音響学-騒音: 測定に関するTipsとオクターブバンド分析
測定に関するTips
音響や建築音響関係の測定においては、帯域制限したノイズを用いることが多く、中心周波数を定義して測定を行います。一般的に用いられる中心周波数は JIS に定義されており、表に示されています。例えば、騒音や建築音響の測定では 100 Hz から 5000 Hz までの帯域がよく使われます。
オクターブバンドと 1/3 オクターブバンドフィルタの中心周波数
オクターブバンド | 1/3 オクターブバンド | オクターブバンド | 1/3 オクターブバンド |
---|---|---|---|
1 | 1.25 | 125 | 100 |
2 | 2.5 | 250 | 200 |
4 | 5 | 500 | 400 |
8 | 10 | 1000 | 800 |
16 | 20 | 2000 | 1600 |
31.5 | 40 | 4000 | 3150 |
63 | 80 | 8000 | 6300 |
帯域制限フィルタの特性
中心周波数
オクターブバンドフィルタの場合、
1/3 オクターブバンドフィルタの場合、
FIR フィルタによる帯域制限信号の生成
Python で FIR フィルタを用いた帯域制限ノイズを生成するには、以下のようなコードが利用できます。
import numpy as np
from scipy.signal import firwin, freqz
import matplotlib.pyplot as plt
sampling = 48000 # サンプリング周波数
fm = 1000 # 中心周波数
len_filter = 254 # フィルタの長さ
oct_band = [fm/np.sqrt(2), fm*np.sqrt(2)] # 通過帯域の設定
# FIR フィルタ設計
b = firwin(len_filter, oct_band, pass_zero=False, fs=sampling)
# フィルタ特性の確認
w, h = freqz(b, fs=sampling)
plt.plot(w, 20 * np.log10(abs(h)))
plt.xlabel("Frequency (Hz)")
plt.ylabel("Gain (dB)")
plt.title("FIR Filter Frequency Response")
plt.show()
オクターブバンド分析について
音響の帯域分析では、オクターブバンド (Octave Band)や1/3オクターブバンド(1/3 Octave Band) を用いて、音の周波数特性を解析することが一般的です。これらのバンドフィルタは 対数間隔 で周波数を区切る特徴を持ち、音響測定や騒音解析に広く使用されます。
2. オクターブバンドと 1/3オクターブバンドのエネルギー関係
オクターブバンドと 1/3オクターブバンドの関係として、エネルギーの合成時の変換 が重要です。
- オクターブバンド内のエネルギーを 1/3オクターブバンドに分割すると、各 1/3オクターブバンドのエネルギーは 5dB 減少する
- 逆に、1/3オクターブバンドのエネルギーをオクターブバンドに合成すると、5dB 増加する
この関係を数式で表すと以下のようになります。
3. 複数の帯域のエネルギー合成
ある広帯域の騒音を周波数分析すると、各帯域に対応する バンドレベル
合成レベルは次の式で求められます。
また、エネルギー平均値
このように、オクターブバンドや 1/3オクターブバンドを利用することで、騒音の周波数特性を効率的に解析し、エネルギーの加算を容易にする ことができます。
補足
広帯域の騒音のバンドレベルと全体レベルの関係
この内容では、広帯域の騒音(音のエネルギーが広い周波数範囲に分布している)を周波数ごとに分割し、それらのレベルを合成して元の全体の音圧レベルを求める方法 について説明しています。
バンドレベルと全体レベルの関係
騒音を複数の周波数帯域に分割 して、それぞれのバンドレベル
このとき、音圧レベル(dB)の合成には エネルギーの足し算 が必要になります。なぜなら、dBは対数表記されているため、単純な足し算ではなく、エネルギーに変換してから合計する必要があるためです。
その関係を表すのが次の式です:
この式の意味
- 各バンドレベル
は dB単位 なので、そのまま足し算できません。L_i -
エネルギーに変換するために
を計算する(dBスケールをリニアスケールに戻す)。10^{L_i/10} - すべてのバンドのエネルギーを合計する
。\sum 10^{L_i / 10} - 最後に、再び dB に戻すために
を取る。10 \log_{10}
イメージしやすい例
- 例えば、ある騒音が 100 Hz, 500 Hz, 1000 Hz の3つの周波数帯に分割されていたとします。
- それぞれのバンドレベルが 70 dB, 75 dB, 80 dB だったとすると:
-
エネルギーに変換:
10^{70/10} + 10^{75/10} + 10^{80/10} -
これらの合計をとる。
-
最後に dBに戻す ために
を適用。10 \log_{10} -
これによって、全体のレベル
が求まる。L_{\text{all}}
-
2. エネルギー平均値との違い
また、騒音のバンドレベルのエネルギー平均値
この式の意味
-
は、すべてのバンドのエネルギーを 合成 する計算ですが、L_{\text{all}} は、それを平均化する処理を追加 したものです。L_{\text{ave}} - 各バンドのエネルギーを合計した後、
で割って平均を求める(ここが違い)。N - 最後に、dBに変換するために
を適用。10 \log_{10}
エネルギー平均値と全体レベルの違い
-
は、バンドごとのエネルギーを合成したもの → 全体の音圧レベル。L_{\text{all}} -
は、それを バンド数で平均 したもの → 各バンドの代表的な音圧レベル。L_{\text{ave}}
なぜエネルギーで合成するのか?
dB(デシベル)は対数スケール なので、普通に足し算すると間違いになります。
例:普通に足し算するとおかしくなる
もし
$$
L_{\text{all}} = 70 + 75 = 145 \text{ dB}
$$
としてしまうと、明らかに 間違い です。実際には、音のエネルギーを合成する必要があります。
正しい計算
➡ この方法を使うことで、実際の物理現象に即した 正しい全体レベルが求まる。
まとめ
✅ バンドレベル
✅ 全体レベル(
✅ エネルギー平均値
✅ **dBは対数スケールなので、単純に足し算するのではなく、エネルギーに変換して合成し、dBに戻すのが正しい。
エネルギー加算の計算
ガウス雑音の確率密度関数
音響における「雑音」は通常 ガウス雑音 (正規分布雑音) であり、確率密度関数は次のように与えられます。
ここで、
分散の計算
確率密度関数の性質を利用し、ガウス雑音
したがって、ガウス雑音のパワーは単純に加算される ことが分かります。
平均パワーの計算
雑音のパワー
また、パワーの加算の定義から、独立した雑音の合成パワーは、それぞれのパワーの和となる ことが分かります。
つまり、ガウス雑音
この関係から、エネルギー (パワー) の合成が可能となります。
音響エネルギーの合成計算
複数の帯域の騒音エネルギーを合成する際には、各帯域のエネルギー
これを デシベル (dB) で表現する場合、次の関係が成り立ちます。
ここで、
-
は全帯域の合成レベル (Overall Sound Level)L_{all} -
は各帯域の音圧レベル (Band Level)L_i
また、エネルギー平均値
このように、ガウス雑音のエネルギー加算は、パワー (エネルギー) の単純加算として扱える ことが分かります。
補足
ガウス分布にする必要はあるのか?
結論
✅ 必ずしもガウス分布である必要はないが、多くの物理・工学的な応用において、ガウス分布は自然に現れるため、扱いやすく合理的である。
1. なぜガウス分布がよく使われるのか?
(1) 中心極限定理(Central Limit Theorem, CLT)
中心極限定理とは:
「独立した確率変数が多数集まると、その和や平均はガウス分布(正規分布)に近づく」 という統計学の基本的な定理。
具体例
- どんな形の分布でも、多くの独立した変数を足し合わせると、全体の分布はガウス分布に近づく。
- 例えば、自然界の雑音(ノイズ)は多くの小さな要因の積み重ねによって生じるため、結果的にガウス分布に従うことが多い。
💡 この理由により、ノイズや信号のモデルとしてガウス分布を使うのは、合理的で一般的な選択肢となる。
(2) ガウス分布は数学的に扱いやすい
ガウス分布には、以下のような便利な性質がある:
-
和や積分が解析的に解ける
- 2つの独立したガウス分布を足し合わせても、新しいガウス分布になる(分散の加法性)。
- 畳み込み積分が解析的に計算しやすい。
-
確率分布の情報が平均値と分散だけで完全に決まる
- 他の分布(例えば、指数分布やカイ二乗分布など)と異なり、ガウス分布は「平均値」と「分散」だけで完全に記述できる。
- これにより、パラメータ推定や統計解析がシンプルになる。
-
対称性がある
- 平均値を中心に左右対称であるため、数学的な操作が簡単。
💡 特に、ノイズや信号処理においては、数学的に取り扱いやすいため、ガウス分布が頻繁に採用される。
(3) 実際のノイズはガウス分布に近い
✅ 多くの物理現象における雑音(ノイズ)は、ほぼガウス分布に従う。
- 例えば、電子回路の熱雑音(Johnson-Nyquistノイズ)、電波のフェージングノイズ、測定誤差などは、ガウス雑音に近い性質を持つ。
- これは、これらのノイズが 多数の独立した小さな要因の合成で生じているため、中心極限定理が働いているため。
💡 そのため、ガウス分布を仮定しても、実際のデータと大きく乖離することが少ない。
2. では、ガウス分布以外ではダメなのか?
(1) 非ガウス性のノイズも存在する
確かに、全てのノイズや信号がガウス分布に従うわけではない。例えば:
- インパルス性のノイズ(突発的な大きなノイズ) → レヴィ分布やラプラス分布 を使うことがある。
- 音響信号や画像信号 → ガンマ分布や対数正規分布 が適用されることもある。
➡ こうした場合は、ガウス分布ではなく、適切な分布を選ぶべき。
(2) 非ガウス分布を使うと計算が難しくなる
- ガウス分布以外の分布を用いると、畳み込み積分が難しくなり、解析的な解を得にくくなる。
- 例えば、レヴィ分布や指数分布の足し算 では、新しい確率分布が単純な形にならないため、数値計算が必要になる。
💡 したがって、物理的な現象を説明できる限り、できるだけガウス分布を使う方が解析的に便利。
3. まとめ
✅ ガウス分布にする必要はないが、多くの物理現象でガウス分布が自然に現れるため、実用的な選択肢になる。
✅ 中心極限定理により、多くの小さな要因の和はガウス分布に近づくため、ノイズや信号にガウス分布を適用するのは妥当。
✅ ガウス分布は数学的に扱いやすく、統計解析や信号処理で計算が簡単になる。
✅ ただし、インパルスノイズや偏りのあるノイズには、別の分布を使うべき場合もある。
4. 重要ポイント
💡 結論:ガウス分布は必須ではないが、多くの状況で合理的で便利な選択肢である!
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