電子書籍フォーマット「.egarc(エガーク)」設計思想と技術の裏側
この記事は、
- 「もっと没入感のある物語体験を作りたい」と願うクリエイター(作家)の方
- 「Web技術で新しいメディアフォーマットの実装に興味がある」エンジニアの方
の両方に向けて書いています。
先日投稿した記事『「スクロールで絵が切り替わる」新しい電子書籍フォーマットを個人開発した話(と、EPUB3の限界)]』では、なぜ標準規格であるEPUB3ではなく、独自フォーマットを作るに至ったのかという「開発経緯(ポエム)」を書きました。
今回は、その解決策として実装したフォーマット .egarc(エガーク) の中身がどうなっているのか? という**「技術的な裏側(Tech)」**を解説します。 シンプルな「ZIPコンテナ」と「JSON」で構成されたその仕組みを見て、 「これなら自分も安心して書けそうだ」と感じてもらえれば本望です。
1. なぜ今、新しいフォーマットなのか?
いま世界には、素晴らしいデジタルストーリーテリングの形式がたくさんあります。
Kindleなどの「電子書籍(EPUB)」、スマホで読みやすい「Webtoon」、リッチな演出の「ノベルゲーム」。
しかし、私はずっと**「ある一つの体験」**が欠けていると感じていました。
それは、「映画のような同期性」と「読書のようなマイペースさ」の両立です。
既存フォーマットのジレンマ
- 漫画: 見開き演出が魅力だが、スマートフォン(縦画面)では縮小されるか分割表示になり、その迫力が損なわれてしまう。
- Webtoon: スマホの縦スクロールには最適化されているが、その構造上、タブレットやPCのような広い画面では間延びしてしまう。
- 電子書籍(小説): 自分のペースで読めるが、絵と文のタイミングを合わせる演出が苦手(ページをめくると解説対象の絵が見えなくなってしまう等)。
- 動画/ゲーム: 演出は完璧だが、時間は勝手に進んでしまう(「読む」のではなく「見せられる」)。
私が作りたかったのは、**「読者がテキストをスクロールして読み進めるタイミングに合わせて、世界(画像)が呼応して変化する」**体験です。
それを実現するために作ったのが、新しいファイル形式 .egarc です。
2. 技術で解決する「同期」の課題
この「テキスト進行に合わせて画像を切り替える」という体験自体は、実は古くからあります。いわゆる「ビジュアルノベルゲーム」です。
しかし、これらは通常、クリックやオートプレイで進む**「アプリケーション」**です。
Egarcは違います。 「スクロール」という能動的な行為に、視覚的な変化を完全に同期させました。 読者が読み進めれば背景や表情が移ろい、気になった場面にはいつでも戻ることができる。 この「時間軸の自由」こそが、動画でもゲームでもない、**「新しい読書」**の正体です。
3. 「中身はシンプルなZIPコンテナ」という安心感
ここから少しエンジニア向けの話になりますが、実は .egarc ファイルの実体は、ZIP形式の圧縮ファイルです。
Microsoft Wordの .docx や、電子書籍の標準規格 EPUB と同じアプローチを採用しています。
特殊なバイナリ形式ではなく、「JSONデータと画像ファイルをフォルダに入れて、ZIPで固めたもの」。それがEgarcの正体です。
ファイル構造のイメージ
拡張子を .zip に変更して解凍すると、中身は以下のように非常にシンプルです。
my_story.egarc (実体はZIP)
├── manifest.json (物語の進行や演出データ)
└── images/ (画像素材フォルダ)
├── b9a9ef44-0189-4dfa-af8c-189c4e80ae1c.webp
├── f8b6071b-1939-4e1b-ab01-bd21c2c61305.webp
├── 952d24b4-e156-41dd-a9cd-ede3c1f7b31e.webp
└── ...
manifest.json の中身(一部抜粋の例)
{
"id": "1234-5678-....",
"type": "story",
"title": "Egarcの夜明け",
"subtitle": "プロローグ",
"overview": "<p>あらすじテキスト...</p>",
"frontCover": {
"name": "アレサと星の欠片",
"image_data": "images/b9a9ef44-0189-4dfa-af8c-189c4e80ae1c.webp"
},
"pages": [
{
"id": "e7ce4be4-6dc9-4259-bb4e-441216675bbb",
"image": {
"image_data": "images/f8b6071b-1939-4e1b-ab01-bd21c2c61305.webp"
},
"paragraphs": [
{
"id": "63271047-0216-4bdd-8d82-f1273237c2b9",
"character_name": "レイナ",
"body": "<p>その日、空は燃えるような赤だった。</p>",
"place_right": 0,
"image": {
"image_data": "images/952d24b4-e156-41dd-a9cd-ede3c1f7b31e.webp"
}
}
]
}
]
}
作家にとってのメリット:永続性と透明性
独自のファイル形式を作るとき、一番怖いのは「そのツールが開発終了したら、作品が開けなくなること」です。
しかし、Egarcの中身は標準的なZIPとJSON、そして普通の画像ファイルです。
これは非常に強力な保証です。
もし仮に、私が開発をやめてEgarcReaderがなくなったとしても、ファイルを解凍するだけで、執筆したテキストや描いたイラストを無傷で取り出すことができます。なんなら未来のAIに「これを再生するプレイヤーを作って」と頼めば、数秒で作ってくれるでしょう。
「技術的な透明性の高さ」こそが、10年後、20年後も作品が生き残るための、最強のプロテクトなのです。
4. 「ファイル」であることの自由、そして拡張性
最近の電子書籍やWebtoonは、特定のプラットフォーム(アプリ内)でしか読めないことがほとんどです。
Egarcはあえて、時代に逆行するような**「ファイル配布型」**を選びました。
-
所有する自由: 作家は自分のサイトやBOOTHで
.egarcファイルを直接販売・配布できます。特定の企業に作品の生殺与奪の権を握られません。 - 場所を選ばない: EgarcReaderはただのHTML/JSなので、GitHub PagesでもWordPressでも動きます。
既存アプリへの「組み込み」も容易
さらに、EgarcReaderのコアは WebView で動作するように設計されています。
これにより、既存の漫画アプリや小説投稿サイトのWebView内に組み込むだけで、この「スクロール連動型の新しい読書体験」を低コストで実装可能です。
合同会社Carouselでは、フォーマット自体はオープンにしつつ、このような**「企業様向けEgarcReader組み込み・導入支援(技術提供)」**も行っています。ゼロから開発するコストを抑えたい場合は、ぜひご相談ください。
5. まずは触ってみてください
長々と語りましたが、Egarcはまだ生まれたばかりのフォーマットです。 完璧ではありませんが、「新しい表現の可能性」と「自由な配布」に関しては、自信を持っています。
開発者・企業のご担当者様へ
EgarcReaderのWeb版は、以下のURLで実際に体験できます。その軽快な動作(SPAならではのサクサク感)を確認してみてください。
作家・クリエイターの方へ
もし「自分の絵や小説で、こんな演出をしてみたい」と思ったら、ぜひWindows/Mac版の作成ツール(無料)をダウンロードしてみてください。 プログラミング不要で、テキスト入力と画像の選択をしていくだけで、この「同期する読書体験」を作れます。
新しいフォーマットは、使ってくれる皆さんの作品があって初めて完成します。 Egarcで、あなたの世界が動き出すのを楽しみにしています。
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