『CrossCompatible』
第一節:60点の均衡
ナナオの作るUIは、どのOSでも同じように60点で動作した。
完璧ではない。だが、致命的でもない。
彼は、デザインの思想に忠実であろうとは思っていない。
「“正しいUI”じゃなくて、両OSで怒られないUIを目指してるだけ」
iOSにもAndroidにも寄らず、ギリギリ指摘されない範囲に落とし込まれたデザイン。
ナナオはその“中庸”に価値を置いていた。
第二節:喜ばれない重宝
顧客は彼のUIを重宝していた。
なぜなら、ひとつのデザインで両OSに対応できるからだ。
しかしそれは、コストに対しての評価であって、出来栄えの話ではなかった。
高いデザイン性を求めるようなクライアントは、そもそも彼のところには来ない。
ユーザーからのレビューは「まあまあ」「特に印象に残らない」といった、
期待も裏切りもないものばかりだった。
クレームはない。
賞賛もない。
それがナナオの仕事だった。
第三節:境界の溶け方
Liquid Glass。Appleが打ち出した、過剰なまでのエフェクトと視覚の揺らぎ。
ナナオは、それが両OSの折衷バランスを壊しかねないものだと感じていた。
「自分のクライアントは、ああいうの嫌いなはずだ。フラットでシンプルなUIを好む人たちだ」
そう自分に言い聞かせながらも、彼は内心、その確信に自信が持てなくなっていた。
そして、気づいていた。
自分はフラットデザインの良さを、実のところ理解していない。
第四節:静かな違和感
ナナオは、かつて自分が作ったUIのスクリーンショットを並べて眺めた。
どれも似たような構造、似たような操作感、似たような色。
どれも悪くはない。だが、記憶に残るものもない。
「……これが“両対応”ってことだろ」
自分に言い聞かせるように呟いた。
だが心の奥で、言葉が反響を失っていくのを感じていた。
結末:静かな波紋
その日の夜、ナナオは一枚のUIスクリーンを目にした。
どちらのOSにも似ていない。
だが、不思議な説得力があった。
何かが胸に触れた。
それはデザインへの憧れなのか、それとも、ただの嫉妬だったのか。
ナナオは黙ってディスプレイを閉じ、いつものコードエディタを開いた。
今夜もまた、誰からも怒られず、誰にも覚えられないUIを組み上げる。
ただその少し手前で、何かが静かに揺れていた。
Discussion