半導体量子でのS-T量子ビットの基底とハミルトニアンの数学的導出
前回の記事ではハミルトニアンはそのまま書いてしまいました。少し|0>と|1>の定義とゲート操作について確認したいと思います。
今回は、代表的な
1. 舞台設定:磁気とスピンの「制約」
まず、私たちが扱う操作空間のルールを明確にします。
-
磁化量子数 (
) は 0 で固定m_s
一様な磁場ノイズの影響を避けるため、上向きと下向きのスピンがペアになった「全スピンの投影がゼロ」の空間だけを考えます。 -
全スピン量子数 (
) の違いを利用するS
「0」と「1」の正体は、スピン同士の相関関係の違いです。
基底を表現すると次のようになります。
シングレット状態は
であり、トリプレット状態は
と定義されます。
この 2 つの状態を基底ベクトルとして、操作の設計図となるハミルトニアン行列を構築していきます。
2. 物理的な仕組み:2つのエネルギー源
ハミルトニアンの成分を決めるのは、主に以下の 2 つのポテンシャルエネルギーです。
① 内部ポテンシャル(固有エネルギー \lambda_S, \lambda_{T_0} )
パウリの排他原理により、スピンの状態によって電子の「重なり具合」が変わります。重なりが強いほど、電子同士の電気的反発(クーロンポテンシャル)が大きくなります。この状態そのものが持つエネルギーを、固有値
② 外部ポテンシャル(エネルギー差 E_1, E_2 )
実験では、隣り合う 2 つのドットに**あえて異なる強さの磁場(磁場勾配)**をかけます。
- ドット1のポテンシャル:
E_1 = g\mu_B B_1 - ドット2のポテンシャル:
E_2 = g\mu_B B_2
この「左右の環境のアンバランスさ」が、状態を混ぜる(遷移させる)力になります。
3. 数学的な導出:成分を一つずつ取り出す
それでは、全体の演算子を
対角成分 (H_{SS}, H_{T_0T_0} ):固有状態のエネルギー
ハミルトニアン行列の対角成分は、選んだ基底状態そのものが持つエネルギーの期待値を表します。
私たちが基底に選んだ
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シングレットの固有エネルギー:
\langle S | \hat{H}_{int} | S \rangle = \lambda_S -
トリプレットの固有エネルギー:
\langle T_0 | \hat{H}_{int} | T_0 \rangle = \lambda_{T_0}
数学的には、これらは対角行列
非対角成分 (H_{ST_0} ):状態を混ぜる力
次に、外部からのポテンシャル演算子
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個別スピンへの作用:
スピン演算子の基本ルール( )に従うと、\hat{s}_z |\uparrow\rangle = \frac{1}{2}|\uparrow\rangle, \hat{s}_z |\downarrow\rangle = -\frac{1}{2}|\downarrow\rangle
-
全体への作用と内積:|T_0\rangle
これらを の定義式に代入して整理すると、|T_0\rangle
最後に
**「固有状態としてのエネルギー(対角項)」に、「磁場の差による干渉(非対角項)」**が加わることで、量子ビットの操作が可能になることが数学的に確認できました。
4. 完成したハミルトニアン行列
対角成分に系の固有エネルギーを、非対角成分に外部からの操作項を並べれば、量子ビットの「操縦マニュアル」の完成です。
この行列は、パウリ行列を用いることでより直感的に書き換えられます。
計算をシンプルにするために、
この行列が教えてくれること
パウリ行列の係数(重み)を見ることで、ブロッホ球上の「回転軸」が明確になります。
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Z軸回転(位相シフト):
の係数である\sigma_z (交換相互作用)を制御することで行います。これは量子ビットの「0」と「1」の間の位相関係を操作することに対応します。J -
X軸回転(ビット反転):
の係数である磁場勾配\sigma_x を発生させることで行います。これにより、シングレットh とトリプレット|S\rangle の状態を入れ替える(反転させる)ことが可能になります。|T_0\rangle
5. おわりに:なぜ「差」を作るのか
一見すると、一様な磁場をかけた方が系は安定しそうに思えます。しかし、数学的な導出が示す通り、「左右の不均一性」こそが、量子ビットの状態を遷移させる(ひっくり返す)エンジンの役割を果たしています。
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