Tableau LOD表現入門:まず押さえるべき5つの基本パターン
Tableau LOD表現入門:まず押さえるべき5つの基本パターン
はじめに
Tableauでデータ分析を始めたばかりの方が必ず直面する壁、それが「ビューのレベルとは異なる粒度での計算」です。この課題を解決する強力な武器が**LOD表現(Level of Detail Expressions)**です。
本記事は、Tableau公式ブログの名著「Top 15 LOD Expressions」で紹介されている実践例のうち、初心者がまず押さえるべき基本の5つにフォーカスして、実務ですぐに使えるレベルまで深掘り解説します。
LOD表現とは:3行で理解する
LOD表現を使うと、ビューに表示されているディメンションとは無関係に、任意のレベルで集計できます。
3つのタイプ:
- FIXED: 指定したディメンションレベルで固定して計算
- INCLUDE: ビュー内のディメンションに追加のディメンションを含めて計算
- EXCLUDE: ビュー内の特定ディメンションを除外して計算
初心者はまずFIXEDから始めることをおすすめします。
Top 15の全体像:学習ロードマップ
公式ブログでは15の実践例が紹介されています。学習の段階に応じた分類は以下の通りです:
🟢 初級(例1-5)← 本記事で詳しく解説
- 顧客注文頻度 - メジャーをメジャーで分類
- コホート分析 - 顧客の初回購入日を固定
- 日次利益KPI - 日次レベルでの集計をビューに反映
- 全体比率 - フィルタしても全体比率を維持
- 新規顧客獲得 - リピート顧客を除外した正確な集計
🟡 中級(例6-9)
- 比較売上分析 - 選択カテゴリとその他の比較
- 営業担当者別最大取引平均 - 二段階の集計
- 実績vs目標の詳細分析 - 製品レベルの達成状況
- 期間最終日の値 - 在庫や株価などスナップショットデータの扱い
🔴 応用編(例10-15)
- コホート別リピート購入
- 範囲内での平均との差異
- 相対期間フィルタリング
- ユーザーログイン頻度
- プロポーショナルブラッシング
- コホート別年間購入頻度
本記事では初級の5つを完全マスターすることを目指します。
初級編:実務で即使える基本の5パターン
例1. 顧客注文頻度の分析
🎯 ビジネス課題
ECサイトを運営していて、以下を知りたい:
- 1回だけ注文した顧客は何人?
- 2回注文した顧客は?3回は?
- リピート率を上げるには、どの層にアプローチすべき?
❌ 通常の方法では困難な理由
「顧客数」というメジャーを「注文回数」というメジャーで分類する必要があり、通常の集計では実現できません。
✅ LOD表現による解決
ステップ1: 顧客ごとの注文回数を計算
顧客別注文回数 = { FIXED [顧客ID] : COUNTD([注文ID]) }
この計算フィールドは、ビューに何が表示されていても、常に各顧客の注文回数を返します。
ステップ2: ビューの作成
- 列:
顧客別注文回数(ディメンションとして配置) - 行:
COUNTD([顧客ID])(顧客数) - マークタイプ: 棒グラフ
📊 結果の読み方(実際のVizより)
注文回数 顧客数
1回 1,027人 ← 圧倒的に多い(1回で離脱)
2回 479人
3回 439人
4回 366人
5回 224人
6回 92人
7回以降 急激に減少(10回以下が大半)
13回 5人 ← 超ロイヤルカスタマー
重要な発見:
- 全顧客の約40%が1回のみの購入で離脱
- 2-5回購入の顧客が次の大きなセグメント
- 6回以上購入する顧客は急激に減少
💡 実務での活用例
- リテンション施策の優先順位: 1,027人(1回購入層)への2回目購入促進が最大のインパクト
-
セグメント別戦略:
- 1回層 → ウェルカムバッククーポン、パーソナライズドメール
- 2-5回層 → ロイヤルティプログラム招待、ポイント制度
- 6回以上層 → VIP専用サービス、先行販売アクセス
- 目標設定: 「1回→2回への転換率を15%向上(154人増加)」など具体的KPI設定
- 投資効率の分析: 1回層への施策ROIが最も高いことが数値で証明できる
実際のVizが示す洞察:
13回購入した5人の顧客の共通点を深掘りすることで、ロイヤルカスタマー育成の成功パターンを発見できます。
🔑 ポイント
FIXEDはビューの構造に依存しないため、後から地域や製品カテゴリでフィルタしても、計算結果が変わりません。これが強力な理由です。
例2. コホート分析
🎯 ビジネス課題
- 2011年に獲得した顧客は、何年間売上に貢献し続けるのか?
- 各年の売上は、どのコホートの累積効果なのか?
- 新規獲得とリテンションに、それぞれどれだけ投資すべきか?
❌ 通常の方法では困難な理由
各顧客の「初回購入日」を特定する必要がありますが、データは注文レベルで記録されており、複数回の購入履歴が混在しています。
✅ LOD表現による解決
ステップ1: 顧客の初回購入日を特定
初回購入日 = { FIXED [顧客ID] : MIN([注文日]) }
ステップ2: 獲得コホートを作成
獲得年 = YEAR([初回購入日])
ステップ3: ビューの作成
- 列:
YEAR([注文日])(売上が発生した年) - 行:
獲得年(コホート) - マーク:
SUM([売上]) - カラー:
SUM([売上])で色分け
📊 結果の可視化イメージ(実際のVizより)
左グラフ: 年次売上の積み上げ(絶対額)
2011売上 2012売上 2013売上 2014売上
2011獲得 $140K 継続 継続 継続 ← 4年間の長期貢献
2012獲得 - 追加 継続 継続
2013獲得 - - 追加 $53K ← 注釈の例示
2014獲得 - - - 追加
右グラフ: 構成比(100%積み上げ)
- 2011年:2011獲得が100%(当然)
- 2012年以降:2011獲得コホートが毎年継続して一定割合を占める
- 年を重ねるごとに新しいコホートが追加されるが、古いコホートも継続貢献
最も重要な発見:
2011年獲得コホートが2014年まで4年間継続して貢献
→ これが長期的な顧客価値(LTV)の実証
注釈の意味:
"In 2014, the 2013 customer cohort generated $53K" は、2013年獲得コホートの2014年における貢献額の具体例を示しているだけで、「最大」という意味ではありません。
Market選択: EMEA(ヨーロッパ・中東・アフリカ)でフィルタリング可能
💡 実務での活用例
発見1: 長期的な顧客価値(LTV)の実証
2011年獲得コホートが2014年まで4年間継続して貢献
- 新規顧客獲得は単年度の投資ではなく、長期的な資産形成
- 4年以上にわたる継続的なリターンが期待できる
→ 顧客獲得コストを長期的視点で評価すべき
発見2: 各コホートの継続的な積み重ね
年々新しいコホートが追加されながら、既存コホートも継続貢献
- 2012年:2011獲得 + 2012獲得
- 2013年:2011獲得 + 2012獲得 + 2013獲得
- 2014年:全4コホートが貢献
→ 売上は複数年のコホートの累積効果
発見3: 市場別の長期価値の違い
Marketフィルタ(EMEA, APAC等)で地域ごとの顧客ロイヤルティを比較可能
戦略への活用:
1. LTV(生涯価値)の計算
2011年獲得コホートのLTV =
2011年貢献 + 2012年貢献 + 2013年貢献 + 2014年貢献 + ...
// 4年間の累積から、5年目以降も推定可能
2. 獲得コストの正当化
獲得コスト$50Kでも、4年間で$200K貢献なら十分なROI
→ 短期的には赤字でも、長期的には高収益
3. リテンション投資の重要性
2011年獲得が4年後も貢献 → 既存顧客維持への投資が長期的に価値を生む
- カスタマーサクセス体制の構築
- ロイヤルティプログラムの展開
- 定期的なエンゲージメント施策
4. 投資配分の最適化
新規獲得:短期的な成長
リテンション:長期的な安定収益
→ 両者のバランスが重要
経営層への報告:
「2011年獲得顧客が4年後の2014年も継続貢献。獲得コスト$50Kでも、4年間累積$200Kの長期価値を創出。リテンション投資により、この継続期間をさらに延長可能」
🔍 応用: 売上構成比の分析
コホート別売上構成比 = SUM([売上]) / TOTAL(SUM([売上]))
このTable Calculationと組み合わせることで、重要な発見が得られます:
実際のVizが示す洞察:
- 長期的な貢献の継続: 2011年獲得が4年後の2014年も一定の割合を占める
- 累積効果: 年を重ねるごとに、複数コホートの貢献が積み重なる
- 持続可能な成長: 新規獲得と既存維持の両方が重要
ビジネスモデルへの示唆:
持続可能な売上 =
複数年のコホート累積効果
年次売上 = Σ(各コホートの当年貢献)
= 2011獲得の4年目 + 2012獲得の3年目 +
2013獲得の2年目 + 2014獲得の1年目
この構造を理解することで、長期的な売上予測と投資計画が可能になります。
🔑 ポイント
LOD表現がなければ、顧客IDをビューに配置する必要があり、集計レベルが崩れてしまいます。FIXEDにより、ビューには年レベルのデータを表示しつつ、内部では顧客レベルで正確に計算できます。
このVizの最大の発見: 「長期的な顧客価値」
- 2011年獲得コホートが4年間継続して貢献
- 顧客獲得は単年度の施策ではなく、複数年にわたる資産形成
- 新規獲得とリテンションの両方に投資することで、持続可能な成長を実現
例3. 日次利益KPI
🎯 ビジネス課題
- 今月は何日黒字だった?収益性のレベルは?
- 11月に高収益日が集中する理由は何か?他の月に横展開できないか?
- 年始(1月)の低収益問題をどう改善するか?
- 月次の目標として「Highly Profitable Days 10日以上」を設定したい
❌ 通常の方法では困難な理由
データは取引レベル(1日に複数の取引)で記録されています。「日次レベルでの利益」を計算してから、それをカウントする必要があります。
✅ LOD表現による解決
ステップ1: 日次利益を計算
日次利益 = { FIXED [日付] : SUM([利益]) }
ステップ2: 黒字判定
黒字フラグ = IF [日次利益] > 0 THEN 1 ELSE 0 END
ステップ3: ビューの作成(月次集計)
- 列:
MONTH([日付]) - 行:
SUM([黒字フラグ])(黒字日数) - カラー: 目標値(例: 20日)との比較で色分け
📊 具体例:実際のVizより(2010-2013年)
3層のエリアチャート:
区分 特徴
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Highly Profitable Days 月に5-17日程度(青色・上段)
Profitable Days 月に10-15日程度(灰色・中段)
Unprofitable Days 月に5-15日程度(オレンジ・下段)
明確な季節性パターン:
時期 特徴 課題/機会
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1月(年始) Unprofitable Days多い 最大の課題
2-10月 比較的安定
11月 Highly Profitable Days最多 最大の機会(17日達成)
12月 通常レベル
注目ポイント:
- 11月のピーク: 2013年に17日(4年間で最高)→ 再現性の検証が重要
- 年始の課題: 毎年1月はオレンジ層が厚い → 構造的な問題として対策必須
- 2012年初頭: 特にUnprofitable Daysが増加 → 何らかの外部要因?
可視化の工夫:
積み上げエリアチャートにより、各月の営業日の「質」の内訳が一目で分かります。単なる営業日数ではなく、収益性で分類されている点が重要です。
💡 実務での活用例
季節性分析とアクションプラン:
1. ピーク月(11月)の分析と活用
-
11月に17日のHighly Profitable Days → なぜ11月が良いのか?
- ブラックフライデー、サイバーマンデーの影響?
- 年末商戦前の駆け込み需要?
- 特定製品の売れ行き?
-
戦略: 11月の成功要因を特定し、他の月にも適用
- プロモーション施策の横展開
- 在庫・人員配置の最適化
2. 低迷期(年始)の対策
-
1月はUnprofitable Daysが多い → 明確な課題
- 年末年始の購買意欲低下
- 在庫調整期間
- 競合の値引き攻勢
-
対策施策:
// 1月限定プロモーション // 会員向け特別セール // 新年キャンペーンの強化
3. 目標管理とアラート:
// 目標設定例
11月基準: Highly Profitable Days 15日以上(実績17日を維持)
1月改善: Unprofitable Days 5日以内(現状8-10日を改善)
→ 目標未達の月を自動ハイライトし、経営層ダッシュボードで報告
4. 前年比較による改善度測定:
// 計算フィールド
年始改善度 = [今年1月のUnprofitable Days] - [前年1月のUnprofitable Days]
→ 負の値(減少)なら改善、正の値なら悪化
5. リソース配分の最適化:
月次配分 =
- 11月: 営業・マーケリソース最大投入(ピーク対応)
- 1月: 改善施策に集中投資(課題解決)
- その他: 通常運用
実際のVizの強み:
3層の視覚化により、単に「黒字か赤字か」ではなく、収益性の程度まで把握できる点が秀逸です。11月のピークと1月の課題が一目で分かります。
🔑 ポイント
取引レベルのデータから日次レベルの集計を行い、さらにそれを月次で集計するという二段階の集計が、LOD表現により簡潔に実現できます。
例4. 全体比率の計算
🎯 ビジネス課題
グローバル企業で、以下を知りたい:
- 各国の売上がグローバル全体の何%を占めるか?
- EU市場にフィルタした時も、グローバル全体での比率を表示したい
❌ 通常の方法の問題点
Tableauでパーセント計算を使うと、フィルタを適用した瞬間に、フィルタ後のデータに対して再計算されてしまいます。
例:
- 全体: アメリカ $500K、EU全体 $200K、アジア $300K
- アメリカ = 50%、EU = 20%、アジア = 30%
EUでフィルタすると:
- ❌ フランス50%、ドイツ30%、イタリア20%(EU内での比率に変わる)
- ✅ フランス10%、ドイツ6%、イタリア4%(グローバル比率を維持したい)
✅ LOD表現による解決
ステップ1: グローバル総売上を固定
グローバル総売上 = { FIXED : SUM([売上]) }
注目:ディメンションを指定していません。これにより、データ全体での売上が計算されます。
ステップ2: グローバル比率を計算
グローバル売上比率 = SUM([売上]) / [グローバル総売上]
ステップ3: ビューの作成
- 行:
国 - 列:
SUM([売上]) - カラー:
グローバル売上比率(青→赤のグラデーション) - ラベル:
グローバル売上比率(パーセント表示)
📊 フィルタ適用時の動作(実際のVizより)
グローバルビュー(全世界):
国 売上比率 特徴
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
アメリカ 18% 圧倒的なリーダー(濃い青)
メキシコ 5% アメリカ大陸2位
中国 6% アジア最大
その他 1-3% 淡い色で表示
ヨーロピアンビュー(EUフィルタ適用時):
国 グローバル比率 表示色
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
フランス 7% 中程度の青
ドイツ 5% やや淡い青
イタリア 2% 淡い青
重要な発見:
公式Vizの注釈にある通り「アメリカが18%と圧倒的なため、同一市場内の国同士の相対比較が困難」という課題を、LOD表現で解決しています。
2つのビュー比較:
- Global View: 全体像の把握
- European View: 地域内での詳細比較
- どちらでもグローバル比率を維持
💡 実務での活用例
1. 地域別パフォーマンス評価(グローバル基準)
- アメリカ18%は世界基準、各国マネージャーに「グローバル5%以上」を目標設定
- Marketフィルタで自分の地域を見ても、グローバル目標からブレない評価が可能
2. 投資配分の意思決定
// 来年度予算配分ロジック
予算配分率 = [グローバル売上比率] × 1.2
具体例:
- アメリカ(18%)→ 来年度予算21.6%
- イタリア(2%)→ 来年度予算2.4%
現在のパフォーマンスに比例しつつ、成長余地を加味した配分
3. 市場内の相対比較
公式Vizの課題を解決:
- Global View: アメリカが圧倒的で他国が見えにくい
- European View: EU内での細かい比較が可能
- しかしグローバル基準(3%, 2%, 1%)は維持
4. ベンチマーク分析
地域平均比率 = { FIXED [Market] : AVG([グローバル売上比率]) }
各国の位置付け =
IF [グローバル売上比率] > [地域平均比率] × 1.5 THEN "地域リーダー"
ELSEIF [グローバル売上比率] > [地域平均比率] THEN "平均以上"
ELSE "改善余地あり"
END
5. ダッシュボードでのインタラクション
ユーザーがMarketフィルタを変更しても、色の濃淡(グローバル比率)が変わらないため、直感的な比較が可能。これがLOD表現の真価です。
🔑 ポイント
{ FIXED : } のようにディメンションを指定しない場合、データセット全体での集計が行われます。これがフィルタに影響されない「固定値」として機能します。
例5. 新規顧客獲得トレンド
🎯 ビジネス課題
マーケティング部門として、以下を報告したい:
- 毎日何人の新規顧客を獲得しているか?
- 市場別(日本、アメリカ、EU)の獲得トレンドの違いは?
- マーケティングキャンペーンの効果が出ているか?
❌ 通常の方法の問題点
単純に日次の顧客数をカウントすると、リピート顧客も新規顧客としてカウントされてしまいます。
例:
- 1月1日: 顧客A、Bが購入(新規2人)
- 1月2日: 顧客A、Cが購入
- ❌ 2人(間違い - Aはリピート)
- ✅ 1人(Cのみが新規)
✅ LOD表現による解決
ステップ1: 各顧客の初回購入日を特定
初回購入日 = { FIXED [顧客ID] : MIN([注文日]) }
ステップ2: 新規顧客フラグを作成
新規顧客フラグ = IF [注文日] = [初回購入日] THEN 1 ELSE 0 END
ステップ3: 新規顧客数を集計
新規顧客数 = SUM([新規顧客フラグ])
ステップ4: ビューの作成
- 列:
日付(連続) - 行:
新規顧客数 - カラー:
市場(複数の線グラフ)
📊 トレンドの読み方(実際のVizより)
累積新規顧客グラフ(2011-2015年):
Market 2011末 2012末 2013末 2014末 2015末 特徴
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
North America 500 700 850 950 1000 最大規模
APAC 400 600 750 780 800 着実な成長
LATAM 350 550 720 760 780 中盤伸び悩み
EMEA 300 500 650 720 760 安定成長
EU 250 400 580 680 750 後半加速
Africa 100 200 300 350 380 最小だが安定
重要な発見(Vizの注釈より):
「North Americaは2012年1月に横ばい化」
- 2011年: 急激な成長(0→500人)
- 2012年1月以降: 傾きが緩やか(獲得ペース鈍化)
- これは警告サイン!新たな施策が必要
傾きの解釈:
- 急な傾き(2011年の全Market): 市場開拓期、効果的な獲得施策
- 緩やかな傾き(2012年以降): 市場が成熟期に移行、安定成長
- North Americaの特徴: 2012年1月から特に傾きが緩やかに(飽和の兆候)
💡 実務での活用例
1. 危機の早期発見とアクション
Vizが示すNorth Americaの2012年1月の横ばい化を例に:
ステップ1: 問題の特定
// 成長率の計算
月次成長率 = (今月の新規顧客 - 先月の新規顧客) / 先月の新規顧客
アラート条件:
IF [月次成長率] < 0.05 THEN "要注意:成長鈍化"
ステップ2: 原因究明
- 市場飽和? → 既存顧客数 vs 総市場規模を分析
- 競合の参入? → 競合調査を実施
- マーケティング予算削減? → 予算推移を確認
ステップ3: 対策立案
- 新規市場(カナダ→メキシコ)への展開
- 既存顧客の紹介キャンペーン
- デジタルマーケティング強化
2. 市場別戦略の最適化
Market 2011-2012成長 2014-2015成長 戦略
North America 高→低 低 維持+リテンション重視
APAC 高→中 中 現状継続
LATAM 高→中 中 現状継続
EMEA 高→中 中 現状継続
EU 高→中 中 現状継続
Africa 高→中 中 長期育成
全市場共通の課題: 2012年以降の成長鈍化 → 新規獲得からリテンションへ戦略シフトが必要
3. マーケティングキャンペーン効果測定
// キャンペーン期間の成長率
キャンペーン前30日の平均獲得数 = { FIXED :
AVG(IF [日付] BETWEEN [開始日]-30 AND [開始日]-1
THEN [新規顧客数] END)
}
効果倍率 = [新規顧客数] / [キャンペーン前30日の平均獲得数]
4. 目標設定とトラッキング
// Market別の年間目標ライン
目標累積顧客数 = [年初顧客数] + ([日数] * [日次目標])
実績vs目標 = [累積新規顧客数] - [目標累積顧客数]
→ 目標ラインを実績線と並べて表示し、達成度を可視化
5. CAC(顧客獲得コスト)の最適化
市場別CAC = { FIXED [Market], [月] : SUM([広告費]) } / [新規顧客数]
// APACのCACが低い → 投資増額の正当化
// North AmericaのCACが上昇 → 効率低下の警告
実際のVizの教訓:
6つの市場を同時に可視化することで、相対的なパフォーマンスが一目瞭然。North Americaの問題が他市場との比較で明確になります。
🔍 応用: CAC(顧客獲得コスト)分析
実際のVizで表示される6つの市場別に分析:
Market 累積顧客数 想定CAC 評価
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
North America 1000人 高→上昇 飽和兆候、効率低下
APAC 800人 中 安定成長維持
LATAM 780人 中 安定成長維持
EMEA 760人 中 安定成長維持
EU 750人 中 安定成長維持
Africa 380人 高 小規模だが一定成長
戦略的インサイト:
- North America: 最大市場だが2012年から効率低下 → 維持投資に留める
- APAC/LATAM/EMEA/EU: すべて安定成長を維持 → 現状投資継続
- Africa: 最小規模だが安定した傾き → 長期的な育成投資候補
重要な発見:
全市場が2011年の初期に急成長後、2012年以降は安定成長に移行。これは市場成熟のサインであり、既存顧客のリテンションが次の重要課題となります。
🔑 ポイント
この例が示すのは、LOD表現により複数の集計レベルを同時に扱えるということです:
- 顧客レベル: 初回購入日の特定
- 日次レベル: 新規顧客数のカウント
- 市場レベル: 市場別の比較
ビューは「市場×日付」レベルで表示されていますが、内部的には顧客レベルでの判定が行われています。
実装時の重要ポイント
データソースとフィルタの関係
| LODタイプ | データソースフィルタ | コンテキストフィルタ | 通常フィルタ |
|---|---|---|---|
| FIXED | ❌ 影響を受けない | ✅ 影響を受ける | ❌ 影響を受けない |
| INCLUDE | ✅ 影響を受ける | ✅ 影響を受ける | ✅ 影響を受ける |
| EXCLUDE | ✅ 影響を受ける | ✅ 影響を受ける | ✅ 影響を受ける |
初心者へのアドバイス: まずはFIXEDを使いこなせるようになりましょう。最も汎用性が高く、フィルタの影響を受けにくいため、期待通りの結果が得られやすいです。
よくあるエラーと対処法
エラー1: 「集計式の中に集計式は使えません」
❌ { FIXED [顧客ID] : SUM(SUM([売上])) } // NG
✅ { FIXED [顧客ID] : SUM([売上]) } // OK
エラー2: 「ディメンションが見つかりません」
→ ディメンション名のスペルミスや、大文字小文字の違いを確認
エラー3: 「期待した値にならない」
→ データソースフィルタの影響を確認(例4参照)
デバッグのステップ
// ステップ1: まずシンプルなLODを作成
{ FIXED [顧客ID] : SUM([売上]) }
// ステップ2: 単独でビューに配置して確認
// 列: 顧客ID
// 行: 上記のLOD計算フィールド
// → 各顧客の合計売上が表示されるはず
// ステップ3: 問題なければ、複雑な式に組み込む
IF [上記のLOD] > 1000 THEN "優良顧客" ELSE "通常" END
中級・応用編への道
初級の5つをマスターしたら、次のステップに進みましょう:
🟡 中級編(例6-9)で学べること
- EXCLUDE表現の使い方(例6)
- 二段階集計のテクニック(例7)
- 複合的な条件判定(例8)
- スナップショットデータの扱い(例9)
🔴 応用編(例10-15)で学べること
- 複数のLOD表現の組み合わせ(例15)
- Table Calculationとの連携(例10, 14)
- パラメータとの組み合わせ(例11, 12)
- 動的な期間比較(例12)
実践演習:自分のデータで試してみよう
演習1: 例1の応用(顧客の深掘り分析)
実際のVizでは「13回購入した顧客が5人」という超ロイヤルカスタマーが存在しました。
課題:
この5人の特徴を分析し、共通パターンを見つけてください。
ヒント:
// 13回以上購入した顧客の抽出
超ロイヤル顧客 = IF [顧客別注文回数] >= 13 THEN [顧客ID] END
// これらの顧客の購入製品カテゴリ、地域、初回購入日などを分析
演習2: 例2と例5の組み合わせ(長期的価値の分析)
実際のVizでは2011年獲得コホートが4年間継続して貢献しました。
課題:
各獲得年のコホートが、何年間貢献し続けるかを分析し、平均的な「顧客寿命」を推定してください。
ヒント:
// コホート年と購入年の差
経過年数 = YEAR([注文日]) - [獲得年]
// 各コホートの最終購入年
最終貢献年 = { FIXED [獲得年] : MAX(YEAR([注文日])) }
平均顧客寿命 = AVG([最終貢献年] - [獲得年])
期待される発見:
- 顧客は平均何年間購入を続けるのか?
- 市場や製品によって顧客寿命に違いはあるか?
- この期間を延ばすためのリテンション施策は?
演習3: 例3の深掘り(収益性の段階分析と課題解決)
実際のVizでは「Highly Profitable」「Profitable」「Unprofitable」の3段階でした。
課題1: ピーク月の成功要因分析
2013年11月に17日のHighly Profitable Daysを達成した要因を分析してください。
ヒント:
// 収益性レベルの定義
収益性レベル =
IF [日次利益] > [日次利益の上位25%] THEN "Highly Profitable"
ELSEIF [日次利益] > 0 THEN "Profitable"
ELSE "Unprofitable"
END
// 11月の特徴:製品ミックス、顧客セグメント、プロモーションを分析
課題2: 年始の課題解決
1月のUnprofitable Daysが多い原因を特定し、改善策を提案してください。
分析観点:
- どの製品カテゴリの利益率が低い?
- どの顧客セグメントが購入していない?
- 競合他社の動向は?
- 過去の1月の成功事例は?
まとめ:まずは基本の5つから
LOD表現は強力ですが、すべてを一度に学ぶ必要はありません。まずは今回解説した5つのパターンを実務で使ってみることが重要です。
復習: 5つのパターンと実際のViz
| 例 | パターン | 実際のVizで分かること | キーとなるLOD |
|---|---|---|---|
| 1 | 顧客注文頻度 | 1,027人が1回のみ購入。13回購入の5人を分析すべき | {FIXED [顧客ID]: COUNTD([注文ID])} |
| 2 | コホート分析 | 2011獲得が4年間継続貢献。長期的顧客価値 | {FIXED [顧客ID]: MIN([日付])} |
| 3 | 日次利益KPI | 11月ピーク(17日)。年始が課題 | {FIXED [日付]: SUM([利益])} |
| 4 | 全体比率 | 米国18%が圧倒的。EUフィルタでも比率維持 | {FIXED : SUM([売上])} |
| 5 | 新規顧客獲得 | 北米が2012年1月に横ばい化。要対策 | {FIXED [顧客ID]: MIN([日付])} |
実際のVizから学ぶ重要な教訓:
- 数値の具体性(1,027人、$53K、17日、18%)がビジネス判断を可能にする
- 時系列での変化(2012年1月の横ばい化)が問題の早期発見につながる
- 視覚化の工夫(3層エリアチャート、世界地図、積み上げグラフ)が理解を深める
- コホート分析の本質: 長期的な顧客価値(2011獲得が4年間継続貢献)の可視化
- 季節性パターンの発見: 11月ピーク・年始課題という明確な傾向が、具体的な施策立案を可能にする
学習の進め方
- Week 1-2: 例1-2を自分のデータで実装
- Week 3-4: 例3-5を自分のデータで実装
- Week 5+: 中級編(例6-9)にチャレンジ
参考リソース
次回予告: 「Tableau LOD表現 中級編:EXCLUDE/INCLUDEを使いこなす」
Happy Analyzing! 🎉
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