[個人開発] "ただ答えるだけ"のRAGは卒業。会話の文脈からCVへ誘導する「AIセールス」を開発した話
AIチャットボットを個人開発して見えた、BtoB SaaSの難しさと可能性
なぜAIチャットボットを作ろうと思ったのか
個人で Web サイト向けの AI チャットボット(Front Mate)を開発しています。
きっかけは、前職で顧客サポートの業務を見ていた時の違和感でした。同じような質問が何度も来るのに、毎回人が対応している。FAQ ページは作っているけど、誰も見ない。チャットボットを入れたいけど、高額で導入のハードルが高い。
「これ、GPT-4 と RAG で解決できるのでは?」と思ったのが始まりです。
想定していた市場と、実際にぶつかった壁
当初の想定:中小企業の顧客対応を効率化したい
最初は「中小企業の顧客サポートを自動化する」ことを考えていました。
- 問い合わせ対応に時間を取られている
- FAQ を作っても見てもらえない
- 既存のチャットボットは高額で導入できない
こういった課題を持つ企業は多いはず。個人開発なので低コストで提供できれば、需要はあると思っていました。
実際にぶつかった壁:「誰のどんな課題を解決するのか」が曖昧
しかし、作り始めてすぐに気づきました。
「中小企業の顧客サポート」というのは、あまりにも広すぎる。
- EC サイトの問い合わせ対応なのか?
- SaaS のテクニカルサポートなのか?
- 店舗ビジネスの予約・問い合わせなのか?
業種によって、求められる機能も、許容できるコストも、導入のハードルも全く違う。
さらに、個人開発だからこそ見えてきた課題:
- 信頼の壁: 名前も知らない個人が作ったツールを、企業が使ってくれるのか?
- セキュリティへの懸念: 顧客データを扱うツールを、個人開発のサービスに任せられるのか?
- カスタマイズの要望: 企業ごとに「こういう機能が欲しい」という要望が違う。どこまで対応すべきか?
こういった壁にぶつかって、「BtoB SaaS を個人で作るのは想像以上に難しい」と痛感しています。
それでも作り続ける理由:技術で解決できる課題はある
壁にぶつかりながらも、作り続けているのには理由があります。
AIチャットボット市場の変化
従来のチャットボットは、シナリオベース(フローチャート形式)が主流でした。しかし:
- シナリオ作成に時間がかかる
- 想定外の質問に対応できない
- メンテナンスが大変
一方、GPT-4 のような LLM を使ったチャットボットは:
- 自然言語で柔軟に対応できる
- FAQ やドキュメントを学習させるだけで動く(RAG)
- 継続的な改善がしやすい
つまり、導入のハードルが劇的に下がった。これは大きなチャンスだと思っています。
個人開発だからこそできること
大手の SaaS と比べて、個人開発には明らかに不利な点があります。でも、逆に有利な点もある:
- 意思決定が速い: 「この機能が欲しい」と言われたら、すぐ作れる
- コストを抑えられる: 人件費がかからない分、価格を下げられる
- ニッチな課題に対応できる: 大手が無視するような小さな市場でも、個人なら十分採算が取れる
特に、「大手のツールは高機能すぎて使いこなせない」という中小企業のニーズは確実にあると感じています。
技術選定の裏にある思想:長く使えるものを作りたい
プロダクトの話をしてきましたが、技術選定についても少し触れます。
なぜクリーンアーキテクチャを選んだのか
個人開発だと、「とりあえず動けばいい」という考えになりがちです。でも、Front Mate は長く使ってもらうプロダクトにしたい。
そのために重視したのが:
- 保守性: 半年後に見ても、コードが理解できるか
- テスタビリティ: 機能追加の際に、既存機能が壊れていないか確認できるか
- 変更容易性: OpenAI から他の AI サービスに乗り換える時、大規模な書き換えが必要にならないか
クリーンアーキテクチャを採用したのは、これらを実現するためです。
Interface → Application → Domain ← Infrastructure
ビジネスルールを Domain 層に集約し、外部サービス(OpenAI, Supabase)は Infrastructure 層に隠蔽する。こうすることで、AI サービスやデータベースを変更しても、コアのビジネスロジックに影響を与えない設計にしています。
技術スタック
- Next.js 16 (App Router): フロントエンドとバックエンドを一つのリポジトリで管理
- Supabase: 認証、データベース(PostgreSQL + pgvector)、ストレージを一元管理
- OpenAI: GPT-4 (回答生成) + Embeddings (ベクトル化)
- TypeScript: 型安全性を重視
この構成で、一人でフルスタックを回せる環境を整えました。
現在実装している主要機能
Front Mate で実装している主な機能は以下の通りです。
1. RAG(Retrieval-Augmented Generation)
企業の FAQ やドキュメントを AI に学習させる仕組みです。
仕組み:
- Web ページや PDF/Docx をクロールしてテキスト抽出
- テキストをチャンク化してベクトル化(OpenAI Embeddings)
- Supabase の pgvector に保存
- ユーザーの質問に関連する情報を検索して GPT-4 に渡す
課題:
- チャンク化の戦略(どの粒度で分割するか)
- 検索精度の向上(キーワード検索とベクトル検索の組み合わせ)
- 古い情報と新しい情報の優先度付け
2. マルチテナント対応
複数の企業が同じプラットフォームを使えるようにしています。
- テナントごとにナレッジベースを分離
- チャットボットの見た目をカスタマイズ可能
- Supabase の RLS (Row Level Security) でデータを完全分離
これにより、セキュリティを担保しながら、複数の企業に提供できるようにしました。
3. エスカレーション機能
AI で解決できない質問は、人間オペレーターに引き継ぐ機能です。
思想:
AI は万能ではありません。特に、複雑な問い合わせや、個別対応が必要なケースでは、人間のサポートが必要です。
そこで、AI が「これは答えられない」と判断した場合、ユーザーに問い合わせフォームを案内し、メールで企業に通知する仕組みを作りました。
課題:
- どのタイミングでエスカレートするか(AI の判断 vs ユーザーの選択)
- エスカレート後のフォローアップをどうするか
4. Web サイトへの埋め込み
チャットボットを他の Web サイトに埋め込む機能です。
- iframe 方式:シンプルだが、カスタマイズ性が低い
- JavaScript SDK 方式:柔軟だが、実装が複雑
両方をサポートしていますが、現状は iframe 方式が使われることが多いです。
トライアルを通じて検証したいこと
ここまで、プロダクトの背景と現状を書いてきました。
正直に言うと、実際のユースケースでどれくらい使えるのか、まだ確信が持てていません。
個人開発なので、自分で使うシナリオは限られています。だからこそ、実際に使ってもらいながら改善していきたいと思っています。
特に知りたいこと
1. RAG の精度は実用レベルか?
デモ用の FAQ では精度が出ていますが、実際の企業の複雑なドキュメントでどれくらい精度が出るのか。特に:
- 専門用語が多い業界(医療、法律、技術など)
- ドキュメントの構造が複雑な場合(表、図、リンクが多い)
- 情報が古い / 重複している場合
こういったケースでの精度を検証したいです。
2. どんな質問が多いのか?
実際にどんな質問が来るのかを知ることで、ナレッジの構築方法や、AI の応答パターンを改善できます。
例えば:
- 「営業時間は?」のようなシンプルな質問が多いのか
- 「〇〇の場合、△△はどうなりますか?」のような複雑な質問が多いのか
3. UI/UX の改善ポイントは?
チャットボットの UI/UX は、実際に使ってもらわないと分かりません。
- チャットウィンドウのサイズや配置は適切か
- 応答速度は許容範囲か
- エスカレーションのタイミングや UI は分かりやすいか
4. セキュリティや運用面での懸念は?
企業で導入する際の懸念点を知りたいです。
- データの保存場所や期間
- GDPR や個人情報保護法への対応
- ログの管理や分析機能
こういった点について、率直なフィードバックがあれば、改善につなげられます。
トライアル協力企業を募集します
もし興味を持っていただけたら、トライアルとして無料で使ってみませんか?
こんな方を想定しています:
- FAQ ページはあるけど、もっとインタラクティブにしたい
- 社内向けドキュメント検索を RAG で試してみたい
- AI チャットボットの技術に興味があるエンジニアがいる
- 個人開発のプロダクトを応援したい
提供内容(無料、最大 3 ヶ月):
- チャットボットのセットアップ
- ナレッジベースの構築支援(Web ページのクロール、ファイルアップロード)
- カスタマイズ対応(見た目、応答内容など)
- 実装の技術的な説明(希望があれば)
こちらからのお願い:
- 実際の FAQ/ドキュメントでの RAG 精度のフィードバック
- どんな質問が多いか(ナレッジのチューニングに活用)
- UI/UX の改善点
- セキュリティや運用面での懸念
技術的なディスカッションも大歓迎です。「こういう実装にした方がいい」「この技術スタックは合わないのでは?」といった率直な意見をいただけると、開発の参考になります。
個人開発で学んだこと
このプロダクトを作る中で、多くのことを学びました。
1. 「作ること」と「使ってもらうこと」は全く別
技術的には動くものが作れても、それを誰かに使ってもらうのは全く別の話でした。
- どうやって見つけてもらうか(マーケティング)
- どうやって信頼してもらうか(ブランディング)
- どうやって継続的に使ってもらうか(カスタマーサクセス)
これらは、技術力だけでは解決できません。
2. BtoB SaaS は想像以上に難しい
個人で BtoB SaaS を作ることの難しさを痛感しています。
- 長い導入プロセス: 企業の意思決定には時間がかかる
- セキュリティへの高い要求: 個人開発では信頼を得にくい
- カスタマイズの要望: 企業ごとに異なる要望にどこまで応えるか
一方で、だからこそ挑戦する価値があるとも感じています。
3. 技術選定の重要性
クリーンアーキテクチャを採用したことで、機能追加や変更が楽になりました。
特に、「OpenAI の API が変わった時」「Supabase から他のサービスに移行したい時」といった変更に強い設計にしておくことは、長期的に見て正解だったと思います。
個人開発だからこそ、「半年後の自分が理解できるコード」を書くことの重要性を実感しました。
今後の展望
Front Mate は、まだまだ発展途上です。今後やりたいことはたくさんあります。
近い将来(3ヶ月以内)
- 会話データの分析機能: どんな質問が多いか、AI の回答精度はどうか
- ストリーミング対応: GPT-4 のレスポンスをリアルタイムで表示
- 多言語対応: 英語や中国語など、複数言語でのサポート
中長期(6ヶ月〜1年)
- 他の AI サービスとの連携: Claude、Gemini など
- 音声対応: 音声での問い合わせと回答
- Slack / Teams 連携: チャットツールからの問い合わせ対応
ただし、これらは「作りたい機能」であって、「市場が求めている機能」かどうかは分かりません。
だからこそ、実際に使ってもらいながら、本当に必要な機能を見極めたいと思っています。
お問い合わせ
興味を持っていただいた方は、以下からお気軽にご連絡ください:
- X (Twitter): @hisashi_takagi(DM オープンです)
- Email: info@raicho-tech.com
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
個人開発での BtoB SaaS 作りに興味がある方、AI チャットボット技術に興味がある方、「うちでも試してみたい」という方、ぜひご連絡ください。一緒に Front Mate を育てていけると嬉しいです 🙌

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