クラウド型コーディングエージェントの時代がまた来る
Ubie CTO の @yukukotani です。
2025年は、Claude Codeのようなターミナル型やCursorのようなエディタ統合型など、ローカルで動作するコーディングエージェントが急速に普及した年でした。一方で、Devinのようなクラウド型のエージェントは、登場時の熱狂と比べるとやや落ち着いた印象を受けた方も多いのではないでしょうか。
個人的には、今の道具では生産性改善の天井が見えてきたように感じます。認知負荷が限界を迎えているからです。そしてその救世主として、クラウド型コーディングエージェントが再び主役に躍り出ると考えています。
本記事では、なぜ今までクラウド型が主流にならなかったのか、何が変わったのか、そしてクラウド型ならではの強みについて整理します。
なぜ今までクラウド型は流行らなかったのか
クラウド型コーディングエージェントの普及を阻んでいたボトルネックは、大きく3つありました。自走力、コスト、そして動作確認です。
自走力:5分と30分の質的な転換
Devinが登場した当初、「ジュニアエンジニアにタスクを投げる」という喩えをよく目にしました。タスクをDevinに渡したら一度忘れて、自分は別の作業に集中する、みたいな世界観です。
しかし実際には、5分程度のタスクしかこなせないエージェントでは、クラウドでスケールしてもマインドシェアの外に置くことができません。気になって結局面倒を見てしまい、非同期のメリットが薄れます。
GPT-5.3-CodexやClaude Opus 4.6の登場と、プランモードや仕様駆動開発の成熟によって、この状況が変わりました。しっかりプランを与えれば30分程度は自走し、手戻りも少なく、任せて一度忘れられるレベルになってきています。
5分と30分は単なる程度の問題ではありません。その間に自分がフロー状態に入れるかどうかという、質的な転換があります。
コスト:従量課金からサブスクリプションへ
タスクを投げて非同期で結果を受け取るというスタイルには、投機的な側面があります。うまくいくかわからないタスクにお金を払うことになるからです。従量課金しか選択肢がない中では、不確実性の高いタスクを気軽に任せにくいという問題がありました。
現在は、Claude Code on the WebやCursor Cloud Agentのように、サブスクリプションで利用できる選択肢が登場しています。サブスクであれば、とりあえず投げてみて、ダメなら捨てるという試行錯誤がしやすくなります。
動作確認:クラウド上で完結する検証環境
エージェントがコードを書き終わったあと、どれだけテストやLintが手厚く通っていたとしても、特にフロントエンド開発などでは実際に動かしておきたいです。しかし、クラウド上でコードを書いても結局手元で動作確認するようでは意味が薄いです。
Web開発においては、モデルの進化に加えてagent-browserやPlaywright MCPのようなツールが出揃ったことで、クラウド上でそのまま動作確認を行い、スクリーンショットを共有するといったワークフローが現実的になってきました。
さらに、exe.devやsprites.devなどのサービスでは、エージェントの作業環境で立ち上げたサーバーにドメインが発行されてそのままプレビューできるようなパラダイムも登場しています。
クラウド型ならではの強み
ボトルネックが解消されつつある今、クラウド型にはローカル型にない固有の強みが見えてきます。
柔軟なインタフェース
クラウド型は、さまざまなインタフェースと接続できます。Slack Botのような業務に近い入口や、実行環境を持たないモバイルアプリからの利用も可能です。
たとえば、Slackで仕様を議論したスレッドの最後に「@Agent 実装して」と滑らかにパスする。あるいは、ホワイトボードに描いたワイヤフレームをスマホで撮ってエージェントに投げる。こうした体験は、ローカル型では実現しにくいものです。PCに張り付いていなくても進められるのです。
さらにいえば、Jiraのチケットを作ったら自動でプロトタイプを実装してくれたり、Sentryにエラーが届いたら自動で直してくれたり、といったAmbient Agent的な振る舞いも視野に入ってきます。レビューのタイミングで初めて開発者が知ることになるため、認知負荷を大きく削減できます。
チームでのセッション共有
クラウド型では、チームメンバーと同じセッション上で作業できます。ペアプログラミングをしたり、デザイナーの作業をエンジニアが引き継いだりといったコラボレーションが自然に行えます。
また、変更の元となったセッションが記録されるのも重要です。Entireが謳っているように、セッションログは変更の"意図"として重要な記録です。将来の変更の際に役立つ他、チームメンバー間でエージェントの使い方を共有する学習材料としても良いでしょう。
サンドボックスによる環境分離
Web開発は多くの場合、分散システムの開発です。バックエンドアプリケーションの裏にマイクロサービスやデータベースがいます。
現在ローカルで流行しているgit worktreeは、ファイルシステムは分離できますが、プロセスは分離できません。複数の分散システムを同時に立ち上げると混線しがちです。
クラウド型では、タスクごとにコンテナやVMを立ち上げて独立したサンドボックス環境を作ります。これにより、クリーンな環境でDBなどのミドルウェアも含めたエンドツーエンドの開発・動作確認ができます。
また、外部へのネットワークアクセスもOSやハイパーバイザのレイヤで制限できるため、セキュリティ面でも安心です。この安全性により、エージェントに権限を与えやすくなります。より権限を与えられるから面倒を見なくてよくなり、マインドシェアを割かなくて済みます。
可観測性
Claude CodeなどにもOpen Telemetry連携がありますが、個々人のローカル環境に設定を強制して徹底させるのは大変です。クラウド型であれば、デフォルトで可観測性をセットアップできます。
上述のサンドボックスによる環境の再現性と合わせて、監査もしやすくなります。
さらに、Platform Engineeringチームは、このログを分析することで、エージェントが詰まりやすいポイントを特定して改善するループを回すことができます。
具体事例
クラウド型コーディングエージェントの具体的な事例を紹介します。
Claude Code on the Web
Claude Code on the Web では名前の通り、WebブラウザやモバイルアプリからClaude Codeを実行できます。
それに加えて、ローカルのClaude Code上で & Fix the authentication bug in src/auth/login.ts のように & プレフィックスを付けてプロンプトを実行すると、セッションをクラウドに移して実行できます。逆に、/tasks コマンドを用いてクラウドで実行中のセッションをローカルに引き戻すことも可能です。ローカルとクラウドをシームレスに行き来できる設計になっています。
実行時にはセッションごとに独立したサンドボックスが動作します。ローカルのClaude Codeと同様にSessionStartフックを使えるため、データベースをはじめとする開発に必要なミドルウェアをセットアップした状態でセッションを実行できます。
Inspect
米FinTech大手のRampが内製している社内エージェントです。Slack、Web、Chrome拡張から呼び出せます。

Why We Built Our Own Background Agentより
内部ではOpenCodeが動いており、実行環境にはModal Sandboxを採用しています。Rampの開発に必要なツールやミドルウェアがすべて入ったコンテナイメージ上で動作し、作業中にはスクリーンショットで進捗を報告してくれます。

Why We Built Our Own Background Agentより
すでにRamp社内で広く利用されており、マージされたPRの57%がInspect経由とのことです。
Minion
Stripeも社内エージェントを内製しています。Slack、Web、CLIからの呼び出しに加えて、社内ドキュメント基盤やチケット管理システムからも実行できます。

Minions: Stripe’s one-shot, end-to-end coding agentsより
内部ではGooseのフォークが動いており、社内のMCPサーバーとデフォルトで接続されています。
こちらも週に1,000件以上のPRがMinion経由でマージされているようです。
Oz
ターミナルアプリのWarpが提供するエージェントSaaSです。バグレポート、CIイベント、cronといったイベント駆動での実行向けにデザインされており、APIで起動できます。
現在はSlackやLinearとの接続がマネージドで提供されており、Warpのターミナル上でも動作します。Webのインタフェースはかなり閲覧に機能が寄っていて、イベント駆動でのAmbient Agent的振る舞いに特化しているのが他の事例とは異なる特徴です。
ローカル型も引き続き使われる
クラウド型が台頭するからといって、ローカル型を使わなくなるわけではありません。
相対的に不確実性の低い定型的なタスクをクラウド型に流して、自分は手元でフロー状態に入る、という使い分けが現実的です。クラウド型で解ける不確実性の閾値は上がっていきますが、ソフトウェアエンジニアリングには、手を動かしながら解像度を上げていく探索的な仕事も多くあります。そこではローカルのインタラクティブな操作が引き続き強みを発揮するでしょう。
手元で初期的な設計や計画を深く行なったあとにクラウド型にパスするような流れも一般的になりそうです。
おわりに
認知負荷の限界により、コーディングエージェントによる生産性改善がサチってきた感覚がありました。クラウド型コーディングエージェントは、その天井を突破する武器になると感じています。
Ubieでもこの未来を見据えて、昨年の夏ごろから社内エージェントUvinを内製しています。クラウド型の恩恵を自分たちのプロダクト開発で実感しながら、日々改善を重ねているところです。
こういった未来のエンジニアリングを一緒に描きながら作っていく仲間を募集しています。興味を持っていただけた方はぜひお声がけください。
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