🚣‍♂️

LLMが描く「分かりやすさ」の罠と、バリューストリームの源流 —— 「敬意」で読み解く思考フレームワーク

に公開

1. 序文

過去のソフトウェア(レガシー)を「技術的負債」という言葉で片付けていませんか?
それはLLMが見せる幻影です。

2. LLMのクセ

ソフトウェア開発の現場の一場面

  • 「このレガシーコードをどうにかしたい」
  • 「モノリスを解体して、マイクロサービスに移行したい」

そんな時、LLM(大規模言語モデル)は優秀な壁打ち相手です。

ーーー

「このコードをきれいにして」と頼めば、瞬時にモダンな正解を出してくれる。

しかし、少しだけ立ち止まってください。

その「汚いコード」は、本当にただの悪者でしょうか?

2. LLMのもたらす「分かりやすさ」とは

「このレガシーコードをきれいにしたい」 そう願ってLLMに相談すると、彼らは瞬時にモダンな正解を出してくれます。

しかし、ここに脳の認知特性システム1[1]を刺激する罠があります。

LLMは「分かりやすさ」を優先するため、単純な対比構造を作り出します。

  • 新技術(B) = 輝かしい主役
  • 過去(A) = 克服すべき「悪者(負債)」

この構図を受け入れると、「とにかく古いものを捨てればいい」という錯覚に陥ります。

3.「幻影」から目を覚ます

悪者」に見えるそのコードは、かつてビジネスを回し、誰かの給料を稼ぎ出してきた「当時の最適解」です。

システム2論理的思考)を起動し、コードの背後にある歴史に敬意を向けてください。

ここで有効なのが「川の視点」です。

3. 【実践】WhyからWhatを救い出す

重要なのは、「川の形How)」を捨てて、
きれいな水What)」を救うことです。

ただ捨てるのではなく、濾過(抽出)します。

以下の3ステップで、Why(なぜ必要だったか)を起点に、What守るべき価値)を導出してください。

ステップ1:Why(願い)の特定

コードの記述そのものではなく、「当時の意図」を読み解きます。

  • なぜ、ここで複雑な分岐が必要だったのか?
  • 「顧客の特殊な商習慣に対応したかった(願い)」のではないか?

ステップ2:What(価値)の導出

Whyから、時代が変わっても普遍的な「機能的価値」を定義します。

  • 古い実装(スパゲッティコード)は不要だが、「商習慣Xに対応する計算ロジック()」は捨ててはいけない。
  • これが、新システムに移植すべきWhatです。

ステップ3:How(手段)の刷新

抽出したWhatを、現代の技術(LLMやモダン言語)という新しいHowで包み直します。

視点 構造 アクション
形(手段) How
(当時の実装・制約)
「当時はその形が最善だった」と認め
感謝しつつも手放す。
水(本質) Why & What
(願い と 普遍的な価値)
形を変えて、受け継ぐ。当時の「願い(Why)」を汲み取り、
現代の技術で「価値(What)」を再実装する。

このように、過去の「願い」を汲み取り、新しい技術で叶え直す。

そうすることで、単なるループ(繰り返し)ではなく、次のステージへと至る「螺旋(スパイラル)」となるのです。

事例:ファッションのリバイバル
20~30年前のデザインが現代的に復刻される現象。
これは過去を「単なる時代遅れ」と切り捨てていては成立しません。
過去の美しさを再発見するからこそ、新しい価値が生まれるのです。


5. LLMとの付き合い方

LLMは「How(書き方)」を提案するのは得意ですが、
「Why(背景)」や「What(価値)」の重みを知りません。

  • LLMの役割: システム1に向けて、分かりやすい「対比」を提示する。
  • あなたの役割: システム2を使い、過去から「What(価値)」を見極め、LLMに正しく渡す。

「技術的負債」という言葉で思考停止せず、埋もれた「What」を見つけ出してください。

---(202512時点のprompt例)
「それは対比軸ですね。対比軸や威を借りる表現は禁止。システム2思考で敬意をもって価値を整理し、システム1で説明してください」

appendex. 直感でわかる:脳の2つのモード

本記事では、話のベースとして、カーネマンのモデルを借ります。
カーネマンが提唱する「脳の省エネシステム」は、以下のように整理できます。

システム モード名 特性(メリット/デメリット)
システム1
速い・省エネ
オートパイロット 無意識に判断する。「最小努力」で済むため、
脳は常にこれを維持したがる。
システム2
遅い・高コスト
マニュアル操作 意識的に計算・検証する。
疲れるため、脳はなるべく使いたくない。
脚注
  1. カーネマンの概念について末尾参照ください ↩︎

Discussion