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[読書感想]『ビジネス課題を解決する技術』を読んだらめちゃくちゃ良かった

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はじめに

この本を読んだきっかけは、献本をいただいたことです。折角の機会なので、書評を書かせていただきます。
魅力を語りきれているか自信はありませんが、このブログを読んでくださった方がこの本を購入するかどうかを判断する一助となれば幸いです。
本へのリンクはこちらです。

本の概要

この本は、実際にビジネスの現場において最も重要な技術である「ビジネス課題をデータサイエンスの問題に落とし込む」技術を、より現場に近い事例を元に学べる本となっています。

構成

  • 1章: 基礎編

    • ビジネス課題を解決する技術(フレームワーク)の基礎
    • 大雑把なビジネス課題を提示された際の整理方法・情報収集の方針の立て方
    • 義務教育レベルの数学問題を例に専門知識がなくても学習できるような内容
    • 数理最適化問題として書き下すための前提知識
      • 目的関数とは?
      • 制約条件とは?
      • 決定係数と定数とは?
    • 実際のビジネスでの数理最適化問題への落とし込みの例
    • 数理モデルを構築する上でドメイン知識が必要になる理由とどうドメイン知識を組み込むかを落とし込んだ各事例ベースで解説
  • 2章〜5章: 実践編

    • マーケティング領域の実際の課題を例に1章で学んだフレームワークを活用
    • ビジネス課題を数理的に解決する方法を学習

主なポイント

  1. データサイエンスとビジネスの橋渡しの方法論について学べる貴重な本

    • ビジネスのKPIとデータサイエンスの橋渡しを行う上で必要なプロセスの解説が厚い
    • フレームワークの使い方みたいな入門書より圧倒的に少ない分野
  2. テレビCMにおけるマーケティング特有のドメイン知識の導入がすごい丁寧な解説

    • テレビCMの出稿形態、スポット、パーコスト、グロスリーチ、ユニークリーチなどの説明もあり、初見でもドメインについて理解しやすくなっている
  3. 実践的な試行錯誤のプロセスが学べる

    • 現場でよくある仮説検証の流れが丁寧に解説されており、シニアクラスの思考をトレースするのに最適。
  4. 数理最適化問題への落とし込み方法が体系的に学べる

    • ビジネス課題を数式で表現する方法論が身につく
  5. ドメイン知識の組み込み方について具体的に学べる

    • マーケティング以外の分野でも応用可能な考え方が得られる

詳細な感想・分析

特に印象に残った部分

1章の導入が秀逸

こういう本の内容ってどうやってもビジネス周りのドメイン知識が必要になり小難しい話からスタートして初学者の出鼻を挫かれてしまって心が折れてしまうと思うので、「どうやってわかりやすく1章の導入を行うんだろうなー」と思いながら読んでいたのですが、中学生レベルの数学の問題を題材に「ビジネス課題をデータサイエンスの問題に落とし込む」という作業の実例と解答までの思考・コミュニケーションのプロセスを見事に書き上げていました。

以下のような流れで展開されており、具体的な例が誰にとっても分かりやすく、データサイエンスに詳しくない人にも数理最適化問題として整理する手順を身につけて自社のビジネスを"定式化"して整理するのにもおすすめできます。

  • 「先に出発した花子さんに追いつきたい」という大雑把なビジネス目標が提示され、それを分析者がどのように整理して解くかを説明
  • 解析的に解ける簡単な問題からスタートし、ビジネスサイドとの対話の情報収集の術も言語化されているため、初めてデータサイエンスの仕事を行う人や数理的なバックグラウンドのない方、新卒の方でも理解しやすい内容

2章以降の実際のビジネスでの事例での試行錯誤の部分が面白い!(まだ2章までしか読んでないけど!!!)

まず、機械学習によるリーチカーブを行いうまくいかないことを示す
→線形回帰もダメでした
→じゃあCM接触回数のような「ある期間の中で事象が何回発生するか?」という際によく使われる確率分布のポアソン分布はどうだろう?
→ダメだった理由を深掘り、「分布を合成するのが良いかも!」と気づき、他の分布とも掛け合わせて「最適なリーチカーブの近似を作れた!」というよく現場で発生する仮説を立てて実験のループの流れが書いてあり、実践的で真似しやすい流れとなっていました。
データサイエンスの現場では必須のPDCAを回してモデルを改善していくという流れも身につけられるようになっており、新人のデータサイエンティストにおすすめしたい内容となっておりました。

学んだこと・気づき

自分は基本的には自然言語処理の分野なので、ドメイン知識を数理モデルに組み込むといったことはほぼほぼ経験がなかったのですが、「このようにして組み込むのか!」と読み進めながら理解することができて良かったなと思いました。
私自身は数学的なバックボーンは薄かったのもあり、概ね文章で目的関数や制約条件などに該当するような整理を行っていましたが、数理最適化問題という形で整理するという方法は情報の圧縮効率が高く、ひらめきが生まれやすそうな整理の仕方だということがわかったのと、「数理モデルに落とし込む際に作った数理最適化問題をベースに式を組み上げていくことで説明性の高いモデルができるのか!」と個人的にとても良かったです。
この本で紹介されている今後目の当たりにしたビジネス課題は片っ端から数理最適化問題で整理していくことで、数理モデルを作るような仕事をしていなくとも、実務でも大きく活用できそうなフレームワークである感触がありました。
また、マーケティング分野には全くこれまで経験がなかったのですが、こういう分野なのかというのが知れたのも読み進めていく上で非常に面白い要素でした。テレビCMの接触データがないまま、妥当なリーチカーブを推定するというより実務に近い設定での説明もあり、テレビCMの分野のマーケティングの苦労も感じられて良かったです。
「テレビCMの出稿量を最適化したい」という要望が出てきた時に、KPIツリーを書いて整理を行って、何を最適化したいのかというコミュニケーションを行って指標を決めた後に数理最適化問題に書き下す流れはKPIツリーが列挙できていることでビジネスサイドとの認識も揃えやすく、実践的で真似しやすい流れとなっており、とても参考になりました。
一応は一般教養レベルの数理モデルなどは触れるレベルで勉強していましたが、これをビジネスにどういう流れで利用するのかイメージが湧いていませんでしたが、この本を読んだことでイメージがつかめました。
私自身は直接的な利益に結びつきづらいような問題を扱うことが多いのですが、この本で学んだ内容をうまく取り入れる方法をちょっと考えてみたいなと思いました。

私の業務で実践できそうな内容

数理最適化問題への落とし込み

  • ビジネス課題を目的関数と制約条件に分解する習慣
  • KPIツリーを使った課題の整理方法

仮説検証のプロセス

  • 機械学習→統計的手法→分布の組み合わせという段階的なアプローチ
  • 結果の解釈と次の仮説の立て方

ビジネスサイドとのコミュニケーション

  • 何を情報収集するか?

疑問に思った点 疑問に思っていた点

現場では観測されたデータは少ないという前提のもとで観測されたデータのみを入力に2章のリーチカーブを推定していたのですが、良し悪しの判断を観測されていないデータをベースに近似がうまく行ったかどうかを判断されているように見えたので、仮定されている現場だと観測されていないデータは手に入らないので「実際の現場だと良い推定かをどう判断するのだろう?」と少し疑問に思いました。(どこかに記述があって見落としているかもしれません…)
おそらくはビジネスサイドのマーケティング担当の方の経験と照らし合わせて違和感がないリーチカーブになっているかどうかが判断の軸になるんだろうかとは思いました。

(7/1 追記)以下、著者の森下さんから回答がありました。

疑問点・改善点であげてくださった正解データがない場合のモデル評価は、ロジックの妥当性で判断するしかないのかなと思っています。
ドメイン知識と照らし合わせたときに妥当(と思われる)仮定で数理モデルを組んでいることで正当化するしかないのかなと。
https://x.com/dropout009/status/1940026430894874733?t=bpya96TN82bDKrefCwT14A&s=19

ドメイン知識と照らし合わせて妥当か否かがポイントとのことでした。
モデルが妥当と考えられる仮定に基づいて構築されていれば、それが評価の根拠となるという点で、自然言語処理のルールベースアプローチと共通するものがあると感じました。
実際、ルールの設定もドメイン知識に基づいてなされており、この視点は非常に納得感がありました。

どんな人におすすめか

データサイエンスをある程度学んでいるが、初めてビジネスに適応する人からすでに自分なりのやり方で適応している人にもおすすめできる本だと思いました。
1章の内容はデータサイエンスのバックボーンがない新卒の方でもわかりやすく、お勧めできると思いました。ただ、2章以降は少し辛いかもですが、読めたらかなり力になると思います。
また、マーケティング以外の業界で活躍されているデータサイエンティストの方でも役に立つエッセンスが入っているので、「マーケティングじゃないしなー」と思ってもぜひ読んでほしいです。

まとめ

全体を通して、かなり説明が丁寧でわかりやすい構成となっており、データサイエンスとビジネスの橋渡しについて学べる貴重な本だと思います。
特に、数理最適化問題への落とし込み方法やドメイン知識の組み込み方について、実践的な事例を通じて学べる点が非常に価値があります。
今後、この本で学んだフレームワークを活用して、より効果的なビジネス課題解決に取り組んでいきたいと思います。

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