数千万円の予知保全を、4,000円で始めた
こんな状況、心当たりありませんか
月曜の朝、出社したらラインが止まっている。
主軸のベアリングが焼き付いた。部品は在庫なし。復旧まで2日。
納期は明後日。客先に電話して謝る。現場が重い空気に包まれる。
3ヶ月前にも同じことがあった。
あのときは減速機のギヤ。その前はコンベアのモーター。
壊れる設備は毎回違うが、起きることは毎回同じだ。
突然止まる。計画にない停止。納期が飛ぶ。誰かが怒鳴られる。
製造業で15年働いてきた。品質管理10年、加工技術5年。
この光景を何度も見てきた。
そして、この光景から抜け出せない工場には、共通する構造的な原因がある。
それを書く。
「壊れてから直す」は保全ではない
多くの中小製造業の現場では、設備保全がこうなっている。
壊れたら直す。壊れるまで放っておく。
これを事後保全(BM:Breakdown Maintenance)と呼ぶ。
保全と名前がついているが、実態は「修理」だ。
なぜこうなるかは、現場にいればわかる。
- 保全専任の担当者がいない(兼任で回している)
- 設備台数に対して人が足りない
- 「動いているなら触るな」という暗黙のルールがある
- 定期点検のスケジュールはあるが、生産が優先されて飛ばされる
どれも心当たりがあると思う。
これは怠慢ではない。構造の問題だ。
人が足りない現場で、生産を止めて点検する余裕がない。だから壊れるまで回す。
結果、計画外停止が繰り返される。
ベテランの耳に頼る保全の限界
もうひとつ、よくある光景がある。
「なんか変な音がするな」
ベテランのオペレーターがそう言う。
翌日、本当に設備が止まる。
この「異音で気づく」は、現場では非常に重要な能力だ。
20年選手の耳は、異常を驚くほど正確にキャッチする。
でも、この保全には致命的な弱点が3つある。
1. 属人的すぎる
その人が休んだ日には、誰も気づかない。
退職したら、ノウハウごと消える。
2. 定量化できない
「変な音」は記録に残らない。
「いつから変だったか」を後から追えない。
3. 手遅れのことが多い
人間の耳で「変な音」が聞こえる段階は、すでにかなり劣化が進んでいる。
本当は、耳で聞こえるずっと前に、振動データには兆候が出ている。
ベテランの耳を否定しているわけではない。
私自身、品質管理の現場で「あれ?」という直感に何度も助けられた。
でも、直感だけに頼る保全は、組織としてスケールしない。
振動データには兆候が必ず出ている
私は今、ベアリングの異常検知を4つの公開データセットで検証している。
CWRU、NASA/IMS、XJTU-SY、FEMTO。
条件も壊れ方も違うデータだ。
この4つを通じて分かったことがある。
壊れる前に、振動データには必ず兆候が出ている。
典型的なパターンはこうだ。
正常稼働 → RMS値がじわじわ上昇 → 一度跳ね上がる(Peak)
→ いったん落ち着く(Fadeout) → 最終的に壊れる(Failure)
「Peak → Fadeout → Failure」と呼んでいる。
最初のPeakの時点で検知できれば、計画的に交換できる。
Fadeoutの期間が「猶予時間」だ。
ここで部品を手配し、生産の合間に交換すれば、計画外停止はゼロにできる。
人間の耳で「変な音」が聞こえるのは、たいていFailure直前だ。
振動データなら、もっと早い段階で気づける。
「高すぎて入れられない」という壁
ここまで読んで、こう思った方がいるかもしれない。
「そんなの分かってる。でも予知保全のシステムは高すぎて入れられない」
その通りだ。
大手ベンダーの予知保全ソリューションは、初期費用で数百万〜数千万円かかる。
センサー、データ収集装置、分析ソフト、クラウド利用料、導入コンサル。
全部積み上げると、中小の設備投資枠では到底手が出ない。
でも、やっていることの本質を分解すると、実はシンプルだ。
- 振動を測る
- 周波数に分解する
- 正常時のパターンと比較する
- 外れていたら通知する
これだけだ。
数千万円かかっているのは、パッケージ化と営業コストと保守契約だ。
技術そのものは、汎用部品の組み合わせで実現できる。
数千円から始められる構成
私が今開発中のプロダクトの構成を書く。
| レイヤ | 使っているもの | コスト |
|---|---|---|
| センサー | M5StickC Plus2(3軸加速度センサー内蔵) | 約4,000円/台 |
| 通信 | Wi-Fi + HTTP POST | 0円 |
| 分析 | FastAPI + FFT + エンベロープ解析 + Z-score | 0円(Python) |
| 通知 | Slack Webhook | 0円 |
ハードウェア込みで1台あたり約4,000円。
M5StickC Plus2をベアリングハウジングに貼り付けて、5秒ごとに加速度データを取得する。
データはWi-Fi経由でFastAPIサーバーに飛ばす。
サーバー側でFFT(高速フーリエ変換)をかけて周波数成分に分解し、正常時のパターンから外れたらSlackに通知が飛ぶ。
大手のシステムと原理は同じだ。
違いは、パッケージ化されていないことと、自分で設定する必要があること。
逆に言えば、その2つを自分でやれる人間がいれば、数千円で予知保全が始められる。
なぜ私がこれを作っているか
私は15年間、設備が突然止まる現場にいた。
加工技術部では、設備が止まるたびに工程を組み直した。
品質管理部では、設備停止が品質に影響していないか検証する仕事をした。
「壊れる前に気づければ、こんなことにはならないのに」
これを何十回思ったかわからない。
でも当時は、自分にそれを作る技術がなかった。
今はある。Pythonが書ける。AIに投げれば、もっと速く書ける。
センサーも安くなった。クラウドも安くなった。
現場の課題を知っていて、技術で解ける人間が、ようやく揃った。
だから作っている。
計画外停止のコストを計算してみる
最後に、数字の話をする。
設備が1台、計画外に止まったときのコストを計算する。
| 項目 | 金額(目安) |
|---|---|
| ライン停止による逸失利益(4時間) | 50万〜200万円 |
| 緊急修理の部品代・工賃 | 10万〜50万円 |
| 納期遅延による特急便・追加加工費 | 10万〜100万円 |
| 対策書・報告書の工数 | 5万〜10万円 |
1回の計画外停止で、少なくとも数十万円が飛ぶ。
年に3〜4回起きていれば、数百万円規模のコストだ。
M5StickC Plus2は、1台4,000円だ。
もちろん、センサーを貼り付けただけで魔法のように計画外停止がゼロになるわけではない。
しきい値の設定も必要だし、現場に合わせたチューニングも要る。
でも、「やらない理由」として「コストが高い」は、もう成立しない。
興味がある方へ
ベアリング異常検知の実装は、ZennとGitHubで公開している。
4つのデータセット(CWRU・NASA・XJTU-SY・FEMTO)での検証結果と、FastAPIのコードが全部見られる。
→ [製造業エンジニアがベアリング異常検知をゼロから実装した話]
「うちの工場で試してみたい」「自社の設備に合わせた構成を相談したい」という方がいれば、TwitterのDMまたはZennのコメントでご連絡いただければ嬉しい。
製造業15年の現場経験と、AI時代の技術を組み合わせて、中小の工場でも使える予知保全を一緒に作りたい。
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