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偽サイトの方が使いやすい? 7-Zip事例から学ぶUXとセキュリティの教訓

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はじめに

はじめまして、talと申します。社内SE(情シス)として働いているひよっこエンジニアで、普段は開発をメインにしているわけではありません。ただ、セキュリティやUX、ユーザー視点といった角度から技術を見ると、意外な学びがあったりします。

先日、7-Zipの非公式サイトからダウンロードできるインストーラに不正なプログラムが仕込まれているとニュースになっていました。
https://wizsafe.iij.ad.jp/2026/01/2075/

「怪しいサイトには気をつけよう」——それはそうなんですが、今どき分かりやすく怪しいサイトなんて当然のように回避されるわけです。 いらすとやの「泥棒」みたいな空き巣がいないのと同じでしょうか。

今回は公式サイトと非公式サイトのユーザビリティを比較して、セキュリティ啓蒙の難しさについて考えてみます。

非公式サイトの「わかりやすさ」

まずは公式サイト(7-zip.org)の検索結果です
検索結果に表示される公式サイト

「7zip ダウンロード」で検索すると、ほかにも非公式サイト(似たような名前で.comで終わるものなど)がこんな感じで表示されます。

検索結果に表示される非公式サイト

このサイトでは以下のように案内されています。

7zip ダウンロード - Windows 11 用の無料 7-zip 7-Zip
Windows 11、Mac、およびLinux用の最新の7-Zipを入手しましょう。

これ、めちゃくちゃ「わかりやすい」んですよね。

  • 「Windows 11 用」と明記:自分のPCで使えるかが一目でわかる
  • 「ダウンロード」がタイトルに入っている:検索意図と完全に一致
  • 日本語で丁寧に説明:公式は英語なので安心感がある

一方、公式サイト(7-zip.org)は英語ベースで、「Windows 11」ではなく「Windows x64 (64-bit)」となっています。初心者や非エンジニアにとっては、非公式サイトの方が「親切なサイト」に見えてしまう構造になっています。

「URLを確認しよう」が裏目に出る

ここで皮肉な話があります。

詐欺サイト対策として「URLをよく確認しましょう」とよく言われますよね。でも今回、これが裏目に出る可能性があります。

非公式サイトのURLは 7zip.com

  • ソフト名がそのままドメイン
  • .comは馴染みのあるドメイン
  • 怪しい文字列は一切ない

「URLを確認した。7zip.comだから大丈夫そう」——こう判断しても不思議ではありません。むしろURLを確認する習慣がある人ほど「確認したから大丈夫」と油断してしまう可能性すらあります。

公式サイトは7-zip.org.orgはWikipediaやWordPress.orgなど有名サイトでも使われていますが、日本では.comほど馴染みがありません。「.orgって怪しくない?」と感じる人もいるかもしれません。

学び:啓蒙だけでは限界がある

この事例から感じたのは、「怪しいサイトに注意」という啓蒙には限界があるということです。

非公式サイトは「怪しい」どころか、「わかりやすい」「親切」「URLも自然」に見える。これはユーザーのリテラシー不足というより、UXデザインの問題です。

「気をつけよう」だけでなく、なぜ騙されやすいのかを理解しておくことが、結局は一番の防御になるんじゃないかと思います。

7-zip.opensource.jpについて

上記サイトのほかにも検索結果には7-zip.opensource.jpも上位にヒットします。
このサイトはOpen Source Group Japanという団体によって管理されており、公式サイトの日本語翻訳ページを公開してくださっています。

7-zip.orgの日本語ページのリンク先としても指定されています。
公式サイト

こちらのページのダウンロード先は7-zip.orgのものを指定しているとのことで、実際にそうなっています。

もう一つの学び:自分たちのサイト設計にも活かせること

この事例、セキュリティの話だけではありません。自分たちがサイトやサービスを設計する際のUX設計にも、活かせるポイントがあると思いました。

大前提として7-Zipというソフトウェアが日本発ではないため、純粋に比較できるものではありませんが、要素として以下のような学びがあるのではないでしょうか。

対象ユーザーに合わせた用語選択の重要性

非公式サイトが「わかりやすい」理由を改めて考えてみると、用語の選択が対象ユーザーに最適化されていることが大きいです。

公式サイトは「技術的に正確」な表現を使っています。x64、ARM64といった用語は正しいですが、一般ユーザーにとっては:

  • 「自分のPCが x64 なのか x86 なのかわからない」
  • 「64-bit と書いてあるけど、Windows 11 で動くの?」
  • 「とりあえず Windows 11 用って書いてある方が安心」

非公式サイトは「ユーザーの認識に合わせた」表現を使っています。多くの一般ユーザーは「自分のPCはWindows 11」という認識はあっても、「x64アーキテクチャ」という認識はありません。

技術的正確性と、ユーザーの理解のギャップ

ここに重要な教訓があります。

エンジニアやデザイナーは「技術的に正しい表現」を使いがちです。それ自体は悪いことではありませんが、対象ユーザーがその用語を理解できなければ、むしろUXを損ねます。

公式サイトは技術的には完璧です。でも:

  • 初心者は「x64」「x86」の違いがわからず迷う
  • 「64-bit」と書いてあっても、自分のPCに対応しているか不安になる
  • 結果として「Windows 11 用」と明記された非公式サイトの方が「親切」に見えてしまう

ユーザーが普段使っている言葉で説明する——これは機能開発と同じくらい重要なUX改善ポイントです。

正規サービスこそUXを磨く必要がある

皮肉なことに、この事例は**「悪意ある模倣サイトの方がユーザビリティが高い」**状況を生んでいます。

これは公式サイトにとって深刻な問題です。なぜなら:

  • ユーザーは「使いやすい方」を選んでしまう
  • 「公式だから正しい」という前提が通用しない
  • セキュリティを守るために、むしろUXが犠牲になってはいけない

正規のサービス提供者こそ、模倣サイト以上にUXを磨く必要がある——これは、自分たちがサービスを設計する際にも肝に銘じておくべき教訓です。

設計時に考慮すべきポイント

この事例から学べる、サイト設計時のポイントです。特に対象ユーザーに合わせた導線・用語設計に重きを置くことが重要です。

1. ユーザーが持っている知識に合わせた用語選択

悪い例(技術的には正確だが、ユーザーには不親切)

  • 「Windows x64 (64-bit) 版をダウンロード」
  • 「ARM64アーキテクチャに対応」

良い例(ユーザーの認識に合わせた表現)

  • 「Windows 11 / 10 用をダウンロード」
  • 「M1/M2/M3 Mac に対応」(ARM64の代わり)
  • 補足として「(64-bit版)」を小さく記載

ユーザーは「自分のOSバージョン」「自分のMacの種類」は知っていても、アーキテクチャまでは知らないことが多いです。

2. 検索意図に合わせた導線設計

ユーザーが「〇〇 ダウンロード」で検索するとき、求めているのは:

  • すぐにダウンロードできること(説明ページではなく)
  • 自分の環境で使えるか明確にわかること

公式サイトでよくある問題:

  • トップページから「Downloads」ページに飛び、さらにバージョンを選ぶ多段階導線
  • 詳しい説明があるが、全員には読まれない
  • ダウンロードボタンが複数あり、どれを選べばいいかわからない

改善例:

  • 検索結果から直接ダウンロードページに飛べるようにする
  • OS自動判定で「あなたのPC用はこちら」と明示
  • 他の選択肢は「詳細オプション」として折りたたむ

3. 「公式」であることを、検索結果の時点で伝える

7-Zipの事例で最も重要なのは、検索結果の段階で既に勝負が決まっているという点です。

なぜなら:

  • ユーザーは検索結果を数秒で判断する
  • タイトルと説明文だけで「どこをクリックするか」を決める
  • この段階で「公式」が伝わらなければ、ユーザーは非公式サイトを選んでしまう

ドメインの信頼性問題への対処:

.org ドメインは技術者には信頼されていますが、一般ユーザーには .com の方が馴染みがあります。実際、この事例では:

  • 非公式サイトが 7zip.com を取得しているが、公式サイトは 7-zip.org を使っている
  • 結果として、一般ユーザーは .com の方が「公式っぽい」と判断する可能性がある

(もともと日本発信でないため難しいところはあるものの).orgがメジャーかどうかははさておき、マイナーすぎるドメインよりは馴染みあるものにする。関連性のないドメインは避けたいところです。

4. 継続的な改善対象として扱う

ここが最も重要なポイントです。

機能開発だけでなく、導線・用語も継続的に改善すべき対象として扱うことです。

  • 新機能をリリースするときだけでなく、既存のダウンロードページの用語も見直す
  • ユーザーからの問い合わせ内容を分析し、わかりにくい箇所を改善する
  • A/Bテストで「x64」vs「Windows 11用」のどちらがユーザーに伝わるか検証する

技術的に正しいことと、ユーザーに伝わることは別です。両方を満たすことが、真のユーザー体験なのだと思います。

おわりに

一見「セキュリティ啓蒙」の話に見えるこの事例ですが、実はUX設計の教材としても非常に示唆に富んでいます。

「わかりやすさ」と「安全性」を両立させること。
「ユーザビリティ」と「信頼性」を同時に高めること。
「技術的に正確な表現」と「ユーザーに伝わる表現」のバランスを取ること。

私たちは新機能のリリースには力を入れますが、既存のダウンロードページの用語選択や導線設計は、一度決めたらそのままになりがちです。でも、ユーザーが最初に触れるのは、その「見過ごされがちな部分」だったりします。

この事例から学んだのは、開発に直接関わらないとはいえ、まったく学びがないわけではないということです。むしろ:

  • 対象ユーザーに合わせた用語を選ぶこと
  • ユーザーの検索意図に応える導線を設計すること
  • 技術的正確性だけでなく、ユーザーの理解しやすさも追求すること

これらは継続的に改善すべきUXの重要な要素であり、機能開発と同じように大切にすべきだと改めて感じました。

同じようなことは他のフリーソフトでも起きうるので、セキュリティ啓蒙としてだけでなく、自分たちのサービス設計を見直すきっかけとしても、この事例が参考になれば幸いです。


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