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Nielsen and Chuang Box 5.5の群論部分について

に公開

導入

Nielsen and Chuang 「Quantum Computation and Quantum Information」のBox 5.5で群論でのシフト不変性のくだり「In the language of group theory~」がさらっと書かれていたので深堀してみた。素人による個人的なメモ。

これまで、集合 G とその部分集合H の元が作る任意の関数

\sum_{h}\alpha_h\,\lvert h\rangle\ \longrightarrow\ f(h)=\alpha_h

を使って シフト不変性 を議論してきた。
結論は次のとおり。

  • 任意の元 k\in Gシフト した関数

    f(h+k)=\alpha_h

    と元の関数をフーリエ変換した結果は、ピーク位置 g とピーク強度(\lvert g\rangle の複素振幅の絶対値の 2 乗)が一致する。

  • 異なる k' でも式 5.67 の kk' に変わるだけなので k,k' でシフトした関数同士もフーリエ変換でピーク位置・強度は変わらない。

ピーク位置 (g)

\tilde{\alpha}_g = \frac{1}{\sqrt{|G|}}\, \sum_{h}\alpha_h \exp\!\Bigl(\tfrac{2\pi i\,h g}{|G|}\Bigr)

に依存するが、

\sum_{h}\alpha_h\,\exp\!\Bigl(\tfrac{2\pi i\,h g}{|G|}\Bigr)

\alpha_hH の性質がわからないので一般的な性質を示すのは難しい。


目的

制約を課すことでピーク位置 g の性質を 一般化 して言えるようにする。


制約

1. 群構造

集合 G, 部分集合 Hに群構造の制約を課す。

  • G:位数 |G| の巡回群 \mathbb{Z}_{|G|}
  • HG の巡回部分群。

とする。

2. 関数への制約

任意の関数から「H による剰余類上での G定数関数」に限定:

f(h+k)=\sum_{h}c_k\,\lvert h+k\rangle,\qquad |c_k|=\frac1{\sqrt{|H|}}
  • 剰余類 kH の元への入力には 常に同じ定数 c_k を返す。

  • 異なる剰余類 k'H には

    c_{k'} = c_k\,e^{i\theta}

    となるc_{k'}を返す(規格化条件より)。


定数関数をフーリエ変換する

\mathcal{F}f(h+k) =\frac{c_k}{\sqrt{|G|}} \sum_{g} e^{\tfrac{2\pi i k g}{|G|}} \Bigl(\sum_{h}e^{\tfrac{2\pi i h g}{|G|}}\Bigr) \lvert g\rangle

ピーク強度

\Bigl| \frac{c_k}{\sqrt{|G|}} e^{\tfrac{2\pi i k g}{|G|}} \sum_{h}e^{\tfrac{2\pi i h g}{|G|}} \Bigr|^{2} =\frac{1}{|H|\,|G|}\, \Bigl|\sum_{h}e^{\tfrac{2\pi i h g}{|G|}}\Bigr|^{2}

剰余類を変えても(k\to k')ピーク位置・強度は不変。


ピークが立つ g の一般条件

  1. H は巡回群 |H|=m。生成元 h について

    h\cdot m \equiv 0 \pmod{|G|},\qquad h_n = n\frac{|G|}{m}\ (0\le n\le m-1)

    ラグランジュの定理より

    m ||G|

  2. 指数和

    \sum_{h}e^{\,\tfrac{2\pi i h g}{|G|}} = \sum_{n=0}^{m-1} \exp\!\Bigl(\tfrac{2\pi i n g}{m}\Bigr) = \sum_{n=0}^{m-1} r^{\,n}, \quad r := e^{\,\tfrac{2\pi i g}{m}}
  3. 等比数列の判定

    • r=1 \;\Longleftrightarrow\; e^{\tfrac{2\pi i g}{m}}=1
      gm の整数倍 ⇒ ピーク出現
    • r\neq1 → 和が 0 ⇒ ピークなし

結論

ピークが出る gm の整数倍 に限られる。
制約によりgの性質を一般的に述べることができた。


余談:アニヒレーター H^{\perp}

  • m の整数倍集合を

    H^{\perp} := \{\,g\in G \mid g \equiv 0 \pmod{m}\,\}

    と呼ぶ(アニヒレーター)。

  • つまり定数関数を剰余類シフトしてフーリエ変換しても、ピークは 常に H^{\perp} に現れるということ。


Discussion