マルチプラットフォームアプリ開発の利用実態をデータで比較する
マルチプラットフォームアプリ開発とは
マルチプラットフォーム開発とは、単一のコードベースから、iOSとAndroid両方のアプリケーション(Flutter や Kotlin Multiplatform などはデスクトップ・Webも)を構築する手法です。本記事ではモバイル(iOS/Android)を主な対象とします。
近年はフレームワークの成熟と端末のスペック向上により、多くの商用アプリで採用される標準的な選択肢の一つとなっています。
マルチプラットフォームアプリ開発のメリット・デメリット
マルチプラットフォームの構造的なメリットと、一般的に挙げられることが多いデメリットとして以下のものがあります。
メリット
- 開発・保守コストの削減: コードを共通化することで開発工数や保守リソースを削減でき、結果としてリリースまでの期間短縮にもつながる
- 仕様の均質化: iOSとAndroidで別々のチームが開発する場合に起こりがちな「OS間の仕様や挙動のズレ」を構造的に防ぎやすい
デメリット
- 新OS機能への追従: AppleやGoogleが新しいOSの機能を発表した際、フレームワーク側やサードパーティ製ライブラリが対応するまでにタイムラグが発生することがある
- デバイス低レベル機能連携時の複雑化: Bluetooth・プッシュ通知の詳細制御など、OSの低レベルな機能に踏み込む際は結局プラットフォーム別のネイティブコードを書く必要が生じるケースもあり、結果的にアーキテクチャがネイティブ単体開発より複雑になる場合がある
- デバッグ・原因切り分けの難しさ: 不具合が「フレームワーク側」「ネイティブ側」「両者をつなぐ連携部分」のどこに起因するか切り分けにくく、単一OS向けのネイティブ開発と比べて調査コストが増えることがある
主なマルチプラットフォームフレームワークの選択肢
現在、モバイルアプリ開発において利用可能なマルチプラットフォームフレームワークには、以下のようなものがあります。[1]
- Flutter (Google)
- React Native (Meta)
- Kotlin Multiplatform / KMP (JetBrains)
- Cordova (Apache)
- Ionic (Ionic)
- Xamarin / .NET MAUI (Microsoft)
- Unity (Unity Technologies - ※主にゲーム用)
本記事では、この中から2026年時点の非ゲームアプリ市場で特に使用されることが多い3つのフレームワーク(Flutter、React Native、Kotlin Multiplatform)に絞って、そのアーキテクチャと動向を解説します。
Flutter
- 開発元 / 言語: Google / Dart
- アーキテクチャ: DartでUIを記述し、Flutterの描画エンジンで画面を描画します。UIを含めたコード共有を基本としつつ、必要に応じてプラットフォーム固有の実装も追加できます。
- 特徴: 独自レンダリングのため「全プラットフォームで統一されたカスタムデザイン」を実現しやすい反面、OSネイティブのAPIを呼び出す際は「プラットフォームチャネル(Platform Channel)」という通信経路を挟む必要があります。ホットリロードによる高速な開発サイクルも強みです。
- 向いているケース: 全プラットフォームで独自デザインのUIを統一したい場合や、UIを含めた単一コードベースでアプリを作りたい場合。[2][3]
React Native
- 開発元 / 言語: Meta / JavaScript・TypeScript
- アーキテクチャ: JavaScript・TypeScriptから各OSのネイティブUIコンポーネントを利用して画面を構築します。新アーキテクチャ(JSI / Fabric)では、従来のJSブリッジのオーバーヘッドが改善されています。
- 特徴: WebのReactと同じ思想・エコシステムを活用できるため、JavaScript/Web開発の知見をそのまま生かせます。ライブラリやコミュニティの層が厚く、プロトタイピングや素早い市場投入に強みがあります。
- 向いているケース: チームにJavaScript/Web開発の知見が豊富にあり、素早くプロトタイプを作りたい、またはスピーディーにリリースしたい場合。[4][5]
Kotlin Multiplatform
- 開発元 / 言語: JetBrains / Kotlin
- アーキテクチャ: Kotlinで書いた共有コードを各プラットフォーム向けにコンパイルします。共有範囲はビジネスロジックの一部から、Compose Multiplatformを使うUIまで選べ、プラットフォーム固有のコードも併用できます。
- 特徴: 既存のネイティブアプリに部分的・段階的に導入できるため、ネイティブ品質を維持しながらロジックだけを共通化する、といった使い方が可能です。UIは各OSネイティブで作り込み、裏側のロジックのみ共有する構成が取りやすい設計です。
- 向いているケース: パフォーマンスや長期的な保守性、OS本来のネイティブな操作感を最優先したい場合や、UIはネイティブで作りつつロジックを共通化したい場合。[6][7]
フレームワークの比較
ここからは、各フレームワークが実際にどの程度使われているかを以下の3つの観点からデータで比較します。
- GitHub Star数: 開発者コミュニティの関心度を示す指標
- アプリストアでの実利用状況(appfigures): 実際に公開されているアプリでのSDK採用率
- 開発者アンケート: 開発者が実際に使っている技術の割合
いずれも出典がある程度信頼できるものに絞って調査しました。
GitHub Star数(2026/8 時点)
開発者コミュニティの関心度を示す指標です。
| フレームワーク | Star数 |
|---|---|
| Flutter | 約178k[8] |
| React Native | 約126k[9] |
| KMP | 約19k[10] |
補足: GitHub Star数はあくまで開発者コミュニティの関心度を示す一指標であり、実際のアプリでの採用率とは必ずしも一致しません。特にKMPは言語本体(
JetBrains/kotlin)とUIフレームワーク(JetBrains/compose-multiplatform)でリポジトリが分かれており、上記の数値はUI部分であるCompose Multiplatformのものです。単純な横並び比較には向かない点に注意してください。
アプリストアでの実利用状況(appfigures)
appfigures はストア上のアプリを解析し、どのSDKが使われているかを調べています。
古いものもありますが、以下では公開されている「既存アプリ全体」「新規アプリ」「トップ1万アプリ」という3つのデータを見ていきます。
既存アプリ全体でのSDK検出率(2026/8現在)
各SDKが検出されたアプリの割合です。各OSのネイティブ言語(iOS: Swift、Android: Kotlin)を基準として併記します。1つのアプリに複数のSDKが含まれることがあるため、合計は100%になりません。[11]
| SDK / 言語 | App Store(iOS) | Google Play(Android) |
|---|---|---|
| ネイティブ(iOS: Swift、Android: Kotlin) | 約84% | 約79% |
| Flutter | 約16% | 約24% |
| React Native | 約15% | 約19% |
| KMP | データなし | データなし |
新規リリースアプリでの採用率(2024/1〜10)
既存アプリ全体ではなく「新しく公開されたアプリ・ゲーム」に絞ったデータです。
なお、これは2024年1〜10月のデータで、やや古い点に留意してください。[12]
| フレームワーク | 新規アプリでの検出率 |
|---|---|
| Flutter | 11.07% |
| React Native | 6.75% |
| KMP | データなし |
トップ1万アプリ(非ゲーム)での利用率(2025/12 時点)
App Store の非ゲーム上位1万アプリを対象にしたデータです。[13]
| フレームワーク | 該当アプリ数(/10,000) |
|---|---|
| React Native | 1,350 |
| Flutter | 1,184 |
| KMP | 218 |
開発者アンケートでの利用状況
開発者が実際に使っている技術についてのアンケートのデータです。
ストアからのSDKの利用率とは別の角度から、技術の勢いを把握できます。
Stack Overflow Developer Survey
世界最大級の開発者コミュニティである Stack Overflow が毎年実施している調査です。
以下は2024年版のデータで、こちらもやや古いですが、回答者のうち、9.4%がFlutterを、8.4%がReact Nativeを「利用している」と回答しました。[14]
| フレームワーク | 2024年 利用率 |
|---|---|
| Flutter | 9.4% |
| React Native | 8.4% |
| KMP | データなし |
2025年版ではこの調査項目がなくなっており、データが見つかりませんでした。
JetBrains Developer Ecosystem Survey
Kotlin や IntelliJ IDEA の開発元である JetBrains が毎年実施している大規模な開発者調査です。
この調査には「利用しているマルチプラットフォーム技術」を尋ねる設問があり、回答者が使っているものを複数選択で答えます。
直近2回の調査を比較すると、KMP の利用率は 2024年の 7% から 2025年には 18% へと、1年で2倍以上に増加しています。一方 Flutter・React Native は高い水準を維持しつつ、ほぼ横ばい〜微減となっています。[15]
| フレームワーク | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|
| Flutter | 42% | 37% |
| React Native | 39% | 37% |
| KMP | 7% | 18% |
補足: JetBrains は Kotlin/KMP の開発元であり、回答者に Kotlin ユーザーが多く含まれる可能性があります。KMP に有利なバイアスがかかりうる点は割り引いて読む必要があります。
まとめ
- GitHub Star数・開発者アンケート・ストアでの検出率のいずれでもFlutterとReact Native が上位を占めます。ただしどちらが上かは指標によって入れ替わり(たとえばトップ1万アプリの利用数では React Native、GitHub Star数では Flutter が上)、優劣を一概に断じることはできません。
- JetBrainsの調査ではKMP利用率が1年で2倍以上(7%→18%)に伸びています。Kotlin公式もこの増加をKMPへの関心と開発者の信頼の高まりを示すものと位置づけています。[15:1]
- UIまで含めて全プラットフォームで統一したいなら Flutter、Web/JavaScript の資産やスキルを生かして素早く開発したいなら React Native、ネイティブ品質を保ちつつロジックを共通化したいなら KMP、と各フレームワークの「向いているケース」がそのまま選定基準になるかと思います。
「どれが絶対的に優れているか」という唯一の正解はなく、チームのスキルセット・UIへの要件・長期的な保守性を天秤にかけて選ぶことが重要です。
-
Cross-platform mobile frameworks(Kotlin 公式ドキュメント) https://kotlinlang.org/docs/multiplatform/cross-platform-frameworks.html ↩︎
-
Flutter 公式サイト https://flutter.dev/ ↩︎
-
Kotlin Multiplatform and Flutter: A Comparison(Kotlin 公式ドキュメント) https://kotlinlang.org/docs/multiplatform/kotlin-multiplatform-flutter.html ↩︎
-
React Native 公式サイト https://reactnative.dev/ ↩︎
-
Kotlin Multiplatform and React Native: A Comparison(Kotlin 公式ドキュメント) https://kotlinlang.org/docs/multiplatform/kotlin-multiplatform-react-native.html ↩︎
-
Kotlin Multiplatform(Kotlin 公式ドキュメント) https://kotlinlang.org/docs/multiplatform.html ↩︎
-
Compose Multiplatform(JetBrains) https://www.jetbrains.com/compose-multiplatform/ ↩︎
-
flutter/flutter(GitHub) https://github.com/flutter/flutter ↩︎
-
facebook/react-native(GitHub) https://github.com/facebook/react-native ↩︎
-
JetBrains/compose-multiplatform(GitHub)。KMPの言語本体は
JetBrains/kotlinに含まれる。 https://github.com/JetBrains/compose-multiplatform ↩︎ -
Top SDKs(appfigures)。ストア上の既存アプリを対象としたSDK検出率のスナップショット(閲覧時点の最新値を表示するライブページ)。 https://appfigures.com/top-sdks/development/all ↩︎
-
Appfigures Insights(2024/10/25)。2024年1〜10月に新規公開されたアプリ・ゲームでの検出率。 https://appfigures.com/resources/insights/20241025 ↩︎
-
This Week in Apps(appfigures、2025/12/19)。App Store 非ゲーム上位1万アプリでの利用状況。 https://appfigures.com/resources/this-week-in-apps/20251219 ↩︎
-
Stack Overflow Developer Survey 2024(Technology / Other frameworks and libraries)。 https://survey.stackoverflow.co/2024/technology ↩︎
-
「Which cross-platform mobile frameworks do you use?」(JetBrains: The State of Developer Ecosystem Report のデータ。Kotlin 公式ドキュメント「Ten reasons to adopt Kotlin Multiplatform」内に掲載)。https://kotlinlang.org/docs/multiplatform/multiplatform-reasons-to-try.html#why-you-should-try-kotlin-multiplatform-in-your-projects ↩︎ ↩︎
Discussion