EUのEV政策は失敗したのか?(後編)― 規制はなぜ現場を救えなかったのか
本記事は「EUのEV政策は失敗したのか?」前編の続きである。
前編では、技術ではなく制度設計の観点からEUのEV政策を整理した。
- なぜEUでは「制度先行」になりやすかったのか
ここで重要なのは、
「EUが愚かだった」「理想主義だった」といった評価をしないことだ。
むしろ逆で、
EUという仕組みなら、この順序になりやすい。
仏:理念を制度に落とす文化
フランスは歴史的に、
普遍的価値を掲げ
それを制度として実装し
現実を制度に合わせていく
という思考様式を持っている。
脱炭素や環境正義は、
フランス的には「議論の余地がない正しさ」になりやすい。
その正しさを
ルールとして固定すること自体が、政治的成果になる。
独:技術は後から必ず追いつくという前提
一方でドイツは、
自国の技術力
産業基盤
エンジニアリング文化
に対する強い信頼がある。
制度が先に決まっても、
「最終的には技術が解決する」という前提が置かれやすい。
この組み合わせは一見すると相性が良い。
仏が理念と制度を提示し
独が技術で現実化する
しかしこれは、
技術が未成熟な分野では危うい。
EUという合意形成装置の制約
さらにEU全体を見ると、
加盟国ごとに事情が違う
全員が納得する詳細設計は困難
結果として、単純で分かりやすい指標が好まれる
その象徴が
「走行時ゼロエミッション」という単一指標だった。
これは合意を作るには強いが、
技術進化の多様性を切り捨てる。
こうして、
理念 → 単純化された制度 → 技術への過剰要求
という順序が、
ほぼ必然的に出来上がった。
- その結果、技術側に何が起きたのか
制度と技術の順序が逆転すると、
技術開発そのものが止まるわけではない。
代わりに起きるのは、
進化の方向が歪むことだ。
バッテリー:ボトルネックの固定化
EVの本質的課題は、
エネルギー密度
資源制約
製造・廃棄の環境負荷
にある。
しかし制度が先に「EV一本」に固定されると、
これらの制約を前提として受け入れるしかなくなる。
結果として、
小幅な改良の積み重ね
製造規模によるカバー
他地域への環境負荷の外部化
といった対応に寄りやすい。
これは技術停滞ではなく、
制度に適合するための最適化だ。
モーター:出口最適化の進化
近年話題になる高出力・小型モーターも同様だ。
確かに技術的には進歩している。
しかしそれは、
供給されるエネルギー量
電力インフラ
資源制約
を根本から解決するものではない。
制度が固定された状態では、
出口(モーター)側で工夫するしかない。
これもまた、
制度が技術を追い越したときに典型的に起きる現象だ。
レアアース:見えなくされたコスト
もう一つの歪みは、
サプライチェーンの外側に現れる。
EVは「クリーン」に見えるが、
採掘
精錬
廃棄
の負荷は消えていない。
それがEU域外に押し出されることで、
制度上は「達成」できてしまう。
これは意図的な悪意というより、
制度がカバーしていない領域が可視化されただけとも言える。
暫定まとめ:失敗ではなく、調整局面
ここまで見てきたように、
EUのEV政策は
成功でも失敗でもない。
制度と技術の順序が逆転したことで生じた歪みを、
いま調整している段階にある。
EVが否定されたわけでも、
内燃機関が復権したわけでもない。
ただ、
技術が成熟する前に
制度が完成してしまった
その現実と、
いま向き合っているだけだ。
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