離感」
英語の時制と「距離感」:過去形が生むニュアンスを読み解く
英語の時制は単に時間を示すだけではありません。特に過去形には、時間的な意味を超えて、「丁寧さ」「控えめな表現」「非現実感」などの距離感が込められることがあります。
A. 過去形が表す丁寧な表現
1. I hoped you could lend me some money.
/aɪ hoʊpt juː kəd lɛnd miː səm ˈmʌni/(お金をいくらか貸していただけるといいのですが)
👉 これは「過去の希望」ではなく、「丁寧な依頼」の表現です。
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過去形にすることで直接的な依頼を避け、聞き手に圧をかけず配慮のニュアンスを加えています。
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同様の例:
- How many nights did you wish to stay, sir?(何泊なさるご予定でしょうか?)
B. 控えめな過去の助動詞
過去の助動詞は「本気ではない」「控えめな予想・許可」などを表すときに使われます。
1. This would be my 8th trip to Japan, I think.
/ðɪs wʊd biː maɪ eɪtθ trɪp tə dʒəˈpæn, aɪ θɪŋk/(これで8回目の日本行きじゃないかなぁ)
👉 would は will の控えめ表現。
2. Geoff can / could fix it.
/dʒɛf kən/ /kʊd/ fɪks ɪt/(ジェフが直せるかもね)
👉 could は can の控えめバージョン。
3. May / Might I suggest a quieter place?
/meɪ/ /maɪt/ aɪ səɡˈdʒɛst ə ˈkwaɪətər pleɪs/(もう少し静かな場所にしましょうか?)
👉 might は may のより控えめな言い方。
- 控えめさを出すことで、相手に選択肢を残し、押し付けを避ける丁寧な印象になります。
C. 仮定法と過去形の距離感
1. I wish I had a girlfriend.
/aɪ wɪʃ aɪ hæd ə ˈgɜːlfrɛnd/(彼女がいたらなぁ)
👉 実際には彼女がいない(=事実に反している)という意味。
- had は "今"のことについて話しているのに、過去形を使うことで「非現実感」を出しています。
- これは過去形が「現実からの距離」を示すことの典型例です。
D. 過去形 vs 現在完了形:距離感の違い
1. It started raining.
/ɪt ˈstɑːrtɪd ˈreɪnɪŋ/(雨が降り始めた)
- 過去形:今とは切り離された印象。「さっき降り出した」
2. Look! It has started raining.
/lʊk/ ɪt həz ˈstɑːrtɪd ˈreɪnɪŋ/(見て、雨が降ってきた!)
- 現在完了形:話し手が"今"と結びつけて話している
👉 同じ意味でも、選ぶ時制によって「心の距離」が異なることがわかります。
おわりに
過去形は単に「昔のこと」を表すだけの文法ではありません。「心の距離感」や「丁寧さ」「非現実性」など、状況に応じて微妙なニュアンスを生み出す表現手段なのです。
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