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請負・準委任・派遣とスクラムを組まなければいけなくなった話

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物語ではありますが、現実から着想を得ています。
皆さんの周りでは思い当たることはないでしょうか。


ゼロ章 いつも通りの始まり

営業から一本の連絡が入る。

営業「例のクラウド移行案件、ほぼ決まりそうです。来月頭には正式に発注される見込みです。」
主人公「……いつもどおりだね」

この段階では、プロジェクト手法なんて誰も気にしていない。まずやるべきは人の確保から。
主人公は部長に報告して、不足要員はいつものように外部パートナーに声をかける。

主人公「この領域はA社にお願いしよう。UIはB社のあの人が早い。あと人が足りないから派遣会社にも声かけて」

見積もりが返ってくる。請負は仕様が固まっている部分だけ。準委任は期間ベースで。派遣は即戦力枠として数名。主人公はそれらをまとめて社内の稟議に回す。

総務や購買が動き出す。請負契約のドラフト、準委任契約の期間調整、派遣契約の単価交渉。いつもの流れだ。

そんなある日の午後。部長がコーヒー片手に何気なく声をかけてくる。

部長「そういや、君はアジャイルの経験あったよね」
主人公「ええ……」

部長はその返事を聞いた瞬間、まるで確認事項が一つ片付いたかのように言う。

部長「役員からさ、アジャイルもやってみろって。今度のプロジェクトはアジャイルでやるから。スピード感が大事らしいんだよね。とりあえずスクラムで回して。あとは任せるから」

主人公「……え?」

部長「スピード感が大事だからね。とりあえずスクラムで回してさ。あとは任せるから」

主人公「え~~~」

部長は満足げに去っていく。
主人公はその背中を見送りながら、心の中で静かに叫ぶ。

主人公(心の声)「……この体制でアジャイルって。契約、もう全部決まってるんだけど」

キックオフの日。社員、請負、準委任、派遣、全員が同じテーブルにつく。表向きは「一つのアジャイルチーム」。
主人公はホワイトボードにスプリントの説明を書きながら、薄々気づいていた。

主人公(心の声)「この体制でアジャイルって……本当にできるのか?」


第1章 回り始める、でも噛み合わない

スプリントが始まった。タスクを切り、優先順位をつけ、チームに割り振る。デイリースタンドアップも始めた。形だけ見ればアジャイルだ。

最初は手探りだった。タスクの切り方もぎこちなく、進め方も定まらない。思ったように進まず、会話もどこか噛み合わない。

それでも、数日が経つと少しずつ流れが見えてきた。デイリーも形になり、タスクも回り始める。

――回っている、ように見えた。

しかし、どこかおかしい。

タスクが思ったように進まない。優先順位の変更に妙な抵抗がある。一部の人間に負荷が偏っている。改善が積み上がらない。

主人公「アジャイルって、もっと軽やかに回るはずじゃないのか……」

違和感を抱えたまま、それでも現場を回し続ける。グレーゾーンのまま、なんとなく動いている。それが数週間続いた。

そして、ある朝のスプリントレビューの後。会議室に見慣れない若い女性が立っていた。

部長「ああ、紹介するよ。顧問契約を結んでいる法律事務所から、業務研修で来てもらってる。」

部長は軽くそう言って、こちらを見た。

部長「弁護士さんだから、まあ技術は分からないと思うけど……しばらく一緒に入ってもらうから、よろしく」

彼女は静かに一礼した。

彼女「よろしくお願いします。しばらくお邪魔します」

主人公は愛想よく答えながら、内心では思っていた。

主人公(心の声)「……弁護士が業務研修って、なんだそれ」

彼女の席は、主人公の少し離れた横に用意された。
同じ島の端。視界には入るが、会話に入る距離ではない。
ふとした拍子にディスプレイが目に入る。何かの文書を開いているらしいが、内容までは分からない。
スクロールするたびに、細かい文字が流れていく。
彼女は何も言わず、ただ画面を見ている。

彼女は次のスプリント計画会議から、静かに参加し始めた。


第2章 それダメです(請負編)

スプリント計画会議。主人公は請負ベンダーの担当者に向かって、いつものように頼む。

主人公「この画面の修正、先に挙げてもらいたいんで今週中でお願いします。あと……これもついでに一緒にやっちゃってもらっていいですか」

その瞬間、隣から静かな声が聞こえた。

彼女「それダメです」

会議室がわずかに静まる。主人公は振り返る。

主人公「……え?」

彼女「請負は、決めた範囲の成果物を納めてもらう契約です」
彼女「こういうふうに、タスク単位で個別に頼む形はできません」

一拍置いて、彼女は続ける。

彼女「それと……納品も分けられません。契約した成果物として、まとめて納めてもらう形になります」

主人公は少し考える。でも現場の感覚では、こういうやり取りはずっとやってきた。

主人公「でも、今まで普通にこうやって頼んでましたけど……」

彼女「グレーゾーンです。問題が起きなかっただけで、起きたら請負側が『それは契約の範囲外』と言えます」

沈黙。

主人公「……じゃあ、どう頼めばいいんですか」
彼女「成果物を定義し直して、変更として契約に組み込む形にする必要があります。」

一拍置いて、彼女は続ける。

彼女「……こういう進め方、アジャイルって言うんですか」
彼女「こういう細かい変更は、請負契約とは相性がよくありません」

主人公はホワイトボードのタスク一覧を眺めた。このやり方でずっとやってきた。
でも――否定できなかった。

主人公(心の声)「……そこまで考えていなかった」
主人公(心の声)「その都度契約追加していかないといけないのか……現実的じゃないな」


第3章 それもダメです(準委任編)

翌週のスプリント計画。今度は準委任のエンジニアに向かって主人公は言う。

主人公「この三つのタスクのうち、最後のやつを先にお願いします」
彼女「それもダメです」

もはや主人公は驚かない。ただ、静かに聞く。

主人公「……なぜですか」
彼女「準委任は作業責任の契約です。」
彼女「順番や期限を指定すると『命令』になります。準委任に命令はできません」
主人公「でも期限がないと困ります。スプリントは一週間なんで」
彼女「期限を『決める』のではなく、『合意する』必要があります」
主人公「……違いは?」
彼女「こちらが一方的に言うか、相手と一緒に決めるかです」

主人公はしばらく考えてから言う。

主人公「じゃあ、『今週中にこの三つを終わらせたいのですが、進め方を一緒に考えてもいいですか』なら大丈夫ですか」
彼女「大丈夫です。それなら合意です」
主人公「……だいぶ違うな」
彼女「でもこれで動いてもらえますよ。たぶん」

(「たぶん」の一言が、会議室の空気をわずかに和らげた)

主人公(心の声)「合意で進めるのはいい……でも、毎回すり合わせるのか?」
主人公(心の声)「スプリントのスピードと合わないな……」

主人公は少し笑って、次のアジェンダに移る。しかし彼女はまだ何かを言いたそうな顔をしていた。

主人公「……まだありますか」
彼女「……派遣の話が残っています」
主人公「それは命令できるんですよね?」
彼女「できます」

主人公は少し安堵する。彼女は続けない。でも、その沈黙が予兆だった。


第4章 命令できる、だからこそ壊れる(派遣編)

その日の夕方、スプリントレトロスペクティブ。
ついさっきの会話が頭に残ったまま、主人公はチームの状態を振り返っていた。
派遣のメンバーは確かに動いている。命令できるから、タスクは消化される。でも何かが違う。

主人公「なんか、派遣の人たちが改善提案をしなくなった気がするんだけど」

彼女は静かに言う。

彼女「構造的にそうなります」
主人公「どういうことですか」
彼女「社員はおいしいところを担当します。」
彼女「請負はやりやすい部分を切り出して持っていきます。範囲外の余計な仕事は来ません」
彼女「準委任は残りの中から仕事を選べます。派遣には、残った全部が命令で来ます」

主人公は黙って聞いている。

彼女「派遣には、明確な『指揮命令』が必要です。でも、アジャイルの本質はチームの『自律』ですよね?」
彼女「命令されないと動けない契約形態の人間と、自ら考えて動くべきチーム。」
彼女「『命令に従え』と強制されている人に、『自律的に動け』と要求すること自体が、契約上の矛盾なんです。」
主人公「……アジャイルはチームで育つことが前提なのに」
彼女「はい。その前提が、契約の構造と噛み合っていません」

主人公はホワイトボードを見る。スプリントは回っている。タスクは消化されている。でも「チームとして育つ」という感覚が、確かにない。

主人公「じゃあ……どうすればよかったんですか」

彼女は少し考えてから答える。

彼女「アジャイルをやるなら、それに合った契約にする必要があります。でも今回は契約してから手法が変わったので……」

彼女は言葉を止めた。

主人公「……最初からこうなる運命だったってこと?」
彼女「指示した人が、プロジェクト手法と契約形態が密接に関係していることを知らなかった。それだけです」

「それだけ」という言葉が、やけに重く響いた。


第5章 知らなかった、では済まない

スプリントが数回回った頃、部長から声がかかる。

部長「経営層に中間報告するから、来てくれ」

会議室には経営層が並び、なぜか弁護士の彼女も同席していた。

経営層「で、進捗はどうだ?」
主人公「スプリントは回っています。ただし──契約形態ごとに制約があり、アジャイルの前提と噛み合っていません」
経営層「契約? それがどう関係するの?」

彼女が静かに口を開く。

彼女「請負にタスク単位で指示すると“偽装請負”になります。契約違反です」

部長の顔がわずかに引きつる。

彼女「準委任も命令はできません。そしてタスクを選ぶこともできます」
彼女「派遣には命令できますが、構造的に改善が止まります」

経営層は眉をひそめる。

経営層「……では、どうすればいい?」

主人公「……契約はすぐには変えられません」
主人公「なので、請負はスプリントから切り離して、成果物単位で扱うしかないと思います」
主人公「準委任とは、順序も含めて合意しながら進める形に変えます」
主人公「派遣も含めて……できるだけチームとしてフラットに調整します」


第6章 それでも回り始める

それから主人公は変わった。

請負への頼み方を変えた。
準委任との会話を「命令」から「合意」に切り替えた。
派遣のメンバーにも、できる範囲で改善提案の場を作った。

完璧ではない。でも、少しずつ噛み合い始めた。

スプリントが回るようになった。
タスクは順調に消化され、ようやくデモが成立し始める。

「作って、見せる」というサイクルが、初めて形になった。

まだぎこちなさは残る。
それでも、確実に前に進んでいる感覚があった。

彼女はいつも会議の端に座って、静かにメモを取っていた。ある日の会議後、主人公は聞く。

主人公「研修、どうですか。役に立ってますか」
彼女「はい。法律の知識は試験で身につきます。でも、知識が現場でどう機能するかは、来てみないとわからないと思っていたので」
主人公「……現場の感想は?」
彼女「プロジェクトの進め方にも様々な形があることや、お客様との対話の重要性を体感できたのは新鮮でした」
彼女「そして、知識だけで現場は動かないと、わかりました。あと、私が指摘したことで、正しく動けるようになった部分もあると思っています」

主人公は少し笑った。

主人公「正直ですね」
彼女「事実ですから」

現場は確かに、生きていた。
少なくとも、その時の自分にはそう見えていた。


終章 視察

予算の底が見えてきた頃、経営層が視察にやってきた。
部長も同行している。顔が少し強張っている。

現場を見ると、チームは活き活きしていた。
スプリントは回り、デモも当たり前のように行われている。

ユーザーも使い始めていた。
フィードバックが返ってくる。
アイデアが出てくる。
またアイデアが出てくる。

バックログは、減るどころか増え続けていた。

経営層は満足げに頷きながら、モニターに映し出されたバックログを覗き込む。

チケットが山のように並んでいた。
優先度がつけられ、きれいに整理され、スプリントの計画まで立っている。

経営層「これは……残タスクか?」
主人公「ユーザーから出てきたアイデアです。」
主人公「どれも価値があります。機能している証です。」

経営層は何も言えない。

部長の額に汗がにじむ。
以前の“偽装請負”の言葉が、今になって重くのしかかる。

終わらせたい。でも終わらせる理由が見つからない。プロジェクトは順調なのだから。
終わらせる決断を、自分でしなければならない。

その重さだけが、静かに経営層に降り積もっていく。

会議室の隅で、彼女は静かにメモを取っていた。


アジャイルを命じたのは、あなたです。


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