仮説を立てるための「具体と抽象」のすすめ
タイトル:仮説を立てるための「具体と抽象」のすすめ
この記事はNE株式会社 Advent Calendar 2025 14日目の記事です。
はじめに
私はもともと、開発を直接行うエンジニアとして従事していましたが、現在プロダクトリサーチの領域にやや軸足を移しており、引き続き具体的な実装課題やミッションと向き合いつつ、ユーザー調査やデータ分析にも携わるようになりました。
主に課題解決という"具体"のトピックを軸にしていたエンジニアとしての立ち回りを経て、新たに挑むプロダクトリサーチという業種の中、「仮説を見出すためのコツ」や「その道筋」を体験し、改めて確認するシーンがありました。
当記事では、そのあたりの知見をできるだけ整理して言葉にしてみることにします。
文字が多いです。
情報の収集・分析
私の所属するプロダクトリサーチチームでは、主に以下の3つのアプローチで情報を収集・分析しています。
1. ユーザーヒアリング
顧客の声、あるいは顧客に接する部署のメンバーから、直接情報を引き出すアプローチです。
問い合わせのログのキャッチアップや、発生する商談等に参加することで「この機能が使いにくい」「もっとこうしてほしい」、社内からでは「この機能の改善を求む」といった直接的な意見・表現を得ることができます。
課題の拾い上げ方
ヒアリングに際して留意すべきは、先人の視座をそのまま借りて言うと 「ユーザーの言うことを聞く(言ったとおりに叶える)ため」に行うものではない ということです。
ユーザーの声の背後にある本質的な課題を見出すのは、プロダクトリサーチの本分と考えます。
課題以外のこと:ポジティブな意見
経験則ですが、あらゆる業務の「ふりかえり」や機能改善といった、「課題と向き合う」ことを主眼とした場面では、私たちは「課題(ネガティブ)をどうにかしよう」というバイアスが強くかかります。
それ自体は現状改善と問題解決に取り組むために重要なことではありますが、意識的にポジティブな意見を拾うことも、課題に取り組むことと同じくらい重要です。
ポジティブな意見は、各ユーザーの中に確かに存在はしているものの、我々開発側に届く形ではなかなか発生しにくいものです(自主的に「良さ」を具体的にデベロッパーに共有してくれるユーザーは非常に貴重です!)。
そして「うまく使えている」という経験談や満足している点の知見は、「失ってはいけない・提供できている価値」の再認識、思いがけない価値や新しいアイデアのきっかけになることもあり得ます。
注意(自戒)
例えば「この機能をリリースしました」(暗に「便利になったよね?」)という声がけは、「聞きたいことを聞く」すなわち「欲しい答えを求める」モードへの第一歩になってしまいます。
ポジティブな意見の深耕は、一歩間違うと本質的な課題の深耕から逸れることがあり得ます。
バイアスを廃し、フラットな見解を引き出すよう、質問者・聞き手双方にとっての空間の意味合い等に伴って、質問の仕方に留意することも、時には非常に重要になることを念頭に置くべきと考えます。
この情報の性質
そして、ヒアリング活動は「何を(具体的に)実施できるか」という、一種の具体の側面の話題と捉えられます。
2. 市場(社外情報)の調査
各種の公開された情報を調査して、社内情報だけでは把握が難しい市場自体のポテンシャル(顧客の獲得や、売上の向上につなげられる市場の余白・最大規模)の把握を試みるアプローチです。
例えば弊社では、事業の施策を検討するにあたって、公表されているデータを確認する場合でも、抽象的な情報しか得られないことは少なくありません。
「あるジャンルの市場は○○円規模」「ある業界における、あるサービスの〜シェアは○%」といった情報は、方向性を決める材料にはなりますが、実際のところ、これらが現在直接、具体的なアクションに直結することはほとんどありません(後述)。
この情報の性質
市場調査は、たどり着く数字自体は具体的であるものの、公表情報の性質上、母集団の概況を表すようなものなので、そういう意味で抽象的な情報であると捉えられます。
3. 自社データプールの調査・統計分析
自社が保有する母集団データを活用して、特にその傾向や比率を調査・確認するアプローチです。
- 各種利用情報のグラフ化によってその「傾向・比率」が視覚的に把握できる
- スプレッドシートやピボットテーブルによって、マトリクス的な分析が可能になる
注意(自戒)
実に手段と目的が逆転したありがちな思考ではあるのですが、
それっぽいデータが取れると、すぐにグラフ化してみたくなりませんか?
個人的にはこれが割と厄介な罠だと思っています。
視覚化は、データ整理を行う主体者としても、聞き手側としても、良くも悪くもインパクトが強く、「何か有意な情報が出ているのだな」という印象を与えやすいものです。
ただ、状況やデータによっては、グラフ化するだけで各集団内での細かい事実を見逃しやすくなったり、そも厄介な点として視覚化すること自体が目的化してしまうことが少なくありません(というか私がそうなりがち)。
経験上、手段が先行→「"とりあえず"情報を集約して比較したら何か出るはず」といった起点→目的なく視覚化に走るといった流れで、この傾向が出やすくなります。非常〜に良くないですねぇ…
データに対して、無思考に視覚化に走らず、数値的な具体を捉えるか・抽象的に傾向を得るか、一旦立ち止まって思考することも非常に重要です。
この情報の性質
こういった分析は大抵は大量の母集団を対象にしたものであり、この掘り下げによって得られる情報は基本的に抽象的な方向に向かいます。
これらからどうやってアイデアを施策化・実現に持っていくか?
プロダクトの価値をより高める(新規創出・増強・価値低下の抑制)ための新規施策として、アイデアを提案、その実現を進めるためには、言わずもがな一定の有効性を示す根拠が必須です。
そのためには、客観的で定量的な材料が欠かせません。そしてそれらはふつう上記の2.3の「抽象」的な分析・情報から得られます。
しかし、個人的な体感としては、これらの「抽象」から、具体的な施策案や提案が直接生まれることは少ないと感じています。
例えばですが、
- 「あるサービスに対応すると、売上に寄与する割合が高いと考えられる」
- 「ある機能の利用率が高い」
- 「流通額がxxxだけある」
といった抽象的な比較情報だけでは、(そのサービスへの対応や機能が完全に新規で未対応状態、といった大前提でない限り)価値を生み出すアイデアは生まれにくいと感じています。
現状、その抽象の状況をベースにし、複数の具体的なケースを突き詰めていくことで、初めて企画や施策が生まれると考えています。
実際のプロセスの例は以下のような感じ。
- ユーザーの声のような具体から、その値や状況を想像
- 市場の値や、自社データを整理した抽象で全体の傾向を捉える
- 再び具体に戻り、あり得る可能性とアイデアにフォーカス
- また抽象で検証する...
上記のように、具体と抽象を往復することで、より地に足のついたアイデアと実行可能な施策が、ようやく見えてくると考えています。
注意(自戒)
先の項の通り、抽象的な分析の段階で「それっぽい結果」が出ると、勇み足で軽率な結論とアイデアに達してしまうことがあります。
「思考が抽象に寄っているな」「これで真に価値創出できるか?」と感じたら、意識的に具体に(具体を持っているなら抽象に)向かう。
その往復を一定繰り返すことにより、視座のチューニングとアイデアのブラッシュアップをすることで、本質的で価値創出にリーチできる施策がより発生しやすくなる… と考えています。
まとめ
- ヒアリングで得られるのは具体的な課題。課題だけでなく、ポジティブな意見も重要
- 母集団データがあれば抽象的な分析から課題が見えるが、それだけでは施策に不十分
- 仮説を立てるには具体が必要——抽象だけでは動けない
- 具体と抽象の往復によって、仮説は深みと幅を持つ
…この記事の思想自体が抽象的であることは理解していますし、何よりリサーチの方法や思考に確実な正解は無いと思っています。
経験則として具体と抽象を意識的に行き来することで、より良い仮説にたどり着ける可能性は高まると実感しています。
プロダクトリサーチに限らず、企画や施策を考える場面で、この「往復」の視点が、少しでも参考になれば幸いです。
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