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コーディングをしない質的データ分析の登場(Saboten開発日記 7)

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コーディングをしない質的データ分析の登場

AI 支援型質的データ分析について考えるために Friese (2025)[1] を読んだ。Saboten の開発作業からは離れるが、これも自分が求める質的データ分析ソフト(QDAS)のあり方を内省するのに役立つだろう。

著者の Susanne Friese 氏についてはよく知らなかったが、QDAS の世界で 30 年のキャリアがあるらしい。"Qualitative Data Analysis with ATLAS.ti" という著作もある。

氏が最近開発しているのが QInsights という QDAS で、その特徴はコーディング支援ソフトではないという点にある。AI アシスタントとの対話によって分析を進める設計になっており、Saboten を含めて従来型の QDAS、というか質的データ分析一般から一線を画すものとなっている。

Friese (2025) も QInsights の設計思想をもとに書かれた草稿で、コーディング型の質的データ分析に対して、Conversational Analysis to the power of AI(AI の力を得た対話的分析)を提唱するマニフェストとなっている。

読み始めた当初は「AI との対話型分析」はまさに自分が Saboten と Claude Code / Gemini CLI で実験していることそのものだと思っていたのだが、実際には「ポスト・コーディング時代」を宣言するラディカルな内容であった。

その特徴は「質的データ分析のプロセスを、すべて AI との対話として行う」というもので、研究者の役割は LLM との分析的な対話を導く、探索的な質問を作成することに置かれる。分析のプロセスがすべて AI とのチャットログとして残り、このログが妥当性と信頼性の手がかりになる。

面白いと思ったのは次の点。

  • テキストデータの「解釈」を復権させると主張していること。コーディングに比べて、データから何が読み取れるのかを対話形式で文章化していく作業になるので、より意味に焦点化されやすいという。
  • 解釈が「分散型知能」による作業として位置づけられること。
  • AI による出力結果を精読するステップを置いていること。

AI との対話がコーディングよりもデータの意味を言語化させやすいというのはなるほどと思った。要するに建設的相互作用っぽい話で、対話状況をつくれば自然と思考の外化が促されるということだろう。それを分散型知能として捉えるのも、もろに認知科学である。会話分析のデータセッションなんかも近しい営みとして位置づけられる。

AI による出力結果を精読するステップが置かれているのを見ると、これはちゃんと AI を日常的に使っている人が考えた方法論なんだなと感じる。自分でやっていても感じるが、 AI は一度に長めの応答を返してくるので、ちゃんと読み込まないと AI の提案を活かせない。チャットインターフェースから離れて(たとえば印刷して)AI の出力を読もう、という提案は中條くんのプロジェクトっぽさもある。

Saboten ではコーディング型の質的データ分析からは離れないと思うが、AI との対話のあり方を考えるのは重要なのでここで論じられていたことは取り入れておきたい。

脚注
  1. Friese, S. (2025). From Coding to Conversation: A New Methodology for AI-Assisted Qualitative Analysis. https://www.ciiemad.ipn.mx/assets/files/ciiemad/docs/difusion/qinsight/friese-2025.pdf ↩︎

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