質的データ分析ソフトでの階層表現(Saboten開発日記 4)
REFI-QDA 標準における階層表現
質的データ分析ソフトを使っていると、階層表現を用いることはしばしばある。
- コードを階層関係で表す
- データを階層関係で整理する
Saboten でも階層表現を用いようとしたが、REFI-QDA 標準の仕様は次のようなものだった。
- コードは階層表現ができる
- データは階層表現ができない
- セットによるグルーピングは一階層のみできる(つまり、親セットの中に子セットは作れない)
多くの質的データ分析ソフトでは、データをディレクトリ形式で階層的に整理することができるが(e.g. インタビュー > 協力者 1 > 2025-07-25)、 REFI-QDA ではできない。
今どき階層的に整理するよりもタグづけによるフィルタリングでいいじゃないかという発想をするならば問題はない。REFI-QDA ではデータが所属するケースに対して変数を与えられるので、変数によるフィルタリングは可能である。ただ、自分はなんとなく階層的な整理ができた方が安心であった。
Saboten における階層表現の実装
Gemini CLI とも相談し、可能な選択肢をいくつか洗い出した。
- Saboten の独自仕様を設定し、REFI-QDA 標準から外れることをアラートしたうえで使う。
- セットの命名規則で対応する。たとえば内部では「親セット名 / 小セット名」の名前になっているものを、UI では階層的に表す。
- 階層表現ができるコードを使ってデータを整理する。
今のところまだどうするかは決めていないが、コードを用いる方法は案外いいのではないかと思い始めた。ドキュメントペインに表示するコード・コーディングをフィルタリングできる機能を別途作っていたのだが、それと親和的に感じたからだ。

つまり、コードの種類を「索引コード」と「分析コード」にわけて、データの整理には索引コードを用い、分析には分析コードを用いるという運用である。索引コードはいくらでも階層的に作れるので、データに索引コードを付与しておけば、コードツリーを擬似的なディレクトリとして使うことができる。当該コードが付与されたテキストは、分析ペインに抽出されるので、そこからデータにもジャンプすることも可能。
コードが増えると表示がごちゃごちゃしていくが、表示するコードを一括でフィルタリングできるようにしたので、分析に集中する際に索引コードを隠すこともできる。
この索引コードと分析コードを分けるというアイデアは Dterding & Waters (2021) [1] が質的データ分析ソフトを用いた「フレキシブル・コーディング」として提唱していたものを借りた。[2]
REFI-QDA において階層表現ができるオブジェクトとして定義されているものはコードなので、コードをデータの整理にも使えるようにするのは悪くない考えだろう。というか、そもそも質的データ分析ソフトはデータに索引をつけるために生まれたものなので(c.f. Saboten開発日記 2)、むしろ正統性のある使い方とも言える。
-
Deterding, N. M., & Waters, M. C. (2021). Flexible Coding of In-depth Interviews: A Twenty-first-century Approach. Sociological Methods & Research, 50(2), 708–739. https://doi.org/10.1177/0049124118799377 ↩︎
-
質的データ分析は「コードを使った分析を強制する」と批判されることが多いが、そうした批判者がコードの多義性を理解していることは少ないという主張は、REFI-QDA の提唱者もしている。彼らはコーディングを「分析の骨格」とする呼び方を好んでいる。|Evers, J., Caprioli, M. U., Nöst, S., & Wiedemann, G. (2020). What is the REFI-QDA Standard: Experimenting With the Transfer of Analyzed Research Projects Between QDA Software. Forum Qualitative Sozialforschung / Forum: Qualitative Social Research, 21(2). https://doi.org/10.17169/fqs-21.2.3439 ↩︎
Discussion