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エンジニアが現場で使える弁論術/ 言葉を切り返す技術

2022/12/05に公開約4,000字

著者について

ソフトウェアエンジニア。大学ではスピーチを学んで弁論術について理解を深めた。社会人になってからはToC営業も経験するなど話す経験を積んできた。また、かつて全国大会に出場を果たしたとあるディベートの競技大会において、OBとして実際に審判も行ってきた実績がある。

この記事は?

いわゆる「弁論術」によって働く力学を理解できておらず、対人折衝に疎いエンジニアの助けとなるような記事にするために、弁論術の方法と対策について述べています。一方一部でショッキングな内容も含まれますが、「建設的な方向に使うことだけ」を意図して執筆しています。

弁論術について

古代ギリシア、古代アテネ、古代中国など世界各地において発展を遂げてきた人の説得法を弁論術といい、現在でも実際のビジネスの現場においても使われることがあります。

弁論術と正しさについて

メンバー同士バトルをするためではなく、チームをうまく回して生産性を高めるために、あるいは悪質な手口を知っておきそれを防ぐために知っておくことは大事になってきます。

議論で大事になる正しさですが、ただ正論を言うだけでなかなか人は動きにくいもので、もちろん正しさをジャッジするのも感情を持った人間が相手になります。人を動かす方法としてロジックだけではカバーできない2分野を補うのが次に紹介するエトス(信頼)とパトス(感情)になります。

弁論の三要素

・人を動かす主要な3要素としてアリストテレスが挙げたものは以下の通りです。
弁論術の基本となるので、以下の3つについてはしっかりと記憶しておきましょう。
エトス: 信頼。そこに信頼関係はあるか?
例「彼は信用できるので、彼の言っていることは間違いないだろう。」
パトス: 感情。どれだけ感情を動かされるか?
例「今日は社長の機嫌が良かったからOkもらえたよ」
ロゴス: 論理。ロジックがしっかりしているか?
例「論理的に正しいことなので、好きではないが納得した。」

弁論術は、これらの3要素をフル活用して人を動かしていく手法になります。
では、実際どう使われるのでしょうか?現場を想定しつつ、それぞれユースケースを見ていきます。

フレーズ一覧

ロジックそのものに関してはできるエンジニアが多い印象で、感情や人情、また困難な人間関係への突破策をいくつか現場でつかわれそうなフレーズ/解説とともに10つ挙げてみます。

1. 「...な点はとても良い考えだと思いますが、しかし私は〜と思います」構文

意見に対して聞くのは大事だが、すべてを受け入れたり、すべてに反対を示すようだと建設性に欠ける。そこで、一度相手の論点で肯定できるところはし、自分(社)の論にとって不利な内容は一線を引いて肯定せず、次に自分の論を進めることで自陣を守りながら論を進める。

2. 「(〇〇な)〜さんなら分かってくれると思いますが」構文

懸命な〜さんなら分かってくれると思いますが、など、弁の立つ人事や営業がエンジニアを言いくるめるためによく使っているイメージ。コテコテの典型話法なので、うまくやらないと勘が良い人からは見破られやすいので使用には注意が必要。〇〇には本人が大事にしている価値観などを入れ、相手を包み込んでこちらに引き寄せるようなワードを使う。

3. 二者択一法「AとBどっちにしますか?」

モチベーションマネジメントは大事で、各メンバーにとってモチベーションの高い分野の仕事を任せ、「自分で選んでいる」という前向きな気持ちを持たせると人を前進させやすい。任せたい仕事を2つくらいに絞って「どちらをやりたい?」と聞けば自発性を演出できスムーズに承諾されやすい。また、なかなか動かしにくい相手に対して、2つの選択肢のどちらかでやることを前提に絞られると、スムーズに動かしやすくなると言う効果もある。

4. 有名組織•企業の技術記事/技術顧問など、権威引用による口論解消

実績がないジュニアエンジニアがいくらロジカルなことを言っても、権威に欠けるため人を説得しにくいことがある。そこで、権威を引用して自分の論を補強するエビデンスとなってもらうことができる。例「技術顧問もB案がいいと言っていますので、私はA案でなくB案が良いと思います」

5.フットインザドア/フェイスインザドア

これは、営業がよく使う手法で、相手に依頼する際に使われる古典的な説得の方法です。例「30000円だけ貸してくれない -> 無理だよ -> じゃあ10000でいいから貸して」(ハードルを下げる)。例「1分だけ話を聞いてください -> じゃあ1分なら -> (結果5-10分経ち相手に商材など販売することに成功)」。のようにハードルを下げるか上げるかで使われます。

6. 「すべてがよく見える」光背効果

ビジネス側はプロダクトを売るために、プロダクトの良いところだけを全面に押し出して説明することがあります。エンジニアがレジュメに企業に見てほしい自己コアコンピタンスを一番初めに書くのも例としては考えられますが、全てが良いものはなかなかないのが現状で、企業の広報などはブランディングに特化したものとして見るのがちょうど良い場合があります。良い部分に引っ張られすぎないことで本質をずらさず、本質に特化した考えをしていきたいところです。

困難な場面向け切り抜け策

以下は、困難な場面において使う有益性があるかもしれないフレーズになりどれも少し強いですが、実際の現場でのコミュニケーションは、円滑に行っているときだけでなく、困難な場面に向き合うことが大事だと思うのでできるだけリアルに想像して書くことにしました。他人をむやみにアタックするためではなく、建設的な方向に進めることを前提に使っていきたいものです。

7. 定義付けや認識共有がされていないことを理由とした反論

定義付けがされていない事柄に対して議論しようとしている人に対して、そもそも「〜の定義が定まってないので議論のしようがないのでは?」といえば、誤った論を展開しようとしている相手を気づかせることがある。また、メンバーで認識共有ができていないことは議論が難しく、その旨を指摘すれば共有を忘れた本人への牽制となり得ることもある。

8. 「すべてのケースで」と言われたら、一つ以上の例外を挙げる

仮に「あなたのエンジニアのレベルならどの会社でも通用しないよ」と言われたとして、それを反する判例が一つでもあれば反例になるので、「どの組織でも」「どのエンジニアでも」など主語が大きい場合は、相手が権威だろうと簡単に鵜呑みにすることは避け、反例が一つでもあれば返すことはできるので日々幅広い情報源に触れて視野を持つことが大事です。

9. 易々と返事をしない。「なんとかやっては見ますが...」

明らかに簡単なことに対してすぐできるというのは良いが、そうでないことについて簡単なことを言うと一見、その場は楽にやり過ごせても結局不利になる力構造になりやすい。最悪「あのときできると言ったじゃないか!」と後々対処もめんどうになってしまう。こういうときは、まず「難しそう(時間がかかりそう)である」という意思表示をはっきりさせ、場合によってはその理由を聞き手が理解できるように論理で示した上で、それでもなんとかやって見るとした方が見てくれがよくなりやすい。弁論術では言質は戦略立てて発していくが、逆に「言わないこと」が良いこともある。

10. 社会的通念への抵触を指摘。「これは人格否定だ!」

社会的通念に反することは社会的に許されず、行った人間は議論で不利になりやすい。よっぽどの状況だが、例えば相手との議論で人格否定があった場合、聴衆を含めて「人格否定」があったことを指摘すると相手が不利になる。実際に、あくまでロジカル面を見ている競技ディベートの場さえ人格面で明らかな抵触があった場合いくら良い弁論でも大減点となることがある。

最後に、洗脳を防ぐ技術

弁論術は非常に強力であり、古代中国では国家間戦争での策謀術として重宝されるほどでした。弁論術を悪用すると、本人の意思とは関係ない方向に人を導く力があるため、洗脳の手口としても使われかねないものです。私たちとしては、そういった手口には引っかからないように最善を尽くす必要があります。エンジニアはロジカルだから騙されない、ということではなく、各自が自身でしっかり騙されないように洗脳が行われるメカニズムと対策を知っておきたいです。

・洗脳は、おおよそ次のような順番で行われるようです。

  1. 価値観の否定
  2. 価値観の植え付け
  3. 孤立させ依存させる

それがブラック企業なのか、悪質なマルチ集団なのかは時と場合によりますが、大体この各工程で言葉巧みな弁論術が悪用されているようなので注意してください。他人に依存せずにはいられず、自分で考えられなくなったとき、エンジニアとして最も重要な能力の一つである「自走力」を失うことにも繋がりかねず、もしそうなれば大きなキャリア成長の機会損失となりかねないでしょう。

最後に、みなさんが弁の立つ相手に言いくるめられないよう各種弁論法のメカニズムを知り、建設的な方法で弁論術および会話の能力を発揮していただくことを期待しています。

参考文献

https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784022512802
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784781911434
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-0500894

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