TikTokのレコメンドエンジンのシステムデザイン
TikTokのレコメンドエンジンのシステムデザイン
はじめに
世界中をスマホ中毒にさせているTikTokやYoutube shortのレコメンドのアルゴリズムの仕組みをご存知でしょうか。
TikTokはわずか数年で世界中のユーザー世界中のユーザーを魅了し、ショート動画市場を席巻したプラットフォームです。その成長の原動力となっているのが、ユーザーの興味関心に極めて高精度でマッチする「レコメンドエンジン」です。
多くのユーザーは、フォローしているアカウントではなく、「For You(おすすめ)」ページで動画を見る時間が圧倒的に多いと言われています。つまりTikTokの中核機能はコンテンツ配信そのものではなく、それを誰に・いつ・どの順番で届けるかというアルゴリズムの部分にあります。
本記事では、TikTokのレコメンドシステムがどのように設計・構築されているかを、技術的観点から丁寧に解説していきます。
1. Tiktokレコメンドエンジンの概要
TikTokのレコメンドエンジンは、ユーザーの行動から収集された大量のデータをリアルタイムで処理し、数十億本の動画の中から最適なコンテンツを瞬時に選び出します。
以下が、レコメンドエンジンの主要な処理フローです。
- データ収集:ユーザーの視聴履歴や操作ログ、動画メタ情報などを収集
- 特徴量抽出: 機械学習モデルに入力可能な形に変換
- モデルによるスコアリング: 各動画が「どれだけ好まれるか」の確率を推定
- ランキングとフィルタリング: 高スコアな動画を選び、バランスをとって並べる
- 配信とログ収集: レコメンド結果を表示し、再度ユーザーの反応を記録
これらのプロセスがすべて数ミリ単位で処理されることによって、世界中のユーザーをくぎ付けにするシステムに出来上がっています。
2. 要件定義
今回レコメンドエンジンを設計するにあたり、簡易的な要件定義をしていきます。
機能要件
- 個別化された推薦: 各ユーザーの嗜好に応じたパーソナライズ
- リアルタイム対応: ユーザーの直近の行動(例:動画を最後まで見た)に即時反応
- 多様なコンテンツのハンドリング: 短尺・長尺、音声あり・なし、ライブなど
非機能要件
- スケーラビリティ: 毎日10億以上のレコメンドを生成する規模に対応
- 低レイテンシ: 推薦の応答時間は100ms以下が理想
- 高可用性: サービス停止がユーザー体験に直結するため、常に稼働状態を維持
- 保守性・拡張性: 新たな特徴量やモデルの追加が容易であること
3. システムアーキテクチャ設計
コンポーネント別の詳細解説
コンポーネント | 技術 | 詳細 |
---|---|---|
ロードバランサー | Route53 + Cloud Load Balancer | 各リージョン・AZに均等に分散。障害時の自動フェイルオーバー対応。 |
キャッシュ層 | Redis Cluster / Akamai CDN | レイテンシを極小化。高頻度ユーザーの推薦結果を数分間キャッシュ。 |
候補生成 | Faiss / ScaNN / Milvus | ユーザーと動画の埋め込みベクトルを元に高速なANN(近傍探索)を実行。複数の戦略(人気・類似・履歴)で生成。 |
特徴量生成 | TensorFlow Serving / PyTorch Serve | 特徴量に基づいてスコアを算出。1ms以下の応答性能が求められる。オンライン学習を取り入れる場合も。 |
ログ収集・処理 | Kafka + Flink | すべてのユーザーイベント(視聴、いいね、コメント)をトピックごとにKafkaへ。Flinkでリアルタイム処理し、特徴量生成や監視メトリクスに利用。 |
スケーラビリティ / 耐障害性の工夫
TikTokのような大規模レコメンドシステムでは、ユーザーの行動を元にリアルタイムで最適な動画を提示する必要があります。しかも、世界中の何億人が同時に使うので、どこか一部の処理が遅くなっただけで、すぐに「動画が出ない」「おすすめが微妙」といったユーザー体験の低下につながります。
Kafkaに耐障害設計とチューニング
ユーザが動画を見た、スワイプした、コメントした、このような行動ログは毎秒何百万件も発生します。
Kafkaという「メッセージキュー」を使って、一旦すべてのログを受け止めます。Kafkaは並列に処理できる構造(パーティション)を持っていて、これを100とか10000とかに増やせば、たくさんのサーバーで同時処理できます。
イメージ:空港の荷物の受け取りレーンが100本あるようなもの。一気に来ても渋滞しにくい。
Flinkによるリアルタイム分析
レコメンドはリアルタイムに「何を見たか」で変わります。Flinkはその処理を担いますが、途中で落ちると中途半端な状態になります。
- 一定間隔で処理状態を保存(Checkpoint)しておき、障害時も途中から復旧できるようにする。
- 処理が詰まりそうな箇所を検出して動的にスケーリングすることで安定稼働を保つ。
Embedding検索(似た動画を探す)の分散処理
ユーザーと動画をベクトルで表し、似たものを探す「類似検索」が使われます。1台では到底扱えない規模です。
- 検索対象のデータを分割(Sharding)して複数のサーバーに分散。
- 人気動画など一部のデータは複数サーバーにコピー(Replication)して、いつでも高速にアクセスできるようにする。
特徴量保存のレイテンシ対策
機械学習モデルは「ユーザーの性別、視聴傾向」などの情報(特徴量)を使います。毎回これを取得するのが遅いと、レコメンドが間に合いません。
- 頻繁に使う特徴量はRedisなどのインメモリDBにキャッシュ。
- 地域ごとにデータをマルチリージョンで複製し、どこからでも速くアクセスできるようにする。
ロードバランサーとエッジサーバーでも負荷分散
世界中からアクセスがある中で、1か所のサーバーに負荷が集中すると全体が落ちてしまいます。
- DNSを使って、ユーザーの位置に近いリージョンへ自動で接続。
- 各リージョンのAPIゲートウェイでトラフィックを分散し、障害時は別リージョンへ切り替え。
スケーラビリティ / 耐障害性のまとめ
- 予測不能なトラフィック急増(バズった動画など)に耐えるには、自動スケーリングと負荷分散が必須
- 一部コンポーネントが落ちてもサービス全体は動き続ける(部分的故障に強くする)
- データが消えたり壊れたりしないように、冗長に保存しておく(ログや特徴量)
「大規模 = 高性能なサーバー」ではなく、システム全体がどれだけ壊れにくく、壊れてもすぐ復旧できるかが重要です。
4. おわりに
今回はTikTokのような超大規模レコメンドエンジンを支えるアーキテクチャを具体的な技術スタックを用いながら解説させていただきました。
大規模ユーザーへの低レイテンシ配信の方法、大量のデータをどうやってリアルタイムで処理をしているのかを学べたかと思うので、非常に勉強になりました。
まだまだシステムデザイン初心者ですので、恐らく粗々で間違いもあるかと思いますが、優しくご指摘いただけますと幸いです。
Discussion