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ボードゲーマーの好みに軸はあるか? 日本版The One Hundred 2025データで傾向を探る

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あなたの好きなボードゲームは何ですか?と聞かれると、答え方は十人十色だと思います。
重いゲームが好き、コミュニケーションゲームが好き、宇宙テーマのゲームが好き……ただし、あなたと同じような好みの人が世の中にはたくさんいるかもしれません。

この記事では The One Hundred 2025 の投票データを元に、投票結果から嗜好の集団が読み取れるのではないか?というテーマを扱います。

  • データ分析としてはごく基本的な技法を組み合わせているため、あまり詳細には触れません
  • データの可視化を行い、何が読み取れるか考察していきます

日本版The One Hundred 2025

先日、日本版The One Hundred 2025の結果発表がありました。ボードゲーマーたちが選ぶオールタイムベストを投票で作ろうという企画です。

https://tgiw.info/2025/12/the_one_hundred_2025_result.html

ざっくりこんな企画になっています:

  • 毎年やっているオールタイムの好きなボードゲーム投票企画
  • 投票はGoogle Form経由で行われ、誰でも投票できる
  • 1人あたり15個のボードゲームを指定して投票する
  • 投票数からベスト100を決める

今年は『テラフォーミング・マーズ』が第一位となりました。

データがあるなら分析もできる

特徴的なのが、この企画は全投票データが公開されていることです。

https://x.com/toshikis227/status/1995146517536297318

ということはデータ分析の対象になりえます。

  1. 同じようなボードゲームに投票した「好みが似ている仲間の集団」を見つけることができるかもしれない?
  2. あのボードゲームとそのボードゲームは似ている、というような「近いボードゲーム」を探せるかもしれない?

実に興味深いですね。この記事では1.の投票者クラスタリング問題を扱います。

データ分析の流れ

投票者クラスタリングの問題は典型問題で、昔からよく取り組まれています。大まかには、同じボードゲームに投票したならば、似た嗜好を持つはずだと推定できるという話です。


投票者とボードゲームの関係

今回はざっくり、アンケート結果を1投票者が15個のボードゲームと投票関係を持つデータだと解釈し、投票者とボードゲーム間の関係を調べていきます。データ処理は次の手順で行いました。

  1. 前処理・名寄せ: 縦持ち・横持ち変換など基本的な加工を施します
  2. NMF(非負値行列因子分解)によるトピックの抽出: NMFという良く知られた手法を適用して、投票者とボードゲームが数個のトピックで結びついているかも? という関係性を抽出します
  3. 可視化: MDSという手法で可視化します。こちらも定番の手法です

一連の実装にはPython系の定番パッケージを用いました(Pandas, scikit-learn等)

前処理・名寄せ

オリジナルのGoogle Formsデータは、自由入力されたテキストデータになっています。要するに、誤字脱字や曖昧な記述もあるということです。

例えば『世界の7不思議 (2010)』に関連していると思われる入力を見てみます。

世界の7不思議
世界の7不思議duel
世界の七不思議:デュエル
世界の七不思議デュエル
世界の七不思議:デュエル
世界の七不思議:建築家たち
世界の七不思議:第二版(指導者たち
セブンワンダーズ
セブンワンダー
セブンワンダーデュエル

これらを機械的に処理するのは大変です。

  • 表記揺れが激しい。 : があったりなかったり (全角)だったりカタカナだったり
  • BoardGameGeek(BGG)だと4種類に分類されるゲームタイトルが混在している
    • 7 Wonders (2010)
    • 7 Wonders Duel (2015)
    • 7 Wonders (Second Edition) (2020)
    • 7 Wonders: Architects (2021)

この入力をそのまま使うと、これらが別のゲームとして認識されてしまいます。当然、後続の処理精度も落ちるはずです。

これらを名寄せるのは大変ですが、今回は集計を担当なさっていたゆれひ(@yurehi)様から名寄せ済みデータを提供いただき、それをそのまま使うことにしました。

※ もしかすると、例えばファミリーのタイトルを全て併合してしまう等の操作をした方が分析上効果的かもしれませんが、この記事では名寄せにあまりこだわらずに進めていきます。

トピック抽出・可視化

名寄せが終わったら、いよいよ本題のトピック抽出です。

NMFでトピックを抽出する

まず、「誰がどのゲームに投票したか」を表す行列 V を作ります。行が投票者( m = 424 人)、列がゲームタイトル( n = 1809 種類)です。

投票者 i の投票は、長さ n のベクトルで表現されます。投票したゲームの位置だけ1が立ち、それ以外は0です。

\mathbf{v}_i = (\underbrace{0, 0, 1, 0, \ldots, 0}_{1809個}, ) \quad \text{※ 最大15箇所だけ1}

これを全ユーザー分縦に並べたものが行列 V です。

V = \begin{pmatrix} \mathbf{v}_1 \\ \mathbf{v}_2 \\ \vdots \\ \mathbf{v}_{424} \end{pmatrix} \in \{0, 1\}^{424 \times 1809}

NMF(非負値行列因子分解)は、この行列 V を2つの小さな非負行列の積で近似します。

V \approx W H

ここで:

  • W \in \mathbb{R}_{\geq 0}^{m \times k}:ユーザー×トピック行列(各ユーザーが各トピックにどれだけ関心を持つか)
  • H \in \mathbb{R}_{\geq 0}^{k \times n}:トピック×ゲーム行列(各トピックにどのゲームが関連するか)
  • k:トピック数(今回は k = 5

大雑把な解釈としては、投票者がどのボードゲームに投票したかを、5つのトピックに基づく分配として近似します。投票者とボードゲームの関係をごく単純化した関係で説明しようとするわけです。

すべての要素が非負という制約があるため、W の各行は「このユーザーは各トピックにこれだけ関心がある」という足し算的な解釈ができます。

MDSで可視化する

最後に、投票者を2次元にプロットします。
NMFにより投票者とトピックの関係は行列 W として抽出できていますが、これは5次元のベクトルなので、そのままでは可視化が難しいです。そこで次元削減を行い、できるだけ元の距離関係を保ったまま2次元に元データを変換します。

今回用いたのはMDS(多次元尺度構成法)という古典的なアルゴリズムです。

結果

基本的なデータの確認

投票者と投票対象ボードゲーム数は、以下のようになりました。

項目
投票者数 424名
総投票数 6,360件
ボードゲームタイトル数(名寄せ後) 1,809種類

投票数の推移

まずは投票数の推移を見てみます。その時点までで全体の何割が投票していたかをグラフにします(経験分布を出します)。

vote-ecdf

投票の過半は最後の数日に集中しています。みんな最後の最後まで悩んでいるのが分かりますね。

タイトル別の投票数の分布

次いで、各ボードゲームの得票数の分布を見てみます。

得票数 タイトル数 割合 累積割合
1票 1,062 58.7% 58.7%
2〜3票 370 20.5% 79.2%
4〜9票 247 13.7% 92.8%
10〜29票 102 5.6% 98.5%
30票以上 28 1.5% 100.0%

投票の半数以上が1票だと分かります。得票が10票以上あったボドゲは、わずか130タイトルしかありません。多くのボードゲーマーは、人と被らない思い入れのあるボドゲに票を入れているようです。

トピック抽出・可視化

MDSによる5トピックのクラスタ可視化結果は、以下のようになりました。

  • 1つ1つの点が1投票者を表します
  • 5トピックに5色を割り当て、各投票者が最も強く属しているトピックの色で着色しました
  • トピックごとのクラスタが見やすくなるように、散らばりの目安として共分散2σの楕円も描いています(この辺りに多くの点が集中していることを意味します)


NMFによるトピック抽出 & MDSによる次元削減 & 2σ補助円

トピックごとにある程度の塊ができたように見えますが、結果をどう解釈できるかについては考察の節で論じます。トピックそれぞれについて、強く反応しているボードゲームTop5を示します。

トピック番号 代表ボードゲーム
0 アルナック, ブルゴーニュ, コンコルディア, オーディンの祝祭, バラージ
1 ブラスバーミンガム, 蒸気の時代, フードチェーンマグネイト, ヘゲモニー, レイルウェイズオブザロストアトラス
2 宝石の煌き, カルカソンヌ, カタン, バトルライン, ドミニオン
3 テラフォーミングマーズ, アークノヴァ, ウイングスパン, アグリコラ, イッツアワンダフルワールド
4 SETI, ニュークレウム, スイーツランド, スレイザスパイア, エンデバーディープシー

考察

各トピックの解釈

5つのトピックに、それぞれどんな意味がありそうか見ていきます。ここはかなり筆者の主観が強いところです。あなたはどう感じるかもぜひ考えてみてください。
最も強くトピックに「反応」しているボドゲのBGGリンクも載せました。

青(トピック0): 伝統ユーロ

アルナック, ブルゴーニュ, コンコルディア, オーディンの祝祭, バラージ

ワーカープレイスメントやリソース変換を中心とした、王道の中~重量級ユーロという感じでしょうか。

https://boardgamegeek.com/boardgame/312484/lost-ruins-of-arnak

黄(トピック1): 重量級インタラクション

ブラスバーミンガム, 蒸気の時代, フードチェーンマグネイト, ヘゲモニー, レイルウェイズオブザロストアトラス

インタラクションが強く、プレイヤー間で競ったり殴り合ったりするような重いボドゲが集まっているように見えます。

https://boardgamegeek.com/boardgame/224517/brass-birmingham

緑(トピック2): 軽量〜中量級の定番

宝石の煌き, カルカソンヌ, カタン, バトルライン, ドミニオン

比較的軽めで、短い時間で奥深さが楽しめる、といった感じでしょうか。新しいタイトルというよりは長年定番化しているものが中心に見えます。

https://boardgamegeek.com/boardgame/148228/splendor

赤(トピック3): エンジンビルド・拡大再生産

テラフォーミングマーズ, アークノヴァ, ウイングスパン, アグリコラ, イッツアワンダフルワールド

カードコンボやエンジンを組み上げていく拡大再生産ゲームの印象があります。

https://boardgamegeek.com/boardgame/167791/terraforming-mars

紫(トピック4): 新作・話題作

SETI, ニュークレウム, スイーツランド, スレイザスパイア, エンデバーディープシー

ここ数年の新作が目立ちます。BGGやSNSで話題になるゲームを積極的に追いかける、新しいもの好きのボードゲーマーはここに属するのかもしれません。

https://boardgamegeek.com/boardgame/418059/seti-search-for-extraterrestrial-intelligence

空間配置から見える嗜好の近さ

MDSの図を見ると、単に5色に分かれるだけでなく、クラスタ間の関係性が浮かび上がってきます。

青(伝統ユーロ)は共通語彙

中央から左にかけて広く分布し、他の多くのクラスタと重なっています。ボードゲームを嗜む人たちが必ず通る、ボードゲーマー共通の土台なのかもしれません。

黄(重量級インタラクション)は孤立気味

右側に固まっていて、他のクラスタとの重なりが少ないです。インタラクションが強いゲームは、好き嫌いがはっきり分かれやすいのかもしれません。

緑(軽量定番)は伝統ユーロとも親和性大

上部にまとまりつつ、青と隣接しています。軽めの定番と伝統ユーロは親和性があり、愛好家が重なっているのかもしれません。

赤・紫は「合成されやすい」

赤(エンジンビルド)と紫(新作派)は広く分散し、他クラスタと重なりが大きいです。これらは独立した嗜好でありつつも、他の好み足し合わされやすいのかもしれません。伝統ユーロ好きにも新作好きはいるし、重ゲー好きにもエンジンビルド好きはいる、という具合です。

色の混在

色が混在している領域も多く存在します。

今回の色分けは「5つのスコアのうち最大のもの」で決めているだけです。実際には多くの人が複数のトピックにまたがる嗜好を持っていて、例えば「伝統ユーロも好きだけどエンジンビルドも好き」という人は境界領域にプロットされやすいはずです。

ボードゲーマーの嗜好は、5クラスタに綺麗に分離できるとは言い難く、混合された価値観を持っている人が多いことも読み取れます。

この分析の限界

いくつか注意点を挙げておきます。

  • The One Hundredに投票する時点で、かなりコアなボードゲーマーに偏っています。そもそも15個もボドゲを挙げられる人、どれぐらいいるんでしょうか? 「年に数回カタンを遊ぶ」くらいのライト層は投票していないはずです
  • 今回は5トピックを実験的に選びましたが、少なくともある程度は恣意的です
    • また、可視化として見やすいように、いくつかのハイパーパラメータを調整していますが、これも印象の偏りを生んでいる可能性は否定できません
  • 前述したように、ほとんどのボドゲの投票数は少ないです。今回の手法の限界として、1票しか入っていないボドゲは他の投票者と共起しないため、トピックの分割には効いていないはずです
    • 人気ボドゲに絞ってクラスタリングを試みたかのような結果になっているのだと思います

様々な限界があるとはいえ、投票データから一定の嗜好パターンの軸が浮かび上がってくる、しかもそれは一定程度「らしい」のは、面白い結果だと思いました。

まとめ

この記事では、日本版The One Hundredの投票結果を用いて、ボードゲーマーたちの好みが何パターンかに分かれるのではないか?という可能性を探ってみました。
手法としては教科書的なアプローチ(データを名寄せしてクラスタリングアルゴリズムを適用する)を用いました。

出てきた結果の解釈がどれぐらい妥当か、というのはなかなか評価が難しいのですが、5トピックに対してそれらしい解釈を付けられるようには感じました。

また、ボードゲーマーの好みには一定の軸がありそうでありながら、個人差が大きいことも見て取れました。

謝辞

本記事の執筆にあたり、以下の方々にご協力いただきました。ありがとうございました。

  • さとーとしき(@toshikis227)様(日本版The One Hundred 2025企画者)
  • ゆれひ(@yurehi)様(名寄せ済みデータの提供)

Appendix: より深い分析として。なぜ5トピック?

正直なところ、明快な理由はありません。3〜10程度で試した結果、5が最も解釈しやすかったというのが実際のところです。着色の分離性が高いかについて、トピック数を変化させながらシルエットスコアを確認してみます。

silhouette

シルエットスコアの変化を見ると、単調減少しています。つまり、トピックを増やせば増やすほど、個別のトピックの分離性が下がっていることを意味しています。

おそらくですが、MDSの結果にも表れているように、5トピックに分割された投票者も、それぞれのクラスタに明確に属しているわけではなく、各トピックともっと連続的な関係を作っているのだと思います。緑(軽量定番)を最も好むけど、数ヶ月に一回は 黄(重量級インタラクション)のボドゲもやりたいな、というように。

この点について少し深堀りしてみます。本来NMFを使うと各トピックとのそれぞれの関係の強さを出すことができますが、可視化では最大値のものしか使っていませんでした。そこで、より詳細に観察するために、ペアプロットを描きます。全ての投票者について、すべてのトピックの2つの組み合わせを散布図にし、さらに各点を最大値のトピックで着色したものです。

pairplot

これを見ると、同じトピック内でも傾向が多様になっていることがわかります。例えば黄(トピック1)の列を見ると、確かに平均的には他のトピックと相関していないようですが、赤(トピック3)とのつながりが強い黄色投票者もいます。

トピックごとの大まかな傾向はあるものの、例外の投票者も多く、ボードゲームの嗜好は必ずしも綺麗なクラスタで切ることはできない(連続的なスペクトルを描く)様子が見て取れます。

Discussion