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問題設定

2023/03/25に公開約7,000字

はじめに

おはようございます。
今回のテーマは問題設定です。<重要問題設定>という手法について説明します。また、この<重要問題設定>には主に次の要点があることも、併せて説明します。

  • 最初に問題の候補をたくさん書き出すこと
  • 各問題の重要性を複数の軸で評価すること

目次

  • 前提
  • <重要問題設定>の大切さ
  • <重要問題設定>の方法
  • <重要問題設定>の補足やTips
  • <重要問題設定>の成功の決め手

前提

「問題」に関する用語

今回の話を論じるために、簡便ですがひとまず各用語を次のように設定します。

用語 意味
「問題」 何かしらの不利益を生じさせるもの
「重要問題」 「問題」のうち、解決に取り組む価値の比較的高いもの
<重要問題設定> 「重要問題」を設定する行為

各用語をカッコで括っているのは、この記事ならではの用語であることを示すためです。また、モノ(問題など)と行動を区別した方が感覚的に分かりやすそうな気がしたので、記号を分けました。前者は「」、後者は<>で括っています。

解決に取り組む主体

<重要問題設定>は、設定者自身がその「重要問題」の解決に能動的に取り組むことを前提とします。これは例えば、その人が問題解決を主導したり、具体的な問題解決作業を遂行したりすることです。
これに関することを、最後でもまた述べます。

<重要問題設定>の大切さ

<重要問題設定>は、特にこだわりたい、注力したいことです。そう思う理由は、大きく次の2つです。

- 作業内容
理由1 <重要問題設定>を誤ることの損失の大きさ
理由2 <重要問題設定>の難解さ

理由1:<重要問題設定>を誤ることの損失の大きさ

当然ですが、「重要問題」でない「問題」を解いても、そのメリットは少ないです。

とは言え、このことを軽く考えるのは禁物です。
未解決の「重要問題」に手を付けないのは、例えるなら虫歯の放置であり、問題の先送りと言えます。不健康な状態のため、歯医者に行かなくても毎月一定の金額を失い続けるようなものです。しかも、放置すればするほど、その「重要問題」は大きくなります。毎月払うコストや、治療にかかるコストは大きくなります。

また、<重要問題設定>を誤ると、事態を良くするつもりなのにあさっての方向に進んでしまいがちです。例えば、ある事業から早めに撤退したほうがいいのに、「どうすればその事業に成功できるか」という「問題」の解決ばかりに腐心するなどです。いったんあさっての方向に進み出してしまったら、戻るのも大変になります。
筋違いな「問題」を解こうとすると、そうなってしまいやすいです。そのため、それぞれの「問題」が「重要問題」であるかどうかをよく見極めることが大事です。

そういうわけなので、<重要問題設定>は軽視できないです。

理由2:<重要問題設定>の難解さ

もう1つは、この<重要問題設定>という行為が難解だからです。人間はよく、何かを見つけるにつけ、すぐさまそれを不当に問題視したりします。
<重要問題設定>の難しさの要因を、2つほど挙げてみます。

<重要問題設定>の難しさの要因1

1つ目の要因は、視野を広げられていないことです。それだから、「重要問題」があってもそれを発見や発想すらできなくなるということです。
これは、養老孟司さんの言う「バカの壁」に似ています。壁があるために、壁の向こう側にある「問題」に気づくことができないです。

<重要問題設定>の難しさの要因2

詳しくは割愛しますが、「速い思考」と「遅い思考」というものがあります。
2つ目の要因は、<重要問題設定>には「遅い思考」が要求されることです。後述する<重要問題設定>の方法を読むと分かると思いますが、結構じっくりと思考していく必要があります。

もちろん、これは<重要問題設定>に限った話ではなく、多くの作業には「遅い思考」が必要です。ただ、他の作業に比べると、何かを問題視する行為はすぐに遂行できてしまうものです。そのため、「速い思考」を誤って働かせてしまうケースが発生しやすいと思います。

<重要問題設定>の基本的な方法

そこで、今回の核心的な内容である<重要問題設定>の方法の出番です。
これから説明する方法により、たくさんの「問題」を掘り出していきます。実際にこれをやってみると、視野を広げることの意味がよく分かるようになると思います。

ひとことに<重要問題設定>の方法といっても、そのパターンはいろいろあります。ひとまず今回は、基本的な方法に特化して説明します。

<重要問題設定>の手順は、大きく次の2ステップから成ります。

- 作業内容
手順1 「問題」の一覧の作成
手順2 「重要問題」の選定

手順1:「問題」の一覧の作成

前半のステップは、「問題」の一覧を作ることです。

手始めに、即興でもいいから「問題」だと思う事柄を書き出します。例えば、「自社商品をコンビニに置いてもらうためにどんな広告を打てばよいかが分からない」という「問題」を思いつきます。

ということで、まずはその「問題」を下のように書いてみます。

次に、その「問題」があると何が「問題」なのかを書いてみます。複数書き出しても構いません。
余力があれば、さらにその「問題」があると何が「問題」なのかを書きます。これも複数可です。
あまりやるとキリがないですが、そんな感じでどんどん「問題」を掘り起こします。

下の図は、その結果の例です。

「自社商品をコンビニに置いてもらうためにどんな広告を打てばよいかが分からない」は、「自社商品をコンビニに置いてもらうことができない」につながると考えられます。さらにそれは、「自社商品が売れない」につながると考えられます。上の図ができたのは、そのように考えたためです。

そして、新たに掘り出したそれら各「問題」ごとに、その原因を考えてみます。これももちろん複数可です。
その結果の例が、下の図です。

そうやって考えてみると、自社商品をコンビニに置いてもらうために、別に広告が必須とは限らないことに気づきます。また、「自社商品をコンビニに置いてもらえないと商品が売れない」と思い込んでいたことにも気づきます。

以上のようなやり方は、あくまでも一例です。このようなやり方だと、「問題」間の因果関係を整理しやすくなりますし、「問題」の発想の抜けも減らしやすいです。
ただ、そういう図の作成までせずに、思いついた「問題」をただひたすら書き出していくだけでも十分な場合もあります。

最初は1つしか「問題」を挙げなかったのに、これでトータル5つの「問題」の一覧に派生させることができました。ただ、簡単に例を作っただけなので、5つだけです。これだけでも十分ですが、それ以上(10個とか)に「問題」を掘り出すとなおいいです。

そんな要領で、一番最初に書きだした「問題」群のうち他の「問題」についても複数の「問題」を掘り出します。そうすれば、「問題」の一覧ができあがります。

手順2:「重要問題」の選定

後半のステップは、「重要問題」の選定です。

基本的なやり方は、まず 「問題」に対する複数の評価軸を設定することです。
ここでいう評価軸とは、「問題」がどの程度、「重要問題」に値するかの評価基準です。具体例は、次のものになります。これらすべてを軸として採用するのが必須ではないですし、他の軸も追加OKです。

  • 想定される発生頻度
  • その「問題」が発生した場合に想定されるダメージの大きさ
  • その「問題」をどの程度解決できそうか(あるいはそのメリットの大きさ)
  • その「問題」の解決にかかるコスト(経費や作業時間)の小ささ

次に、手順1で作成した「問題」一覧の各「問題」を、上の各評価軸で評価します。言い換えれば、下のようなマトリックスを作ります。

- 評価軸1 評価軸2 評価軸3 評価軸4
1つ目の「問題」 ×
2つ目の「問題」 × ×
3つ目の「問題」 × ×

○や△、×が評価値です。○に近い評価値の多い「問題」ほど、「重要問題」に近いものとみなします。あとは、そこまでの評価の結果を総合的に見て、優先的に解いたほうが良さそうな問題を選べばいいだけです。選ぶ個数は、1つでも複数でも構いません。

ちなみに、評価の軸をやたらと多く設定するのはあまり得策ではないです。場合によっては、軸は2つでも十分です。今回の場合は、解決にかかるコスト、および解決した場合の効果(パフォーマンス)、これら2軸でも良さそうです。

これで、「重要問題」の選定が完了です。

完了

ここまで終われば、<重要問題設定>の完了です。
ただ、後述するようにこの作業は難しいので、1発で終える必要はありません。手順1と手順2を繰り返したり、「重要問題」のアイデアをいったん寝かせたりして、じっくり練っていけばいい話です。

<重要問題設定>の補足やTips

以上で、<重要問題設定>の方法を説明しました。
あとは、<重要問題設定>の補足やTipsをいくつか書き足します。そのあとに、<重要問題設定>の成功の決め手について書いていますので、よろしければ最後までご覧ください。

多くの「問題」を掘り出すことの重要性

最初に多くの「問題」を掘り出すことに、どういうメリットがあるか。それは、最初に思いついた「問題」へのとらわれから解放されることです。

最初に思いついた「問題」が毎度のようにイコール「重要問題」なら、誰も苦労はしないです。しかし実際には、最初に思いついた「問題」はむしろ「重要問題」ではないことが多いものです。

「大事なのは量ではなく質」との考えもあると思います。ですが、「問題」をたくさん掘り出すことで、「重要問題」に出会える可能性を高めることができます。
後続の手順は、「重要問題」を選び出すことです。ここで、質の高さに相当する「重要問題」を選ぶことさえできれば、掘り出した「問題」の量が多いこと自体は特に問題ないです。強いて言えば、重要問題選定の作業時間が少し長くなるくらいであり、全然大したことはありません。

「問題」の評価の際に評価軸を複数用いることの重要性

「問題」に限らず、何かを評価する際、よく単一の軸で評価するケースがあります。
単一の軸で十分な場合もあります。ですが、できれば複数の軸で評価するほうが望ましいです。軸の数が1つだけだと、的確さを欠いた、偏った評価になりやすいです。
これは機械学習で言えば、適合率(precision)だけ、あるいは再現率(recall)だけでモデルの性能を評価するようなものです。タスクやデータセットの性質にもよりますが、基本的には適合率、再現率のいずれも重要な軸であり、度外視できないものです。

物の長さをざっくりと測る際、モノサシと巻き尺の両方を使う必要はなく、いずれか一方のみで十分です。
しかし実際には、そういう正比例のような関係の軸のペアは少ないと思います。むしろ先ほどの適合率と再現率のような、トレードオフ性のあるペアのほうが多数だと思います。前述の「重要問題」の選定において挙げた各評価軸の間にも、トレードオフの関係がいくつか見られます。
なので基本的には、重要な評価軸は複数あるものと考えたほうがいいです。そして、それらのうちいくつかを採用するようにしたほうがいいと思います。

また、安易に何かを問題視することの非を、この点から裏付けることもできます。先ほどの機械学習の例だと、再現率を考慮せずに「このモデルは適合率が低いから、質が悪い」などと断じるのは誤りです。複数の軸で評価をすることができているのならいいですが、評価の際に安易さがあると、軸が単一になりがちです。

いきなり正解を出すことが重要なのではない

紹介した手順において、「問題」の掘り出しや「重要問題」の選定を一発で正しく実践できたかどうかは、いちいち気にしないことです。こう言うと誤解を招くかもしれませんが、ある意味でそれはまだどうでもいい話です。

重要なのは、<重要問題設定>の難しさを理解しながら、地道に<重要問題設定>に取り組み続けることです。最初はうまくいかないですが、続けるうちにだんだん「重要問題」が見えてきます。
すぐに正解を出そうとすることよりも、<重要問題設定>に慣れることや、<重要問題設定>の能力を身に付けることのほうが大事だと思っています。

<重要問題設定>の成功の決め手

最後に、<重要問題設定>を成功させるために特に重要だと思うことについて述べます。
それは何かと言うと、現状を改善しようとする意思の強さです。

こう言うのも今さらですが、<重要問題設定>の作業において併せて考える必要があるのは、問題解決の実行です。<重要問題設定>にしても戦略立案にしても、実行とセットで考えることが肝要です。
その点で言えば、先ほど挙げた「その問題をどの程度解決できそうか」という評価軸も、実行面と関係します。しかし、これよりも重要だと思うものがあります。それが、現状を改善しようとする意思の強さです。あるいはもっと端的に言うなら、能動性の強さです。

というのも、「あれが問題だ、これが問題だ」と言うだけでは、問題を解決することはできないです。問題を解決するには、何かしらの行動や協力依頼をする必要があります。
そこで必要になってくるのが能動性です。能動性を発揮して、問題解決のために自ら動いていきます。その際、何もかも自分でやらないといけないわけではありません。他の人たちに協力を依頼する手もあります。ですが、いくら他の人たちに協力をお願いしたとしても当人に能動性がなければ、問題解決は進まないです。
たいていの問題は、解決するのがとても大変です。能動性があったとしても厳しいです。逆に言うと、能動性さえなければ解決は無理です。最低限の能動性は、前提条件です。

今のは問題の解決についてでしたが、能動性が重要であることは、問題の設定においても同様です。
問題の設定には、対象への強い問題意識が要求されます。ここでいう問題意識は、どんな問題があるかを探り、問題をどうにかしようとする意思です。その問題意識の源が、能動性です。

ということで、能動性が<重要問題設定>の成功の決め手であるという話をしました。能動性は前提であるだけでなく、能動性の強さが<重要問題設定>や問題解決の成功の決め手になります。

終わりに

今回は、問題設定について論じました。

改めて考えましたが、こういうワークにおいてはやはり次の2点が特に重要だと思います。これら2点にきっちりと取り組めば、そんなに間違いはないと思います。

  • 多くの「問題」を掘り出すこと
  • 「問題」を複数の軸で評価すること

また、問題設定の成功の決め手として、能動性を挙げました。詳しくは前述の通りです。

そして最後に述べておくと、今回紹介した手法も、あくまでも目的ではなく手段です。これを無分別に目的化するようなことは避けるように、気を付けたいところです。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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