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灰から蘇る翼 ~57歳の夢、学問への再挑戦の軌跡~

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序章:鏡の中の自分への問いかけ

57歳の秋、私は人生の大きな岐路に立っていました。
2024年9月、長年勤めた大手企業を退職。その理由は、あまりにも純粋で、そして少し無謀とも言えるものでした。「ロボットを作りたい」――それは、私が5歳の頃から抱き続けてきた夢です。

テレビで見た「鉄腕アトム」に心を奪われ、父の工具箱からこっそり持ち出したモーターで、ガラクタのような「歩行ロボット」を作ったあの日々。大人になった今、あの時の興奮を取り戻したいという衝動が抑えきれなくなっていたのです。
30年間の仕事で社会人として、管理職としてのスキルは磨かれましたが、ロボット工学の知識は大学時代の古い記憶だけ。それでも、退職直後に鏡に映る自分にこう問いかけました。

「今、動かなければ、いつやるんだ?」

これが、私の「2025年最大の挑戦」の始まりでした。

第一歩:50代からの「学び直し」

再挑戦の第一歩は、錆びついた知識を呼び戻すことでした。まずは「科目履修生」として学問への扉を再度開きました。
選んだ科目は「ロボット工学」「制御システム」「航空力学」。正直に言えば、最初は冷や汗の連続でした。かつて学んだはずの線形代数や物理の法則が、頭からすっかり抜け落ちていたのです。

そこで私は、社会人経験で培った「仕組み化」で対抗しました。
毎朝1時間の予習を絶対のルールとし、講義が終わればすぐに思考整理ツールの「MindMeister」でマインドマップを作成。復習時にはYouTubeの解説動画を駆使し、デジタルノートで体系化する。この徹底した反復で、知識を定着させていきました。

教室には20代の学生ばかり。最初は親子ほどの年の差に疎外感もありましたが、グループディスカッションで状況が一変しました。私の長年の実務経験が、彼らの柔軟な発想を形にする手助けとなり、いつしか互いに学び合う仲間となっていたのです。

挑戦の核心:空飛ぶロボットへの挑み

2025年4月、私は工学府の研究生として、ロボティクス関連ラボで本格的な研究をスタートさせました。研究テーマは「VTOLの革新的エネルギー消費の改善」です。

VTOLとは、ヘリコプターのように垂直に離着陸でき、かつ飛行機のように効率よく飛べる航空機のこと。理想的な機体のようですが、飛行モード毎の最適機体形態が実は違うため、エネルギー消費効率が悪いという弱点があります。
そこで私は、機体の形態自体をモーフィングさせ、飛行モード毎の最適形態を実現する技術の開発に挑みました。

プロセスは地道そのものです。
まず、世界中の英語論文を数百本読み込み、過去の失敗事例や一部成功しかけた事例をヒントに独自の設計・機構・制御手法をトライアンドエラーで捻出。検証して改善してさらに新たな手法にたどり着く。この繰り返し。

しかし、頑張りのお陰もあって、この過程で二つの特許を出願することができました。
一つ目は、形状を効率的にモーフィングさせる技術、従来では不可能だった形状の変態を実現します。二つ目は、エネルギー消費を抑える飛行システムです。これらを組み合わせることによって、災害現場への物資輸送や都市部での配送において、VTOLを実用化するための重要な鍵になると確信しています。

未来への布石:博士号への道と「遅咲き」の強み

この研究を単なる趣味で終わらせたくない。技術的な深みと社会的意義を追求するため、私はさらに大きな決断をしました。2026年4月からの「博士後期課程」への進学です。

現在はその入試に向け、緻密な研究計画書と格闘する日々です。なぜこの技術が必要なのか、どんなスケジュールで、どうやって実証するのか、社会にどう貢献するのか。毎週教授からの厳しいレビューを受けながら、論理を研ぎ澄ませています。

もちろん、加齢という現実もあります。正直なところ無理はききません。
だからこそ、曜日ごとにメリハリをつけた研究実行オンオフの区別、毎日の睡眠時間確保のみならず、ヨガや水泳で体の調子を整え、体調管理に良い食物を摂る。資金面では奨学金・補助金の活用や、自ら書いたプログラムコードを公開して収入を得るなど、若手にはない知恵と工夫で乗り越えています。

研究室の深夜、自分が設計したVTOLがふわりと浮き上がり空中でピタリと静止、次には高速水平飛行する瞬間。あの5歳の頃の夢が、現実の形となる喜びに震えます。

結び:夢はいつからでも追える

この道は決して平坦ではなく、孤独を感じることもあります。しかし、57歳の私には「遅咲き」ならではの武器があります。
それは、人生経験に基づく「実用的な視点」です。理論だけでなく、「現場でどう動くか」「人間ならどう判断するか」という視点を行動に組み込むことで、独自の汎用性を生み出せました。年齢はハンデではなく、研究に深みを与える資産だったのです。

キャリアチェンジや新しい挑戦を迷っている同世代の方へ伝えたいことがあります。
いきなり全てを捨てなくてもいい。まずは大学の公開講座を「味見」してみる。SNSでメンターを探す。小さな試作品を作ってみる。そこから世界は動き出します。

私も最初はエラーの連続でした。でも、失敗のログ(記録)さえも、次の成功への道標になります。
2025年、この私の挑戦が、あなたの心に眠る「何か」を呼び覚ます灯火となれば幸いです。

夢は、いつからでも追えます。今、ここから始めましょう。

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