Marcel予測と実際の勝利数の乖離から見る2021年ヤクルト・オリックスの優勝要因
はじめに
Marcel法は、過去3年の個人成績を加重平均して翌年を予測する手法です。現状の延長線上を示すモデルであるため、チームの急変には反応しにくい特性があります。
2021年は、両リーグで前年最下位のチームが優勝しました。
- 東京ヤクルトスワローズ:2020年最下位 → 2021年セ・リーグ優勝
- オリックス・バファローズ:2020年最下位 → 2021年パ・リーグ優勝
自作のNPB成績予測アプリのMarcel予測データを使い、この2チームの予測と実績の関係を整理します。
はじめての方へ:この記事で登場する用語
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| Marcel法 | 過去3年の成績を加重平均して翌年を予測するシンプルな手法。重みは直近ほど高い(5:4:3) |
| ピタゴラス勝率 | 得点(RS)と失点(RA)の比率からチームの理論勝率を計算する式。RS^1.83 / (RS^1.83 + RA^1.83)
|
| wOBA | 重み付き出塁率。四球・単打・二塁打・本塁打などに異なる重みをつけた打撃総合指標 |
| ERA(防御率) | 9イニング当たりの自責点。投手の基本的な成績指標 |
| MAE | 平均絶対誤差。予測と実績のずれの平均。小さいほど精度が高い |
まず確認:Marcel予測は何を言っていたか
ここで使う「Marcel予測勝利数」は、その年のシーズン前時点での予測です。過去3年(直近が最重視)の選手成績を集計し、チーム得点力・失点力を推定してピタゴラス勝率に変換しています。予測の対象はその年の登録選手のみ(前年末に退団・MLB移籍した選手は除外)。
ヤクルト
| 年 | Marcel予測 | 実際の勝利数 | 乖離 |
|---|---|---|---|
| 2019 | 69.5勝 | 59勝 | -10.5 |
| 2020 | 56.7勝 | 41勝 | -15.7 |
| 2021 | 66.6勝 | 73勝 | +6.4 |
オリックス
| 年 | Marcel予測 | 実際の勝利数 | 乖離 |
|---|---|---|---|
| 2019 | 66.2勝 | 61勝 | -5.2 |
| 2020 | 55.8勝 | 45勝 | -10.8 |
| 2021 | 69.7勝 | 70勝 | +0.3 |
※2020年は120試合シーズン
2点確認できます。
①Marcel予測自体はほぼ変わっていない
2020年と2021年のMarcel予測を比べると:
- ヤクルト:56.7勝 → 66.6勝(約10勝増は120→143試合への回復分)
- オリックス:55.8勝 → 69.7勝(同上)
予測の中身(勝率換算)はほぼ据え置きです。Marcel法は「現状の選手たちの過去3年平均」を見ているので、最下位だった2020のデータが入っても大きくは変わりません。
②変わったのは「乖離の方向」
- 最下位の年:Marcel予測を 大幅に下回った(-10〜-16勝)
- 優勝の年:Marcel予測に近づいた、または上回った(ヤクルト +6.4、オリックス +0.3)
つまり「最下位→優勝」の本質は、「Marcel予測が急上昇した」ではなく、「Marcel予測の水準を実際に達成できた年」なのです。
2021年は12チーム全体で「逆転現象」が起きていた
ヤクルトとオリックスだけの話ではありません。2021年の全12チームを見ると、Marcel予測が「強い」と判断したチームほど失速し、「弱い」と判断したチームが躍進するという、リーグ全体での逆転現象が起きていました。
セ・リーグ(勝率順)
| 順位 | チーム | Marcel予測 | 実際(勝-敗-分) | 勝率 | 乖離 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | ヤクルト | 66.6勝 | 73-52-18 | .584 | +6.4 |
| 2位 | 阪神 | 72.9勝 | 77-56-10 | .579 | +4.1 |
| 3位 | 巨人 | 81.2勝 | 61-62-20 | .496 | -20.2 |
| 4位 | 広島 | 75.2勝 | 63-68-12 | .481 | -12.2 |
| 5位 | 中日 | 69.1勝 | 55-71-17 | .437 | -14.1 |
| 6位 | DeNA | 69.9勝 | 54-73-16 | .425 | -15.9 |
※ヤクルトは阪神より勝利数が4少ないが、引き分けが8多い分だけ敗戦が少なく勝率で上回り優勝
パ・リーグ(勝率順)
| 順位 | チーム | Marcel予測 | 実際(勝-敗-分) | 勝率 | 乖離 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | オリックス | 69.7勝 | 70-55-18 | .560 | +0.3 |
| 2位 | ロッテ | 68.3勝 | 67-57-19 | .540 | -1.3 |
| 3位 | 楽天 | 71.3勝 | 66-62-15 | .516 | -5.3 |
| 4位 | ソフトバンク | 75.1勝 | 60-62-21 | .492 | -15.1 |
| 5位 | 日本ハム | 69.8勝 | 55-68-20 | .447 | -14.8 |
| 6位 | 西武 | 68.6勝 | 55-70-18 | .440 | -13.6 |
Marcel予測で「最強」と判断した巨人(81.2勝予測)が実際は61勝(-20.2)。「最弱」と判断したヤクルト(66.6勝予測)が実際は73勝で優勝。セリーグでは予測上位4チームが軒並み失速し、予測下位2チームが躍進するという完全な逆転でした。
パリーグも同様で、強いと判断したソフトバンク・日本ハム・西武がそろって-13〜-15勝規模の大失速。オリックスは予測とほぼ一致した成績で優勝しました。
「最下位→優勝」は偶然の出来事ではなく、リーグ全体で起きていた集団的な逆転現象の中の出来事だったと考えられます。
Marcel予測と実績の乖離を生んだ要因
Marcel法が捉えにくい変化を選手レベルで整理します。
ヤクルト 2021
投手陣(チームERA:4.61→3.48)
| 選手 | 変化 |
|---|---|
| 奥川恭伸 | 2020年0投球回 → 2021年105投球回 防御率3.26 ← Marcel計算外 |
| 高橋奎二 | 防御率 3.94 → 2.87(大幅改善) |
| 清水昇 | 防御率 3.54 → 2.39(リリーフ定着) |
| マクガフ | 防御率 3.91 → 2.52(全盛期) |
打線(チームRS:468→625)
| 選手 | 変化 |
|---|---|
| 山田哲人 | OPS(出塁率+長打率) 0.766 → 0.885(復活) |
| 村上宗隆 | HR 28→39、OPS維持 |
| サンタナ | 新加入 OPS 0.877 ← Marcel計算外 |
| オスナ | 新加入 OPS 0.694 ← Marcel計算外 |
オリックス 2021
投手陣(チームRA:502→500 質は大幅向上)
| 選手 | 変化 |
|---|---|
| 山本由伸 | 防御率 2.20 → 1.39、投球回 127→194(完全開花) |
| 宮城大弥 | 2020年0投球回 → 2021年147投球回 防御率2.51 ← Marcel計算外 |
| 田嶋大樹 | 143.1投球回 と安定供給 |
打線(チームRS:442→551)
| 選手 | 変化 |
|---|---|
| 杉本裕太郎 | 141打席 OPS 0.695 → 542打席 32HR OPS 0.931 ← Marcel低め予測 |
| 吉田正尚 | OPS 0.992 と別格の安定感 |
| 宗佑磨 | 543打席と出場機会拡大 |
逆側から見る:失速したチームには何が起きていたか
失速したチームに共通するパターンを集計で確認します。Marcel法が主力と想定した選手(打者200打席以上・投手50投球回以上)の出場機会が、実際にどれだけ達成されたかです。
| チーム | 打者:Marcel予測→実際 | 投手:Marcel予測→実際 |
|---|---|---|
| 日本ハム | 3,617 → 2,371打席(-1,246) | 591 → 625回(+34) |
| 西武 | 4,292 → 3,165打席(-1,127) | 886 → 721回(-165) |
| 巨人 | 4,812 → 4,058打席(-754) | 840 → 744回(-96) |
| DeNA | 2,480 → 2,752打席(+272) | 950 → 642回(-308) |
| ソフトバンク | 4,312 → 4,188打席(-124) | 908 → 756回(-152) |
※Marcel予測200打席以上の野手・50投球回以上の投手を対象に集計
Marcel法は登録選手の過去実績をそのまま延長して計算します。主力と想定した選手の出場機会が予測を下回った分だけ、チーム全体の予測が実際を上回ることになります。
失速の種類もチームで異なります。日本ハム・西武は野手の出場機会が大幅に不足。DeNAは野手は予測を超えたものの投手陣が大きく下回りました。ソフトバンク・巨人は打者・投手ともに小幅から中程度の不足でした。
Marcel法が見えない3パターン
両チームに共通する「Marcel予測を上回らせた要因」を整理すると:
| パターン | 具体例 | Marcel法での扱い |
|---|---|---|
| 若手先発の突然台頭 | 奥川恭伸、宮城大弥 | 前年実績ゼロ → 計算対象外 |
| 外国人野手の大当たり | サンタナ、オスナ | NPBデータなし → 計算対象外 |
| 中堅の急成長 | 杉本裕太郎、高橋奎二 | 前年の低い数値を引きずり → 過小評価 |
Marcel法は「現状の延長線上」を予測するモデルです。これらの要素はいずれも「前年までの実績では見えない変化」であり、Marcel法が最も苦手とする領域です。
2026年の最下位チームへの示唆
2025年も似たような構図のチームがいます。
| チーム | Marcel2025予測 | 実際2025 | 乖離 |
|---|---|---|---|
| ヤクルト | 72.2勝 | 57勝 | -15.2 |
| ロッテ | 66.2勝 | 56勝 | -10.2 |
ヤクルトの2025年の乖離(-15.2)は、2020年の乖離(-15.7)とほぼ同水準です。
そして2026年のMarcel予測:
| チーム | Marcel2026予測 |
|---|---|
| ヤクルト | 64.3勝 |
| ロッテ | 67.1勝 |
2020→2021のヤクルトはMarcel予測66.6勝の水準を73勝で超えた(+6.4勝)。もし2026年のヤクルトが同じことをするなら「64.3勝の予測を6〜10勝程度上回る」ことが必要です。
そのために必要な「Marcel計算外の変化」は何か:
- 前年ほぼ登板なしの若手先発が一軍定着(奥川パターン)
- 外国人野手の大当たり(サンタナパターン)
- 既存の中堅が昨年比+200打席規模で急成長(杉本パターン)
Marcel予測はあくまで「過去3年の平均的な傾向」を示すものです。計算対象外の変化が複数重なった場合、実際の勝利数が予測を大きく上回ることがあります。
まとめ
- Marcel予測は「最下位の年も優勝の年も65〜70勝程度」とほぼ変わらなかった
- 最下位の年:Marcel予測を大幅に下回った(主力の出場機会が大幅減少)
- 優勝の年:Marcel予測に近づいた、または上回った(Marcel計算外の若手台頭・外国人大当たり)
- 「最下位→優勝」の本質は予測値の変化ではなく、Marcel法が見えない要素の有無
- 2021年はリーグ全体で「Marcel予測上位チームが失速・下位チームが躍進」という逆転現象が両リーグで起きていた
Marcel予測は現状の延長線上を示しますが、計算に含まれない変化(若手の台頭・外国人選手の加入など)によって実際の結果は変わります。
使用データ・ツール
- 予測アプリ: npb-prediction.streamlit.app
- GitHub: yasumorishima/npb-prediction
- データ出典: baseball-data.com / npb.jp
- Marcel法の計算ロジックはアプリの「計算方法」expanderを参照
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