文化祭などのイベントをLIVE配信する
事前準備(非技術)
あらゆる現場において、事前準備がプロジェクトの成否の8~9割を決めるといっても過言ではありません。LIVE配信
と聞くと、技術的な準備や要件ばかりに気を取られがちですが、それ以上に重要なのは非技術的な準備です。
依頼者の要望を聞く
まず、依頼者から要望をヒアリングします。多くの場合、依頼者は明確なプランを持っていません。「こんな演出がしたい」「このような配信にしたい」程度の漠然としたイメージがあれば十分です。依頼者への質問を通じて、プロジェクトの全体像を固めていきます。私は最低限、以下の要件は必ず確認するようにしています:
- 配信の対象者
- 配信内容
- 配信プラットフォーム(または必要な要件)
- 配信場所
- 本番時間と設営時間の詳細
- 来場者数と出演者数
- LIVE配信に関する責任者の確認
- アーカイブの取り扱い方針
- 必要なマイク本数
リソース/リスク/コンプライアンスとの照合と検討
依頼者からの要望を受けた後、実現可能性の検討を行います。保有する機材や人員以上のことを行うのは物理的に不可能です。また、依頼者が気づいていないリスクについても考慮し、改善策を提案することが重要です。特に以下の点に注意を払っています。
配信プラットフォームの選定
配信プラットフォームの選定は極めて重要です。優れたカメラワークやスイッチングを行っても、配信サービスから停止されては意味がありません。
例えば、YouTubeでは著作権違反の可能性がある音楽が使用されている場合、AIが自動的に配信を停止することがあります。著作権侵害の懸念がない場合や、依頼者がそのリスクを了承している場合は、YouTubeでの配信も選択肢となります。
YouTube以外にも様々な配信プラットフォームが存在します。以下に、私が使用経験のあるプラットフォームを挙げます。
- Vimeo
- Cloudflare Stream
これらの有料サービスは、YouTubeと比較して機能面での優位性や、著作権による配信停止のリスクが極めて低いことが特徴です。
また、学校内限定の配信で、ローカルLANが利用可能な場合は、LANライブストリーミングも選択肢となります。ただし、配信可能なクライアント数がLANの帯域に依存する点に注意が必要です。この方式を採用する場合は、事前に本番に近い環境で帯域幅の検証を行うことを推奨します。
演者や第三者の映り込み
配信映像への映り込みに関する取り扱いについて、事前に検討する必要があります。演者全員に配信が行われることが共有されているか、観客が映り込んだ場合の対応方針について、事前に依頼者と協議しておきましょう。多くの場合は問題になりませんが、責任の所在や対応について事前に合意しておくことが重要です。
その他、現実的でない部分の指摘
依頼者の要望が現実的でない場合は、率直に指摘する必要があります。本番での混乱を防ぐため、以下のような点を確認します。
- マイクの配置や本数は適切か
- リハーサルなしは本当に可能か
- 機材や人員の制約は考慮されているか
現実的な進行プランを作成し、共有する
プランが具体化してきたら、設営、本番、撤収の3段階で構成される進行プランを作成します。各段階において、時間軸に沿って誰が何をするのかを詳細に記載します。進行プランで最も重要なのは、キュー(Cue)の管理です。以下の要素を必ず明記します。
- 誰が
- 何をしたら
- 何をするのか
例:
Cue: 音源1再生 Cue主体: 山田@吹奏楽部
Cue: スポット明転 Cue主体: 花山@ダンス部
Cue: マイク1ON Cue主体: 浜田@文化祭実行委員
設営・撤収については、十分な時間的余裕を確保し、機材や作業の依存関係を考慮することが重要です。例えば、以下のような順序性を意識します。
- 演台の設置が完了しないと、照明位置の決定ができない
- 音響機材の配置は、配線経路の確保後に行う
- カメラポジションは、観客の動線を考慮して決定する
これらの作業について、並行して進められるものと順序性が必要なものを見極め、人員リソースの範囲内で効率的に進行できるよう計画します。
事前準備(技術)
技術的な準備は非常に奥が深く、この記事だけですべてを解説することは残念ながら難しいです。ここでは共通となる流れのみを解説します。
依頼から必要機材を逆算する
依頼内容から必要な機材を逆算し、リストアップします。手持ちの機材や予算の制約により確保が難しい場合は、依頼者と再度相談の上、規模の縮小を検討してください。
機材調達の状況は、スプレッドシートなどでの共有が効果的です。特に複数人で機材調達を行う場合、状況を逐次更新することで、余計な連絡を省きつつ機材状況を正確に把握できます。
配線図/会場図を作成する
調達可能な機材の見通しが立ったら、配線図と会場図を作成します。私の経験では、ホワイトボードや紙を使用した手書きでの検討が最も効果的です。いきなりパワーポイントなどの作図ツールを使用すると、かえって検討が難しくなります。まずは紙とペンで検討し、共有が必要な場合に限り、ツールで清書することをお勧めします。
この段階で、配線の長さや動線との交差など、本番をできる限り正確にイメージすることが重要です。
機材検証を行う
調達した機材の動作確認を行います。ここではすべての機材を個別にチェックすることが重要です。同型の機材のうち1つだけを確認して済ませることは、チェックの意味を失います。すべてのケーブル、すべての機材を本番と同じ構成で検証することが不可欠です。
全機材のマニュアルをダウンロードしておく
使用するすべての機材のマニュアルを事前にダウンロードし、即時参照可能な状態にしておくことを強く推奨します。特に海外製の機材は、インターネット上でマニュアルの入手が困難な場合があります。本番中に不測の事態が発生した際、マニュアルをすぐに参照できることで、トラブルの迅速な解決につながります。
本番
上述の準備を入念に行っていれば、あとは安全に注意しながら予定通りに実行するだけです。事前準備の段階でトラブルポイントへの対策を講じておけば、大きな問題は発生しにくいものです。本番がうまくいかない場合、その原因のほとんどは準備不足にあります。
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