AIによる運用支援の新潮流 ~CloudWatch & Application Signals MCPサーバー徹底解説(2025年7月発表)
はじめに
この記事では、2025年7月8日に発表された
「Amazon CloudWatch および Application Signals MCPサーバーによるAI支援トラブルシューティング」 について解説します。
対象読者は、AWSや監視ツールに関心のある初級〜中級エンジニア、実際に運用・監視業務に携わる担当者の方です。
AIを活用した最新の運用自動化や、MCP(Model Context Protocol:AIと運用データの接続を支援するオープンプロトコル)サーバーの導入メリットを知りたい方に特におすすめです😼
これらを活用することで障害対応の迅速化や運用コスト削減など、実務で直面する課題の解決の手助けができれば幸いです🐱
1. 背景と前提知識
1.1 なぜ重要なのか?
- クラウド環境の運用では、障害対応やパフォーマンス問題の迅速な特定・解決が求められます。
- これまでは CloudWatch や各種AWSサービスを手動で横断的に確認する必要があり、人的ミスによる属人化や遅延、運用コストの増大が課題でした。
- AIエージェントによる自動トラブルシューティングが進展し、複雑な監視データをAIが処理できることで、効率的な運用が可能になります。
1.2 用語解説
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| CloudWatch | AWSが提供する統合監視サービス(メトリクス・ログ・アラームなどを収集) |
| Application Signals | アプリケーションSLOの可視化・健全性監視の新機能(2025年7月からMCP対応。主要言語:Java, Python, .NET, Node.jsに対応) |
| MCP | Model Context Protocol。AIと運用データの接続を支援するオープンプロトコル。IETFで標準化が進行中。 |
| SLO | Service Level Objective:可用性や応答時間の目標値。例:「99.9%のアップタイム」 |
| OpenTelemetry | ベンダーに依存しないOSSの観測データ収集・分析フレームワーク |
| SSE | Server-Sent Events:一方向のリアルタイム通信プロトコル。セキュリティ上の課題や双方向通信の制約があり、2025年5月以降は非推奨。 |
| Streamable HTTP | SSEの後継。軽量かつ双方向でセキュアなリアルタイム通信プロトコルで、MCPで推奨される方式。IETF標準化進行中。 |
2. MCPとは? AIと運用監視をつなぐ仕組み
2.1 MCPが必要な理由
クラウド運用では大量の監視データ(メトリクス、ログ、トレースなど)が発生します。
これをAIが効率的に活用するには、標準化された形式でデータをやり取りし、双方向に連携できる仕組みが不可欠です。
MCP(Model Context Protocol)は、
- AIモデル(例:ChatGPTやAmazon Qなど)
- 監視データ収集基盤(CloudWatch、Application Signals、OpenTelemetryなど)
の間で、
リアルタイムかつ安全にコンテキスト(状態情報)を共有するためのオープンプロトコルです。
3. MCPの役割を図解で理解する
+-----------------------+ 🔄 Streamable HTTP 🔄 +-----------------------+
| | | |
| 🤖 AIモデル(エージェント) | | 🖥 MCPサーバー |
| (例:ChatGPTなど) | | (CloudWatch MCP、 |
| | | Application Signals MCP)|
+-----------------------+ +-----------------------+
|
| 内部連携・API呼び出し
v
+--------------------------------------------------+
| AWS監視サービス・データ基盤 |
| ・CloudWatchメトリクス |
| ・ログ分析 |
| ・Application Signals(SLO情報) |
| ・OpenTelemetryトレース |
+--------------------------------------------------+
- AIモデルはMCPサーバーと通信し、監視データの分析や質問応答を行います。
- MCPサーバーは複数の監視サービスと連携し、必要なデータを統合してAIに提供します。
- Streamable HTTPは安全かつ低遅延の双方向通信を実現し、リアルタイムで対話が可能です。
4. MCPサーバーとは?
2025年7月、AWS LabsよりGitHubでオープンソースとして2種類のMCPサーバーが公開されました。
| MCPサーバー | 主な用途 |
|---|---|
| CloudWatch MCP | アラーム監視、ログ分析、メトリクス可視化 |
| Application Signals MCP | OpenTelemetryと連携したSLO管理・自動根本原因分析 |
4.1 特徴
-
AIエージェントが自然言語で監視・分析タスクを実行
- 例:「アラームの履歴を調べて」「SLO違反の原因を教えて」
- Streamable HTTP によりセキュアかつ高速な通信に対応
-
従来の手動オペレーションやスクリプト自動化の負荷を大幅軽減
- 例:複数サービスのAPI連携や定型ログ調査の自動化で運用効率を向上
Streamable HTTPは現在も開発が進んでいる標準化仕様で、将来的な拡張が期待されています。
詳細はGitHub MCPリポジトリのドキュメントもご参照ください。
5. 実行環境のセットアップ
5.1 CloudWatch MCPサーバーの起動例
git clone https://github.com/awslabs/mcp.git
cd mcp
python -m venv .venv
source .venv/bin/activate # Windowsの場合は .venv\Scripts\activate
pip install -r requirements.txt
# より良い実装例(pyproject.tomlやsetup.pyがある場合)
pip install .
python -m mcp.servers.cloudwatch
※ 事前に Python 3.10以上(最新の安定版3.11推奨)をインストールしてください。
※ OSごとのPython環境構築に注意してください。
※ 仮想環境の有効化は必ず行い、依存関係の衝突を防ぎましょう。
5.2 Application Signals MCP(OpenTelemetry連携)
# otel-config.yaml(例)
receivers:
otlp:
protocols:
http:
grpc:
exporters:
logging: # 実運用時はCloudWatch ExporterやPrometheus Exporterの利用を検討してください。
# より良い実装例
awsemf: # CloudWatch Metrics Exporter
prometheus: # Prometheus Exporter
service:
pipelines:
traces:
receivers: [otlp]
exporters: [logging, awsemf, prometheus]
※ OpenTelemetry Collector の設定は環境に応じて調整してください。
※ Exporterは用途に応じてawsemfやprometheusなど選択可能です。
6. AIツールとの連携
- MCPサーバーは Amazon Q Developer や VS Code拡張 と連携可能です。
- Streamable HTTP により、AIとセキュアかつ標準化された対話が実現されます。
- これにより、REST APIやWebSocketのような独自プロトコルを排除し、安定的で拡張性の高い通信が可能です。
※ 認証方式はIAMロール連携やAPIキーが代表例です。運用環境に合わせて適切な認証・認可設計を行ってください。
※ レスポンス遅延はネットワーク遅延に加え、AIモデルの処理時間も影響するため、タイムアウト管理が重要です。
7. IAMと認可設定
以下は読み取り専用MCP用の最小権限ポリシー例です。
{
"Version": "2012-10-17",
"Statement": [
{
"Effect": "Allow",
"Action": [
"cloudwatch:GetMetricData",
"cloudwatch:DescribeAlarms",
"logs:FilterLogEvents"
],
"Resource": "*"
}
]
}
✅ 書き込み系操作(例:
cloudwatch:PutMetricData、削除・再起動など)は別のIAMロールに分離しましょう。
✅Resource: "*"は簡便ですが、可能な限りARNを指定してリソースを限定し、最小権限の原則を守ってください。
例:"Resource": [ "arn:aws:cloudwatch:ap-northeast-1:123456789012:alarm:ExampleAlarm" ]
8. セキュリティ上の注意点
| リスク | 推奨対策 |
|---|---|
| AIに過剰な権限を与える | IAMロールを分離し、操作権限を必要最小限に抑制 |
| 機密データの誤アクセス | S3、VPCログ、PII(個人識別情報)項目を別ポリシーで厳格に制限 |
| 誤操作による影響拡大 | 書き込み操作は別ロールに限定し、二重承認や監査ログ活用を徹底 |
| 通信の盗聴・中間者攻撃 | VPCエンドポイント利用、TLS1.2以上の強制(可能ならTLS1.3推奨)、IP制限を組み合わせて対策 |
※ VPCエンドポイント設定やIP制限の詳細はAWS公式ドキュメントをご参照ください。
VPCエンドポイント設定
IAMポリシーのベストプラクティス
-
より良い実装例
- CloudWatch Logs Insightsによる監査ログの定期的な自動分析を設定し、不正操作や異常な権限変更を早期検知しましょう。
9. 注意点
-
SSE(Server-Sent Events)は非推奨(2025年5月以降)
→Streamable HTTPを使用してください(参照)。 -
IAMミスによる起動エラー
→CloudTrailを活用し操作ログを確認、環境変数や認証情報を見直しましょう。- CloudTrailの設定やログ確認方法の詳細はこちらを参照。
-
AIに不要なS3書き込み・削除権限を付与しない
→ MCPサーバーは基本的に「読み取り専用」で運用しましょう。 -
監査ログの活用不足
→ CloudTrailやCloudWatch Logsを用いて操作履歴や権限変更を常に監査・アラート設定しましょう。
→ AWS ConfigやGuardDutyとの連携も検討してください。 -
より良い実装例
- CloudWatch Logs Insightsで「権限変更イベント」や「異常なAPIコール」を自動検出するクエリを定期実行し、アラートを設定しましょう。
10. 実務での活用例
-
アラーム発生時にAIが自動でメトリクス・ログを分析
→ 根本原因候補の提示や復旧ステップのナビゲーションを実施し、障害対応時間短縮に寄与。
→ 例:リソース再起動やスケールアップの推奨など。 -
インシデント対応手順やFAQを自動生成
→ 社内ナレッジの整備や教育コスト削減に貢献。
※ 現時点では一部機能がベータ版のため、本番利用時には十分な検証・監査ログ整備・安定性確認が推奨されます。
※ 本番利用時はサポート体制やSLA(サービスレベルアグリーメント)を必ず確認してください。
まとめ
- CloudWatch & Application Signals MCP により、AIによる運用自動化が現実的に実現可能となりました。
- Streamable HTTP の採用で、安全かつ双方向通信が大幅に強化されています。
- 運用現場では、IAMロール分離・アクセス制限・構成ミス防止の徹底が不可欠です。
- 今後は、Amazon Q や ChatGPT との統合が進み、継続的インテグレーションや運用自動化を支援するDevOpsの核となる可能性があります。
- 具体的には自動インシデント対応や継続的監視の高度化が期待されます。
より良い開発ライフを!😼
参考リンク
本記事の情報は2025年7月時点のものです。最新情報は公式ページを必ずご確認ください。
- 🟢 Amazon CloudWatch and Application Signals MCP servers 発表(AWS公式) — 公式発表記事
- 🧠 AWS Labs MCP GitHub リポジトリ — ソースコード・ドキュメント
- 📄 README.md — GitHub README
- 🔐 MCPセキュリティポリシー — セキュリティに関するガイドライン
- 🧾 CHANGELOG(SSE→Streamable HTTP移行) — 技術変更履歴
- 🔍 AWS CloudTrailユーザーガイド — 操作ログ管理
- 📚 AWS IAMベストプラクティス — 権限管理指針
- 🌐 VPCエンドポイントの設定 — ネットワーク保護
Discussion