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バイブオブザーバビリティはシステム監視じゃない ——「観測性」という言葉の罠について

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※この記事は前回の記事で提唱した「バイブネイティブ」や「バイブオブザーバビリティ」について、特に後者の「観測性」という言葉について補足の記事です。


現在の生成AIによると、「バイブオブザーバビリティ(Vibe Observability)」というキーワードは、ある種の技術的な先入観を持って解釈されるようです。

「オブザーバビリティ」という言葉がDevOps界隈で一般化して久しいです。Datadog、Prometheus、OpenTelemetry……そんな文脈に慣れたエンジニアが「バイブオブザーバビリティ」と聞くと、どうしても「事業のログやメトリクスを可視化する監視ツールの話かな?」と思ってしまいます。

でも、それはまったく違います。


バイブオブザーバビリティは「ビジネスの文脈」を観測する

まず、バイブオブザーバビリティとは何か? ひとことで言えば、

生成AIを通じて、ビジネスのWHY/WHAT/アウトカム(成果)を可視化し、関係者の認識を同期させること。

です。

これは、CPU使用率やエラーレートをグラフ化するような「観測性」ではありません。もっと文脈的で、非構造な情報を対象としています。

たとえばこういう問いです:

  • 「この企画は誰のための、なんのためのものなのか?」
  • 「この施策が目指す成果って、売上? エンゲージメント? 社内効率?」
  • 「なぜ今この開発が重要なのか? 本当にそれでよいのか?」

こういった問いに、生成AIを介してプロンプトからの観測という形で答えを引き出せるようにする。それがバイブオブザーバビリティの本質です。


なぜ「オブザーバビリティ」と名乗ってしまったのか?

もちろん、このネーミングには自省もあります。「オブザーバビリティ」って言っちゃったから混乱を招いたのでは? という気もしています。

ただ、これはある種の言語的ハックでもありました。

ソフトウェアエンジニアにとって、「オブザーバビリティ」という単語は、「内部状態を外部から推測可能にする設計思想」を指しています。これは素晴らしい概念ですし、今やプロダクトの品質保証には不可欠な観点です。

その**思想そのものを、ビジネスの文脈に持ち込んだらどうなる?**というのが、バイブオブザーバビリティという試みでした。


システムのオブザーバビリティとの違い

表でざっくり比較してみましょう:

システムのオブザーバビリティ バイブオブザーバビリティ
対象 ログ、メトリクス、トレース WHY、WHAT、アウトカム、ユーザー文脈
ツール Datadog、Prometheus、OpenTelemetry ChatGPT、Grok、Notion AI など
可視化の目的 障害検知、パフォーマンス改善 企画の透明化、意思決定支援
使う人 SRE、DevOps、バックエンドエンジニア 企画者、PM、エンジニア、経営層
情報の構造 構造化データ(時系列、JSONなど) 非構造データ(自然言語)
必要な設計 テレメトリ実装、エージェント導入 良質なプロンプト設計、情報整理

これを見ると、名前は似ていてもまったく別の層を扱っていることが分かります。


プロンプト=観測装置

バイブオブザーバビリティにおいて、プロンプトはログ収集エージェントのようなものです。

プロンプトという観測装置を適切に設計すれば、非構造な情報の中から「この企画は誰のためのものか?」「この意思決定は何を重視しているか?」といったバイブスが抽出できます。

プロンプトの品質が悪ければ、当然ノイズの多い観測結果しか得られません。

だからこそ、観測されるべき文脈は何か? を言語化し、それに応じた問い(プロンプト)を設計する必要があります。


バイブオブザーバビリティは「観測の民主化」である

システム監視ツールは、高度な権限を持つ専門家が扱うものでした。SREしか触れないダッシュボード。複雑なクエリ。ログ集約の沼。

でも、バイブオブザーバビリティはもっと開かれています。

  • エンジニアも
  • PMも
  • 企画者も
  • 経営層も

誰もが自然言語でプロンプトを書ければ、「今、自分たちが何に取り組んでいて、なぜそれが重要なのか」を観測できます。

これは、認識のインフラであり、意思決定の民主化装置です。


まとめ:Vibes ≠ Logs

最後にもう一度だけ強調しておきます。

バイブオブザーバビリティは、ビジネスの文脈を観測する試みであり、システムのテレメトリとは別物です。

似た言葉に引きずられて混同してしまうのも無理はありません。でも、これは**「観測」という思想をもっと高次のレイヤーに持ち込んだチャレンジ**なのです。

  • 事業の文脈を、誰もが観測できるようにする
  • WHYとWHATの伝播を、生成AIでスケーラブルにする
  • 暗黙知を、プロンプトを通して可視化する

それが、バイブオブザーバビリティの目指す世界です。


🌀 次回は、バイブネイティブにおける「プロンプトの設計言語」について掘り下げる予定です。
質問やフィードバック、バイブ体験などがあればぜひコメント欄やXで教えてください。

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