この記事シリーズでは、航空機を質点とみなした場合の運動方程式を導出し、なぜそのような方程式になるのか?方程式の各部分の意味はどんなものか?について説明します。
この記事を書こうと思った動機や背景は、こちらの記事に書いてあります。また、この記事シリーズ全体の構成や、各記事へのリンクも、こちらの記事から確認することができます。
質点としての航空機の運動方程式 Part 0 - 航空交通や軌道最適化に用いられる飛行ダイナミクス
この記事シリーズは、私の博士論文の Appendix B: Derivation of the Aircraft EoM を英語から日本語に翻訳し、加筆を加えたものです。元論文はここから読めます。もしご自身の論文等でこの記事を参照される場合は、この博士論文を参照してください。
ある1つの基底を中心とした回転によって、他の2つの基底がどのように変換されるか
ある3次元座標系の基底が \bm{e}_x-\bm{e}_y-\bm{e}_z で表されるとします。ここで、例えば \bm{e}_x は x 方向の単位ベクトルです。
まず、この座標系を \bm{e}_z を軸として角度 \Theta だけ回転させてみます。下の図 1.1.1 の一番左の図を参照してください。回転の方向は、\bm{e}_x から \bm{e}_y に向けてです。この回転により得られた新しい座標系の基底を、\bm{e}^{'}_x-\bm{e}^{'}_y-\bm{e}_z で表すことにします。ここで、当然ですが回転軸である \bm{e}_z は、回転の前後で変化しません。

図 1.1.1: x, y, z の各軸を中心に角度 \Theta だけ回転させるとどのようになるか?のイメージ図。各軸に対して、この図で示された向きの回転を「正の向きの回転」と呼びます。この記事内では、「\Theta 等の角度が正である」とは、回転がこの図の向きで行われる、という意味であるものとします。
この回転によって、基底 \bm{e}_x-\bm{e}_y-\bm{e}_z はどのように変化するでしょうか?下の図をもとに考えてみましょう。

図1.1.2: z 軸を中心とした角度 \Theta の回転を、x-y 平面で描いたもの。
上述のように、\bm{e}_z はこの回転によって変化しないので、\bm{e}_x-\bm{e}_y 平面でこの回転を図示することにします。特に \bm{e}_x から \bm{e}^{'}_x に変化する回転だけを抜き出すと、下の図1.1.3のようになります。

図1.1.3: この回転による、\bm{e}_xから\bm{e}^{'}_x への変化。
図1.1.3より、回転後の基底 \bm{e}^{'}_x の x 成分(つまり \bm{e}_x 方向の成分)は、|\bm{e}^{'}_x| \cos{\Theta} と表されることが分かります。ここで、|\bm{e}^{'}_x| は、ベクトル \bm{e}^{'}_x の長さです。
ところで、我々は最初に、「\bm{e}_x は単位ベクトルである」と定義しました。これは言い換えると、「\bm{e}_x の長さは 1 である」ということと同じです。ということは、これをただ \Theta だけ回転しただけの \bm{e}^{'}_x の長さもまた、1 であるはずです。
以上をふまえると、\bm{e}^{'}_x の x 成分 |\bm{e}^{'}_x| \cos{\Theta} は結局、\cos{\Theta} と同じだということが分かります。
同様に、\bm{e}^{'}_x の y 成分(つまり \bm{e}_y 方向の成分)は、\sin{\Theta} と表されることも分かります。
したがって、回転後の x 方向の基底 \bm{e}^{'}_x は、回転前の基底 \bm{e}_x、\bm{e}_y と回転角 \Theta を用いて、次のように表されることが分かります。
\begin{aligned}
\bm{e}^{'}_x \; &= \; \cos{\Theta} \, \bm{e}_x \; + \; \sin{\Theta} \, \bm{e}_y
\end{aligned} \;\;\;\;\;\;\;\;\; (1.1.1)
y 方向の基底 \bm{e}^{'}_y についても、下の図1.1.4を参考に同じように考えます。

図1.1.4: この回転による、\bm{e}_y から \bm{e}^{'}_y への変化。
すると、回転後の y 方向の基底 \bm{e}^{'}_y は、回転前の基底 \bm{e}_x、\bm{e}_y と回転角 \Theta を用いて、次のように表されることが分かります。
\begin{aligned}
\bm{e}^{'}_y \; &= \; - \, \sin{\Theta} \, \bm{e}_x \; + \; \cos{\Theta} \, \bm{e}_y.
\end{aligned} \;\;\;\;\;\;\;\;\; (1.1.2)
式 (1.1.1) と (1.1.2) の意味は、新しい基底は、元の基底を用いて表すとこのように表されるということであると理解できます。あるいは、新しい基底と元の基底の関係を数式で表すとこのようになるという意味である、とも捉えられます。
ところで、式 (1.1.1) と (1.1.2) は、次のように行列を使って書き直すことができます。
\underbrace{
\begin{bmatrix}
\bm{e}^{'}_x\\
\bm{e}^{'}_y
\end{bmatrix}
}_{\text{変換後の基底}}
\; = \;
\underbrace{
\begin{bmatrix}
\cos{\Theta} & \sin{\Theta}\\
- \, \sin{\Theta} & \cos{\Theta}
\end{bmatrix}
}_{\text{回転行列}}
\underbrace{
\begin{bmatrix}
\bm{e}_x\\
\bm{e}_y
\end{bmatrix}
}_{\text{変換前の基底}} \;\;\;\;\;\;\;\;\; (1.1.3)
式 (1.1.1) 、(1.1.2) と (1.1.3) は、見た目こそ違うものの、全く同じ式です。式 (1.1.3) の2つの成分をそれぞれバラして計算すると、(1.1.1)、(1.1.2) それぞれに対応することが分かるはずです。
また、式 (1.1.3) において、\sin や \cos を用いて表される行列を、回転行列 (rotation matrix)などと呼びます。上の式 (1.1.3) を見ると、回転による基底の変換では、元の基底に、その回転に対応する回転行列をかけたものが、新しい基底となると分かります。
ところで、z 軸周りのこの回転では、 x 方向と y 方向の基底、すなわち \bm{e}_x と \bm{e}_y は変換されるものの、z 方向の基底、すなわち \bm{e}_z は変化しないため、式 (1.1.3) では \bm{e}_z についての記述を省略しました。もしこの \bm{e}_z についての記述もあえて含めると、式 (1.1.3) は次のような、より一般的な形で書き表せます。
\underbrace{
\begin{bmatrix}
\bm{e}^{'}_x\\
\bm{e}^{'}_y\\
\bm{e}_z
\end{bmatrix}
}_{\text{変換後の基底}}
\; = \;
\underbrace{
\begin{bmatrix}
\cos{\Theta} & \sin{\Theta} & 0\\
- \, \sin{\Theta} & \cos{\Theta} & 0\\
0 & 0 & 1
\end{bmatrix}
}_{\text{回転行列}: \, R_z \, (\Theta)}
\underbrace{
\begin{bmatrix}
\bm{e}_x\\
\bm{e}_y\\
\bm{e}_z
\end{bmatrix}
}_{\text{変換前の基底}} \;\;\;\;\;\;\;\;\; (1.1.4)
ここで便宜上、z 軸周りに角度 \Theta だけ回転させる場合の回転行列を R_z \, (\Theta) と表すことにします。
同様に、y 軸周りの角度 \Theta の回転(\bm{e}_z から \bm{e}_x に向けての回転)による基底の変換は、次のような式で表されます。
\begin{bmatrix}
\bm{e}^{''}_x\\
\bm{e}_y\\
\bm{e}^{''}_z
\end{bmatrix}
\; = \;
\underbrace{
\begin{bmatrix}
\cos{\Theta} & 0 & - \, \sin{\Theta}\\
0 & 1 & 0\\
\sin{\Theta} & 0 & \cos{\Theta}
\end{bmatrix}
}_{R_y \, (\Theta)}
\begin{bmatrix}
\bm{e}_x\\
\bm{e}_y\\
\bm{e}_z
\end{bmatrix} \;\;\;\;\;\;\;\;\; (1.1.5)
この場合の回転行列を便宜上、R_y \, (\Theta) と表すことにします。
更に、x 軸周りの角度 \Theta の回転(\bm{e}_y から \bm{e}_z に向けての回転)による基底の変換は、次のような式で表されます。
\begin{bmatrix}
\bm{e}_x\\
\bm{e}^{'''}_y\\
\bm{e}^{'''}_z
\end{bmatrix}
\; = \;
\underbrace{
\begin{bmatrix}
1 & 0 & 0\\
0 & \cos{\Theta} & \sin{\Theta}\\
0 & - \, \sin{\Theta} & \cos{\Theta}
\end{bmatrix}
}_{R_x \, (\Theta)}
\begin{bmatrix}
\bm{e}_x\\
\bm{e}_y\\
\bm{e}_z
\end{bmatrix} \;\;\;\;\;\;\;\;\; (1.1.6)
この場合の回転行列を便宜上、R_x \, (\Theta) と表すことにします。
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Part 1.2: 数学の準備 - 複数の回転が組み合わさった場合の基底の変換
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