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組織の幸福を追求する「トリニティ組織」がスクラムと相性がいい

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先日、チームで矢野和男氏の著書『トリニティ組織』の読書会を実施しました。
「人間関係のネットワークに三角形が多い組織ほど、幸福感と生産性が高まる」という科学的な知見に触れたとき、私はスクラムと強い親和性を感じました。この記事では、その理由を深掘りしていきます。

科学が証明した幸福な組織の形:トリニティ組織とは

矢野氏が提唱するトリニティ組織は、人間関係ネットワークに「三角形」が多い組織です。
組織内の人間関係は、大きく分けて「V字」と「三角形」の2つの形があります。

V字の関係

ある人(C)がAさんとBさんの両方と交流しているが、AさんとBさんの間には交流がない状態です。
この関係性にはいくつかの問題があります。

  • 情報のボトルネック:情報伝達は必ずCを経由するため、遅延や歪みが発生しやすくなります。AとBが直接話す機会がないため、誤解が解けないまま残ることも少なくありません。
  • 孤立と分断:Cが常に調整役を担うことになり、心理的負担が増します。また、AとBの間に信頼関係や協力関係が生まれにくく、組織が分断されがちです。

このように「V字の関係」は、Cの負荷を高めるだけでなく、全体の協働や幸福感を阻害する構造でもあります。

トリニティの関係

一方で、CがAさんとBさんの両方と交流しているだけでなく、AさんとBさんも互いに交流している状態があります。
A・B・Cの全員が直接コミュニケーションを取り合う、この三者関係こそが「トリニティの関係」です。

この関係が増えると、次のような効果が生まれます。

  • 心理的安全性:三者が対話することで誤解が減り、「何を言っても大丈夫」という安心感が生まれます。
  • 協調性の向上:互いに助け合う自然な協力体制が生まれ、生産性が高まります。
  • 幸福感の基盤:誰か一人に依存するのではなく、複数の信頼関係が網の目のように広がることで、孤独感が減り、幸福感が安定していきます。

『トリニティ組織』が大きな価値を持つのは、この「三角形」の関係が幸福と成果の両方を高めることを、データと科学的根拠で明らかにした点です。

実は「幸福」を追求するスクラム

ジェフ・サザーランド氏の『スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術』では、第7章全体が「幸福」というテーマに割かれています。
幸福なチームこそが高い成果を出すことを経験的に理解しているからです。幸福感が高まると、創造性・問題解決能力・学習意欲といったアジャイルに不可欠な要素が自然に高まります。

スクラムが三角形を育む理由

スクラムは、その思想そのものが「V字」を壊し「三角形」を増やす方向に設計されています。

  • 自己組織化されたチーム:上下関係ではなく、全員が対等に関わり合いながら計画・実行する。仲介役が介在しないため、三角形のつながりが前提となる。
  • 密な相互作用:デイリースクラムやレビューなどのイベントを通じて、全員が同じ情報を同じ場で共有し、透明性と共通知が確保される。
  • 心理的安全性の醸成:透明性と対等性が誤解を減らし、メンバー同士が安心して発言できる文化をつくる。

スクラムは結果として「三角形を制度的に生み出す装置」として機能します。しかもその強さは、厳しい規律というよりも、「人が人として大事にされる」優しさに根ざしたものです。

アジャイル宣言と三角形の哲学

アジャイルソフトウェア開発宣言の最初の価値「プロセスやツールよりも、個人と対話」は、トリニティ組織の思想と重なります。
用事だけの「V字」的つながりではなく、仲間関係としての「三角形」が重要だと示しているのです。

  • 個人(Individual):全員が対等であることが健全な三角形の前提。
  • 対話(Interactions):特定の仲介者を介さず、関係者全員が同じ場で対話することが共通知を生む。

一方で孤立しがちなSM、PO

しかし、実際の現場ではスクラムマスター(SM)やプロダクトオーナー(PO)が“V字の頂点”に立ち、孤立しがちです。
依頼が集中することで彼らは調整役に追い込まれ、心理的負担を背負うケースも少なくありません。

これを解決するのがスクラム・オブ・スクラムズ(SoS)メタスクラムといった仕組みです。SMやPO同士が横でつながり、経験や課題を共有することで、彼ら自身も三角形のネットワークの一員となり、孤立を防ぎます。
Scrum@Scaleではこの発想をフラクタルに拡大し、組織全体が三角形を基盤に運営されることを狙います。

このように三角形は、SMやPOといった“孤独になりがちな役割”にとっても、大きな支えになります。仲間とのつながりは、彼らを「一人で抱え込む役」から解放してくれるのです。

三角形だけでは同質化する?

ここまで見ると「三角形こそ万能」に思えますが、それだけでは限界もあります。
強い三角形のつながりは心理的安全性を高めますが、同時に内向きに閉じてしまい、外からの新しい知見や視点を取り込めなくなる恐れがあります。

ここで鍵となるのが 緩い紐帯(weak ties) です。
グラノヴェッターの社会学研究が示すように、弱いつながりは新しい情報やアイデアをもたらします。

スクラムにおいては、SoSやメタスクラムがまさにこの役割を担います。SM同士の緩やかなつながり、PO同士の横断的なネットワーク、さらには外部の顧客や他部門との接点が、組織に新しい風を吹き込みます。

強い三角形が安心を与え、緩い紐帯が刺激を与える。
その両輪が揃うことで、組織は優しさを保ちながら、同時に外からの新しい視点を取り入れ、学習を続けることができます。

書籍『トリニティ組織』がWhyを、『スクラム』がHowを示す

『トリニティ組織』は「なぜ、幸せな組織が速く、うまくいくのか?」というWhyをデータと科学で明らかにしました。
『スクラム』は「どうやって、その幸せな組織を作るのか?」というHowを具体的なイベントやルールとして提供します。

スクラムに慣れ親しんだ方がトリニティ組織を参考に、その実践をより強化していくことができるものと思います。

まとめ

三角形は「優しい形」でありながら、誤解や待ち時間を消す強い構造でもあります。
スクラムは三角形を自然に増やすフレームワークであり、SoSや外部連携を通じて緩い紐帯を取り込みます。

幸福なチームづくりに悩んでいる方は、まず『トリニティ組織』でWhyを理解し、『スクラム』でHowを学んでみてはいかがでしょうか。

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