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音響学-騒音: 騒音計の性能に影響を与える要因

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騒音計の性能に影響を与える要因とは?

1. はじめに

代表的な音響測定器である 騒音計(サウンドレベルメータ) は、備えるべき性能(仕様)が 規格 によって詳細に規定されています。これらの性能は、以下の 基準環境条件 で評価されます。

  • 周囲温度:23°C
  • 静圧:101.325 kPa
  • 相対湿度:50%

しかし、実際の測定環境はこれらの基準条件とは異なる ことがほとんどです。
そのため、騒音計の性能に影響を与える様々な要因を理解することが重要です。

本記事では、騒音計の性能に影響を与える代表的な要因について解説します。


2. 騒音計の電気音響性能に影響を与える要因

騒音計の性能に影響を与える要因には、以下のようなものがあります。

2.1 周囲温度

多くの騒音計は -10°C ~ 50°C の範囲で使用可能とされています。
しかし、この温度範囲内であっても、感度やレベル直線性が変化する 可能性があります。

🔹 感度の変化
騒音計の感度変化の主な要因は、マイクロホンの感度変化 です。
規格では、以下のように感度変化の許容範囲が定められています。

クラス 許容範囲
クラス1 ±0.8 dB以内
クラス2 ±1.3 dB以内

この変化は マイクロホンの振動膜の材料の温度膨張係数 の違いによって生じます。

🔹 周波数特性の変化
マイクロホンの感度レベルが変化すると、周波数特性 も変化します。

  • 低周波数帯域の感度が上がる共振周波数が低下
  • 共振周波数以上の帯域では感度が低下

この影響は特に高精度測定では考慮すべきポイントです。

🔹 レベル直線性の変化
騒音計のレベル直線性は、アナログ処理を行う場合に影響を受けます。

  • アナログ処理 の騒音計 → 周囲温度によって誤差が生じる
  • デジタル処理 の騒音計 → 温度の影響をほぼ受けない

したがって、温度変化が大きい環境ではデジタル処理を採用した騒音計が有利 です。


3. 使用温度範囲外での動作

仕様書には 「使用温度範囲 -10°C~50°C」 と記載されていることが多いですが、
この範囲外では 絶対に動作しない というわけではありません。

実際には以下のような点が考慮されます。

  1. 仕様書の温度範囲 は、その範囲内で動作を保証する という意味
  2. 範囲外でもある程度は動作可能だが、精度の保証はされない
  3. 極端な温度では、マイクロホンの特性変化や電気回路の誤動作が発生する可能性がある

そのため、温度が大きく変化する環境で騒音計を使用する際は、キャリブレーション(校正)を適宜実施することが推奨されます。


4. 騒音計の性能に影響を与える要因

4.1 温度の影響

騒音計の動作温度範囲は一般に -10°C ~ 50°C に設定されています。
しかし、この範囲内であっても 感度や周波数特性が変化する 可能性があります。

🔹 マイクロホンの感度変化
温度変化により、マイクロホンの振動膜の特性が変わるため、
感度レベルや周波数特性が変化 することがあります。

🔹 温度が高すぎる場合

  • 高温では 液晶のコントラスト低下動作遅延 が発生することがある
  • 長時間高温にさらされると、マイクロホンの感度が恒久的に変化する可能性がある(熱エージング)

🔹 温度が低すぎる場合

  • 低温環境では、マイクロホンの動作が一時的に不安定になることがある
  • 極端な低温では電子回路の動作が遅くなることもある

対策

  • 測定前に温度安定時間を確保(急激な温度変化を避ける)
  • 長時間測定では保温ケースを使用
  • 温度変化の影響が少ないデジタル騒音計を使用

4.2 湿度の影響

最近の騒音計は湿度の変化による影響を受けにくくなっていますが、
急激な温度変化に伴う結露 には注意が必要です。

🔹 湿度の影響

  • 結露が発生すると、プリアンプの絶縁抵抗が低下 し、ノイズが増加する
  • 低周波数帯域での感度低下が起こることがある
  • 結露が進むと、電源が短絡し故障の原因になることもある

対策

  • 屋外測定では防湿ケースやヒーター内蔵マイクロホンを使用
  • 測定環境を急激に変化させない(温度・湿度管理)
  • 長時間測定の際は通気性の良いカバーを使用する

4.3 静圧の影響

静圧の変化によって、マイクロホンの感度が変動することがあります。
特に高感度マイクロホンでは 静圧の影響が大きくなる ため注意が必要です。

🔹 静圧変化による影響

  • 振動膜のスティフネスが変化し、感度や周波数特性が変わる
  • 極端な高静圧・低静圧では、共振周波数が変化し測定誤差が発生する

対策

  • 標高が大きく変化する場所では事前にキャリブレーションを実施
  • 静圧変化がある環境では、低感度マイクロホンを使用

4.4 振動の影響

騒音計は非常に高い入力インピーダンスを持つため、
外部からの振動に影響を受ける可能性 があります。

🔹 振動による影響

  • 振動がマイクロホンに伝わると、誤った測定結果 になることがある
  • 振動により、ノイズ信号が発生 する可能性がある

対策

  • 測定時は安定した設置面に固定(手持ち測定は避ける)
  • 防振ゴムや三脚を使用し、振動を最小限に抑える
  • 可能な限り静かな環境で測定する

4.5 電磁界・磁界の影響

騒音計は 外部の電磁波や磁界 の影響を受けることがあります。
特に、携帯電話や無線機の近くでは誤動作 する可能性があります。

🔹 影響の具体例

  • 携帯電話の電磁波による 異常な測定値の変動
  • 高圧送電線や電車の架線の近くでは ノイズが増加

対策

  • 携帯電話や無線機の使用を避ける
  • 電磁シールドが強化された騒音計を使用
  • 測定時には可能な限り電磁波の影響が少ない場所を選ぶ

4.6 降雨・日照の影響

騒音計は屋外で使用されることが多く、雨や直射日光の影響 を受けることがあります。

🔹 降雨による影響

  • 水滴が振動膜に付着すると、測定結果が大きく変わる
  • コネクタ部分に水が侵入すると 故障の原因 となる

対策

  • 全天候型ウインドスクリーンを使用する
  • 防水ケースを活用し、雨水の侵入を防ぐ

🔹 日照による影響

  • 直射日光でマイクロホンや騒音計本体の温度が異常上昇
  • 温度上昇により感度が変動する可能性がある

対策

  • 測定器を日陰に設置し、過度な温度上昇を防ぐ
  • 長時間の屋外測定時は、放熱対策を行う

5. 騒音計の性能に影響を与える要因

5.8 マイクロホン延長ケーブルの影響

現場では、マイクロホンとプリアンプを本体から分離 し、
延長ケーブルを接続して測定することが一般的 です。

🔹 延長ケーブルの影響

  • ケーブルが長くなると、静電容量が増加 し、プリアンプの負荷インピーダンスが低下
  • 信号周波数が高くなるほど、負荷インピーダンスが小さくなる
  • プリアンプの出力電流が小さいため、負荷インピーダンスが低くなると 出力電圧が低下
  • 測定可能な音圧レベルの上限が制限 される

対策

  • 高周波数帯域での測定では 短い延長ケーブルを使用
  • 長いケーブルを使う場合は、中継用増幅器(プリアンプ)を活用
  • 低インピーダンスのケーブルを選定 し、信号損失を最小化

5.9 マイクロホンの向き

騒音計は 全指向性 を理想としますが、
マイクロホンの筐体の影響で高周波数では指向性が発生 することがあります。

🔹 指向特性の影響

  • 正面方向が最もフラットな特性 を持ち、背後方向からの入射音では高周波成分が減衰
  • 音源の方向が特定できる場合は、音源に向けて設置 するのが最適
  • 特定できない場合は、一定の約束事(例:上向き設置) を決めると良い

対策

  • 音源の方向を考慮し、マイクロホンの向きを調整
  • 高周波成分の影響を考慮し、指向特性の補正を行う
  • 無指向性マイクを使用する場合でも、設置位置を最適化

5.10 測定者の存在

騒音計は、測定時に測定者の影響を受けることがあります。

🔹 測定者の影響

  • 測定者が 騒音計の後ろに立つと、周波数特性が変化
  • 身長や体型によって、遮蔽効果が異なる
  • 近くにある物体も測定に影響を与える可能性がある

対策

  • 測定者はできるだけ騒音計から離れる
  • 測定環境内の反射物や障害物を確認
  • 三脚などを利用し、測定位置を一定に保つ

5.11 音の影響

騒音計は、測定関係者の発する音や機器の動作音にも影響 を受けます。

🔹 音の影響

  • 測定中に 会話をすると測定値が変動 する
  • レベルレコーダーのペンの音が測定値に影響 する場合がある
  • キー操作音が静かな環境では影響を及ぼす ことがある

対策

  • 測定中は不要な音を極力発しない
  • 静かな環境では機器の動作音にも注意する
  • 自動測定機能を活用し、測定者の影響を最小化

6. 風の影響

風の影響によって、風雑音が発生し測定精度が低下 することがあります。

🔹 風雑音の影響

  • 風圧や乱れによる風雑音が測定値を変動 させる
  • 低周波成分の風雑音が特に大きい
  • 風の強さによっては、測定値が大幅に変動することもある

対策

  • ウインドスクリーンを装着し、風雑音を低減(A特性で約25dB低減可能)
  • 特殊なウインドスクリーンを利用し、低周波雑音の影響を抑える
  • 風の影響が少ない場所や時間帯を選んで測定

7. 電池の選択

現場測定では、電池駆動の騒音計を使用することが多い ですが、
電池の種類によって寿命が異なります。

🔹 電池の影響

  • リチウム電池は長寿命で温度変化の影響が少ない
  • アルカリ電池は寒冷地では寿命が短くなる
  • ニッケル水素電池は充電式であるが、温度変化の影響を受けやすい

対策

  • 長時間測定ではリチウム電池を推奨
  • 寒冷地では携帯カイロで電池を保温する
  • 充電式電池を使用する際は、十分な充電を確認

8. 音響校正器の使用

騒音計の測定精度を維持するために、定期的な校正 が必要です。

対策

  • 測定の前後に音響校正器を使用し、指示値を確認
  • マイクロホンの感度変化を定期的にチェック
  • 規格に適合した校正機器を使用し、正確な測定をする

9. まとめ

騒音計の温度影響のポイント

  1. -10°C ~ 50°C の範囲で使用可能
  2. 温度が変化すると感度や周波数特性が変動
  3. アナログ処理の騒音計は温度の影響を受けやすい
  4. デジタル処理の騒音計は温度変化に強い
  5. 極端な温度環境では適切なキャリブレーションが必要

騒音計を適切に運用するためのポイント

  1. 急激な温度変化を避ける(保温・保冷対策)
  2. 湿度が高い環境では防湿ケースを使用
  3. 振動がある場所では三脚を活用
  4. 電磁波の影響を受けにくい場所を選ぶ
  5. 降雨時は防水カバーを使用
  6. 直射日光の影響を避ける

騒音計を適切に運用するためのポイント

  1. 急激な温度変化を避ける(保温・保冷対策)
  2. 湿度が高い環境では防湿ケースを使用
  3. 振動がある場所では三脚を活用
  4. 電磁波の影響を受けにくい場所を選ぶ
  5. 降雨時は防水カバーを使用
  6. 直射日光の影響を避ける

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