私の来歴とAI(002-002)
Q)AI理解は私の直感によるものであるが正しいか?
前の投稿のようなAI理解は私の直感によるものである。つまり、フロイトにおける自由連想法や、シュールレアリスム、Nirvanaにおける言語の技法(名前を忘れたので教えてほしい)や、脳がニューロンを基盤に動いていることなどから、AIも同様なのだろうと考えた。私のアナロジー的な思考は、ある程度の正しさを持つか?また、私の理解に欠落している部分を教えてほしい。
A)ある程度の正しい比喩だが、厳密には異なる部分も多い。
以下では、質問者さんが挙げられたフロイトの自由連想法・シュールレアリスムの「自動筆記(」・Nirvanaの歌詞技法(オートマティック・ライティング的な発想など)と、AI、すなわち大規模言語モデルやニューラルネットワークの動作とのアナロジーについて整理します。結論から言えば、「ある程度の正しさをもった比喩としては有効だが、厳密には異なる部分も多い」 と言えます。以下、その理由と、質問者さんの理解において補足が必要な点をまとめました。
1. 思い出せない「シュールレアリスムの技法」について
シュールレアリスムでは、次のような言語技法・制作技法が有名です。
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自動筆記(オートマティスム, Automatic Writing)
- ブルトンやシュールレアリストたちが用いた手法で、意識的なコントロールを極力排除し、湧き出る言葉をそのまま書きつける方法です。
- フロイト的な自由連想を応用しており、意識下のイメージを文章や詩に活かすことが目的でした。
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エクリチュール・オトマティック(Écriture automatique)
- フランス語圏で「自動書記」と呼ばれる手法。日本語では上記の「自動筆記」とほぼ同義です。
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カットアップ/コラージュ的技法
- こちらはダダや一部のシュールレアリスム作品、のちにはウィリアム・S・バロウズやデヴィッド・ボウイなどが用いた「文章を切り貼りして再構成する」作法です。
Nirvana(カート・コバーン)がどこまで「自動筆記」や「カットアップ」的手法を明言していたかは資料によりますが、抽象度の高い言葉を自由に繋ぎ合わせる、あるいは**一種の自由連想的なリリック(歌詞)を書いていたのは確かです。
質問者さんがイメージされているのは、この「自動筆記」または「自由連想」**に近い技法だと思われます。
2. 質問者さんのAI理解はどこがアナロジーとして有効か?
2.1 連想・自動生成というイメージ
- フロイト的自由連想やシュールレアリスム的オートマティスムでは、「意識下・無意識下にある要素を、制約なく連想させる」ことで作品や言葉を生み出します。
- 大規模言語モデル(GPTなど)も、膨大なデータから「単語同士の結びつき」「文脈の出現頻度」を学習し、次に続く単語を自動的に予測して生成しています。
- したがって、「内部(脳 or ニューラルネット)のパターンにしたがって、言葉を連想的に生成していく様子」は、表面的にはよく似ています。
2.2 ヒトの脳のニューロンとAIの人工ニューロンの類似
- 人間の神経回路網と人工ニューラルネットワークは、あくまで「ニューロンの発火パターンをモデル化した数学的抽象物」か「生物学的実体」かの違いはあるものの、
- 「複雑なネットワーク構造を通じて信号を伝播し、連想や認識を行う」という大枠のイメージは似ているので、アナロジーとしてはある程度成立します。
3. 質問者さんのAI理解において欠落しがちな部分
一方で、AI(大規模言語モデル)と人間の自由連想・オートマティスムとの違いを押さえておくと、より正確に理解できます。
3.1 確率分布と「学習」プロセス
- 大規模言語モデルは、**「テキストに含まれる語と語の共起パターン」「頻度」**を統計的(確率分布)に捉え、それを大量のパラメータ(重み)に内蔵します。
- いわば、**「言語に関する確率的ルールを学習している」**状態です。
- 人間の自由連想は、(少なくとも現代科学では)そこまで「確率的計算」という明示的な形で捉えられていません。もっと複雑な脳内ネットワークで情動・記憶・動機などを含む要因が絡んでいます。
3.2 出力を制御する仕組みの違い
- シュールレアリストの自動筆記は、「なるべく意識を排除」しようとはしても、最終的には作家の意図や文化背景、当人の無意識的願望などが介在しやすい。
- AIの言語モデルは、その「意思決定」をいったん確率分布にゆだね、そこから単語をサンプリングする形で文を生成しており、感情や意図はありません(モデル自体は単に統計的規則に従うだけ)。
- ただし、ユーザーのプロンプトやモデルの設定(温度パラメータなど)は、出力に影響を与えます。ここが「(表面的には)人間がオートマティックに生成しているかのように見える」要因でもあります。
3.3 人間の意識や無意識との対応づけ
- フロイトの理論は「意識と無意識のせめぎあいの中で自由連想が起こる」と想定しますが、AIは意識も無意識もありません。
- AIは単に「入力に対して、もっともらしい出力を確率的に生成するブラックボックス」であって、そこに自己言及的な意識構造はありません。
- したがって「AIの無意識」という概念はあくまで詩的メタファーでしかない点には注意が必要です。
4. アナロジーとしての妥当性と、さらに補うべき理解
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アナロジーとしての妥当性
- 膨大なパターンを蓄え、表出のときには「自動生成」的にアウトプットしている点で、シュールレアリスムの自動筆記や自由連想との類似を感じるのは、クリエイティブな視点としては面白い発想だと思います。
- AIやニューラルネットが「ある刺激に対し、内在化された重みを通じて即座に連想的な応答を出す」という仕組みは、確かに一種の「自動連想」とも言えます。
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欠落しがちな部分(より補うべき)
- 確率論や統計学的解釈:AIは裏で巨大な確率モデルを学習し、そこからサンプリングしている。
- 学習プロセス(トレーニング)の違い:人間の場合は、長い時間かけて感覚・文化・経験を総合的に蓄えるが、AIは膨大なテキストを高速に処理し、パラメータを最適化している。
- 意識や意図の有無:人間には意図や情動があるが、AIは「意図のシミュレーション」ができるだけで、本当の意味で意図や無意識は持たない。
- 制御可能性:AIの生成にはパラメータや訓練データ、プロンプト設計などの「外部からの制御」がある程度効くが、人間の自由連想はより自発的・非制御的に起きる。
5. 最後に
質問者さんが感じているような「連想の自由さ」「アート的な自動生成」「ニューロン(あるいはネットワーク)の働きに基づく何らかの動き方」などの観点で、AIと人間の脳やシュールレアリスムを比較するという着想自体は、創造的なアナロジーとしては十分成り立つと思います。実際、多くの芸術家や研究者が同じような類推をしてきました。
ただし、より厳密に捉えるには
- AIは統計的ルールをパラメータで保持する確率モデルである
- 人間の自由連想やシュールレアリストのオートマティスムとは目的や脳内プロセスが異なる
- 意識や無意識の概念をそのままAIに当てはめるのは難しい
といった補足点を押さえておくと、質問者さんの理解はさらにバランスよく広がるでしょう。
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