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ホテルの値段を決める仕事をしていたら、気づいたらシステムを自作していた話

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はじめに

エンジニアって手に職ついててかっこいい。

外から見てる分にはずっとそう思ってた。ごりごりの理系ですごい速さでコード書いて、聞いたこともない横文字で議論して、難しい本読んで。ほんで理系で。実態は知らないけど、一般人から見たイメージってそんな感じだと思う。

私はそんなIT業界とは全く縁のないホテル業界で働いている。肩書きは「レベニューマネージャー」。大半の人にとっては聞いたことのない職業だと思うので一言で説明すると、ホテルの値段を決める人だ。昨日泊まろうとしたホテルが今日1,000円上がっていたとしたら、それは私みたいな人間の仕業です。

そんな私が、Pythonファイル507個、コード約12万行、機械学習モデル113個のレベニューマネジメントシステムを一人で作った。プログラミング経験ゼロから。その話をしていこうと思う。

ホテルの値段って誰が決めてるのか

ホテルの料金が日によって違うのは今や常識だけど、それを誰が決めているのかは実はあまり知られていない。

この仕事は「レベニューマネジメント(以下RM)」と呼ばれていて、そこそこ歴史がある。元々は航空業界がダイナミックプライシングを導入したのが始まりで、それがホテル業界に輸入された。日本ではアパホテルが広めたような語られ方をしているけど、実際は外資系ホテルチェーンが持ち込んだのが先だと思っている。

ここで意外かもしれない事実を一つ。

このRM、実はめちゃくちゃアナログだったりする。

大手チェーンの一部はシステムで自動化しているけど、業界全体で見れば大半が手動だ。理由はシンプルで、なくてもホテルは回るから

東横INNが一番わかりやすい。基本的に料金は固定で、値段を変える人なんていらないし、それでも勝手に予約は入ってくる。料金変動制のホテルでも、多少値付けを間違えたところで壊滅的なことにはならない。「現状困ってないのにシステムなんて要る?」となるのは自然なことだ。

機会損失は目に見えない。だから問題が顕在化しない。

これがRM、そしてRMSがなかなか普及しない最大の理由だと思う。

じゃあレベニューマネージャーもいらなくないですか

いらないかというとそうでもなくて、需要が弱い時期にどう対策を打つかとか、異なる部屋タイプ間の価格バランスをどうするかとか、そういう判断は必要になる。あとは売上が振るわない時に偉い人たちへ説明しにいくサンドバッグ役。これが地味に大事な仕事だったりする。

本来このサンドバッグ役はホテルの支配人が担うこともあるんだけど、まともな支配人はやることが山ほどあるし、大体は接客のプロであって数字のプロではない。だから数値を専門に見るRMが必要になる。

ただ残念なことに、このRMも所詮ホテル業界の人間なので、そんなに数字に強いわけではない。「若いから」「パソコン得意そうだから」みたいな理由でアサインされることが多い。ITや理系の人材はまずホテル業界には流れてこないので、基本的にスキルゼロからのスタートになる。

結果、一口に「レベニューマネージャー」と言ってもまじでピンキリ。高い給料でRMを雇ったらポンコツだった、という話はこの業界では珍しくない。

私自身も例に漏れず、文系出身、Excelすらまともに触ったことがない状態からRMとしてのキャリアが始まった。「僕の考えた最強のExcel」を我流で組み上げ、カラフルな方眼紙を売上収支表として提出していたあの頃は、今思えばいい思い出だ。

RMの仕事の8割はシステムで代替できる

これは断言できる。売上に直結する値付けの部分を自動化すれば、日常業務の大部分はなくなる。

ただし、値付けの自動化が難しい。

ホテルの価格は曜日、季節、イベント、競合の動き、予約の入り具合、天気、経済情勢……ありとあらゆる要因に左右される。しかもそのほとんどが経験則でしか身につかない。優秀なRMとは、多くの失敗を経験したRMのことだ。

全国津々浦々のビジネスホテル、シティホテル、旅館。あらゆる業態の、あらゆる季節の、あらゆるイベントを経験してきたRMは、データに現れない微妙な「癖」を嗅ぎ取れるようになる。「この街のこの時期は3週間前から一気に予約が入る」とか「このイベントは見た目ほど集客力がない」とか。

この暗黙知をシステムに落とし込めさえすれば自動化できる。

でも、経験豊富なRMはコードが書けない。

既存のシステムはなぜ微妙なのか

じゃあ外注しよう——と思うと、まず開発費で目玉が飛び出る。しかもベンダーはホテル業界の人間じゃないから、細かいニュアンスが伝わらない。「このイベントの時はこういう値動きをする」みたいな話が通じない。

それなら既製品のRMS(レベニューマネジメントシステム)を導入しよう——と試みると、月額が高い、自社のホテルシステムと連携できない、連携できても価格提案がズレている、みたいな問題が次々と出てきて頓挫する。

既製品のRMSがなぜ微妙なのか、ずっと考えてきた。

たぶん答えは「ベンダーに投げて作ったものを、継続的にチューニングし続ける仕組みがない」ことだと思う。例えば北海道と沖縄ではマーケットの癖は全然違うし、ホテルの業態や立地や規模でも相場感は大きく変わる。でも個々のホテルに合わせてそこまで細かく調整し続けるのは現実的じゃない。だからどうしても「平均して70点は取れる汎用システム」になる。

それでも十分すごいんだけど、100点を常に目指しているRMから見ると「なんか微妙」という感想になる。

開発に参画するホテル側の人間のレベルも重要で、中途半端な知見のRMが要件定義に関わると中途半端なシステムが出来上がる。「あれも欲しい、これも欲しい」とベンダーに追加発注すれば開発費は膨らむし、発注する側も完成形がイメージできていない。なんなら自分が完成形を知りたい、ぐらいのレベルだったりする。

バイブコーディングが全部変えた

つまり理想はこうだ。

あらゆるホテル・あらゆるマーケットの経験を積んだ最強のレベニューマネージャーが、統計学と機械学習を習得し、自分の手でシステムを作る。(開発費は0円で)

そんな人材はいない。いたとしても、まずホテル業界には来ない。

——と、去年までは思っていた。

バイブコーディングがこの前提を根底から覆した。経験豊富なRMが業務知識を提供し、コーディングはAIにやらせればいい。ドメイン知識だけはAIに置き換えられない。逆にそれさえあれば、コードは書ける時代になった。

ということで、これは経験だけはそれなりにある私が、AIの力を借りて「最強のRMS」を実際に一人で全部作っている話です。

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