意味を設計する──静かに価値を残す技術者の思考
はじめに
「天狗になるな」「沈黙は金なり」──
そう教えられて育った私は、自分の価値を語ることに躊躇があった。
でも、ふとした会話でこう言われた。
「どうやってこんなテーブルを産んだのか、わからなかった」
「触らずに済むというのは、実はすごいことだと思いますよ」
この記事では、私が過去のプロジェクトで築いてきた
「意味を設計する」エンジニアリングの本質を言語化し、
その価値を誰かの参考に残すための記録を残しておきます。
複雑さの翻訳者としての自分(構造性)
SES時代。
私は複雑なロジックや曖昧な仕様を受け取り、
「簡単に見せる」ことに徹していました。
気づけば、難しい案件が自然と自分に回ってくるようになっていた。
これは今思えば、
“他人が扱える構造に変換する”という能力を、日常的に発揮していたのだと感じています。
🧩 キーワード:構造還元、意味翻訳、安心のインタフェース
意味を繋ぐ設計の力(影響性)
H案件では、最初はUIレビューの立場でした。
しかし現場の社員から直接「DB設計をお願いしたい」と言われました。
私は、煩雑だったテーブル群を業務フローに合わせて再編成し、
ユースケースごとに意味の通る構造へと整理しました。
設計とは、構文ではなく「文脈を持つもの」である。
それを実感したのがこの時でした。
🧩 キーワード:意味構造、業務⇄データ接続、設計観の深化
静かなる価値の遺し方(実績性)
D案件のレイアウト配置機能は、設計からテストまで私が手掛けました。
現在では「魔境」とまで言われているらしいですが、今も稼働し続けていると聞いています。
何より嬉しかったのは、「誰も触らずに済んでいる」ことでした。
また、単体テストの設計でも
中身は複雑、外からは簡単に見えるように工夫しました。
🧩 キーワード:沈黙する安心、壊れなさ、設計の静的持続性
なぜそんな構造が作れるのか?(希少性)
H社のプロパーにこう言われました。
「どうやってあんなテーブルを発想したんですか?」
自分では自然にやっていたことでしたが、
それは「意味→構造」という逆向きの設計思考に基づいていたと気づきました。
これは感覚から来ていた暗黙知だったのだと思います。
🧩 キーワード:意味ベース設計、非直感的発想、暗黙知と設計
再現は可能だが、教えるのが難しい(再現性)
私はこう考えています。
「再現はできる。軸さえあれば、結構簡単だ」
H社では「業務フロー」がその軸でした。
私が必要としているのは、設計の起点となる意味の座標です。
それさえあれば、どんなプロジェクトでも再構成できる。
一方で、それを他人に教えることは少し難しい。
感覚が先に立っているからです。
だからこそ今、こうして言語化しているのです。
🧩 キーワード:思考の形式知化、暗黙知の構造化、教育可能性
おわりに
私の設計は、誰かに「すごい」と言わせるものではなかったかもしれません。
でも、誰かが壊さずに使い続けられるように、
沈黙する価値を残したかった。
そして今、ようやくそれを「価値」と呼んでもいい気がしています。
次回予告(予定)
- 意味を設計するDB構造──スキーマ設計の背後にある“言語と構造の思想”
- 「壊れないコード」はなぜ生まれるのか──構造と信頼のデザイン論
- 現場で“意図が伝わる設計”をするために──意味工学の実践フレームワーク
この記事が、同じように「価値を声に出すことに迷いを感じている人」に届けば幸いです。
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