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AIが開発速度を10倍にした。では、なぜ売上は10倍にならないのか

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先週、こんなニュースが流れてきた。

MicrosoftがClaude Codeの社内ライセンスをほぼ全廃した。理由は「コストが高すぎたから」。Anthropicに50億ドル投資している会社が、自社エンジニアにAnthropicのツールを禁止した。

Uberはさらに凄惨で、2026年分として確保していたAIコーディング予算を4ヶ月で使い切った。エンジニアの84%がClaude Codeを使い、コミットの70%がAI由来という「理想的なAI活用」を実現した結果がこれだ。
(参考:The Next Web

表面的にはお金の話に見える。でも自分が気になったのはそこじゃない。

爆速でリリースすることと、売上が上がることは、本当に同じ話なのか。

速度と価値創造は、なぜズレるのか

AIで開発速度が10倍になった。これは事実だと思う。うちのチームでも、Cursor + Claudeを全案件に展開してから、明らかにアウトプットの速度が変わった。

でも速度が上がった分だけ売上が上がったかというと、そんな単純な話じゃない。

理由は3つある。

① 顧客の意思決定速度は変わっていない

システムが速く作れるようになっても、クライアントが「これで行こう」と決断するスピードは人間のままだ。仕様を確認する時間、社内調整の時間、稟議の時間。ここにAIは入ってこない。

② 市場の吸収速度は変わっていない

新機能を爆速でリリースしても、ユーザーがその機能を使いこなすまでには時間がかかる。慣れる前に次の機能が来ると、ユーザーは置いてけぼりになる。機能の数と、機能から得られる価値は比例しない。

③ 現場が疲れる

これ、低レイヤーな話に聞こえるかもしれないけど、めちゃくちゃ本質だと思っている。

組織変更や新システムの導入が続くと、現場は内容の良し悪し関係なく「また変わるのか」という疲労感で拒否反応を示すようになる。Change Fatigueと呼ばれる現象だ。

AIで開発速度が上がると、この変化疲れが以前より早く来る。月1リリースが週1になったら、現場のオペレーション変更・習熟・フィードバックのサイクルが追いつかない。ツールが速くなった分だけ、人間側の負荷が上がる。

1000%を一気に出すより、100%を10回に分けた方が強い

マーケティング的に考えると、これはもう答えが出ている話だ。

1000%の機能を一度に出すと、ユーザーは最初に圧倒されて使いこなせない。慣れた頃には「当たり前」になっていて感動がない。解約のタイミングも変わらない。

100%を10回に分けると、毎回「おっ、また進化した」という体験が生まれる。プロダクトへの信頼感が積み上がる。「次は何が来るんだろう」という期待値が継続課金の動機になる。これLTVに直結する。

SaaSの世界では「フィーチャードロップ」という戦略がまさにこれで、意図的に小出しにする。速度を落とすんじゃなくて、出すタイミングを設計する

AI時代のプロダクト戦略の問いは「何を作るか」から「何をいつ出すか」に移っている。

AI時代のCTOは、アクセルじゃなくてブレーキ担当になった

じゃあ誰がその「いつ出すか」を決めるのか。

経営者じゃないと思う。経営者は常にフルスピードで次の手を考えないといけない、それが仕事だ。止めるのは経営者の役割じゃない。

CTOだと思う。

AI以前のCTOは「どう速く作るか」を考える人だった。開発リソースが希少だったから、速度を出すことが価値だった。

AI以降のCTOは「どう速度を制御するか」を考える人になりつつある。作る速度が上がりすぎたから、ブレーキとギアチェンジができる人が必要になった。

UberのCTOがAI予算を4ヶ月で溶かしたのは、アクセルの踏み方は知っていたけどブレーキの設計をしていなかったから、とも読める。技術的な速度と事業的な価値をつなぐ翻訳者、それが今のCTOに求められている役割だと思う。

「機能の本質を話し合ってから」が、実は最強の戦略だった

うちのワンフレームでは、開発前に「この機能の本質は何か」を必ずクライアントと話し合うことを徹底している。

正直に言うと、AI以前からそうしていた。結果として使われなかった機能が全くないとは言わないけど、「作ったけど誰も使わなかった」という大きな失敗はほとんど起きていない。

AI時代になって、この習慣の意味が変わってきた。

以前はリソースの制約から「何を作るか絞る」ための議論だった。今は速度の制約がなくなった分、「何をいつ出すか設計する」ための議論になっている。

速度を出せるようになったからこそ、速度を制御する設計が価値を持つ。

まとめ

AIが開発速度を10倍にした。でも売上が10倍にならない理由は、顧客の意思決定速度も、市場の吸収速度も、現場の変化耐性も、人間のままだからだ。

常に最高速度が正しいわけじゃない。

1000%を一気に出すより100%を10回に分けた方がLTVは上がる。CTOの仕事はアクセルからブレーキに変わりつつある。そして「機能の本質を話し合ってから作る」という地味な習慣が、AI時代に意外と強い武器になっている。

MicrosoftとUberの失敗は、お金の話じゃなくて速度の設計の話だったんじゃないかと、自分は思っている。

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