“裏方”じゃない。情シスに求められる本質的スキルとは?
この記事は、corp-engr 情シスSlack(コーポレートエンジニア x 情シス)#2 1 日目の記事です。
はじめに
私は、普段は某企業のコーポレートエンジニアとして、Microsoft 関連製品に関する業務を行っています。とりわけ、Microsoft Azure や Microsoft 365 に関する内容に従事することが多いです。
企業内の情シス (情報システム部門 / ICT) は、ハードウェアやネットワークなどの物理領域から、SaaS や ASP、スクラッチのアプリケーションなどのソフトウェア領域に至るまで、さまざまな範囲をカバーすることになると思います。
自分は、SIer 出身で、今の会社のコーポレートエンジニアとして転職し、情シス社員となりました。どちらかというとソフトウェア側の領域に近い場所で仕事をしてきていますが、情シスとして約 6 年ほど勤務してきた中で、企業の情シス社員として必要な能力 (スキル) についての持論を持ち始めています。
今回は、(もしかしたら賛否両論はあるかもしれませんが) 私が考える、情シスとして必要な能力について考えてみたいと思います。
私が考える情シスに必要な能力とは
結論から言うと、私が考える情シスに必要な能力 は以下だと思っています。
- 自身が関わる領域に興味を持ち、業界動向や最新情報をキャッチアップできる情報収集力
- 現場・ユーザー目線の当事者意識を持ち、顕在化していないニーズや不便さ見出す分析力
- ビジョンや構想を描き、他者と協力して物事を推進できる行動力
- 普段から信頼貯金を蓄え、適切な箇所で費消できる人間関係構築力
- 物事の核心を捉え、責任ある判断を行える意思決定力
ただし、これは情シス社員一人ひとりが全能力を持っている必要はないと感じます。(無論、一人ひとりがすべて持っている方が集まった方が素晴らしい組織になると思いますが現実問題そんなすごい人は世の中引く手数多です)
組織内のメンバー各々が自身の持つ強み/弱みを理解し、自身の欠けている部分を他者と協働して補完しあえる文化が形成されていれば、情シス組織としては良い組織風土が形成されていると思っています。
あと、これ以外の内容でも必要だと思うものがあるかもしれません。現時点で私が感じている一覧に過ぎないです。
また、この能力はメンバーだけが持っていれば良いと思っているわけではありません。経営層レベルで情シスに関わる人ほど、むしろ重要だと考えています。
先般のアサヒ HD のランサムウェアに関するシステムダウンについての会見でも、「経営者はこれからもっと大変になる。ITやテクノロジに興味を持っているどころでは済まない。全てに気を配って対策に踏み込めるところまで入っていくべきである。」という旨の発言が出ている通り、経営層レベルで情シスに関わる人ほど、CTO (Chief Technology Officer) や CIO (Chief Information Officer) 的な観点を持ち、積極的に社内 ICT に関わるべきと感じます。そのためには、人任せにせず、自らも一定の IT リテラシーを身につける必要があり、上記のスキルが重要になると感じています。
以降では、それぞれの内容について、なぜそう思うに至ったのかの詳細を解説していこうと思います。
業界動向や最新情報をキャッチアップできる情報収集力
今の会社は情シス (社内 ICT) でもさまざまな部署があり、それゆえに自身が所属する部署だけでなく、他の部署/組織の人と業務に従事する機会も多くありました。
ゆえに、同じ会社組織の中でも、情シス業務に従事するに対してさまざまな考えを持つ人たちがいることを知りました。
- ベンダーコントロールやピープルマネジメントこそが大事であり、高度な IT スキルは情シスにとって必要ない
- 肝心なのはシステムを安定稼働させることであり、今あるものを維持すれば良く、開発系のスキルは情シスにとって必要性が薄い
- 私たち情シスはシステム運用が与えられた使命なので、新機能取り込みや仕様変更について前のめりに取り組むべきではない
まず初めに申し上げておくと、私はどの考えも否定するつもりは一切ありません。それぞれの方が、情シスとして従事してきた経験や組織環境その他、多くの要因が相まりこの考えに至っていると思うので、私個人の考えだけを以ってそれが正しい/誤っているという判断をすること自体が烏滸がましいと感じるためです。
ですので、これは私が情シスとして業務に従事してきた経験をもとに得た持論ではあるのですが、情シスは、自身の担当領域において社内の第一人者であるという意識と責任感を持つべき だと考えています。
そして、これを満たすためには、業界動向や最新情報をキャッチアップできる情報収集力が必然的に重要となるわけです。
例えば、私は社内で Microsoft Azure や Microsoft 365 の管理/運用に従事しています。そのため、Microsoft Azure や Microsoft 365 を安定して社内利用できるようにすることは重要ですが、社内の他部署から見れば、私たちは Microsoft Azure や Microsoft 365 に関する 技術の専門家 であることが求められているのです。 そのため、私たちもその期待に応える姿勢が必要だと感じています。
組織が大きくなるほど、情シス担当がすべての業務フローを把握するのは現実的ではありません。そのため、情シスとして業務の専門家を目指すことは軸が違うように思っています。
逆に、業務の専門家である情シス外のユーザーが情シスに何を求めるかと言うと、それは 技術の専門家 であるという点です。業務の改善を行うにあたって、ユーザーは業務のプロではあるものの、技術のプロではないことがしばしばです。その際に話しかける相手が情シスであり、社内のシステムで改善/代替できるかの相談が始まります。
相談をされるということは、その分野の専門家であると認識している背景があります。つまり、相手のニーズとして、こちらは技術の専門家として見られている以上、自身の担当領域においてはその期待に応えられるだけの知識と責任感を持つべきだと考えています。
そして、技術の専門家であるためには、インプットが重要です。最新情報や業界動向、細かい機能や動作についてなどを常日頃から把握しておくことが大事と考えます。すべてを完全に把握する必要はないし現実的に難しいですが、「持ち帰ります」というワードを返して裏で調査や製品ベンダーへの確認をし、いちいち回答まで時間がかかることを連発しているだけでは、相手の信頼を得られず、期待に答えることも難しくなります。(誤ったことを回答するのは良くないですが、だからといってスピードを犠牲にする/軽視することは論外で、この点が意外と軽視されがちに思います)
もちろん、すべての情シスが技術に特化している必要はありません。むしろ、業務理解や調整力に長けたメンバーと、技術に強いメンバーが補完し合うことで、より強いチームが生まれると感じています。
ですが、日頃から自身の携わる領域に関心を抱き、多くのインプットを得ようと努力し続けることは大切だと感じます。インプットなしに良質なアウトプットは有り得ません。そのために、常にさまざまな情報を難なくキャッチアップできる情報収集力は、情シスとして大切なスキルであると私は考えています。
顕在化していないニーズや不便さ見出す分析力
企業における情シスは間接部門である、これは事実です。そのため、直接顧客に自社サービスを売り込んだり、営業を行う部門ではないです。それゆえに、自身が管轄している社内サービス/基盤に関して、外的要因によるタスクをこなすこと自体が目的になりがちになりやすい点は仕方がない部分もあると思っています。
ただし、それを良しとして単に現状維持をすることに注力したり、表面上のコスト部分だけを見て帳尻合わせだけをしていればいいという考えに対する思いと言うと、それは絶対に良くないと思っています。
間接部門がゆえに、どうしても (会社的にも)
- 無駄なお金はコストカット / 新しくコストがかかるなら本当に必要になるまでやらない
- お金をかけずに情シス業務の生産性を向上させること
上記を求められやすいと思っています。
これは確かに、他の社内の他組織からすると自分たちの売り上げを食い潰す存在に見えるため、そういう視点になるのも仕方ないと思います。
ただ、情シス内部で実際に働く人視点から見た際に、私が率直に感じるのは「そんな自己犠牲の観点で自分を擦り減らすだけの仕事に頑張ろうと思えるか?」という点です。
もしかすると、自身のキャリアに全く興味がなかったり、「自分だけが業務を抱え込む“属人化”のような状態を良しとする考え方であれば働く意欲も湧くかもしれませんが、組織としてはどうなのか、という疑問を抱かざるを得ません。
そして、確かに情シスは間接部門かもしれませんが、企業活動を安心安全に行うためには必要な投資が必要です。短期的なコスト削減に偏りすぎて、時代に見合った適切な投資を怠ると、ランサムウェア感染などの報道におけるような、企業にとって想定以上の (場合によっては社会的な制裁も含まれた) 無駄なコストを支払わなければならない可能性があるという、目に見えないリスクを負う羽目になります。そして結果、大事に発展した際に当事者が初めて自覚することに繋がるわけです。
ではどうしたらいいのかという点に立ち返った際、私は、普段から顕在化していないユーザーのニーズや不便さを見出す分析力がまず重要と感じました。
普段から当事者意識を持って自身が管理運用するサービスに向き合い、社内のユーザー (利用者) の視点に立って「どういった改善を行えばシステムをより利用できるか」「安心して社内システムを利用できるか」「どういうところが不便で不満に感じるのか」について分析し、次に取り組むべき業務の優先度を考えることこそ、情シスとして業務に携わる人の矜持だと感じています。
これは単にユーザー満足度アンケートを実施すれば済む話ではありません。確かに満足度調査も必要だとは思いますが、正直これは補足的な指標で有り、主軸に添えてはならないと思っています。正直、人は自分の知っている範囲でしか物事を判断できないため、セキュリティやガバナンスといった、情シスの外からは見えにくい制約については、ユーザーとの認識にギャップが生じやすいものです。そんな前提でユーザーの意見ばかりを取り入れていると、情シス側の疲弊を促進するだけにつながりかねません。
重要なのは、情シス側が自主性をもって、適切な改善施策に取り組んでいける組織風土にあると思っています。その過程で、改善だけではなく、先述のようなリスクなどにも目が届くようになり、不必要なリスクを取り除く施策にも繋げられるようになると考えています。
そのためにも、情シス側が圧倒的当事者意識のもと、常に自身が管理運用するサービスに対して満足せず俯瞰する能力が必要であると私は感じました。
他者と協力して物事を推進できる行動力
情シスは、結局は一人では何もできません。一人情シスであってもこれは同じと考えます。
社内 ICT はさまざまな物事に関して、さまざまなステークホルダーと調整事が発生します。そのため、他者と協働するためのスキルというのは情シスでも重宝するかと思います。
そして、他者と協働するためには、ビジョンや構想というものを共有することも重要だと感じます。共有した同じ目的に対して、実現するために協力し合うという関係性は、物事を推進する上で非常に重要なことです。そのため、ビジョンや構想の共有なしに、他者に協力を求めるだけだと、相手の当事者意識を阻害し、協力することに後ろ向きな雰囲気を形成してしまうと感じています。
この点については多くの方が共感されると思うので (違ったら申し訳ないですが)、これ以上の詳細な説明は割愛したいと思います。
適切な箇所で費消できる人間関係構築力
これはどちらかというとメンバー格の話になりますが、普段から周囲との信頼関係を築き、信頼の蓄積 をしておくことで、いざというときに協力を得やすくなります。
たとえ本当のこと、正しいことを言っているとしても、組織の中で仕事をするためには他者からの信頼がとても重要です。「〇〇さんが言うのだから協力しよう」「●●さんが言ったから信用できる」といったような関係性は一朝一夕には作り出せず、普段からの立ち振る舞いが非常に重要になります。
この点に難があると思う人は、仮に自分だけでなく、同僚や仲間、上司でそういう関係性を構築している人を重宝するのでも良いでしょう。やはり組織として情シスとして仕事をするにあたっては、人間関係は重要だと感じます。
責任ある判断を行える意思決定力
意思決定は非常に重要で、さまざまな情報が錯綜するこの時代、意思決定は非常に難しいです。正直、完璧な意思決定はほぼ不可能だと感じています。その時の情勢や潮流、目まぐるしく変化する IT 技術の進化によって、過去では正しかった判断も、1 年経てば誤った判断になることだってあります。
そのため、意思決定に関して「正しさ」を求めるのは誤っていると私は最近感じています。逆に言えば、「自分がおこなってきた意思決定に責任を持つこと」こそが非常に重要と考えます。
正しさよりも、責任を持つこと
そもそもの意思決定が誤っていた場合、あるいは、時間が経過するにあたって誤りと判断された過去の意思決定に関して、当事者として責任を負うこと、責任をちゃんと取ることの方が重要と感じます。
経営層や決裁権限を持つ人格の場合は、自分たちが行う意思決定にすべての責任を持つべきで、過去の判断が誤っていたとなるならば、素直にそれを認め、適切に修正するか然るべき責任を果たす姿を見せるべきです。
メンバーの場合は、自組織が行う意思決定に関して、不満があるのであれば自分で腹落ちするまで徹底的に向き合うべきだし、最終的な部分は他責にせず自分も責任の一端を負う覚悟/当事者意識を持つべきです。仮に将来的に当時の意思決定が誤っていたと言う場合は、他責で終わらせるのではなく、仮にその意思決定を変えられた可能性があったとすれば何が自分に足りなかったのかを見つめ直す方が重要です。
生成 AI は万能ではない
正直、意思決定を行う人は、それなりのインプットがないとダメだとも思います。生成 AI が登場した昨今、壁打ちは生成 AI とやればそれなりのものができるという誤解を生んでいる現状があると思っています。
現時点の生成AIは、あくまで使用者の鏡であり、その力量を超えるアウトプットを生み出すことは難しいと感じています。なぜならば、現代における生成 AI は、ドラえもんなどではなく、結局のところ使用者の判断できる領域内に限ったコンテキストのみで判断を行うことになるからです。自分が知らない領域に関しては生成 AI にインプットとしてコンテキストを渡すことはできないし、指示されていない内容に対して生成 AI は判断を行うことを絶対にしません。それに、現代の生成 AI は決して判断を行うことはなく、あくまで意思決定のための持論の補強をしてくれるに過ぎないと感じてます。
※将来的にこの問題は解決するだろうという持論を展開する方もいらっしゃいますが、正直それは違うと私は感じます。そうなった場合、世はまさにターミネーターで言うところのスカイネットが生まれたに等しいと私は考えており、意思決定そのものを人間がする必要がないという時代になっていると思うからです。
判断するのは、あくまで人間
つまり、表面上の事柄だったり表面上の額面の内容だけでしか判断できないような場合だと、中長期の目線や現場の実態なども踏まえた意思決定を行うことは非常に困難だし、その逆も然りです。だから、正しい意思決定をするのではなく、自分がおこなった意思決定に責任を持つということが組織として重要と感じます。これが怖くて意思決定が自分には難しいというのであれば、意思決定する立場から身を引く判断もあって良いと思います。
情シスは (普段は見えにくいですが) 会社活動において健全な運営を推進する上で欠かせない存在です。そのため、私は他の部署以上に、責任ある判断を行う意思決定力が求められていると考えます。
おわりに
私は正直、技術屋の傾向が高い人間なので、普段はあまり思想論や技術以外の内容を述べることはほとんどありません。組織マネジメントなども全然できないと思っているし、たくさんの失敗も経験してきていると思います。なので、情シスに求める能力 (スキル) なんていうのも、結局のところ、私の持つ理想論に大きく引きづられている可能性はあります。
ただ、昨今ランサムウェアや個人情報流出など、さまざまな企業問題が報道される世の中において、情シスという存在がどれだけ企業活動に寄与できるのかと考えた際、然るべきマインドのもとで普段の業務を遂行する必要性が生まれている/強くなっているのではないか、と感じる部分があります。
ぜひ、私が考える情シスの流儀、みたいなものがもっと広く多く議論され、世の「情シス」というものにもっと光が当たり、私たちの日々の活動や行いに対してもっと理解や共感が得られる世界になると良いな、と思う今日この頃です。
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