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ディープテック資金調達から8年。成果が出ている今だからこそ、私が「立ち止まる」と決めた理由

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資金調達から8年。成果が出ている今だからこそ、私が「立ち止まる」と決めた理由

私たちの会社は、デザインやIT事業からスタートして18年、量子コンピュータの世界に飛び込んで12年になります。この長い年月、私たちは一歩ずつ、着実に歩みを進めてきました。

特に大きな転機となったのは、今から8年前の資金調達です。
「量子コンピュータで社会を変える」という夢に大きな期待を寄せていただき、私たちはアクセルを全力で踏み込みました。それからの8年間、死に物狂いで走り続け、実際に私たちは「結果」を出してきました。計算の世界で、私たちが成功を収めた事例はいくつもあります。

でも、一昨年あたりから、私はこれまでにない「違和感」と向き合うようになりました。
「成果は出ている。でも、このままのやり方で、本当に次の8年を戦い抜けるだろうか?」

今日は、私が感じている3つの大きな変化と、今まさに取り組んでいる「戦略の作り直し」について、正直な気持ちを言葉にしてみたいと思います。


第1の壁:ChatGPTの登場で「計算の価値」が変わった

資金調達をした8年前、私たちが描いていた未来は「量子コンピュータが計算の王様になる」というシンプルなものでした。しかし、一昨年に登場したChatGPTをはじめとする生成AIは、その常識を根底から覆してしまいました。

かつて「量子コンピュータを使わないと解決できない」と思われていた難しいパズルが、実はAI(生成AI)とこれまでのコンピュータを組み合わせることで、驚くほどあっさり、しかも一瞬で解けてしまうケースが出てきたのです。

もちろん、量子コンピュータにしかできない「究極の計算」は存在します。でも、ビジネスの世界で求められるのは「100点満点の答えを出すのに1年かかるスーパーマシン」よりも、「今すぐ80点の答えを出してくれるAI」だったりします。

IT事業からキャリアを始めた私にとって、道具は「使われてナンボ」です。AIという圧倒的なスピードを持つライバルが現れた今、私たちは「量子にしかできないことは何か?」「AIとどう組み合わせて、一番早くお客さんに価値を届けるか?」ということを、もう一度ゼロから定義し直さなければならなくなりました。


第2の壁:クライアントが「自分でできてしまう」時代の到来

これまでの8年間、私たちのビジネスは「PoC(概念実証)」、つまり「量子コンピュータでこんなことができますよ」という実験的な開発の受託が中心でした。お客様も「まずは量子で何ができるか試したい」というスタンスだったので、私たちの専門知識は非常に重宝されてきました。

しかし、ChatGPTの登場がこの流れを断ち切りました。

これまでは私たちのような専門家が時間をかけてコードを書き、複雑な設定をしなければ動かせなかったシミュレーションが、生成AIの力を借りることで、クライアント自身の手で、ある程度まで実行できる時代になってしまったのです。

「専門家に高いお金を払ってPoCを依頼するより、まずは自社のAI担当者にやらせてみよう」

そんな風に、お客様の行動が劇的に変わりました。その結果、これまで安定していた受託案件の受注が激減。デザインやITの世界でも「誰でも作れるようになると仕事の価値が変わる」という経験をしてきましたが、まさか最先端の量子コンピュータの世界で、これほど早くその波が来るとは予想していませんでした。

「受託して、計算して、レポートを出す」というこれまでの勝ち筋が通用しなくなった。これが、一昨年から私たちが突きつけられている、もっとも厳しい現実の一つです。


第3の壁:材料開発の「成功」と「回収」のギャップ

そんな逆風の中でも、私たちは計算によって「新しい材料のヒントを見つける」といった確かな成果を出し続けてきました。しかし、ここでもう一つの大きな悩みが頭をもたげます。

計算自体は成功し、素晴らしい新材料の候補が見つかったとしても、それを実際に工場で作り、実験を繰り返し、世の中の商品として利益を生むまでには、さらに何年もの歳月が必要です。

計算結果を出すまでは早くても、その後の「現実世界での製品化」に時間がかかりすぎる。

資金調達をして8年。投資していただいた期待に応えるためには、もっと早いサイクルで収益を上げる必要があります。「計算は成功しました。でも、利益が出るのは5年後です」というスピード感では、今の時代、事業を支え続けるのは難しい。この「成果」と「お金の回収」のタイムラグをどう埋めるかが、再構築の大きなテーマになっています。

ライセンス契約という形態に移行しつつありますが、契約面でのハードルや回収の長さはかなりの課題です。


第4の壁:ハードの進化が早すぎて、ソフトが「賞味期限切れ」になる

そして最後に、技術の現場を悩ませているのが、量子コンピュータ本体(ハードウェア)の劇的な進化スピードです。

ここ数年、世界中で新しい量子コンピュータが次々と発表されています。これは業界全体にとっては素晴らしいことですが、開発者にとっては「せっかく苦労して作ったソフトが、すぐに使えなくなる」という悪夢のような側面も持っています。

ある特定のハードウェアに最適化して、限界まで性能を引き出すソフトを作っても、数ヶ月後にはもっと高性能な新しいハードが登場し、以前のソフトは過去の遺物になってしまう。

18年間のIT事業の経験から言えば、これは「OSが数ヶ月おきにガラリと変わる」ような異常なスピード感です。これまでのように特定のハードに依存した作り方では、いくら資金があっても足りません。どんな進化にも耐えられる、もっと根本的なソフトウェアのあり方を考え直す必要に迫られています。


第5の壁:「最適化」という仕事の割の悪さ

量子コンピュータの使い道としてよく期待されるのが「最適化」です。配送ルートを最短にしたり、工場のシフトを効率よく組んだりといったものですが、ここにも大きな落とし穴がありました。

まず、「最適化」というのは、どこまでいっても今のやり方を「効率よくする」だけのものです。劇的な新発明を生むわけではなく、あくまで高速化や効率化にとどまります。
しかも困ったことに、最近は普通のコンピュータで動くツールが非常に優秀になっています。量子コンピュータをわざわざ使わなくても、既存のツールで「そこそこ良い答え」が十分に出てしまうのです。

さらに、この仕事は「準備」がとてつもなく大変です。
現場の複雑なルールや細かい条件を一つひとつ丁寧に聞き取り、それを計算式に落とし込んで実装しなければなりません。この泥臭い作業には膨大な時間と人手がかかります。

それだけ苦労して手間をかけても、得られる利益(利益率)は決して高くありません。「すごく苦労して、既存のツールより数%良くなった」という結果では、ビジネスとして大きなリターンを得るのは難しい。

「手間はかかる、ライバル(既存ツール)は強い、でも儲けは少ない」
資金調達から8年、全力でこの分野にも取り組んできましたが、この「最適化ビジネス」の構造そのものも、私たちが今、厳しく見直している大きな要因の一つです。


第6の壁:古い業界構造と、主要顧客の地殻変動

量子コンピュータの活用先として、量子化学などのシミュレーションは王道です。これらは「HPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)」という、スーパーコンピュータなどを使う非常に専門的な業界の延長線上にあります。

しかし、このHPC業界そのものが、実は非常に古く、収益を上げにくい構造になっています。研究開発に近い領域のため、予算が限られていたり、意思決定が非常に遅かったりするのです。

最近では、量子コンピュータに大きな期待を寄せる業界として「自動車業界」が目立つようになりました。一見、材料開発や自動運転の計算などで大きな利益が期待できそうに見えますが、ここにも大きな懸念があります。

それは、私たちが頼りにしている自動車産業そのものが、EVシフトや国際競争の中で、かつての勢いを失いつつあるという現実です。産業自体が厳しい状況にあれば、当然、未来への投資である量子計算に回ってくる資金も、よりシビアに選別されるようになります。

「儲かりにくい古い業界構造」と「頼みの綱である巨大産業の衰退」。
この二つの狭間で、私たちは「誰に対して、どんな価値を提供すれば、持続的なビジネスになるのか」という市場の選び方そのものを、根本から考え直さざるを得なくなりました。


まとめ:18年、12年、そして8年。今、私たちが挑むこと

振り返れば、デザインからITへ、ITから量子へ。私たちは常に変化の中にいました。
資金調達からの8年間で積み上げた成功は、決して消えるものではありません。しかし、今私たちが直面しているのは、個別の技術問題ではなく、**「ビジネスを取り巻く世界そのものの変化」**です。

  1. ChatGPTの衝撃(計算の価値が変わった)
  2. 受託モデルの崩壊(クライアントが自分でできるようになった)
  3. 回収スピードの遅さ(成功から利益までが遠い)
  4. 技術の陳腐化(ハードの進化にソフトが追いつけない)
  5. 最適化の割の悪さ(手間がかかる割に利益が少ない)
  6. 市場の停滞(HPC業界の古さと主要産業の陰り)

これら6つの壁を直視したとき、これまでのやり方を延長するだけでは、次の8年は生き残れないと確信しました。

一昨年から取り組んでいる「考え直し」は、私たちがもう一度、今の時代のスピード感でお客さんに喜んでもらうための、必死で、かつ前向きな「脱皮」です。

生みの苦しみはありますが、この18年の歴史で培ったしぶとさを武器に、この壁を乗り越えた先に、本当の意味で社会に必要とされる「新しい形」を必ず作り上げてみせます。

Discussion

plusone|開発技法ノートplusone|開発技法ノート

コンピュータの世界を振り返ると、
ホストの中央集権からPCの分散へ、そこからクラサバで再集中し、
スマートデバイスでまた分散し、クラウドで集中し、
最近はオンプレやエッジで再び分散へ──
そんなふうに大きく揺れながら、でも確かに前へ進む“スパイラルの進化”を続けてきた。

開発言語も同じで、コンパイル系とスクリプト系を行き来しながら、
「制御性」と「生産性」のちょうどいい落としどころを探してきた。
単純化と複雑化の往復も、IT が持つ宿命みたいなもの。
手段は一つじゃなくて、その時代に何が求められるかで姿を変える。
技術って、そうやって“揺れながら進む”のが自然なんだと思う。

そんなスパイラルの中で、量子コンピュータは
“全天球探索”という独自のスタイルで存在感を示してきた。
古典計算が2Dの平面を歩き回るなら、
量子は3Dの球体全体を一度に見渡すような、ちょっと夢のあるアプローチ。
「これが次の計算パラダイムだ」と期待されてきたのもよくわかる。

でもここ数年、AI が急激に存在感を増してきて、
量子の立ち位置も少し揺れ始めている。
AI は広大な探索空間の中から“ここが怪しい”と当たりをつけるのが本当に上手で、
そのスピードと柔軟さは圧倒的だ。
量子が得意としてきた領域の一部が、AI に揺さぶられる場面も増えてきた。

とはいえ、これは量子にとって後退じゃなくて、
むしろ 新しい役割が見えてきたタイミングなんじゃないかと思う。
AI が球体の中で“可能性の高い領域”を絞り込み、
量子がその領域を局所的に深く掘り下げる。
そんな自然な役割分担が生まれてくる未来も想像できる。

AI の直感的な答えを、量子が厳密に検証する──
そんな協力関係もありそうだし、
量子アルゴリズムが必要なときに呼び出される
“小さなサービス”としてマイクロサービス化していく姿も面白い。

実は AI だって、ずっと順風満帆だったわけじゃない。
何十年も前に「AI が世界を変える」ともてはやされた時期があって、
その頃は“AI 推論”なんて言葉がキラキラしていた。
でも期待が先走りすぎて、すぐに冬の時代が来てしまった。
そこから何度も浮いたり沈んだりしながら、
ようやく今のように“ちゃんと使える”レベルにたどり着いた感じがある。

今は大ブームで、どこを見ても AI、AI、AI。
でも、AI の“いい意味でのいい加減さ”──
つまり、ざっくり当ててくれるけど厳密じゃないところ──
そのあたりにそろそろみんな飽きてきて、
一度熱が落ち着くタイミングが来るかもしれない。

ただ、それもまた技術の自然なリズムなんだと思う。
AI も量子も、そしてコンピュータ全体も、
いつだってスパイラルしながら進化してきた。
浮き沈みはあっても、そのたびに一段上のレイヤーに上がっていく。

だからこそ、AI が少し落ち着いたその先で、
量子コンピュータがどう存在感を発揮していくのか、
そのスパイラルの次の一周が楽しみです。

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