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One HealthのAIはなぜ分断されるか——Model Context Protocol(MCP)という「つなぎ役」の可能性

に公開

2026年、人・動物・環境の健康をひとつながりで捉える「One Health(ワンヘルス)」領域で、AIによる統合監視システムを提案する論文が公開されました。

出典:Sorrentino et al.「From Reactive to Predictive One Health: AI-Enabled Frameworks for Integrated Zoonotic Surveillance and Governance」International Journal of Environmental Research and Public Health 23(7), 2026, Article 850. https://doi.org/10.3390/ijerph23070850

この論文が扱っていること、そして扱っていない場所

この論文は、人獣共通感染症(人と動物の間で感染する病気)の監視が、人間の医療・獣医療・環境モニタリングという別々の組織・データベースに分断されていることを課題として挙げています。イタリア南部でのブルセラ症の持続的な発生や、2024年のサルモネラ・ウンビロ(Salmonella Umbilo)のアウトブレイクを例に、「情報がつながっていなかったために対応が後手に回った」ケースを示しました。

解決策として提案されているのは、フェデレーテッドラーニング(各機関がデータを外に出さないまま、モデルの学習結果だけを共有する仕組み)とFAIR原則(データを見つけやすく・使いやすく・つなぎやすくする設計指針)、説明可能AIを組み合わせた「AI対応One Health情報システム(OH-IS)」という構想です。

ただ、この論文自体も認めている通り、これは**構想レベルの提案(perspective論文)**です。アルゴリズムの偏り、データ品質、管轄をまたぐガバナンスの複雑さ、資源が限られた地域での計算資源の制約——実装に踏み込むと課題は多く、「具体的にどうやってAI同士・組織同士をつなぐのか」という配線部分は、まだ空いている場所として残っています。

差別化の核:MCPという"つなぎ役"を、One Healthに当てはめる

ここは、私が共著者として関わった研究と地続きです。

Sohail, Anwar, Endoh, Camer.「Integrating artificial intelligence and machine learning into modern health information, One Health, and bioengineering ecosystems: Advances and future directions」SciEnggJ 18(2), 2025, pp.441-459.

この論文(展望論文であり、実証データではなく将来方向性の整理です)で私たちが提案したのは、Model Context Protocol(MCP)——AIモデルと外部ツール・データソースを標準化された形でつなぐ仕組み——を、One Healthの文脈に応用するという方向性です。

MCPは、いま私自身がClaude CodeのようなAIエージェントを日々の開発で使う中で、複数のツール(ファイル操作・検索・外部API等)をAIに安全に橋渡しするための標準的な"配線規格"として実務で触れているものです。論文では、この考え方を医療の外に広げ、診断AI・ゲノム解析AI・環境モニタリングAI・ロボティクスといった、ドメインごとに別々に作られてきたAI群を、同じ配線規格の上で協調させる「メタAI」という方向性として整理しました。

つまり、Sorrentino et al. が課題として挙げた「機関・ドメインをまたぐ統合をどう実装するか」という部分に対して、すでにAI業界の実務で標準になりつつある接続規格をそのまま持ち込む、という具体的な一手を示せる、という位置づけです。抽象的な「統合しよう」という掛け声と、日々のAI開発の現場で使われている配線技術を、One Healthという具体的な領域でつなぐ——ここが私の関心です。

なお、これは私たちの論文の中でも**「今後5年程度で進むだろう」という展望・提案**として書いた部分であり、実装して効果を検証した結果ではありません。魔法のように分断が解消するわけではなく、資源の限られた現場での運用や、複数機関のガバナンス調整といった課題は、Sorrentino et al. が指摘する通り依然として残ります。

便利なツールほど、データの扱いは先に決めておく

この記事で扱った内容は、いずれも公開された査読論文・レビュー論文と公開情報のみです。実際の研究や業務で扱う非公開の診療データ・検体データ・依頼元の情報を、外部のAIサービスに渡すことはしていません。公開情報は積極的に使う、非公開データは切り分ける——医療ITのデータガバナンスと同じ考え方を、新しい技術にもそのまま当てはめています。

まとめ

One HealthのAI活用は、「人・動物・環境をまとめて見よう」という理念のレベルではすでに一致が取れています。残っているのは、別々に育ってきたAI群を、実際にどの規格で・誰が・どう繋ぐかという配線の話です。MCPのような、いまのAI開発の現場で当たり前になりつつある接続規格を、One Healthのような分野横断の課題にそのまま持ち込めないか——これは私がこれからも考えていきたいテーマです。

同じ関心を持つ研究者・エンジニア・獣医療・医療従事者の方と、ぜひ意見交換できれば嬉しいです。


臨床工学技士 × AI エンジニア。11年間、病院の医療機器の現場に立ち続けてきました。
いまは AI エンジニアとして活動しながら、酪農学園大学の研究生として論文博士の取得を目指し、遺伝子医療の未来を研究テーマにしています。

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