Prismaしか知らない私が、DrizzleというORMについて調べてみたぜ

本記事のサマリ

Prismaを使ってきた私が、最近注目されているDrizzle ORMについて調べてみました。型の扱いやマイグレーション周り、そして機能面でPrismaとどう違うのかを実際のドキュメントや比較記事を元に整理しています。SQLに近い記述ができる点や軽量性は魅力的でしたが、Prismaの安定感とも比較してどちらを選ぶか悩ましいところです。

なぜDrizzleを調べることになったのか

普段の開発では、Next.jsアプリでPrismaを使っています。schema.prismaファイルにモデル定義を書いて、prisma migrate devでマイグレーションを生成し、生成されたクライアントで型安全にクエリを書く。この流れがとても気に入っていて、特にマイグレーションの安心感は抜群ですよね。チームで開発していてもデータベーススキーマの管理で困ることはほとんどありません。

そんな中で、最近TypeScript界隈でDrizzle ORMという新しいツールが話題になっているのを見かけるようになりました。「軽量」「高速」「SQL-like」といったキーワードが目に入り、Prismaとはだいぶ違うアプローチを取っているらしいことが分かってきました。

特に気になったのは、型の扱いとマイグレーション周りです。Prismaの良さを知っているだけに、Drizzleはその辺りどうなんだろう？と思ったのが調べ始めたきっかけです。

型の扱い - TypeScriptとの関係性

Prismaのアプローチ

Prismaは皆さんご存知の通り、schema.prismaという専用ファイルでモデルを定義します。

model User {
  id    Int     @id @default(autoincrement())
  email String  @unique
  name  String?
  posts Post[]
}

model Post {
  id       Int     @id @default(autoincrement())
  title    String
  content  String?
  author   User    @relation(fields: [authorId], references: [id])
  authorId Int
}

このスキーマから prisma generateコマンドでTypeScriptの型とクライアントを生成し、それを使ってクエリを書きます。

const user = await prisma.user.findUnique({
  where: { id: 1 },
  include: { posts: true }
})
// user の型は完全に推論される

この仕組みの良いところは、完全な型安全性が保証されることです。存在しないフィールドにアクセスしようとすればコンパイル時にエラーになるし、リレーションの型も正確に推論されます。

Drizzleのアプローチ

一方でDrizzleは、TypeScriptで直接スキーマを定義します。

import { pgTable, serial, text, varchar } from 'drizzle-orm/pg-core';
import { relations } from 'drizzle-orm';

export const users = pgTable('users', {
  id: serial('id').primaryKey(),
  email: varchar('email', { length: 255 }).notNull().unique(),
  name: text('name')
});

export const posts = pgTable('posts', {
  id: serial('id').primaryKey(),
  title: varchar('title', { length: 255 }).notNull(),
  content: text('content'),
  authorId: integer('author_id').references(() => users.id)
});

export const usersRelations = relations(users, ({ many }) => ({
  posts: many(posts)
}));

このスキーマ定義がそのまま型になるので、生成ステップが不要です。TypeScriptの型推論をそのまま活用できるのが特徴的でした。

const [user] = await db.select().from(users).where(eq(users.id, 1));
// user の型はスキーマ定義から直接推論される

これは確かに便利で、スキーマを変更したらすぐにTypeScriptが反応してくれます。Prismaだと prisma generateを実行するまで型が更新されないので、その点でDrizzleの方がフィードバックが早いですね。

型安全性について気になる点

ただし、調べていく中で気になる情報も見つかりました。Prismaの公式比較ページで、「Drizzleは完全に型安全ではない」という指摘がありました。具体的には、クエリ構築時に無効なクエリを書けてしまう場合があるということのようです。

この点については、第三者による詳細な検証記事もあります。

https://github.com/thetutlage/meta/discussions/8

上記の記事では「Drizzle gives the impression of type-safety. However, only the query results have type information. You can write invalid queries with Drizzle.」と指摘されており、クエリ結果の型は安全だが、クエリ構築時の型チェックには課題があるようです。
（だいぶ前の記事ですが、コメント見る限りまだ残ってるかも?）

Prismaの方が型安全性では一歩リードしているのかもしれません。ただし、実際の開発ではDrizzleでも十分な型安全性を得られるケースが多いとは思います。

マイグレーション周りの比較

Prismaのマイグレーション

Prismaのマイグレーションは本当によくできていて、schema.prismaが「唯一の真実の源（Single Source of Truth）」として機能します。スキーマを変更して prisma migrate devを実行すれば、Prismaが差分を自動検出してSQLマイグレーションファイルを生成してくれます。

npx prisma migrate dev --name add-user-profile

このコマンドで、現在のスキーマと前回の状態を比較して、必要なCREATE TABLE、ALTER TABLEなどを自動生成します。マイグレーション履歴もきちんと管理されるし、本番環境では prisma migrate deployで安全に適用できます。

DrizzleのマイグレーションはDrizzle Kit

DrizzleではDrizzle Kitという別ツールでマイグレーションを管理します。

npm i -D drizzle-kit

基本的な流れはPrismaと似ていて、スキーマの変更を検出してSQLファイルを生成します。

npx drizzle-kit generate  # マイグレーションファイル生成
npx drizzle-kit migrate   # マイグレーション実行
npx drizzle-kit push      # 開発時の直接適用
npx drizzle-kit pull      # DBからスキーマを逆生成

コマンドの種類はPrismaより豊富で、特に pull（DBからスキーマを逆生成）や push（開発時の直接適用）があるのは便利そうです。

設定は drizzle.config.tsファイルで行います。

import { defineConfig } from "drizzle-kit";

export default defineConfig({
  dialect: "postgresql",
  schema: "./src/schema.ts",
  out: "./drizzle",
  dbCredentials: {
    url: process.env.DATABASE_URL!
  }
});

マイグレーションで感じた違い

Drizzleの方がSQLファイルを直接編集しやすそうな印象を受けました。生成されたマイグレーションファイルに手を加えたい場合、Drizzleの方が素直にできそうです。

ただし、全体的な自動化レベルはPrismaの方が高い気がします。Prismaは「スキーマファイルを変更すれば、あとはよろしくやってくれる」感じがあるのに対して、Drizzleはもう少し手動でやることが多い印象でした。

機能面での詳細比較

スキーマ定義の違い

この違いは結構大きいですね。PrismaのPSL（Prisma Schema Language）は独自言語ですが、非常に読みやすくて直感的です。

model User {
  id       Int      @id @default(autoincrement())
  email    String   @unique
  posts    Post[]
  profile  Profile?
}

一方のDrizzleはTypeScriptの関数呼び出しでテーブルを定義します。

export const users = pgTable('users', {
  id: serial('id').primaryKey(),
  email: varchar('email').unique(),
});

どちらも一長一短で、PSLの方が宣言的で読みやすいですが、DrizzleのTypeScriptアプローチの方が既存の知識を活用できますね。

クエリAPIの哲学の違い

ここが一番大きな違いかもしれません。

Prismaはエンティティ志向で、SQLを隠蔽した高レベルなAPIを提供します。

const users = await prisma.user.findMany({
  where: {
    posts: {
      some: { published: true }
    }
  },
  include: { posts: true }
});

DrizzleはSQL-likeな記述で、SQLに慣れた人なら直感的に書けます。

const users = await db.select({
  id: users.id,
  email: users.email,
  postCount: sql`count(${posts.id})`.as('post_count')
})
.from(users)
.leftJoin(posts, eq(users.id, posts.authorId))
.where(like(users.email, '[e-mail]%'))
.groupBy(users.id);

SQLに詳しい人にとっては、Drizzleの方が「何が起こっているか分かりやすい」かもしれません。一方で、SQLにあまり慣れていない人にとっては、Prismaの方が書きやすいでしょう。

リレーション処理

Prismaの強みの一つがリレーション処理です。ネストした作成・更新が簡単にできます。

const user = await prisma.user.create({
  data: {
    email: '[e-mail]',
    posts: {
      create: [
        { title: 'First Post', content: 'Hello World' }
      ]
    }
  }
});

Drizzleでもリレーションクエリは可能ですが、作成・更新時のネスト処理は手動で行う必要があります。

// まずユーザーを作成
const [user] = await db.insert(users)
  .values({ email: '[e-mail]' })
  .returning();

// その後でpostを作成
await db.insert(posts)
  .values({ title: 'First Post', authorId: user.id });

このあたりは、Prismaの方が開発者体験が良いですね。

エコシステムの成熟度

Prismaは2021年にリリースされて以来、豊富なエコシステムが育っています。Prisma Studio、各種ジェネレータ、公式のAccelerate（コネクションプール）やOptimize（クエリ分析）などの商用製品もあります。

Drizzleは比較的新しいツールで、エコシステムはこれから成長していく段階です。ただし、Drizzle Studioなど基本的なツールは揃い始めています✨

パフォーマンスと軽量性

調べている中で興味深かったのは、Drizzleが軽量性を強く意識していることです。公式ドキュメントでも「~7.4kb minified+gzipped」「tree shakeable」と謳っています。

これは特にserverless環境で重要で、コールドスタート時間やバンドルサイズに敏感なアプリケーションでは大きなメリットになりそうです。

Prismaも十分に高速ですが、より多くの抽象化を提供している分、若干のオーバーヘッドがあるのは確かです。この点では、用途によってDrizzleに分があるかもしれませんね。

私なりの考察

Prismaの良さを再認識

Drizzleを調べることで、逆にPrismaの良さを再認識しました。特にチーム開発での安定感は抜群です。schema.prismaという単一ファイルでデータモデルを管理し、マイグレーションも自動化されている。新しいメンバーがジョインしても、スキーマファイルを見れば全体像が分かります。

エコシステムの成熟度も重要で、困ったときにドキュメントや情報が豊富にあるのは大きなアドバンテージです。

Drizzleの魅力

一方でDrizzleも確かに魅力的です。TypeScriptで直接書けるスピード感は体験してみたくなります。特に、スキーマ変更が即座に型に反映されるのは、開発中のフィードバックループが短くて良さそうです。

SQL-likeな記述も、SQLに慣れている人にとっては自然で、「裏で何が起こっているか」が分かりやすいのは安心感があります。

プロジェクトによって選択は変わりそう

結局のところ、どちらを選ぶかはプロジェクトの性質とチームによって決まりそうです。

Prismaが向いているのは：

• チーム開発でSQL経験にばらつきがある
• 安定したマイグレーション管理が重要
• エコシステムの豊富さを活用したい
• 抽象化されたAPIで開発効率を重視したい

Drizzleが向いているのは：

• SQLに詳しいメンバーが多い
• パフォーマンスとバンドルサイズを重視したい
• serverless環境での運用がメイン
• TypeScriptとの密な統合を重視したい

個人的には、新規でserverlessメインのプロジェクトならDrizzleを試してみたい気持ちはあります。ただし、既存のPrismaプロジェクトを移行するほどの決定的なメリットは感じませんでした。

（Vercel環境でデプロイするなど、Edge Functionのような環境での実行を想定するなら一度使うのはアリかもですね）

まとめ

Drizzleを調べてみて、確かに魅力的なORMだと感じました。TypeScriptでの開発体験や軽量性、SQLに近い記述スタイルなど、Prismaとは違った良さがあります。

ただし、Prismaの安定感や成熟したエコシステム、チーム開発での使いやすさも捨てがたい要素です。どちらも素晴らしいツールで、プロジェクトの要件とチームのスキルセットに応じて選択すれば良いのではないでしょうか。

新規プロジェクトであれば、両方を検討する価値はありそうです👍。既存プロジェクトでの移行については、移行コストと得られるメリットを慎重に比較検討する必要がありますね。

どちらを選んでも、TypeScriptでの型安全なデータベース操作は実現できるので、まずは小さなプロジェクトでDrizzleを試してみるのも良いかもしれません。

参考リンク

https://orm.drizzle.team/docs/overview

https://www.prisma.io/docs

https://www.prisma.io/docs/orm/more/comparisons/prisma-and-drizzle

https://betterstack.com/community/guides/scaling-nodejs/drizzle-vs-prisma/